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#55

「襲われてきます……って」


 飛び出していった星宮の背を苦笑いで見送りながら。私は、姿勢を低く構えながらに、息を潜める。


 タッタッタッ、と。靴を鳴らしながらに走り回る彼女。一方の私は、地中の音に耳を向けながら、シーワームの居場所を探る。


 星宮の足音が地面を介して聞こえてくるため、シーワームの位置を確かめる、という意味では少しばかり邪魔ではある。


 でも、これで、いい。

 とにもかくにも、私は地中の様子へと耳を向け続ける。


 星宮が提示した可能性は、至極単純なものだ。

 私たちが潜航中のシーワームの姿を視界で捉えることができていないのと同じように、シーワームも、潜航中には私たちの姿を捉えることができない。というか、そもそも眼球があるのかすら不明な姿をしている。

 にもかかわらず、シーワームは二度とも、確実に星宮の足元から出現した。――そう、足元から。


 可能性は、いくつかある。例えば、人の気配をもとにして接近している、なんて可能性も否定できはしない。

 だが、その場合。ここには四人の人間がいるわけで。その中から星宮ただひとりを狙って出てきている、というのは少しばかり不自然。


 だとするならば、星宮が提示した可能性。


 私が、シーワームの接近に対して。音という要素で検知したように。

 シーワームも、鈴音の足音をたよりにし、居場所の推定をしているのではないだろうか、と。


 事実、星宮は、一度目のときにはどこから飛び出してくるのかと、周囲を警戒するために足を動かしていたし。二度目のときは足をザリと退いていた。

 一方の私はいつでも動けるようにと体勢は整えていたものの、ほとんど足は動かしていないし、月村さんや千癒さんに至っては戦闘開始から動いてすらいない。


 星宮が、あからさまに足音を立てながらに洞窟内を駆け回ると。彼女の予想どおり、星宮の足元へと向けて地中を移動する――シーワームの音が聞こえてくる。


「鈴音、来るっ!」


「ありがとうございます、小夜さん!」


 私の言葉から、おおよそ二秒。シーワームが、地中から、その頭を飛び出させる。

 しかし――、


「来ると、わかっていれば。それほど脅威でもありませんの!」


 星宮はシーワームが飛び出してくる一瞬前には、空中へと飛び上がり。そして、その身を翻すと。

 腕に構えたラウンドシールドを、そのまま、地面に向ける。


 シーワームは、たしかに速い。そして、その速度から、鋭い牙で攻め立てるのが脅威である魔物だ。

 だが、その一方で。力押しはそれほど強くない。とはいっても、人の腕よりかは太いその体躯から繰り出される体当たりが決して弱いとは言わないけれども。

 しかし、冒険者である星宮にしてみれば、押し勝てない相手ではない。


 飛び出した先が、人間ではなく堅牢な金属板であったことに、シーワームは慌てて進路をひっくり返そうとするものの。星宮がその身体を捕らえるほうが早い。


「小夜さん!」


「わかってる!」


 シーワームの身体を盾で抑え込むようにして着地した星宮は、私にそう指示を飛ばす。

 シーワームの抵抗の激しさはわからない。だからこそ、星宮は一旦、全力で抑え込みにかかる。

 当然といえば当然ではあるが、さすがの体躯ということもありシーワームの抵抗はかなり激しい。

 星宮ひとりでは、やつを動かないように捕らえることと、攻撃することを同時にするのは骨が折れるだろう。

 でも、それは、ひとりならば、の話。


「はあっ!」


「ギルアアアアアッ!」


 シーワームに向けて、私が短剣を突き立て、力一杯に引くと。シーワームは緑色の血飛沫を吹き出しながらに断末魔をあげる。

 ジタバタとその身を悶えさせるシーワームだが、こうなってしまえば地中に逃げることもままならない。


 盾を押し返すようにして一歩飛びのいた星宮が、今度はしっかりと剣を構えると。一刀にその刃を振り下ろす。

 ごとり、と。見事に両断されたシーワームの首。


 それでも、シーワームの身体はピクピクと痙攣こそしていて少し気持ちは悪いが。しかし、返して言えばそれまで。

 先程までの力は、もはやどこにも見えない。


 これは――、


「私たちの、勝利です!」


 星宮が、堂々宣言した。






「お疲れ様。やり方についてはひとまずおいておくとして。よく、シーワームの特徴に気づいた」


 再度、私と星宮でシーワームの生死を確かめて、確実に斃せたことを確認したところで、月村さんがそう言って近づいてくる。

 どうやら、星宮が見抜いた、音によりこちらのことを探知しているというそれは正しかったようだ。


「シーワーム……というか、グラウンドワームの系統は総じて、その特性を知っているか、そしてこちら側に対策があるかどうかによって、討伐の難易度が大きく変わる魔物だ」


 もっとも、中々の初見殺しではあるし、それを説明しないままに交戦をさせたというところでは、彼のある意味スパルタ、ある意味鬼畜な側面が見え隠れするところである。


 シーワームを相手取る場合、個人単位、ないし、チーム単位での対策が重要になってくる相手、ということになる。

 今回のように、シーワームの攻撃を誘導しつつ、うまくカウンターを仕掛ける、というのもひとつの方法。あるいは、もっと一般的な方法としては、探知サーチが得意なチームメンバーが地中のシーワームの動きを追いかけつつ、適切に指示を飛ばす、なども有効な手法とのこと。私が少しだけ担っていた役割だ。


「そういう意味では、ふたりとも、よくやったと言える」


 星宮は攻撃誘導による撃破、私は探知による状況把握。

 チーム……というよりかはバディ状態のために役割がいっぱいいっぱいになっているのは仕方がないところではあるが。とはいえ、しっかりと自身の役目を果たせた、ともいえる。


「とはいえ、なにも指摘がないわけではないがな」


 星宮はカウンターに持ち込む際の動き。まだまだ隙が大きく、詰めの甘さが指摘されていた。

 盾を前にしたシーワームが退避に切り返したからよかったものの、諸共で攻撃を続行されていれば彼女自身も手傷を負っていた可能性が高い。

 シーワーム側も防御を捨てているので、星宮の言うように「いちおう、その場合でも、抑え込めておりましたが……」というのはたしかに正しいが、月村さん、千癒さんの両名から「そういう問題じゃない」と言われていた。それに関しては、私も同意見ではあるし、彼女自身も自覚があるのだろう、素直に受け入れてしょぼんとしていた。


 私の方はというと、共闘に入るまでの動き出しの遅さが指摘されていた。

 基本的に星宮の指示が入ってから手や足が動くことが多く、得られた情報や気づきについても伝達が一歩遅い。

 シーワームが私に向かうことがあっても星宮はすぐさまカバーに入れるようにと立ち回っていたのに対して、先述の、結果的に詰めの甘かった彼女のカウンターに対してすぐさま対処できる状態でなかった、など。有事の際の心構えについて指摘されてしまった。


「まあ、共闘らしい共闘が久しぶりな上に。カバーリングなどに対してちょっとしたトラウマがある、というのも事実なんだろうが」


「……」


 絶妙に、否定し切ることができない。結局のところ、星宮の指示があってから動いていたことも、緊急時のカバーに対する構えがなっていなかったことも。自分自身に対する不安から来ているものは間違いなくある。


「慣れ、の側面も間違いなくあるが。第一に、自分に対する自信を持つことから、だな」


「……はい」


「とはいえ――」


 ぱちん、と。手をひとつ叩きながらに。月村さんは話を切り替える。


「ふたりとも、初めての魔物に対して、よく観察して、よく対処した」


 それは間違いようのない事実だ、と。そう言いながらに、月村さんは私たちの頭をやや粗雑気味に撫でる。

 星宮は満足そうに撫でられていた。

 ……これは、受け入れるべきなのか。悪い気は、しないけれども。ただ、子供扱いされているみたいで少しばかり複雑に感じなくはない。

 悪い気は、しないけれど。






「取れました! シーワームの魔石です!」


 魔物を倒したならば、例によって解体の時間。

 思っていたよりも――というのは、少し性格ではないか。ここまでのやり取りや星宮の冒険者としての実力を見るに、解体もしっかり仕込まれている、というのは早々に難くはない。

 ただ、いちおうは曲がりなりにもお嬢様である彼女が平然と解体を進めているという光景に、物怖じせずにできるのかと、ちょっとびっくりしていた。


「シーワームの討伐証明は頭部だ。今回は既に落ちてるから、これ以上の解体は不要だが」


 なんせ、星宮が一刀に斬り落とした。


「……それにしても、見事に斬れてるわね」


 シーワームの頭部、その断面を見ながらに私はそうつぶやく。


 私の短剣でも問題なく肉を引き裂けるくらいにはたしかにシーワームの装甲は柔らかかったが、それでも魔物は魔物。装甲はそれなりにはある。

 どんな切れ味の武器を使っているのだと思って戦闘後に見せてもらったが、それでだいたい納得した。

 さすがは星宮家の御令嬢――と思っていたら、曰くこれは月村さんからの贈り物だという。


「安心しろ。小夜にもそのうち見繕ってやるから。正確には、見繕うのは空羽だが」


「……別に、なにも言ってないけど」


 件の会話をしたときに、ジィッと月村さんを見つめながらに「へぇ」と言ったのは事実ではある。とはいえ、それ以上でも、それ以下でもないけれど。

 まあ、別に星宮と同じような凄まじい武器が欲しい、なんてことは、値段やらなんやらを考えると口が裂けても言えはしないが。とはいえ、武器を贈ってもらう、ということについては、ちょっと思ったりするところはある。


「武器といえば、小夜さんは短剣をメインに扱われているんですわね!」


「まあ、そうね。初めて触ったのも短剣だし、それからずっと使ってはいるかな」


 子供の体躯には短剣が精一杯であったことや、比較的安価であることなどから、ずっと使っている。というか、他は使ったことがない。

 いちおう、月村さんからは「のちのち、他の武器についても練習をするから」と言われている。

 先述の事情もあり、他に適した武器がないかどうかの判別に付き合ってくれるのだろう。


 武器を見繕うのは、その後、ということになっている。まあ、道理ではある。


 それにしては、少し言い回しが不自然な気もするけど。星宮も、わざわざメインの武器、なんて言い方をしなくてもわかることだし。


「もともと紹介程度の予定だったし、今日のところはこのあたりで引き上げるか」


 大前提が基礎トレーニングをしたあと、である。ついでにいえば、星宮は移動をしてきた直後でもある。

 いくら熟練の引率がふたりいるとはいえ、無理は禁物。

 シーワームの素材を回収しながら、私たちは帰路に立つ。


「小夜さん、小夜さん!」


 帰り道。上機嫌な様子で星宮がそう声をかけてくる。一緒に戦えたのが、そんなに嬉しかったのか。


「なによ、星宮」


「ふふっ。小夜さんに星宮、と呼ばれるのも悪くはないのですが。よろしければ、鈴音、と」


「……えっ」


「ああ、それならば私の方も陽鞠さん、とお呼びするべきですね!」


「ちょいちょいちょい! なんで急にそんな話の流れになってるの!?」


 仲良く、なったかはともかくとして。脈絡としてかなり急な気が。そもそも、私は星宮のことは星宮と呼んでるわけで――、


「だって、先程の戦闘中に、鈴音、と呼んでくださったではありませんか。そういえば、いろいろあって有耶無耶にはなっていましたが、渋谷マルハチのときも」


「…………」


 後者は、正直記憶が混濁しているところが多いのでなんとも言い難いが。前者についてはたしかに、勢いに任せて彼女の名前を呼ぶときに言ったかもしれない。


「ほら、陽鞠さん! 鈴音、と!」


「…………星宮」


「鈴音、と!」


 キラキラとした眼差しで、こちらを見つめてくる星宮――もとい、


「……………………鈴音」


「はい! 鈴音です!」


 鈴音のその圧に。

 いらない隙を見せてしまったな、と。ちょっぴり後悔したのだった。

Tips:シーワーム

 音を頼りに獲物を捕捉し襲いかかる。そのため、うまく音を鳴らすことで誘導できなくはないが、狩りのために聴覚が発達しているため、下手な誘導に対しては看破されることもある。なお、目は退化している。

 ちなみに、肉についてはそのまま食べるにはあまりにも泥臭いが、適切な処置を施せば美味しいとのこと。元の魔物の姿を見ればあまり食欲がそそられるような姿形はしていないが、食べた人間はいる。まあ、物好きはいるものである。




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