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#33

 引き続き、ダンジョンの中を散策いたします。

 魔物出現時は基本的には私が中心となって、しかし、最初のゴブリン戦とは違い、月村さんや千癒もときおり手伝ってくれながらに。

 初戦は、私の戦い方を笹良さんと津々見さんにお見せするというデモンストレーションの意味もあったのでしょう。

 おふたりの安全を優先する、という目的もあり。ダンジョン内とは思えないほどに安全な行軍で。魔物が出現しても、最初のように危なくなることはなく、進んでいくことができました。


「っと、このあたりまでかな」


 そう言いながら、先導していた月村さんが足を止めます。

 まだ後ろの方についていた笹良さんと津々見さんはどうしたのだろうと疑問を呈しますが、月村さんのすぐ後ろにいた私はすぐに状況を理解できます。


 目の前に。崖、というほど切り立ってはいないものの、相当な傾斜の下り坂が見受けられます。

 少し遅れて、ふたりもその存在に気づきます。

 昨日、月村さんから説明を受けていた中で、少しおっしゃられていたこと。渋谷マルハチの特徴のひとつ。

 ダンジョンの階層境界には崖がある、という特性。

 つまり、この先は第二層。月村さんや千癒であればもちろん。私の実力でも、渋谷マルハチの魔物とは少しながらに戦いの経験を詰めていることも考えれば、問題はないであろう階層ではあります。

 しかし、それは冒険者である私たちであるから。笹良さんと津々見さんが同行している現在、進むこと自体は可能でしょうが、彼女たちへの安全の保証が下がることにもなります。


「昨日の訓練アレをさせておきながら、あまり奥までは進まないのかと思われるかもしれないが。この点については理解してほしい」


「いえ、ここまでで十分というか。……むしろ、これまで見せてもらった光景で、今の私たちはここが限界――ううん、既にちょっと限界超えかけなんだろうなってのは、なんとなく理解してますから」


 月村さんの申し訳なさそうな言葉に答えたのは津々見さん。

 彼女の言うことも、あながち間違いではありません。

 階層の違いによる強さの変化はあくまで明確に変化する指標、というだけであり、同一の階層の中であっても出現する魔物の強さは変化します。それこそ、わかりやすいのはゲート付近の魔物でしょう。

 当然ながら、一般的には奥地――次の階層に近づけば近づくほど、魔物は強力になります。

 そして、ここは第一層と第二層の境目。その理屈で語るならば、第一層でもっとも強力な魔物が跋扈している箇所になります。

 ついでに言うならば、第一層の範囲で見ても、ゲートから遠い箇所になる、友。


 もちろん先述のとおり、月村さんや千癒、私であれば問題がない場所ではあります。しかしその一方、笹良さんと津々見さんは冒険者ではありません。

 そしてこの第一層と第二層の境界付近は。魔物の強さ、そして出口までの距離という観点で見た場合、有事の際におふたりを安全に出口ま護衛するという前提で考えたとき、確実性という安全圏から片足踏み越えてしまっている場所ではあります。


 では、なぜ月村さんが、それを承知の上で笹良さんと津々見さんをここまで連れてきたのかというと。それは、納得を優先した結果でしょう。

 少々のリスクの増加は理解の上で。しかし、昨日の苛烈な訓練を実施したふたりに、わかりやすく「ここまで」ということがわかる境界がある方が納得が強くなりやすい。とはいえ、実際に戦っているわけではないおふたりにとって、魔物の強さが段階的に強くなってきていて、そろそろ限界点だよ、と言われても疑問符が浮かぶことでしょう。

 そこで、階層の境目。段階的にではなく、明白に魔物が強くなるという境界線。そして、おあつらえ向きにマルハチの境目は崖というわかりやすい指標があります。

 だからこそ、多少のリスクと天秤にかけた上で、こちらを優先したのでしょう。実際、少し前から月村さんと千癒の周辺警戒が一等強まっています。


「だからこそ、こんなところまで連れてきていただいて。ありがとうございます」


「あの、えっと! 私も感謝していまして、遅れちゃいましたが、ありがとうございます!」


 そう、感謝を告げてくる津々見さんと笹良さん。ふたりの様子に、月村さんが少し驚いたような様子を見せます。


 月村さんも、まさかここまで来た意図を、ふたりにちゃんと察されているとは思っていなかったのでしょう。私も、途中で気づきはしましたけれど、まさかふたりも気づいているとは思いませんでした。なんせ、事前の説明である程度受けていたとはいえ、魔物の強さや空間の魔力濃度の変遷などを把握していないふたりが、でありましたから。


 そんな驚きを表情に浮かべつつも。しかし、すぐに優しい表情を浮かべながらに、月村さんは私に向けて小さくつぶやきます。


「いい友人を持ったな。それでいて、なかなかに勘もいいらしい」


「ええ、はい。自慢のおともだちですから!」


 冒険者であるとか、冒険者でないとか。そういうことは全くの抜きにして。大切な、大切な、おともだちです!







 帰りの道中。ちょうどゲートについたらいい頃合いになるだろうということで、お昼ごはんをなににいたしましょうというお話を進めていたとき。


「……ん? あれは」


 ふと、月村さんがなにかを見つけられた様子で顔をあげます。


「どうかされましたか?」


「いや、少し前に見かけた人を見つけただけでで、大したことではないんだが」


 月村さんの向いている方向をよく見てみると、おっしゃられていたとおり、冒険者の方がおひとりいらっしゃいます。

 周りに他の冒険者のお姿もありませんし、単独での挑戦でしょうか。少々、危ないような気もいたしますが。

 よくよく見てみると、かなりお若い様子。なんなら、同じくらいの年齢で。

 いや、待ってくださいまし。キレイな長い金髪、モデルを思わせるような均整の取れた体型。服装は初めてお見かけするものですが、いわゆるギャル然としたあのお姿は――、


「小夜さん!」


 その姿を見かけて、私は思わず飛び出しました。


「はっ!? 私のことを呼んだのは誰だ――って、星宮!?」


 そこにいらっしゃったのは、小夜さん。クラスメイトの小夜 陽鞠さんでした。

 私もそうでしたが、まさかこんなところでお会いできると思っておらず。彼女は面食らったような様子をあらわにしておりました。


「ああ、やっぱり鈴音と同じ学校の生徒だったか」


 気持ちがはやって先行していた私に、遅れる形でやってきた月村さんがそうおっしゃられます。

 曰く、以前彼女でダンジョンに潜っている姿を見かけて、そのときの格好が高校の制服であったこともあり、どうやら同じ高校の生徒ではないかと思っていたとのこと。

 それがまさか同じクラスの小夜さんであったとは、私も月村さんも思ってもいませんでしたが。


「星宮だけじゃなくて、笹良と津々見もいるのね。……大人のふたりは誰かわからないけど」


「はい、このおふたりは月村さんと千癒で、私の――」


「聞いてない」


 話題を振ってくださったので、ぜひとも回答、もといおふたりについてのお話を、と。そう思っていたのですが、あっさりばっさり会話を断ち切られてしまいました。まあ、おふたりについて、私が自慢するのも変な話ではあるのですが。


「それより、なんであなたたちがこんなところにいるのよ。……いや、冒険者の星宮はまだ理解できるけど」


「おふたりがいらっしゃるのは。笹良さんと津々見さんが、ダンジョンがどんなところか……友達わたくしが普段向かっている場所がどのような場所かを知っておきたい、とのことで」


 私がそう回答すると、彼女は後ろにいた笹良さんと津々見さんを睨めつけるようにして視線を送ります。

 その対応に、笹良さんは少し怯えたような様子を。津々見さんは構えた態度で返します。


「……あなたたちの命だから、勝手といえば勝手だけど。前も言ったように、あんまり舐めないほうがいいよ」


 吐き捨てるようにして、私たちにむけて、小夜さんがそうおっしゃられます。


「あと。あなたたちも。大人同伴ってことは、鈴音たちの保護者なんでしょう? この子たちが変なことをしないようにしっかり見張っておきなさい」


「ああ、忠告については肝に銘じておこう。可能な限り安全を期して動いてはいるが、無論ここはダンジョンだからな」


「……そ。まあ、鈴音よりはわかってるみたいでよかったわ」


 小夜さんのお言葉に、一瞬千癒が不満をあらわにしようとしますが、あくまで私たちのことを心配してのお言葉でしょうし、と。それを止めます。

 そんな私の言葉に、いやいやいや、と首を横に振る笹良さんと津々見さん。どうしてでしょう、間違いなく、私たちの心配をしてくださっているお言葉でしたよ?


「ところで。小夜さん、といったかな」


「名乗った覚えはないけど」


「悪いね。鈴音が言ってたのを聞いちゃったから。……それで、逆に質問を投げかけるような形になってしまうのはアレなんだけど。どうして、君はひとりでダンジョンに挑んでいるのかな?」


 月村さんのその言葉に、小夜さんが一瞬、ピクリと反応されます。


「別に、あなたに関係ないでしょ」


「まあ、関係ないといえば関係ないんだけども。いちおう、知り合いの同級生……それでいて学生がひとりでダンジョンに挑戦してる、なんて聞いたらちょっと心配に思ってしまうのが、ただの一個人の冒険者としての意見でね」


「ナンパなら他所でやってくれる? あと、やるならその女所帯は置いていったほうがいいと思うけど」


 突き放すような小夜さんの言葉に。しかし、月村さんは表情を努めて崩さず、言葉を続けられます。


「今日がたまたまひとり、とかなら別にいいんだけど。前に一度見かけたときもひとりだったからね」


「なに、キモ。もしかしてつけてんの?」


「ははは、たまたまだよ。いや、ホントにね」


 飛び出そうとした千癒を、私が咄嗟に止めます。一瞬の動きだったので、他の皆さんにはバレていない様子でしたが。


「いや、ただ単純に。ちょっと思っただけだよ。ついさっき、鈴音にダンジョンの危険性を説いていた小夜さんが、どうして危険であるソロ冒険者活動をしてるのかなって」


 たしかに、言われてみれば、そうでしょう。

 ダンジョンは危険だ、とそうおっしゃる一方で、当人はソロで探索しているというのはある種の矛盾でしょう。

 いちおう、私も現状の活動自体は、主に対魔物の戦闘などは、半ばソロみたいなものですが、純粋なソロの活動ではなく、後方に月村さんと千癒こバックアップがあってのもの。小夜さんの状況とは大きく異なるでしょう。


「――ッ。べ、別に。私はひとりでも問題ないし、仲間がいても、邪魔になるだけだから」


 少しの動揺を見せながら、小夜さんはそうおっしゃいます。

 しかし、彼女の意見も、理解できるところはあります。


「それなら、私と一緒に行きませんか!」


「はあっ!? 今の会話の流れのどこをどう汲み取ればその発言に繋がるんだよ!?」


「へ?」


 だって、私も冒険者になりたてのとき、誰とも知らない人に教えを乞おうとして危険に見舞われたことがありますから。お相手はしっかり選ばなければならないでしょう。その点、私であれば素性はしっかりしておりますし、というような意図で、そうご提案したつもりだったのですが。

 右に詰めていた千癒から「お嬢様、おそらく同列に扱うものではないというか、むしろ失礼かと」と、そう言われてしまいます。むぅ、どうやら間違っていたようです。


「ともかく、あなたたちと関わる気はないから!」


 そう、無理矢理気味に話を切り上げると、小夜さんはずんずんとダンジョンの奥へと進んでいってしまいました。

 少し心配に思う気持ちもありましたが、しかし、私たちはダンジョンからの期間の途中。お昼ごはんを控えているということもあり、下手に彼女を追うのは、それこそ小夜さんが言うように危険な行為ではあるでしょう。


 少し、ご一緒をするのが断られたことが悲しくはありますが、ともかく、今日のところは引くことにいたしましょう。ええ。


 今日のところは。

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