表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

虎擲竜挐(こてきりゅうだ)

「...母ちゃん...」

「...父ちゃん...」


「...待ってくれよ...頼むから...俺を置いて行かないでくれよ...」


「...母ちゃん!」

「...父ちゃん!」




「はっ!...」

 見慣れた部屋、着慣れた服、聞き慣れた音。俺は体を起こし、朝飯に向かった。俺は獅子沢(ししざわ) 啓斗(けいと)。今は分け合って、ここの道場に居座らせてもらってる。


「...また、同じ夢...」

 俺は移動中、今朝見た夢の事を考えていた。暗闇の中に、俺が立ち尽くしていて、ずっと、母親と父親を呼んでいる。

 ここ最近、ずっと同じ夢を見ている。そんな事を考えながら廊下を歩いていると、

「よ!」

「わぁ!?て、まこと!お前なぁ」

「まったく、情けないぜ?啓斗」

 こいつは、一夜(いちや) まこと。ここ、一夜流道場の特待生であり、息子であり、俺が目指している目標だ。友人も多く、ほんと、神は二物を与えず、三物も四物も与えたらしい。

「ほんとに、俺をからかうのやめろよ!」

「からかわれるのが嫌なら、僕に勝ってから言うんだな」

 そう言うと、まことは立ち去って行った。

 俺は少し悔しく思いながら、まことの後を着いて行った。




「構え!」

「...」

「...」

「はじめ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「...ふ」


「一本!」

「はは、ほんと弱いなぁ、啓斗」

「うるせぇ!もう一回だ!」

 朝飯が終わり、俺たちはいつものように稽古をしていた。

 だが、いつものようにまことに負けてしまう。いくらやっても、まことに追いつく事は出来ない。


...なんどやっても...


「...はぁ」

 結局あれから負け続け、一回も勝つことも出来ずに昼休みに入った。

「...ちっ」

 俺が縁側に座っていた時、

「よ!」

 まことが俺に話しかけて来た。

「なぁ、啓斗は昼飯食わないのか?」

「あぁ、いいや、今日はいらね」

「...ふーん」

 こいつはいつもお節介を焼いてくる。ただの他人なはずなのに、

...こいつは

「まぁ、何でも良いけどさ。あんまり気合入れすぎんなよ」

「...余計なお世話だ」


 俺が立ち上がり、中へ入ろうとしたその刹那、

「危ない!」

「え?」


 俺たちのもとに、何処からともなく攻撃が飛んできたのだ。突然まことが俺に飛びついて来て、倒れてしまった。

「おい!大丈夫か!」

「な、なんだよ...これ」

「とにかく立て!まだ来るぞ!」

 その時だた、

「動くな...」

「!...」

 すでに後ろを取られていたのだ。首元に刃の感覚が伝わり、俺たちは動けなくなっていた。そうしていると、

「ネズミが居たか」

 目の前には黒服を纏い、顔を隠すように面を付けた奴らが大勢居た。

「...お前ら、ここに何の用だ」

 まことがそう言うと、黒服の1人が、

「...ここに、妖刀があると聞いたのだが...」

「妖刀!?」

 聞いた事がある。世界には妖刀と言われる特別な力を持つ刀が存在し、それを扱える者は一部の家系の血を引くものだけだと言う。だが、この道場に妖刀があるとは聞いたこともなかった。

 俺はまことの方を見た。

「...」

「...まこと?」

 まるで、いつものまこととは別人の用だった。冷や汗をかき、少し同様しているように見えた。

 俺がそんなことを考えていると、一人の黒服が近づき、

「ぐ...」

「まこと!」

 まことの胸ぐらを掴み上げ、

「あるのだな...妖刀が...」

「...し、知らない...」

「おい!まことを離せ!」

「そいつを黙らせろ」

 そいつが命令すると、後ろに立っていたやつが俺を殴った。

「がはっ...」

「啓斗!」

「...うぅ...」

「これで邪魔する者は居ない。さぁ、教えろ。史上最悪の妖刀、紅刀(せきとう)瞑幻(めいげん)!」

「離れろぉぉぉぉぉ!」

「ぐ...」


 俺は飛び上がり、さっきまでまことを掴んでいた男を蹴り飛ばした。

「ちっ、そのガキを始末しろ!」

 そう言うと、周りの奴らが武器を手にした。

「死ねぇ!」

「はあああああああ!」

「がはっ...」

 俺に向かって来たやつを、まことが難なくと弾き返した。

「大丈夫か、啓斗」

「あぁ、助かった」

「それより、この人数は不利だ。ひとまず逃げるぞ!」

「おい!あのガキどもを逃がすな!」


 俺たちは道場内を逃げ回り、隠れていた。

「おい、あっちを探せ」

「はぁ、やっと行ったか」

「はぁ、はぁ、まこと、ここからどうするんだよ」

 俺は走りつかれたのか、息が上げってしまっていた。

「今は親父さんたちも居ないし、この道場には俺たち以外に人も居ない」

「嘘だろ...」

 俺は内心絶望していた。

「いや、この道場から出られれば大通りだ。動いた方が早い」

「...そうか、なら、さっさと行こうぜ」

 俺が動こうとした時、

「待ってくれ...」

 いきなりまことが俺の事を引き留めた。

「...その...一つ...取りに行きたい物があるんだ」


 まことが言うには、道場の物置にあるらしく。今まで大事にしてきたやつがあると言うらしい。今はさっきの黒服に見つからないように、目的の場所まで進んでいる。

 そうして、

「...ここだ」

 物置に着いた。

「すぐに見つける。少し待っててくれ」

 そう言うと、まことは奥から一つの刀を取り出してきた。

「...なぁ」

「...」

「...まさか...それが...」

 少し、まこと表情が暗く見えた。

「...行こう」

 まことがそう言った時、

「ここにあったのか」

「!」

 なんと、さっきの奴らが目の前に居たんだ。

「さぁ、その妖刀を」

「渡すわけ無いだろ!これはまことの大切な物なんだぞ!」

 俺はそう言って、まことの前に飛び出した。

「...啓斗」

「...なら、力尽くで奪え!」

 そう言うと、他の黒服が飛び出してきた。

「...がはっ」

「啓斗!」

「...おい!...離せ!」

 俺は、あっさりと黒服の奴らに捕まってしまった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 目の前で啓斗が捕まってしまった。

 私は、恐怖で動けずにいた。

「...」

「ひっ...」

 さっきの黒服が、私の目の前まで来た。

「...さっさとよこせ」

「...い、嫌だ...」

「まこと!そんな奴に絶対渡すなよ!」

 私は...どうすることも出来なかった...

「...そう言えば、なんで、"男"の恰好をしているんだ?神薙(かんなぎ) まこと」

「!」

「...え?」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 黒服から出た言葉は、衝撃的な言葉だった。

「...神薙?...男の恰好?」

「なんだガキ、知らなかったのか?こいつ、女のくせに男の恰好をして、わざわざ剣技まで習ってるんだぜw」

 信じられなかった、俺が出会ってから数年、まことは女の要素を見せることなんて一回もなかった。

「...なんで...そのことを...」

「まこと...今のって...」

「まぁ、刀をよこさないなら...このガキを殺すか」

 そう言うと、黒服はこちらを見て来た。

「ぐっ...クソ...」

「...やめろ...」

 そいつは俺の胸ぐらを掴み、持っていた刀を抜いた。

「...ダメだ...」

「...クソ...」

「じゃーな」


「...ダメ」



「やめて!」



「刀!」

 その瞬間、俺を掴んでいる男の手が止まった。

「...この刀を...渡します」

「...ふ、最初っからそうしとけばいいものを」

「痛っ...」

 そう言うと、俺を投げ飛ばし、まことから刀を奪い取った。

「...ふ、これが...紅刀(せきとう)瞑幻(めいげん)...」

 男は鞘から刀を抜き、微笑んでいた。

「あぁ、それと、その小娘も連れていけ。ガキは置いていく」

「おい!話が違うだろ!」

「なにも話してはいないだろ」

「...く」

「やめて!啓斗!啓斗くん!」

 俺は、目の前で連れていかれるの、ただ見ている事しか出来なかった。

「まったく、男なのに情けない...」

 そう言うと、まこと含め全員去っていった。

「...クソ!」


 俺はそれから急いでまことの親のもとへ走って行った。

 俺はそこで事情を話した。謎の黒服が来たこと、まことが女だったこと、全てを話した。

「...」

 まことの親は、終始無言だった。

「なぁ、なんで何も言わないんだよ!」

「...啓斗」

 まことの親父さんが口を開いた。

「...君は、何も聞かなかった...何も、見なかった...いいか」

 言われたのは、たったその一言だけだった。

「...なんで...」

「頼む...もうあいつにかかわらないでやってくれ...」

 そう言うと親父さんは席を立ち、この場を後にした。


 時刻は22時を超え、あたりはすっかり暗闇に染まっていた。

 俺はなかなか寝付けず、布団に横になっていた。

「...まこと」




「いいか?人差し指を立てた後に、小指を立てる。これが僕たちだけの秘密の合言葉」

「なんだそれ、なんの意味があるんだよ」

「だって、啓斗は僕より弱いじゃん」

「は!?」

「だから、助けてって言う、合言葉」




「...」

 まことが連れ去らわれる時、確かにあいつは人差し指を立てて、小指を立てていた。

「...合言葉」

 正直、怖い。俺が行っても、結局は何も変わらない。親父さんたちに話しても、何も見ていないと言われる。

 誰も...あいつを助けようとはしなかった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ここに居ろ」

「...」

 私はあの黒服の奴らに連れていかれ、一つの牢屋に入っていた。

「...啓斗...ごめん」

 私は、ただただ泣き崩れた...


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「...これでもない」


「...これじゃない」

 俺は布団を飛び出し、道場の物置に居た。

「俺は何も知らなかった。知ろうとしなかった。まことのこと、あの刀のこと。なんでまことが男の変装かってことも、なんでまことが名前を偽っていたかってことも!」


「...あった」


 そうして俺は、一つの本を見つけ出した。

「...神薙家」

 中はすでにボロボロで読めなかった。だが、俺が欲しかった情報が、そこに全てあった。

「神薙家は特異な力を持ち、舞のごとく刀を扱う一族。その脅威さから、政府に目を付けられているらしい。その中で、神薙家当主になった者は、代々伝わる妖刀を継承する」

 俺はこの本を見つけ、決心をした。




 次の日、俺は荷物をまとめ、家を出た。


 ただただ歩き続けた。なんの確証もないまま、ただ、あいつを連れ戻すために、俺は歩き続けた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「おい、起きろ」

「...」

「おい!聞いているのか!」

「...」

「おい!ぐっ...」

「はぁ...はぁ...」

 やっと動ける。私は見回りの警備をかわし、外に出る計画を立てていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あの本を読んで分かったことがある。恐らく、今回の犯行は政府の仕業だ。まことを連れ出すとき、上着の下に制服を着ているのが見えた。

 となれば、行くところは一つだ。

 俺は、政府の基地である。官庁施設へと向かった。


 中を見て見ると、何やら職員が慌ただしそうにしていた。俺は耳を澄ませ、職員の話を聞いてみた、すると、

「収容していた神薙 まことが脱獄をした!」

「!」

「これよりここは戦場となるかもしれない、しかし!一切の妥協は許さん!相手は子供だ。必ず捕まえろ!」

「は!」

 どうやら、まことが逃げ出したらしい。だったら、いち早くあいつを連れてここを出ないと、そう思い、俺は施設内へと入って行った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「おい!あっちだ!」

「我々はこっちを、俺たちはあっちだ!急げ!」

 私は脱獄をした後、刀を探すために、この施設を走りまわっている。

「...」


「...」

「...まこと」

「!なんで...啓斗が」

 なんと、そこには啓斗が居たのだ。

「大丈夫だったか?まこと。見たぞ、刀のこと、神薙家のこと...」

「...」

「ここから早く出よう」

「...ダメ...まだ刀が」

 あの刀を手放すことは許されないことだ。

「でも、どこにあるかもわからないんだろ?」

「見つけ出す...何がなんでも...」

 私は...本気だ...たとえ自分が死のうとも...

「...なら、俺も行く」

「え?でも」

「お前が無茶するってのに...俺が行かないわけにもいかないだろ」

 私の目に映っていたのは、怯えながらも、自分の目標に向かって突き進む、獅子沢 啓斗の姿があった。

「...わかった...でも、これだけは約束して...」

「ん?」

「...絶対に...死なないで...」

「...当たり前だろ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺の目には、何かに震える、いつもの一夜 まことの姿はなかった。


「...ここだな」

 俺たちは、刀が置かれてるであろう、保管室に来ていた。

「...大丈夫だ、人は居ない」

「...よし、早く刀を見つけ出そう」

 俺たちは手分けして、刀を探した。

「...」

「...」

「なぁ」

「ん?」

「ちょっと、聞いても良いか?」

「珍しいじゃん、啓斗から聞いて来るなんて」

「...なんで、男のふりをしてたんだ?」

「...」

 俺がその質問をしたとたん、まことの手が止まった。

「...いやだったんだ。女だからって、守られてるのが...」

「...そうか」

 俺は初めて見た、まことが弱気で話す姿を。

「...啓斗だけだよ...私が女って知っても...変わらずに接してくれて...しかも助けにまで来てくれて...」

「...」

 正直、なんで俺がここまでしているのか、わからなかった。

「...あのね」

「ん?」

「...私...少し期待してたんだ」

「...え?」

「啓斗くんなら...助けに来てくれるんじゃないかって」

 まことの方を見ると、

「...」

「お前...泣いて...」

「悪い?私が泣く事が」

 いつものまことじゃない、そこにいたのは俺が知らない、女の神薙 まことだった。

「ほら、早く探そ」

「あ、あぁ」

 俺は少し、心に違和感を覚えた。殺意の視線でもなく、奇異の視線でもない、初めての感覚だった。

「あ、見つけた」

 まことが刀を見つけたのだ。

「よし、これでここから出られるな」

「うん、早くここから出よう」

 そう言い、俺たちは保管室を後にした。


 階段を降り、外への扉を見つけ、そのドアを開けた


 その時だった。


「はぁい、動くなよぉ」

「...なんで」

 なんと、職員が外で待機していたのだ。

「おかしいと思わなかった?見つからずに上手くいきすぎているって」

「!」

 確かにそうだった、保管室前の警備も誰も居なかった。まるで、俺たちが行く事を知っていたかのように...

「じゃー、大人しく檻に戻ろうか、神薙 まこと、獅子沢 啓斗」

「...」

「まこと逃げるぞ!」

「全部隊、撃て!」

 俺とまことは、出口とは反対方向に走って行った。


「ねぇ、これ何処に向かっているの?」

「こっち側なら、川がある。そこに入ればあいつらもなかなか追って来れないはずだ」

 俺はまことの手を引っ張り、走り続けた。


「よし、もう少しだ!」

 目の前に川が見えた。そんな時だった、


「...!」

「...まこと!」

「お、おい、まこと!」

「...大丈夫、足にかすっただけ...」

 ひどい出血だ。明らかかすっただけではこうならない、そう思ったが、ここから逃げることが最優先だと考え、俺はまことを連れ、歩いた。

「動くな!」

「...ちっ、もうきやがったか」

 後ろを振り向くと、すでに追いつかれていた。

「...啓斗くん」

「さぁ、その刀をよこしなさい、さもなくば...死にますよ」

 万事休すだ、俺にこの状況を変えられる力はない。なら、俺が犠牲になるしかと考えていた


 その刹那


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「!」

「...」

 私は、刀を啓斗くんに預け、川に突き落とした。

「全員!刀の捜索!」

「了解!」

「その小娘をとらえろ!」

「...ごめん...啓斗くん」

「隊長!ガキが消えました!」

「川に入ってでも探し出せ!」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「...」

 静かで...冷たく...暗く...誰にも気づかれることもなく...ただただ、沈んでいく...


「...ん?あれって...」


「ねぇ、お兄さん」

「...」

「ねぇねぇ、大丈夫?」

「...」

「...お兄さん...このままじゃ...死んじゃうよ?」

「...う、がはっ!ゲホッゲホ...」

「あ、起きた」

「...ここって」

「お兄さん、なんでこの川で倒れてたの?」

「...俺は...あ!まこと!」

 どうやら、あいつは俺の事を川へ突き飛ばし、逃がしたらしい。

「...クソ!」

 俺は怒りをあらわにした。

「...何があったか知らないけど、少し冷静になった方が良いと思うよ。僕もしょっちゅう言われるし」

「...君は...」

「僕は、心平(しんぺい)。お兄さんこそ、ここで何をしてるの?」

「...あぁ、俺は獅子沢 啓斗。俺は...政府から逃げてるんだ」

 俺は、心平と名乗る少年に話した。正直、こんな子供に言ってもしょうがないと思った。だが...何かが変わると、どこかで思っていたのかもしれない。


「ふーん、つまり、友達を助けるために政府の基地に入って助けたはいいけど、自分を逃がすために犠牲になったってわけねぇ」

 こいつは、何処か冷静に俺の話を聞いてくれた。

「じゃー、戻るの?」

 突然、そんな質問を投げてきた。

「...」

「戻らないの?」

 戻ったとしても、勝てる見込みもない。返り討ちに合うのが必然だ...

 俺が返答に困っていると、

「おい!見つけたぞ!」

 なんと、俺を捕まえるべくあいつらが追いかけてきたのだ。

「ちっ...ここまで来るのかよ」

 後ろは川で、流れも急だ。もう逃げられない...

「獅子沢 啓斗。刀はどこだ」

 そう言われ、俺は刀の存在に気付いた。

「...ない...無い!」

 そう、刀が見当たらないのだ。俺は必死にあたりを見回したが、何処にも刀の姿はなかった。

「おい!早く刀を出せ!渡さないのなら...一夜 まことの命は無いぞ!」

 そう言われ、どうしようもできなくなった。


 その刹那


「もしかして...これですか?」

 なんと、少年が刀を持っていたのだ。

「少年!その刀をこちらへよこせ!くれぐれも、そいつにその刀を渡すなよ。渡したら、命はないと思え!」

 男たちがそう言うと、

「...うーん...君たち...悪い人でしょ」

「何を言う!我々は政府の人間だぞ!」

「でも...僕にはこっちのお兄さんのほうが、良い人に見えるな」

 俺は理解が出来なかった。命令に背く、それは殺されるのと同義だ。こいつは...怖くないのか...

「そうか...なら死ね!」

「危ない!」

 俺が少年のほうを見ると、

「...懐かしいなぁ」

 こいつは...刀を抜いていた。


 そして...



紅刀(せきとう)炎瞑(えんめい)(まい)』」



 そう言うと、あいつは凄い勢いで男たちに突っ込んでいった。

「おい!来たぞ!全員うt...がっ!」

「撃ち殺せ!」

「ぐ...」 「やめろぉぉぉぉぉ!」

「がはっ...」 「来るなぁぁぁ!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」 「うっ...」

「...なんなんだ...あいつ...」

 まるで、踊るように刀を振り、まるで偶然かのように人を殺していく...


「...ふぅ、こんなもんかな」

「...君...いったい...」

「...僕は...ただの子供だよ」

 そいつは、少し微笑みながらそう言った。

「はい」

「...え?」

 心平は俺の前に来て、刀を差しだした。

「...これが必要なんでしょ?」

「...」

「大丈夫...もし事がうまくいかなかったら、僕の所に来ればいいよ」

「...」


 俺は悩んでいた。


「この刀を手にしたら...君は...運命をたどることになる」

「...」

「安全に生き続けたいなら...手にすることはお勧めしない。けど...もし、どうして助けたい人がいるなら..."これ"はに力をくれるよ」

「!」



「逃げても誰も君を責めない...ただ、自分で逃げる理由を探すな」



「...」

「...ふ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「これより!一夜 まことの、公開処刑を決行する!」

 あれから...啓斗は無事だっただろうか...

 私はあの時、啓斗を突き飛ばし逃がした。

「こいつは、我々政府に犯行をした!よって、打ち首の刑に処す!」

 啓斗...どうか...助かって...

 私は、願うことしか出来ない...執行人が私の隣に立ち、刀を上に振り上げた。


「切れ!」


 そう言うと、執行人は刀を振り下ろした。


 その刹那


「まこと!」

 私には、希望の声が聞こえた。

「お前は!」

「まさか!」

 そこには...

「...はぁ...はぁ...またせた...」

「啓斗!」

「獅子沢 啓斗...」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 間に合った。俺はあれから走り続けた。守るべき人を守るべく...そして...俺の手には...

「啓斗!その刀...」

「ほう、わざわざ返しに来たのか?」

「...んなわけねぇだろ...」

「...は?」


「がはっ!」

「おい!」

 俺は刀を抜き、執行人の腕を切り落とした。そして、まことの縄を解き、抱きかかえた。

「啓斗...」

 まことは俺に抱き着き、嗚咽交じりに言葉を発した。

「貴様...」

「返してもらったぞ...俺の(しんゆう)を...」


「構わん!こいつを殺せ!」

 そう言うと、武器を持った兵士がぞろぞろと出てき、俺たちを囲んだ。

「まこと、しっかり捕まってろよ」

「う、うん...」

 まことは俺にしがみついた。俺はゆっくりと刀を抜き...


紅刀(せきとう)炎瞑(えんめい)(まい)』」


「ぐぁ!」

「ぎゃぁぁぁ!」

「うっ!」


 俺は、あの子と同じ剣術をしていた。

「う、嘘だろ...おい!さっさとそのガキを殺せ!」

 殺すことを意識しないように...ただ...攻撃を避けるように...手を自由に...

 気づくと、俺は襲ってきた兵士を全員殺していた。

「まこと、ここから逃げるぞ」

 俺は近くの馬にまたがり、その場をあとにした。

「まてぇぇぇ!!!反逆者どもがぁぁぁ!!!」


(バァン!)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 馬を走らせてから数十分、だいぶ街から離れたところまでやって来た。

「...はぁ...はぁ、ここなら追って来ないでしょ。ねぇ、啓斗」


「...」


 啓斗が馬から落ちたのだ。

「啓斗!」

「啓斗...けいと!」

 なぜか、啓斗のお腹に血が溢れていた。

「...まこ...と...」

「...ダメ...死なないで...死なないでよ!」

 私は必死に呼びかけた。

「...まこと...俺は...もう...だめ...みたい...だ...」

 次第に、啓斗の声が弱くなっていく現実を受け止めきれなかった。

「...そんな...そんな...」

「...らしく無いぞ...まこと...」

「...だって...だって...」

 私は、涙をこぼした。

「私...私、あなたの事が好きだったの!...だから...だから...」

 知らず知らずのうちに、私は自分の思いを伝えていた。今まで隠してきた感情を、たった一人の好きな人に...打ち明けていた...

「...まこと...はやく...にげろ...」

「ダメ!ここに居る!啓斗を助ける!」

「あいつ等だって...追いかけて来る...俺はもう...無理だ...だから...逃げろ」

「そんな...そんな...」


「...逃げても...誰も君を責めない...それも...ひとつの未来だ...」


「...え?」

「...まこと...」



「...あいしてる...」



 そう言うと...啓斗は私の手を握り...小指を立てた後、人差し指を立て...息を引き取った。

「...ありがとう...私の...親友(すきだったひと)

 私は倒れている彼の頬に、優しく...キスをした...




 あれから数日がたち、私はある人を探していた。

「...多分...ここらへんなんだろうけど」

 あの時、啓斗が握っていた私の手の中に、一枚の紙切れが入っていた。

 私はその紙切れを頼りに、こんな山奥に来ていた。

「...はぁ...はぁ...」

 私が疲れて休んでいると、

「ねぇ」

「わ!」

 突然、目の前に一人の少年が現れた。

「お姉さん、どうしてこんな山奥に来たの?」

「え?えっとぉ...人を探していて...」

「人?...あ...その刀」

「え?」

 その少年は、啓斗が使った刀を見た。

「...もしかして、獅子沢 啓斗って人...知ってる?」

「え?...なんで...」

 なぜか、少年は啓斗の名前を知っていた。

「じゃー、君が一夜 まことちゃん?」

「えぇ、そうですけど」

「やっぱり!啓斗さんから話は聞いてるよ...亡くなったんだ」

 その少年は、そう言葉を漏らした。

「なんで...啓斗が死んだことを...」

「わかるよ...だって、その刀に...あの人の魂が入ってるもん...」

「え?」

 わけがわからなかった。なんで私たちの事を知っているのか...なんで刀に啓斗の魂が入っていると思ったのか。

「あ、あの...人を探しているんです...」

「...知ってる...心平って人でしょ?」

「...はい」

「やっぱり...使命は...変えられなかったか...」

 そう、少年は言葉を漏らした。

「...僕が心平だよ」

「え!?」

柊愛(とあ)様!お客様だよ!」

 心平と名乗る少年がそう言うと、奥から一人の女性と、姉妹らしい2人、落ち着いた男の人が出て来た。

「あの...これって...」


「いらっしゃい、神薙 まこと」


「!」

 奥から来た女性が、私の本名を言い当てた。


「ようこそ...神薙家へ...」

ご愛読ありがとうございました!初めての短編小説だったのですが、どうだったでしょうか?今回はコンクール用でしたので、続編は成り行きで考えます!!

これからも色々な作品を書き続けていきますので

よろしくお願いします('ω')ノ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ