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#47

 弾き飛ばされ、空を斬るようにして回転しながらに飛んでいく剣。


「――ッ!」


 その光景に。目を剥いたのは、彼女の方。


 なんせ、彼女が剣を弾いたその瞬間。既に、剣は私の手から離れていた。

 私の行動にか。あるいは、強力な武器であることを彼女自身認識していたから、それを手放したことに驚愕したか。

 ともかく、彼女の行動に動揺が生まれました。


「ふふっ、私のことを高く見積もりましたわね」


 あえていうならば。私が先刻、彼女に対して剣を振り抜けたのは、()()()()()と、そう確信していたから。


「私に、お友達を斬るだなんて。そんな胆力あるわけがありませんの!」


「……自慢げに言うことか? それ」


 月村さんの困惑の声が聞こえてきます。まあ、たしかに。お友達を斬ること自体は一品的には憚られるとはいえ、堂々と宣言するような内容ではないかもしれませんが。

 ……こほん、話を戻しましょう。


 そもそも、今回の勝利条件が小夜さんの討伐でない以上、この剣はデメリットでしかありません。

 やりようによっては、四肢を動けないところまで傷つけてから、全部が終わってから回復させる、という使い方もできなくはありませんが。それでは根本的な解決になりません。

 だからこそ、剣は囮。ギリギリまで、彼女の意識を引きつけて――、


「倒れて、くださいましっ!」


 ガシッ、と。右手で彼女の腕を掴むと。そのまま腕を引きます。

 フェンリルと化した小夜さんとでは、単純な力比べては私が負けてしまいます。

 それなら、相手の力を借りればいい。

 小夜さんの腕は、剣を弾くために前に伸びている。こちらへと攻撃を繰り出すために、前に――私の方へと進む力を身体が持っている。

 ならば、その力を借りるようにして。力強く手前側に引っ張ります。

 ただでさえ、無理やりな体勢から繰り出した攻撃。そこに、私がさらに引っ張ったことにより、完全に姿勢が崩れて。

 腕を引きながらに小夜さんの側方にシフトすると、空いている左手で彼女の上腕、肘より少し肩側を後方から掴みます。

 半分ほど浮わついた小夜さんの身体では抵抗は困難。そのまま、体重をかけながらに地面の方へと腕を抑え込みにかかります。


「グルァッ!」


 地面に叩きつけられるように倒れたことで、苦悶の声をあげる小夜さん。

 抑え込まれている現状に、なんとかもがこうとする彼女ですが。手首と肘あたりを押さえつけられているこの現状、思っている以上に立ち上がれないんですよね。私も、その身をもって教えられました。月村さんに。


 しかし、とにもかくにもこれで彼女の動きを封じながらに、接触することができます。これが、第一要件。


「お話を、聞いてくださいませ! 小夜さん!」


 ここからは、小夜さんを助けるための第二要件。引っ張り合いです。

 物理的にではなく。魔力の、引っ張り合い。


 月村さん曰く、小夜さんがこうなってしまった原因は、何者かに渡された魔石を直接に服用したから。

 実は、魔石の直接服用自体は魔力吸収やり方としては実際にある手法とのこと。ただ、メジャーではない、らしいですが。


 ともかく、今重要なのは小夜さんの身体の中に魔石が入っている、ということ。そして、千癒の《再生リジェネレーション》でもそれが残っているところをみるに、彼女の身体に魔石が定着している、ということ。異物と判断されていたならば《再生リジェネレーション》の余波で修復されていたはず。


 魔石は、ダンジョンなどに放置したところで、通常魔物に戻ることはありません。

 ですが、魔石は魔物を構成する核となる物質でもあります。


 私には、細かい理屈はわかりませんが。もし、意図的に魔物を召喚することが可能なのだとすれば。そのひとつの可能性は、魔石に対して大量に、そして継続的に魔力を注ぎ込むこと。


 魔石自体は、自ら魔力を吸収することはありません。しかし、私たち人間は、魔力を吸収することが、できます。

 そして、魔力を吸収することができる小夜さんに、なんらかの要因で魔石が定着してしまい。

 その魔石に、大量の魔力が注ぎ込まれている、とするならば。


 全てが仮定ではありますが、現状に全て合致します。


 そして、ここからが。彼女を救うことができる可能性。


 彼女が魔物化している要因のひとつは、服用した魔石に魔力が注ぎ込まれているということ。

 だからこそ、その魔石から――彼女の身体から魔力を奪い取る、というのが彼女を元に戻すためのひとつめの条件。

 そして、もうひとつの条件は――、


「お話を、いたしましょう小夜さん。きっと、私たちに必要なのは、最初からこれだったはずですから」


 繰り返し、伝えていたその言葉を。


 もう一度。






     * * *






 暗闇の中を。深く、深く。水底に落ちていくような。そんな感覚。


 いったいなにが起こったのか。あるいは、あの後どうなっているのか。そんなことはちっともわからない。

 なにも聞こえないし、なにも見えない。

 たしかにそこには、星宮の顔も声も、あったはずなのに。


 ただひとつ、希うことがあるとするならば。せめて、星宮たちのことを傷つけないように。

 けれど、きっとそれは叶わない。だって、今私の身体を使って表に出張っているであろうそれが手を伸ばしてきたものを、理解しているから。

 アレは、私の中に巣食う弱さを。そして、星宮に対する嫉妬、劣等感。そういった負の感情で、私の身体の支配権を奪い取った。


 打ち払うべきとはわかっていても、なにも見えず、なにも聞こえないこの場所では。ただただ思考が同じ道をめぐるだけ。

 がんじがらめに囚われた思考では、より深い感情が染み出てくるだけ。


 そこに、星宮への感情が、ある限り。

 そして、彼女に負けたという事実がある限り。


 そんな存在が、真っ先に狙うのが誰かなど、考えるまでもない。

 だからこそ、代わりに願うのは私自身の早急な殺害。

 自分で言っていて悲しく思うところがなくはないが、それしか手立てがない以上、どうしようもない。

 幸い、あの場には月村さんと千癒さんという、強力な冒険者がいた。鈴音だって、強い。

 きっと、すぐに殺してくれるはず。もしかしたら、既にもう死んでいるのかもしれない。


 そりゃあ、生き残れるのなら生き残りたい。

 こんなところで終わりなんて、真っ平ごめんだ。

 でも、それしかない、のだから。


 ――だからこそ、この声は、幻聴だ。


 希望がまだあると信じたい、私の妄想だ。


「お話を、聞いてくださ――」


 遠くから聞こえてくるかのように、微かに。

 しかし、頭の中に直接入り込んでくるように。間近で。


 視覚も、聴覚も、なにかに奪われた。私の身体は、使えない。

 なにも、見えるはずもない。なにも、聞こえるはずもない。


 だというのに。


「お話を、いたしましょう小夜さん。きっと、私たちに必要なのは、最初からこれだったはずですから」


 だんだんと大きく、そして形を持ってきたその声は。たしかに、私へと届いて。


「私ね。小夜さんとお話したいことがたくさんあるんです」


 これは、きっと幻聴。

 まだ、助かると思いたい、私の幻想。


「なにが好きなのかも、どんなことをしたいのかも。それから、恋バナなんかもいいかもしれませんわね。まあ、これはどちらかというと笹良さんが喜びそうではありますが」


 危険が差し迫っているような状態で。ここまで、悪しざまな態度を取ってきたやつを助けるのか、という話で。

 ……本当に? 星宮 鈴音という人物は、そういう人間だっただろうか。


「どうして冒険者になったのか、とかも。……そういえば、どんな武器で、どうやって戦うのかも、まだ知りませんわね。唯一知っているのは、おひとりでダンジョンに向かわれている、ということくらい」


 ああ、そうだ。星宮は、そういうやつだ。

 こちらの気なんか知りもせず、事情だって知りもせず。


「私も、ひとりで戦うことがあるから大変なのはよくわかります。……まあ、私は小夜さんとは違って、後ろで見てくださる方がいるだけ、楽なんでしょうけども」


 グイグイと私の領域に踏み込んできて。

 遠ざけるために悪辣な言葉を選んでいるというのに、それさえも何故か好意と解釈されて。


「だから、本当に尊敬しているんです。ひとりで全部をこなしているという、小夜さんのこと」


 助けてなんて、言っていないのに。

 手を、差し伸べてきて。


「だから、お話をしましょう。小夜さん。私も、私のことを話しますから。あなたのことを教えて下さい」


 ああ、そうなんだろう。最初から、私も鈴音も、会話が足りていなかったのだろう。

 互いのことを知るに、十分に話もせず。


「そこまで言うのなら。話でもなんでも、してやろうじゃない」


 ほんの少しだけ、力が入るようになる。

 なにも見えなかったはずの視界には、まるで一番星のように、ほんの少しだけ光が差し込んでいて。


「それから、私。ぜひ、小夜さんとも戦ってみたいんです。共闘もしたいですし、力比べもしてみたいんです」


「なによ、それ。戦ってみたい、なんて」


 ……そういえば、共闘も、力比べも。誰かとしたのなんて、いつが最後だっただろう。


 邪魔になるから、と言われて。

 邪魔になるから、と断るようになって。


 わかっている。きっと、彼女はそんなことを思わないのだろう。

 それを、現実を見たくない私が、勝手に目をそらし続けていただけ。


「だから、はやく魔物の(そんな)姿から、元に戻ってください。こんな小夜さんと戦って終わり、なんて。私、嫌ですからね」


 まだ、なにも見えない。聞こえ……もしないはず。

 でも、きっとすぐそこに星宮がいるのがわかる。なんとなく、伝わってくる。


「ほんと、私のこと、舐めてくれちゃって。高々冒険者歴二ヶ月くらいの新人がさ」


 自嘲気味に、そんなことを口にする。そんな、新人に嫉妬をしていたのが、はたしてどこの誰なんだという話ではあるのだけれども。


 でも、そんな新人が。いちおうは、時期だけ見れば後輩が。

 クラスメイトが。……まだ、ちょっと不本意だけど。友達が。


 無理やりにでも、手を差し伸べてきているのだから。


「いいわよ、やってやろうじゃない。共闘でも、手合わせでも。話し合いでも、喧嘩でも、なんだって」


 生き残れるのなら生き残りたい。

 こんなところで終わりなんて、真っ平ごめんだ。


 だからこそ、生き残ってやる。

 差し出された、友達の手を取って。

 助けてもらいながらでも、自分の足で立って。

 なにがなんでも、足掻いてやる。


 少しずつ、自分の存在がたしかなものになってきて。自分自身を取り戻してくる。


 同時。自分の身体だからだろうか。あるいは、私の身体を奪った存在の支配権が緩んできているからだろうか。だんだんと、今起こっていることが理解できてくる。

 星宮が、私の身体から――おそらく、今回の件の原因となったであろう魔石から、魔力を強引に抜き取っている。

 でも、魔石が私の身体に定着しているから、外側からだけでは十二分に抜き出せていない――そういえば、私に魔石を渡してきた人間も、十全に魔石から力を取り込めるように、身体に取り込ませやすくなるようにしてる、とか言ってたっけ。改めて、なんてものを渡してきたんだよアイツ。

 ……まあ、嫉妬に心を焼かれていたとはいえ、手を出した私の不始末ではあるんだけどさ。


 ともかく、おかげさまでやるべきことはわかった。


 外側から、魔力の抜き取りを星宮がしてくれている。でも、それじゃあ足りないのなら。

 内側にいる私からも、引っ張ってやればいい。


 そもそも、私の身体を通して集めた魔力なんだろう。大前提に、私のものだ。文句を言わせてたまるものか。


 それでいて、しっかりと、自分を保つ。


 もう、見失わないように。星宮が見せてくれた、一筋の星を目指して。


「返し、なさい。私の、身体ッ!」

Tips:星宮 鈴音

 泣き言を言うけれど、結構諦めは悪いタイプ。


Tips:小夜 陽鞠

 割り切りはするけど、かなり諦めは悪いタイプ。




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