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朝凪のメッセージ
朝の海辺。今は凪で、風はそよとも吹かない。
けれども波は押し寄せるし、朝日は昇ってくる。
私がどんな心境でここに来たかなんて、まるで頓着してないかのように。
海を眺めていると、犬の散歩中の人がやって来て、おはようございます、と声を掛けてきた。
にこにこしながらこちらを見つめてくる犬が可愛くて、思わず、笑顔であいさつを返す。
その人と犬が行ってしまうと、私はまだ笑えるんだ、ということに気付いた。
それは、この朝凪の光景が私の心に残した……ちょっとした、メッセージだったのかも知れない。
世界はこんなにも綺麗なんだから、焦って死ぬことなんてないんだよ、とでも言うかのような。
──そうね。死ぬのはいつでも出来る、か。
私は脱いでいたサンダルを履き直し、心の中で呟く。
とりあえず、しばらくは生きてみよう。
世界はこんなにも綺麗で……笑顔でそれを見つめられるのなら、そうする価値はあるはずだ。
私は海に背を向け、自分の足で歩き出した。