『日本改造計画外伝』その拾陸<『多夫多妻』ドラマ(7)手作り>
ある新婚家庭の会話。
「え! 会社辞めたのか。専業主婦やる事許可してないぞ。」
「そういわれても、もう退職しちゃったもぉん。」
「分かった。専業主婦は認めよう。レトルト禁止。料理は、全て手作りしなさい。」
「分かったわ。」
* * *
愛人との会話。
「随分、自分勝手な女ね。」
「甘いな。こいつの自分勝手は、まだ続くぞ。」
* * *
ある新婚家庭の夕食。
「料理の味がしないぞ。」
「そうよ。塩作ってるの。当分、塩抜き料理を食べなさい。
これが、あなたが望んだ『手作り』よ。」
* * *
愛人との会話。
「呆れた。それで、録音取ったの。」
「念の為取っておいてよかったよ。後で訴えてやる。」
「そんな事より、自分勝手な女を捨てるんでしょ。誰に乗り変える訳。」
「そうだな。月10万、家事は全て妻の負担。食材以外は、全て手料理。
夜の営みは、拒否しない。この条件で、どうだ。」
「私は、もっと高いわよ。」
結局、15万円で、手を打った二人だった。
* * *
ある新婚家庭の会話。
「来週の月曜から金曜まで出張だから、日曜の昼から出かけるよ。」
「そう、行ってらっしゃい。」
* * *
場所は、ある新婚家庭の新居。時は夫が出張中。
「失礼します。引っ越しの猫屋です。」
「ウチには、関係ありません。帰ってください。」
「よし、旦那さんから鍵は預かっている。総員、打ち合わせ通り動け。」
そう言って、新居の玄関扉を開けるチームリーダーだった。
「ちょっと! 帰りなさいよ。警察呼ぶわよ!」
「奥さん、旦那さんからこの通り『委任状』を頂いております。
旦那さんの荷物は、全て運び出します。」
「無鬼ぃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
スマートフォンを取り出して、電話をかける専業主婦だった。
「出ない! これは、『ブロック』してるわねぇ!」
「荷造り完了しました!」
「よし! 運び出せ!」
こうして、新居から夫の所有物は、全て消滅した。
* * *
愛人との会話。
「終わったよ。後は、荷物が届くのを待つだけだ。」
形態のメールを確認した夫だった。
「ようやく終わったのね。新居のローン解約、転職、給与振込先変更。」
「まあな。で、今日の引っ越しに、訴訟。まったく新憲法様々だ。
以前なら、離婚訴訟しなけりゃならない所だった。」
「そうよね。『多夫多妻』のお陰で、離婚しなくても私と結婚できるもの。」
「だが、『塩抜き料理』の件で、モラハラの訴訟。これだけは譲れない。」
「いいじゃない。そんな自分勝手な女、ふんだくってやれば。」
「そうするさ……おっ、美味いな、御新香。」
「そりゃそうよ。自作の糠床で、漬けたのよ。」
「そっか。あいつもこれくらい知恵を使える女だと思ったんだがな。」
「いいじゃない。そんな自分勝手な女、別れて当然でしょ。」
* * *
新婚家庭の夫引っ越しから数日後。
「どういう事よ! 立ち退きしろって!」
「ですから、奥様が、今いるこの家は、旦那様が、リーン契約を解約しました。
よって、当社で引き取らせて頂きました。こちらが、契約書になります。」
「はぁっ! 今月一杯! ふざけんじゃないわよ!」
「賃貸物件でっしたら、ご紹介できますよ。こちらにご一報ください。」
名刺を置いて、立ち去る不動産屋だった。
「訴えてやる!」
* * *
更に、その月の25日。
「……あのっ、私、●●ろ申します。夫の今月分の給与が未納なんです。
振り込まれていません。どういう事ですか。夫の名前は、●●▼▼です。」
「確認しますね。…………そのような人物は、当社に在籍しておりません。
先月一杯で、退職しました。」
「はぁっ! 退職ってそんな話聞いてないんですけど。」
「それは、当社とは何の関係もありません。」
一方的に電話を切られた元専業主婦だった。
「訴えてやるぅっ!」
* * *
「書留です。サインをお願いします。」
「はい。これでいいかしら。」
「ありがとうございます。」
立ち去る郵便配達員だった。
「……裁判所……召喚状ぉっ! 訴えてやるぅっっ!」
* * *
ある日の裁判所。
「……この様に、野菜や豚肉は、スーパーで購入したにも関わらず、塩だけ『手作り中』と自称し、塩抜き料理を夫に食べさせました。これは、モラハラになります。」
証拠として、料理の写真、クレジットカードの使用履歴等を提出した弁護士。
「それは、夫が、『料理は、全て手作りしなさい。』と言ったからです。」
等を争点とした裁判が、実施された。
「……………………判決。妻をモラハラで有罪とします。」
「訴えてやるぅっっっ!」
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