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ノートに、三点リーダが浮かんだ。

消えた。

また浮かんだ。




チャット入力中、じゃないんだよ。




*********************************


ステータスは常に確認しておきましょう!


*********************************



結局、浮かんだのはそんな言葉だ。

完全にごまかされたが、異世界8日目ならそんなものだろう。

かといって、言いなりになるのもなんだか不満で、紗良はコーヒーをことさらゆっくりと飲んだ。

そして結局……運動が堪えたのだろう、しばらくしてそこで眠り込んでしまった。







目が覚めると、夕方だった。


日暮れの景色は、朝とは違ってなんだか違和感がある。

多分、匂いだ。

日本にいた頃は、日が暮れる頃、どこかしらから食べ物の匂いがした。

人がいて、食べて、生きている証拠だ。

ここにはそれがない。


ただ、美しい景色だけがある。

一日が終わる。





紗良は、いててててと呟きながら、やはりチェアで寝落ちるのは良くない、と認識を新たにした。

とても今から薪を拾ってくる気になれず、そのまま部屋に入る。


スマホを確認すると、【魔法使い】のレベルが13と爆上がりしていた。

使えば使うほど上がるらしい。

なぜか、【戦士】のレベルが2になっている。

体力を使ったからだろうか。

魔法を使わないことにも意味があるのだなと思えば、あの労働も報われる気がする。



少し元気になった紗良は、冷蔵庫からじゃがいもを取り出した。

それから、オーブンの予熱をしておく。


じゃがいもも母が送ってくれた、故郷のものだ。

やや甘く、実は黄色みが強い。

新じゃがなので、そのまま皮ごと綺麗に洗い、下側1cmを残して5㎜幅にスライスする。

うーん、2個いっちゃえ。

ベーコンも出して、切ってじゃがいもの隙間に差し込み、グラタン用の皿に並べた。

バターを落として、オーブンにかける。


その間にシャワーを済ませ、今日は日焼けしたよなぁと思いながら、化粧水を念入りにたたいた。

明日から、化粧はしないけど日焼け止めだけは塗っておこう。



冷蔵庫から冷えたビールと、オーブンから鍋掴みで皿を取り出し、その辺の雑誌を底に敷いてテーブルに乗せた。

ハッセルバックポテトの出来上がり。

ハーブミックスソルトを振りかけ、一口で二枚くらい食べた。


焦げた外側の皮に、塩気のあるバターがしみている。

じゃがいも本来の甘みと食感が損なわれない程度に、ソルトを追加した。

ビールが美味い。



そして思った。

肉が食いたい。



冷蔵庫にあるのは、薄切りの豚バラと切り落とし、あとは鶏モモくらいだ。

切り落としに至っては、半分使いかけ。


賞味期限なんてとっくに切れているはずなのに、傷んでいる様子はない。

おそらく、どこかの時間で『リセット』されている気がしていた。

根拠はないし、リセットというのも感覚に過ぎない。

けれど、この部屋のものは消費されない、とマニュアルに書いてあったことと考えあわせると、あながち間違っていないとも思う。



せっかく外にかまどを作ったのだから、外で肉が食べたいものだ。

豚バラでは駄目だ。

分厚いやつがいい。

とはいえ、そうなるとどこかで肉を調達しなければならない。

一番食べたいのは生ラムだ。

サガリでもいい。



しかしだ。

じゃあその肉のために、羊か牛を、その。

アレするわけか。


「むりむりむりむり……」


諦めよう。

紗良はそのまま、ベッドに潜り込んだ。









目が覚めたのは、またも早朝だった。

なにせ、昨日はかなり早く寝てしまった。

疲れもあったし、なにより夜はやることがない。


もぞもぞ起きだして、顔を洗い、ジーンズとTシャツに着替えて外に出た。

あ、と気づいて戻り、日焼け止めクリームをぐりぐりと塗ってから、もう一度靴を履きなおした。


森へ向かう。

焚き付け用の皮を拾い、薪にするために枝を切りまくって、それぞれをスーパーのビニール袋に入れた。

鉱石を入れて運んでもまだ破れなかったやつの、使いまわし。

大発明すぎるね、これ。



定位置であるチェアの右に石のテーブル。

その反対側、少し離れた位置に、昨日体に鞭打って作ったかまどがある。

紗良はそのふたくちコンロに、たき火をセットした。



着火(フレーマ)


燃え上がったのを確認して、網を載せた。


部屋に戻り、一切れずつラップしてある塩鮭の切り身と、梅干し、その他もろもろを一抱え持ち出し、かまどに戻る。

鮭をそのまま網に載せる。

熱してあったせいか、じゅうと一気に音が鳴り、慌てて少しだけ火から遠ざけた。


空いているもう片方のかまどには、水を入れた小鍋をかけ、そこに鰹節をひとつかみ放り込んで置く。



「場所がないな……」


まな板を持って少しうろうろし、仕方なく石のテーブルに置いて膝立ちで包丁を使った。

梅干しから種を抜き、包丁で叩く。

たくあんを二枚、端から細切りにする。

大葉は一枚をくるくる巻いて、これも端から刻む。


「あっ」


忘れていた。

かまどに駆け寄って、鮭をひっくり返す。

皮が焦げたが、セーフ。

小鍋の方は、端に寄せておく。


部屋に戻って、どんぶりにご飯をたっぷり盛って戻った。

さっきまで気づかなかったが、魚の焼けるいい匂いがしている。


かまどの加減がよく分からなかったので、何度か魚を持ち上げたりつついたりしてみて、良さそうだと思ったところで、引き上げる。

骨と皮を外し、身をほぐしてご飯の上に。

刻んだたくあんと梅干しを載せ、大葉をちょんと盛って、白ごまを振る。

どんぶりのふちにわさびをニュッと出し、そこに、網の細かいザル越しに小鍋の出汁を注いだ。

ちょっと鰹節のカスが入るけど、ご愛敬だ。



チェアに座り、ようやく暖まり始めた空気の中で、手を合わせる。


「いただきます」



わさびを少し取って溶かしながら、さらさらかきこむお茶漬けは、胃を温める。

ただ、最初に小刀で削ったあの自作の箸を使っているので、絶妙に食べづらい。


鮭のしょっぱさが出汁にしみ出て、全体に味がちょうどよく馴染み始めるかなという頃には、すっかり食べ終わってしまった。

梅の酸味が、口に残る。

出汁まで飲み干して、ごちそうさま、と呟いた。



また一式持ち帰り、洗って、今度はやかんを持ち出す。

まだ燃えているたき火でお湯を沸かし、コーヒーを落とした。


立って飲みながら、出しっぱなしだった玄関用ほうきで、一昨日のたき火を掃き寄せる。

ふと、マニュアルノートが開いているのが見えた。





*********************************


<職人スキルを上げよう!>


テーブルを作ってみましょう。

魔法と道具を併用しながら、作業を進めます。


どこに道具を使い、どこに魔法を使うか、選ぶのは自由です。

適性と照らし合わせて考えてみよう。



使える道具と魔法はこれ!



*********************************




これはきっと、調理台だろう。

さっき、かまどを使いながら、まな板を使う場所がなかった。


紗良はコーヒーを飲み終わると、よしと立ち上がった。









二十歳の食というより、酒飲みの食卓すぎる気がしてきた

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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、アレするのは大変ですよねー。牛さんや羊さんは大きいから、アレする場所も考えますよね。鳥さんは羽の処理が手間ですね。でも美味しいお肉を食べるには、頑張ってアレ出来るようになりましょう。…
感想一覧
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