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夏と、世界への希望のにおい
夏特有の、においがする。
それは火をつけた、蚊取り線香のにおいだ。
このにおいは子供のころ、夏休みの大部分を過ごした、田舎のおじいちゃんの家を思い起こさせる。
日中は、虫取りでかいた汗。
おやつのスイカ。
そして夜には、手持ち花火と、蚊取り線香のにおい。
おじいちゃんもおばあちゃんも、もういなくなってしまったけど……このにおいを嗅いでいると、懐かしさと、あのころ抱いていた、世界に対してのいとおしさが蘇ってくる。
だから何か落ち込むことがあったときは、蚊取り線香を焚き、あのころの気持ちを取り戻すことにしている。
……そうしているうちに、蚊取り線香が燃え尽きた。
ありがとう、と私は心の中でお礼を言う。
ありがとう。
夏と、世界への希望のにおい。
このにおいがあれば、私は明日からも、生きていけるんだ。