海軍
――1916年6月2日、号外
海軍省発表。遣欧第1特務艦隊は5月31日、独艦隊と北海にて交戦。独高海艦隊を撃退、海戦に勝利した。独高海艦隊は戦艦1隻、巡洋戦艦1隻を喪失、再度の出撃は不可能となった。我が方の損害は調査中。
――1916年6月2日、海軍省、大臣室
「英国からの報告では、戦闘開始15分で金剛、榛名が沈没、比叡が衝突で中破とはどういうことだ。しかも相手はせいぜい12インチ砲、よほどの近距離でもない限り9インチの装甲が貫通されることはないはずだろう」
「こちらの戦果もろくにないというではありませんか。衝突の件もありますし、用兵になんらかの問題があったのではないですか」
「あまりに被害が大きすぎます。誤報や陰謀ということもあるかもしれません。比叡が帰港して戦闘詳報が届かないと正確なところはわかりません」
「なんにせよ、こんなものこのまま発表することはできん。損害は調査中としておけ」
――1916年6月3日、号外
英紙によれば、5月31日、遣欧艦隊の巡洋戦艦2隻が沈没との報道あり。遣欧艦隊は英巡洋戦艦隊に追随し独巡洋戦艦隊と北海ユトランド半島西方にて交戦。砲戦開始15分にして、次々に沈んだとのこと。海軍省は現在調査中として詳細を明らかにせず。
――1916年6月4日、朝刊社説
遣欧第1特務艦隊の被害は大変痛ましいものがある。沈没した艦の将兵の生死は未だ明らかではないが、沈没まで10分20分ということでは、戦没された方も多いと思われる。本紙としては心より哀悼の意を捧げたい。
しかし、海軍省が未だに詳細を発表しておらず、損害も認めておらぬのは不誠実極まりない。未確認な情報もあるにせよ、英海軍の発表している程度は発表できるはずであろう。
報道どおり同格以下の巡洋戦艦と砲戦をおこない、一方的に沈められたということであれば海軍には徹底的な経緯の調査を行い、国民に報告する義務がある。英、独の巡洋戦艦は1隻ずつしか沈んでいないことを考えれば、なんらかの理由があると考えざるを得ない。
思い返せば遣欧艦隊の派遣の経緯も不透明であった。なぜ最新鋭の巡洋戦艦をそれも4隻すべてを派遣せねばならなかったのか。この理由についても海軍省は詳細を説明していない。参戦の決定についても不透明な部分がある。
さらに振り返ると、英国ビッカース社に金剛を発注するにあたっては、海軍高官が40万円、30万円という収賄をしていた事件が一昨年発覚した。海軍高官3名の有罪判決により決着したが、これは本当にこの3名だけの話であったのか。収賄された資金はどこにいったのか、海軍部内での売官があったのではないか。
贈賄をする側からすれば、それなりの見返りがなくてはならない。その資金はどこから出てきたのか。もちろん国民の血税である。血税で購った巡洋戦艦の建造にあたって、贈賄資金を捻出するためになんらかの工作があったとすれば由々しきことである。戦没した将兵も浮かばれまい。
// 国家予算6億、軍事費2億 金剛2200万 賄賂60万 国家予算比率で考えると400億円。
――1916年6月4日、海軍省、大臣室
「これでは海軍弾劾国民大会になる。なんらかの発表をせざるをえない」
「金剛、榛名の沈没については発表せざるを得ません。沈没の経緯については未だ不明ですが、砲塔装甲の貫徹により、砲塔あるいは弾倉で爆発が起きたものと思われます。英国艦2隻も砲塔装甲を貫徹されていますが、1隻は消火に成功しています」
「しかし9インチの装甲が12インチ砲で抜けることはないだろう」
「それが11インチ砲で遠距離から高射角で射撃されたため、落角が30度近くなって天蓋にあたったようです。砲弾の側から見ると天蓋面積の半分が的で当たれば撃沈だったということです」
「敵主砲が小さすぎ、敵が遠すぎたので沈んだということか。そんなむちゃな説明ができるものか」
「結局のところそういうことですが」
「勝手に後方にいたわけではないだろう。射撃の問題は我々だけではない。英艦の砲もろくにあたっていない。戦闘詳報を確認したうえでビーティ提督には砲戦距離の選択理由について問い合わせる必要があるな」
// 史実では英巡洋戦艦3隻喪失の原因となった砲塔天蓋貫通。当時日英巡洋戦艦の砲塔天蓋装甲は3インチなので上から当たればほぼ貫通。
「血税でハリボテ軍艦を作り私服を肥やす海軍の売国奴を許すなー」
「大臣、暴徒約100人が押し寄せております」
――1916年6月4日、号外
海軍省は、本日付で5月31日、遣欧艦隊の金剛、榛名が北海にて独巡洋戦艦部隊と交戦中に沈没したと発表。遣欧艦隊では溺者救助捜索につとめているが、死者は数千名にのぼる可能性があるという。原因は調査中であるが、高高度より飛来する砲弾が大なる衝突角度をもって砲塔天蓋に命中、これを貫通後爆発したことにより砲塔、弾倉内の砲弾、火薬が誘爆、沈没した可能性があるとのこと。
――1916年6月5日、社説
海軍は「高高度より飛来する砲弾」とあたかも特別な兵器であるかのような説明をしているが、金剛自身の砲弾も数千メートルの高度を飛び数万メートル先の敵艦に命中するはずではなかったのか。また海戦に勝利したというが、遣欧艦隊の砲撃で沈めた艦はあるのか。海軍の欺瞞をゆるしてはならない。
――1916年6月6日、海軍省、大臣室
「大臣、英海軍は、金剛以下の損害には同情するが、英海軍は追随を要請したのみで指揮をとっておらず、砲戦距離決定の最終責任は第1特務艦隊にあるとのことです。Lionは沈んでいないのだから沈没には帝国海軍の問題もあったのではないかともいっております」
「勝手に突撃しなかったのが悪いというのか」
「結局のところ派遣したのが悪いということになりますか。派遣の経緯をつつかれると大臣も危なくなりますな」
砲塔天蓋貫通について
帝国海軍の炸薬は下瀬火薬(純ピクリン酸)で、英国のlyddite(ニトロセルロース混合ピクリン酸)よりさらに危険と思われます。ちなみにVon Der Tanは4発被弾しているが沈んでいません。独は炸薬にTNTを使用しており砲塔貫通ではどの戦艦も沈んでいません。
http://www.navweaps.com/Weapons/WNGER_11-45_skc07.php
こちらのデータによると28cm/L45は初速が高いのにあまり飛んでいません。実は初速が遅かったか、砲弾のCd値が悪かったかということになりますが、グラフは独のCd値が悪かったという前提でプロットしています。砲弾の空力性能が悪かったから撃沈できたという謎理論も成立しますが、日側ではわからないと思われるので、単に高射角、高落角というお話にしております。近寄れば舷側装甲の厚い金剛が優位になるのは変わりません。
なお金剛の36cm砲は垂直装甲に対して32cmぐらいまでは貫徹できるはずなので最大25cmのVon Der Tanの装甲は抜けるはずです。
以下を参考にさせていただきました。
弾道計算:https://www.reddit.com/r/learnmath/comments/14xt06v/how_do_i_calculate_projectile_trajectory_with_air/?show=original
だいぶ変更しましたので、ご注意ください
装甲貫徹:http://www.combinedfleet.com/formula.htm
ガリポリ:田尻昌次、千九百十五年ガリポリに於ける上陸作戦 https://dl.ndl.go.jp/pid/1465547/1/1
損害:https://en.wikipedia.org/wiki/Damage_to_major_ships_at_the_Battle_of_Jutland




