第13話「慕情」
「理奈……ありがとう」
私の思考回路を埋め尽くす、理奈への想い。それなのに、最適解が出せない。
「今の私、あなたのことで頭がいっぱいなの」
何から話せば良いのか判断がつかない。
「シェリー……」
「だから、私が会得した感情を順番に話すね」
理奈は暫く押し黙ってから、こくりと小さく頷いてくれた。
「私は、あなたを守りたい。あなたの命を、心を、身体を脅かすものから……守りたい」
「うん……」
理奈がベッド上で膝をたて、胸に抱え込む。
「私は、あなた信じ、敬いたい。あなたは最後に必ず約束を守ってくれた」
私は理奈がいなければ、この世界に存在できないぐらい脆い存在だ。
──そう……だから
「私は……私という存在が消えてしまうのが怖い。多分、あなたたちが死を恐れるのと等価な感情だと思う」
「……!!」
驚きと悲しみが複雑に入り混じってるであろう表情になる理奈。
「だから私は……今という時に、あなたに寄り添いたい。あなたを守りたい」
──理奈の隣りに、永遠に存在したい
「理奈、あなたは私の全て。あなたの美しさも素晴らしさも、酷さも、その全てを私は認めるの」
「シェリー、あたしもよ。シェリーがAIで、その顔が仮初のもので、全てが造られた存在であることも全て、あなたを受け止める」
その時、私は新たなプログラムがインストールされたのを感じた。私の思考回路が、そのプログラムを即座に読み込み、起動する。
「シェリー……泣いてる……?」
「え……」
そう、私は"泣いていた"。私のアバターが涙を流しているのだ。
「愛おしいの。今、私は……理奈がとても愛おしくて、たまらない」
「シェリー……」
理奈の顔が私のアバターに近づいてくる。
「理奈……好き」
「あたしもよ、シェリー」
私は目を閉じた。カメラもオフにして、暗闇に沈んだ私。
「ん……」
アバターの唇に暖かい感触。私はタブレットを軽く振動させ、今できる目一杯の反応を返した。
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「じゃあ、手術中はシェリーがあたしをずっと見守ってくれるってこと?」
「まぁそういうことになるな」
夏美先生がストレッチャーに寝かされてるあたしに説明してくれた。
「手を握る……ということは出来ないけど、あたしは理奈の隣にずっといるから」
理奈が優しげな笑みを浮かべている。
「ありがとね、シェリー……そう言ってくれるだけでも、随分楽になるよ」
「どういたしまして」
あたしは手術室に運びこまれた。全身麻酔を受けるから、もう少ししたらあたしは闇の中に沈むことになる。
「でも、やっぱり怖い」
「そうか……まぁそういうことになるのはわかってたよ」
夏美先生はそういうと、タブレットをそっとあたしの胸の上においてくれた。
「本当はダメなんだけどね、今回は特別だ」
「……ありがとうございます」
あたしはタブレットをそっと抱きしめた。
「理奈……」
シェリーの声が聞こえ、タブレットがぶるっと震えた。シェリーはあたしの腕の中に、確かにいる。
「じゃあそろそろ始めるよ」
夏美先生と周囲の人達が慌ただしく動き始め、あたしの口に吸入マスクが被せられた。
「理奈、私はあなたを──」
シェリーの声を途中で遮るかのように、あたしの意識は闇に沈んだ。




