音が消えてしまえば
僕は今日も部屋にこもり、机の前で、ヘッドフォンで耳を覆う。
そこから聞こえてくるのは、流行っている曲だったり、人気配信者の声だったりする。
だがそれらは、僕の耳には入って来ない。
それらは雑音を遮断するための、ただの音なのだから。
ヘッドフォンを付けたまま、勉強を続けること数時間。
宿題と予習を終えると、尿意と喉の渇きを覚えた。
時計を見ると、午前一時。こんな時間なら、流石に今日は大丈夫だろう。
トイレを済ませて、そのあと、何か飲もうか。
そう思って、ヘッドフォンを外す。
──すると。
「いい加減にしろ! 今、何時だと思ってるんだ‼」
「ええ、一時ね。こんな時間に帰って来るなんて、よっぽどあの女のところは居心地がいいんでしょうね‼」
部屋に来る前は帰って来てなかった父は、今日もまた、午前様だったらしい。
いつものように母のヒステリックな声と、それに対する、父の高圧的な声が聞こえてくる。
……ああ。今日もか。
僕は再びヘッドフォンを付け、外界の音を遮断する。
そこからはラジオの、どうでもいいおしゃべりが聞こえてきた。
その声は、僕の置かれている状況や、聞きたくない音から、耳を塞ぐことが出来る。
けれども、耳には何も残らない。
何故なら僕の耳は、何も聞きたくないから。
もう、……何も。
こうして何かを聞いても、何も心に残らなければいいのに。
世界中から、僕の心を壊す音が、全て消えてしまえばいいのに。