第四話 『田宮ひろ子』
A「ね! 出ないんですよ検索しても。存在してないんですよ。アイドルも歌も!」
確かに検索しても出てこない。若くして亡くなったとはいえ、インターネットの検索に引っかからないわけない。
やはり夢なのでは? と思ったが口に出すのをやめた。
A「あともう一つ。最初に検索した時に思い出したんですけど、僕の実家にお爺ちゃんとお婆ちゃんが住んでたことないんですよ……」
私「え………」
A「普通に会話してた気がするんですけど、あの二人は知らない老人だったんです。」
私「あの…… Aさん。やっぱり夢じゃないんですか?」
A「ははは。夢じゃないんです。断言できますよ。でも夢じゃないとすると、老人は幽霊ということになるんですかね」
そう言って笑うAさんを見て、私は不気味さを感じた。
A「最近ね、また会えたんですよ! あのアイドルと」
私「……」
A「テレビとかでね。時々、映るんですよ。子供の頃に見たままの『アイドル 田宮ひろ子』を見るんですよ」
私「そんな…… Aさん、大丈夫ですか?」
Aさんは、落ち着きがなくなってきている。挙動がおかしい。目の焦点も合ってないような感じで、周囲をキョロキョロ見回している。
私「Aさん」
A「ほら! あそこ! ひろ子ちゃんやん! 『季節をむかえに』歌いよるやん!」
さっきの女性のノートパソコンを指さしてAが大声をだす。
私「ちょっとAさん」
A「ほらおるやん! そこにも! あっこにも! ひろ子ちゃん歌いよるやん!」
Aさんは血走った目で店内をフラフラと歩き回り、パソコンや窓ガラス、しまいには他人のスマートフォンの画面まで覗き込んで騒ぎ出した。当然アイドルなんてどこにも映っていない。
私「Aさん! Aさん!」
Aさんは、しばらく騒いで泡を吹いて倒れた。騒然とするカフェの中で、私は見てしまった。
ざわざわしている店員や客をよそに、老夫婦らしき“もの”がAさんをずっと見てニヤニヤと笑っていた。
Aさんは無事だったが、今後どうなるのだろうか? 存在しなかったアイドル『田宮ひろ子』とは。そして『老夫婦』は幽霊だったのか。Aさんが子供の頃に見たお爺ちゃんとお婆ちゃんは、私がカフェで見たあの二人なのか。
例えば『田宮ひろ子』と『老夫婦』が幽霊や呪いだとすると、目的はなんなのか。私には見当もつかないが…… ところで『老夫婦』を見てしまった私はどうなってしまうのだろうか。
気のせいだと思うが深夜に目が覚めた時、かすかに軽快な昭和っぽいアイドルソングが聴こえてくる気がする。
私はどうなってしまうのだろうか…………
おしまいです