2話
ヒーロー制度が始まって数か月。街の空気は少しだけ整ったように見えたが、すぐにマンネリ感が広がり始めた。商店街の人々も「まぁ、ありがたいけどね」と曖昧に笑い、学校の同級生たちは「まだやってんの?」と冷ややかな視線を送る。市役所の広報誌に載る活動報告も、誰もが目を通すわけではない。
そこで市役所は新たな一手を打った。――「ヒロイン」公募。
ヒーローと並び立つ存在を作り、街にもう一度話題を呼び込む狙いだった。制服は淡い色合いにデザインされ、活動内容はヒーローと同じく地域の手助け。応募は予想以上に集まり、無事に五人の枠が埋まった。
任命式の日。悠真は壇上に並ぶ新しい顔ぶれを眺めていた。そこに、ひとりの少女の姿があった。伊藤柚月。肩までの黒髪が光を受けて揺れ、真剣な眼差しで市長の言葉を聞いている。
「男女それぞれの隊長は、あ行の苗字から選出します」
市長の軽い冗談のような説明に、会場がざわめいた。結果、伊藤悠真と伊藤柚月――偶然にも同じ苗字を持つ二人が、それぞれの隊長に任命された。
その瞬間、悠真の胸に衝撃が走った。
初めて柚月を見た瞬間、一目惚れだった。
委嘱状を受け取る彼女の横顔は、真面目で、どこか凛としていた。悠真は思わず息を呑み、心臓の鼓動が早まるのを感じた。内申点を稼ぐためだけに始めたはずの活動が、突然まったく別の意味を持ち始める。
――彼女の隣に立ちたい。彼女に認められたい。
邪な理由で応募したヒーローは、この日を境に変わった。内申点と彼女、二兎を追うヒーローが誕生したのだ。




