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#51

 こんにちは。私、星宮 鈴音。

 冒険者になって早二ヶ月。まだまだ、駆け出し……なのですけれど。ひょんなことから、憧れであり、そして日本一の冒険者である海未様とご一緒することになって。


 その帰り道。海未様からの質問で、なんと言うことでしょう、私にご指導をしていただいている師匠のお名前が飛び出してきて。

 嬉々としてその質問に答えた、だけなのですけれども。


「支樹を知ってるのよね!? どういう関係性!? 今、支樹はどこに!?」


 つい先程までは、テレビや雑誌などで見てきたような、格好の良い海未様だったのですが。そこから一変、まるでなにかに大きく焦っているように、取り乱しながら私の両肩を持ち、揺さぶってくる海未様。

 映る視界の中では、千癒が珍しく表情にはっきりと乗せながらに困った様子を見せていて。


 なにが。いったいなにが起きているのですか!?


 数分ほどの場の混乱の末に、少しだけ落ち着いてきたのでしょう、海未様が「……ごめん、急に」と、申し訳なさそうな表情を浮かべながらに私のことを解放してくださいます。

 正直、揺さぶられる力がかなりお強かったので、少し助かりました。……耐えられないほどではなかったのですが。


 とにもかくにも、月村さんに会わせて欲しい、という要望を海未様からいただきます。


「そ、それなら。私と一緒にお家に来ていただければ、お会いできるかと思いますが……」


「…………なんで、鈴音ちゃんの家に行くと、会えるのかな? 一緒に住んでるってこと?」


「ひぅ」


 やや低めの海未様のお声。その圧に思わずびっくりしてしまいます。

 なぜ、なのでしょう。海未様が月村さんにここまでご執心になられたいるのは。


 助けてを求めて千癒の方を見てみるものの、しかし、彼女は彼女でなにやら難しいことを考えている様子。


 私個人の感情としては、ぜひとも月村さんにも海未様と会って欲しかったのですが。

 というか、それだけの、ことだったのですが。


 助けて、くださいまし! 誰か!






     * * *






「こ、こちらです」


 先程のやり取りで、やや自分を忘れて突っ走ろうとしたことが影響したのだろう。少しばかり怯えた様子の鈴音ちゃんがそう言いながら案内をしてくれる。

 場所は、彼女のお家。星宮家――スターマインの代表の娘、というのは事前の調査で知ってはいたけれども。案の定というべくか、豪邸、という出で立ちを見て少しだけ驚く。

 《海月の宿(私たち)》のギルドハウスもかなり大きい方ではあるが、それでもここまでじゃない。


 もしかして、支樹はこういった豪邸に住みたかったのだろうか。言ってくれれば、建てたのに。


 案内をされるままに家の中に入っていって。そこで、違和感に気づく。

 鈴音ちゃんの方を見てみるも、しかし、やはり彼女からはなにやら作為的なものを感じない。でも――、


「ただいま戻りました。その、えっと、月村さんは――って!?」


「おかえり、鈴音。それから、お久しぶり、でいいかな。夏色さん」


 開かれた玄関。そこで待っていた――否、待ち構えていたのは、支樹……ではなく。


「お久しぶりです。それから、いつもお世話になっています。……弓弦さん」


「おおおおおおっ、お父様!?」


 鈴音ちゃんの父親である、星宮 弓弦だった。


「どうしてお父様が!?」


 挨拶を交わしながらに、互いに視線を一切そらさずに見つめ合っている私と弓弦さん。

 そんな様子に少々混乱気味の鈴音ちゃんが、それぞれの顔を見比べて、そう声をあげる。


 まあ、鈴音ちゃんからしてみればびっくりするのも無理はないだろう。

 私たち《海月の宿》としても、スターマインの防具には随分とお世話になっている都合、代表として私は彼と顔を合わせたことがある。

 もちろん、それほど頻繁に、というわけではないが。


「どうしてもなにも、鈴音むすめがお世話になった上で、夏色さんから、ぜひともうちに来たいという旨の話が出たということを千癒から聞いてね」


 柔らかな笑みを崩さないままに、彼はそう受け答えをする。


 道理としては、いちおう通っている。

 侍従をしている立場の千癒さんからしてみれば、鈴音の判断であったとはいえ、客人である私を家に通す都合、家の主である弓弦さんに話を通すというのは正しい。

 ついでに、その際にそうなった経緯である、支樹のことなどを端折ること自体も、少々違和がないわけではないが、一方で必ずしも必要な話、というわけではないだろう。

 だから、この応対自身には違和感はない。でも。


「………………???」


 全くもって状況を理解できていない、鈴音ちゃん。彼女が、つい先刻まで支樹がここにいると確信していたという事実。そして。

 その一方で、現在この家から支樹の気配が全くしない、という現実。


 これらを加味するに。浮かべられた弓弦さんの表情は貼り付けられたものであり、その裏になんらかの事情がある。

 ただの出迎えではない、と考えるべきだ。


 問題は、そんな彼の表情の裏――真意が読めない、読まさせてくれない、ということ。


「まあ、立ち話もなんですし。ひとまず、こちらへ」


 弓弦さんがそう声をかけると、別の侍従の方の先導のもと、応接室へと案内される。

 対面には弓弦さんと、それからなにがなんだかわからない状態の鈴音ちゃん。

 部屋の隅では千癒さんが控えるようにして立っていた。


「まずは、改めて。鈴音とともにダンジョンに行っていただきありがとうございます」


「……いえ。むしろこちらからお願いしたことですし。なんならば、想定外の事態であったとはいえ、ご息女を危険な目に合わせかけてしまいましたし」


「その点については千癒からの報告で聞いています。もちろん、無視はできないことですが、とはいえ、責任を追及できることでもないでしょう」


 冒険者協会から告知されている兆候などをキチンとチェックした上で。しかしながら起こってしまった事態――正確には、起こる前になんとか収束はさせたのだけれども。

 冒険者という職業、および活動についての危険性自体を理解しているからこそ。今回のことについてはお互いに不問としておこう、という。そんな判断だと見える。


「それで。どうでしたかな。鈴音は」


「……正直、想定外の強さでした。まるで冒険者になって二ヶ月とは到底思えないほどに」


 弓弦さんへの報告ではあるが。当然、状況的にこの場には鈴音ちゃんもいるわけで。

 私からの評価を聞いた彼女は「うぇえええええっ!?」と目を大きく見開きながらに驚いていた。

 うん、これに関しては忖度とかそういうものもない、本当の評価。

 なんだけど。ごめんね、ちょっと今は、その話は本題じゃない。


「随分と、好い()()に巡り会えたようで」


「はっはっはっ、それはそれは。ええ。偶然、そういう機会があったものですから」


 にこやかな相好のままに、彼はそう笑う。

 鈴音ちゃんも「はい、とっても凄い方なんです」と。そう言う。



 ――さて、それは。いったい誰なんだろうか。


「それで。こういう直接的な聞き方は少々不躾かとは思いますが。今回、わざわざいらしたその要件をお聞きしても?」


 こちらから、聞くまでもなく。向こうから聞いてくる。

 切り出しとしてやりやすくなった一方で、すなわち、相手にとっても想定解があるということでもある。……中々に、厄介。

 これでは、彼からの情報の引き出しは困難と見ていい。


「……月村 支樹、という人物を知っていますか?」


「ああ、もちろん知ってるよ。()()()もあって、冒険者の情報は仕入れるようにしているからね」


 口振りから察するに、ほぼ間違いなく、クロだ。

 弓弦さんも、ここを疑われることは間違いなく見越している。そもそも、私がここに来ることを伝えられた時点で、その目的を察してたことだろうから。

 そして、ここまでのやり取りでも認識させられたように。彼から、支樹についての情報を抜き出すのは、困難を極める。


 そして、おそらく諸々を意図して連絡していたであろう千癒さんも共謀している。彼女からの方が弓弦さんよりかは幾許かは情報を取りやすいだろうが、表情変化に乏しいところや忠義に厚いところをみるに、難しいことには代わりはない。


 と、するならば。


「月村さ――」


 支樹の名前があがったことに対して、鈴音ちゃんがそう反応をしようとして。

 しかし、その言葉が紡がれるよりも先に、弓弦さんが彼女の発言を制する。


「……鈴音ちゃんも、どうやら支樹のことをご存知のようですが」


「ええ。私が知っているのですから、その兼ね合いもあるでしょう?」


 弓弦さんの発言に、なにやら言いたいことがありそうな鈴音ちゃん。しかし、発言が制されている現状、黙ってしまっている。


 ……この場では、無理か。

 でも。支樹へと繋がる唯一の希望があるとすれば、彼女であろう。


 問題は、弓弦さんと千癒さん。その両名に、私の存在が警戒されている、ということ。


 一旦は、退くしか無いだろう。でも。


(こんなところで諦めるくらいなら、そもそも、ここまで執着なんてしていない)


 私の視線の意図を、弓弦さんも理解しているのか。力強い視線で返される。


 ……やはり、状況が理解できていないのか。鈴音ちゃんは終始あわあわとしていた。






     * * *






「……ねえ。私はてっきり、家に帰るものだと思っていたんだけど」


 なにやら訴えかけるような視線で、小夜がそう言ってくる。

 とはいえ、そう言われてしまうのも無理はない。


 鈴音たちと別れながらに先行して渋谷マルハチから離脱をしていた俺と小夜は。一旦の療養の意味も込めて、星宮邸に向かおうとしていた……のだが。

 その途中で、弓弦さんからの連絡が来た。


 どうやら、海未が諸々の挨拶なども含めて星宮邸に来る、らしい。


 と、なれば。俺がいると、海未としてもやりにくいところがあるだろう。まさか、知り合った相手と歓談していると、元仲間がそこにいた、なんて。

 俺としても、やりにくいし。


 ついでに、話の内容次第では、しばらく海未が星宮邸に頻繁に来るかもしれない、とのこと。

 たしかに、弓弦さんはスターマインの代表だし、内容次第ではあるものの、その可能性もあるだろう。

 海未がやってくるたびに俺が外に出る、という対応をしてもいいのだけれども。とはいえ、それはそれで中々に手間ではある。

 ついでに、小夜の件もあるし。彼女を放置することができない一方で、不確定なことが多い現状、あまり海未に会わせたくはない。

 だが、彼女の現状を鑑みるに、星宮邸に泊まるか、ないし、頻繁に通ってもらう――正確には、俺や鈴音から離れすぎないようにすることが必須な状態ではあって。


 そこで、諸々の件が落ち着くまで、せっかくならば以前阿蘇ダンジョンに向かったときのように、遠方に遠征をする形をとってはどうか、と。


 俺としてはありがたい話だが、これには少しだけ問題がある。

 阿蘇ダンジョンのときと違い、現在は普通に学校がある期間である。

 至極当然の話ではあるが、鈴音も小夜も冒険者である以前に高校生、勉学は優先事項である。


 俺個人の都合に付き合わせるわけには行かないと、そう断ろうと思っていたのだけれども。


 ここで、鈴音も小夜も冒険者である、ということが絶妙に効いてくる。

 冒険者という立場上、緊急的に事態への対処を行わなければならないことがある。また、今回のように遠方に向かう、なんてことも想定される。

 その都合、学生であれば一時的に休学、という体裁を取れることになっている。

 もちろん、その間の勉強については自力で追いつく必要があるなど、デメリットも大きいが。その点は千癒さんが教えられるらしい。……ほんと、あの人なんでもできるな。


 弓弦さんとしても、鈴音が冒険者活動をするために、という理由ならば使用するつもりのなかった制度たが、今回は事情が別なために、特別に認めようという方針らしい。

 小夜も小夜で、現状では下手に学校に行くことができないので、元々しばらくは休学の措置を取る予定だったし。そういう意味でも都合はいい。


 諸々の手続き――小夜の分も含めて――は、弓弦さんの方でやってくれるらしい。ありがたい限りである。


 と、言うわけで。現在俺たちは新幹線に乗っている。

 小夜にしてみれば、しばらく学校を休むとは聞いていたものの、いきなりどこかに連れて行かれそうにになっていてなにがなんだか、という状況であろう。

 説明不足の自覚はあるが、せっかくならこのドキドキも楽しんで欲しい。……今まで、随分と苦労をしていたようだから。


 まあ、この後。いらない気遣いだから、と。ため息混じりのツッコミを貰った。

 いい考えだと思ったんだけどなあ。

Tips:冒険者活動に伴う休暇制度

 冒険者法によって定められている休暇制度。有給休暇などでの対応が難しい場合などに申請することで一時的に休職したり、学生の場合は休学したりすることができる、というもの。

 なお、扱いとしては休職や休学のため、その期間中は給料は発生しないし、休学中の勉強内容については自力で追いつく必要がある。

 あくまで、休職や休学に対して復帰時に不利益がないように、というすることを目的とした制度である。




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