1話
「嫌になったら、辞めればいいや」
そんな軽い気持ちで応募したはずだった。だが、結果は予想外だった。定員五人の枠に、悠真の名前がしっかりと刻まれていたのだ。
市役所の講堂。壇上には新市長が立ち、真新しいスーツの胸元に市章を輝かせている。悠真は制服姿のまま、緊張と居心地の悪さを抱えながら列に並んでいた。市長から手渡された「委嘱状」は、厚紙に金色の文字が印刷され、やけに重々しい。
「君たちが、この街の未来を守るヒーローです」
その言葉に拍手が起こり、カメラのフラッシュが一斉に焚かれた。地元紙の記者が悠真の顔を狙ってシャッターを切る。悠真は思わず作り笑顔を浮かべたが、心の中では叫んでいた。
――やべぇ、後に引けなくなった。
翌日から活動は始まった。商店街の入口で旗を振りながら小学生の登校を見守る。最初は冷ややかな視線もあったが、八百屋の店主が「おう、頑張れよ」と声をかけてくれる。魚屋の奥さんは「ヒーローさん、ありがとね」と笑いながら差し入れを渡してくれる。揶揄い半分、励まし半分。
学校では違った。クラスメイトたちは「お前、ヒーローってマジ?」と冷笑を浮かべる。からかい混じりの視線に、悠真は肩をすくめて作り笑顔を返すしかなかった。だが、横断歩道で手を振ると、小学生が「ありがとう!」と元気に声をかけてくれる。老人が「助かったよ」と頭を下げてくれる。そんな瞬間だけは、ほんの少し誇らしい気持ちになった。
しかし、日が経つにつれて、悠真の本来の性格が顔を出し始める。旗を振る腕がだるい。老人の荷物は重い。笑顔を作るのも面倒だ。
「……別に俺がやらなくてもいいだろ」
心の奥底に、黒い影がじわりと広がる。生来のめんどくさがり屋の気持ちが、ダークサイドとして頭をよぎり始めていた。




