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#31

「ここに来るのも、久しいですわね」


 たかが二ヶ月。されど二ヶ月。以前に一度だけ訪れたことのあるその光景に。しかし、私にとっては大きな変化の日となったその場所に。少し、感嘆がもれます。

 翌日。筋肉痛などが特段後を引くこともなく、全員動ける状態であることを確認してから。今日に関しては身体をほぐす程度の簡単なトレーニングをしてから、ついにダンジョンへ。

 そう。私が月村さんと初めて出会った場所。渋谷マルハチダンジョンへと、訪れていました。


「おお、ここがダンジョン」


「動画や写真なんかでは見たことありましたけど。こうして実際に訪れるのは初めてです……!」


 津々見さんと笹良さんが、そう声をあげます。

 ええ、ええ。気持ちはとてもわかります。私も初めて訪れたときはとても興奮いたしました。それはもう、浮かれすぎて私のことを騙そうとしてきた方々の思惑に気づかなかったくらいには。

 そんなことをふたりに伝えると、津々見さんに「いや、そこまでじゃないよ?」と返されてしまいます。……お仲間が増えたかと思ったのですが。

 笹良さんも言葉にこそいたしませんでしたが、スーッと視線をそらしていました。


「とりあえず、ふたりはそっちでレンタルの防具だけ借りてきな。女子更衣室はあっちにあるから、鈴音に着方は教えてもらうといい」


 月村さんはそう言うと、ふたり分の防具と私の武器のレンタル費用を出してくださいます。

 初めてダンジョンに訪れるおふたりが防具を持っていないのはもちろん、私の武器は大侵攻スタンピードでグラウンドベアと戦ったときに大破してしまいました。

 それなりに武器の扱いにも慣れてきたということで――まあ、以前のものの質が悪いということではないのですが――次はしっかりとしたものを見繕おうということで予定はしていたのですが。しかし、夏休み後半は宿題の消化で潰れてしまったために時間がなく、まだ用意ができていないので武器は私もレンタルになります。


 とはいえ、今回は私たちのわがままで連れてきてきただいているのでこのくらいは自分で、と思っていたのですが。「大した金額でもないし。いちおう年長者なんだから、これくらいはね」と、そう言われてしまいます。


「年長者といえば。そういや月村さんっていくつなの?」


 聞いてなかったね、と。そう言いながらに津々見さんがそう尋ねられます。そういえば、私も年齢は聞いていませんでした。

 わざわざ聞かなければならないようなことでもないから。と、そう思っていたのですが。しかし、津々見さんは私に耳打ちをいたします。


「たかが年齢とはいえ、個人の要素のひとつだからね。冒険者はたくさんいるとはいえ、年齢で絞れば結構数が減るでしょ?」


「それは、たしかに……!」


 コソコソと話している私たちの様子に首を傾げる月村さん。しかし、津々見さんの考え方は、たしかに道理が通っています。

 むしろ、なぜ今まで気にしていなかったというのでしょうか。もちろん、冒険者全員が年齢を公開しているわけではありませんが、有名な冒険者ともなればプロフィールを公開していることも珍しくありません。

 年齢という要素は、たしかに月村さんを追いかけることができる要素のひとつとも言えるでしょう。


「まあ、俺は二十六歳だよ」


「私たちより十歳上ってことね。笹良だけは九か」


「う、うん。そうだね」


 津々見さんと笹良さんが月村さんと歓談してくださっている間に、私は頭の中で二十六歳の冒険者に心当たりをつけようとします。

 もちろん、全員が全員の年齢を覚えているわけではありませんから、家に帰ってから改めて調べることにはなると思いますが。とはいえ、二十六歳という年齢にはどこかで覚えがあったような。

 二十六歳、二十六歳……。


「あっ、そういえば」


 海未様も、二十六歳でしたっけ。……まあ、だからなんだ、というお話になってしまいそうなことではありますけれども。






 ひとしきりの準備を済ませてから、いよいよ、ダンジョンの中に入ります。


「これが、ゲートなんだね」


「なんというか。本当に別の場所というか。異空間に来た、というような感じがします」


「だね。空間の感覚がハグりそう」


 津々見さんと笹良さんが、あたりを見回しながらにそうおっしゃいます。


 振り返ってみても、通ってきたゲートの内側以外に先程までいたエントランスはなく。ただただ広がっている草原ばかりが見受けられます。まさしく、笹良さんのおっしゃるとおり、異空間という感じでしょう。


 マルハチは草原が広がる形式のダンジョン。阿蘇ダンジョンと似てはいますが、あちらよりも森林面積が少ないことと、それから階層の境目には崖が生じていることなどが違いになります。……まあ、ここまで全て月村さんから教えていただいたことそのままにはなりますが。


「まあ、このあたりは大丈夫だと思うが。いちおうダンジョンの中だから、ある程度は気をつけるようにな」


「はい!」


 月村さんのお言葉に、私たちは揃って返事をいたします。

 とはいえ、月村さんが言うとおり。このあたりは大丈夫、というのもまた事実ではあります。

 マルハチの特色のひとつ、入り口付近における魔物生息濃度の低さ。大抵のダンジョンではその傾向がある一方で、マルハチではその傾向が更に強い。

 加えて、元の人口が多い箇所にあるダンジョンだということもあり相対的に冒険者の数も多い。それらの要素が組み合わさることにより、ゲート周辺では、魔物がほとんど姿を見せることがありません。稀に現れることがあっても、近くの冒険者が即座に対応できる程度。

 それゆえにピクニック目的でいらしている方々がいるほどになります。……まあ、これについても当初は中々に揉めたそうですが。


「それじゃあ、進んでいくぞ。だんだんと危険度が上がっていくから、気を抜かないように」


 ゲートから離れることしばらく。距離が遠ざかるにつれ、入り口付近で見られた家族連れや学生のグループなどもだんだんと見られなくなってきます。

 更にしばらく歩いていくと。月村さんが足を止めると、サッと腕を横に伸ばして制止をします。

 そうして月村さんは、前を見つめたままで、後ろにいた私に声をかけます。


「鈴音、いけるか」


「はい、もちろんですの」


 月村さんの問いかけに、私はしっかりとそう返します。

 笹良さんと津々見さんを置いて前に出ると、盾を構えながら剣を抜きます。


 疑問を浮かべている様子の笹良さんと津々見さん。無理もありません。なんせ、私の視界にもなにも写っていませんから。無論、おふたりの視界にも。

 けれど、月村さんがそうおっしゃるということは、おそらく近くにいる。

 警戒しながら先頭となり進んでいくと、そう時間もたたないうちに、緑色の肌をした子供くらいの背丈である人型の魔物――ゴブリンが複数遠方に見受けられます。

 どうやら、笹良さんと津々見さんもその存在に気づいたようで、後方から息を呑む様子が聞こえてきます。


「ゴブリンは環境適応能力が高い。マルハチ(ここ)だけじゃなくいろいろなダンジョンでも出てくるような魔物だから存在くらいは知っているだろう」


「はい。でも、あくまで動画や画像で見るのがせいぜい、でもあります。こうして実際に対峙するのは初めてです」


「じゃあ、どうするべきかは理解しているな?」


 もちろん。そんな返事の意思を込めながらに、私はコクリと頷いてみせます。

 再度ゴブリンの方へと視線を遣ります。全部で五体。ゲギャ、ギギッ、という鳴き声聞こえては来ますが、こちらに気づいている様子はありません。


 それならば、好都合です。

 阿蘇から帰ってきてからもスキルの練習こそ続けているものの、まだ、十分に扱えているとは言えない状況。

 不意打ちと言われようが、卑怯と言われようが構いません。これが、私の戦い方ですから。


 あらかじめ、魔力へと意識を向けながらにスキルの構築を開始しておき。その状態でゴブリンの群れに向けて走り始めます。

 その足音でこちらの存在に気づいたのでしょう。ゴブリンたちは大慌てで立ち上がりながら、手近な木の棒や石などを掴み、立ち上がります。


 ですが、先制を仕掛ける準備が完了している分だけ、こちらの方が優勢です。


「《閃光フラッシュ》ッ!」


 私が目を瞑ると同時。まばゆい光があたりに散乱して、無差別に網膜を焼きます。

 威力などはない、虚仮威しの光。しかし、不意に喰らえば、その視界はしばらくの間、十全な仕事をしなくなります。

 当然予期などできていなかったゴブリンたちが目を抑えながらに苦しみます。持っていた棒や石も、思わず落としている様子。

 この隙に、一気に接近をして行きます。


 人型の魔物、であるならば。ひとまずは弱点の配置も人と似通っていると考えていいでしょう。

 なにも見えないことに対して無策に暴れていたゴブリンに至近にまで移動すると、その正面から喉笛を斬り裂きます。

 続いて、その隣にいたゴブリン。手で目を抑えながら頭を下げているせいで首筋が狙いにくいので、今度は腹を横一文字に。


 と、その瞬間。視界の端に礫が映り、盾を使ってそれを防ぎます。位置の問題か、咄嗟に目を瞑ることができたのか。ともかく、目晦ましの影響が浅かったゴブリンがどうやら立て直してきた様子です。


「とはいえ、二体はこれで斃した状態ですからね。五体さっきよりかはやりやすいはずです」


 元より、不意打ちで全てを斃せるだなんて思っていません。海未様であれば可能かもしれませんが、私にはあんな速さも、一撃の強力さもありませんから。


 けれど、その代わりに。私には月村さんも認めてくださった、強みがあります。


 しっかりと縦を構えながらに、ゴブリンたちに対峙します。残り、三体。


 戦うのは私ひとりだけですが、後方にはいつものように月村さんや千癒はもちろん、今回は笹良さんと津々見さんがいます。

 もちろん、おふたりのことは月村さんと千癒が守ってはくれるでしょうが、それはそれ、これはこれです。

 月村さんからの「いけるか?」という質問に「はい」と答えた以上、ゴブリンたちの敵視を失い、後方に被害を出した時点で失敗と言っていいでしょう。


 大丈夫。練習、してきましたから。


 しっかりと武器を構えながらに、ゴブリンたちの方を向きます。彼らも、既に二体斃されたことに警戒しつつも、明白な敵意をこちらに向けています。

 そして、そのうちの一体が飛びかかってくる。


 意識するべきこと。

 立ち回り、位置関係。そして――、


 襲いかかってくるゴブリンの体躯を。私は、しっかりと盾で受けます。

 見た目が小さいだけはあり、グラウンドベアはもちろん、ブラウンウルフなどよりも軽い。そのまま、力で押し返します。

 しかし、その体躯の小ささは攻撃の軽さをの一方で身軽さを持ちます。ゴブリンは空中で身体をひねると、そのまま、なにごともなかったかのように着地をします。


「なるほど、そういう戦い方をするのですね」


 ――よく観察すること、考えること。

 初めて戦う相手なら、なおのこと。しっかりと観なければなりません。


 少しずつ。けれど、確実に。

 一歩ずつ、進んでまいります。


 派手な戦い方とは程遠い、地味で地道な戦い方。決して、多くの方に憧れられるような戦い方ではないかもしれません。


 海未様のように、格好良くて、強い。とはかけ離れてはいるものの。


 けれど、これこそが私の強み。私の戦い方。


 格好良くないから、強くない、ということではないと。そう、教えていただきましたから。

 月村さんが、そうであるように。


「さあ、私が相手ですの!」


 切っ先をゴブリンたちに差し向けながらに、私はそう宣言いたします。

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