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一体これはなんなのだ?

紗良は、川に設置していた捕獲網を引き上げ、困惑した。

また、前と同じ、ライチのような丸い何かが入っている。


「魚は?」


魚が食べたいんだけど。

紐をほどいて、中身を河原にころころと出す。

するとまた、ヴィーが飛んできて、それをもぐもぐとやりはじめた。


「大丈夫なの? 私は食べちゃ駄目なのに、ヴィーはいいの?」


疑問をぶつけても、ヴィーは素知らぬ顔でひたすら口を動かしている。

一応、マニュアルノートを開いてみた。



**********************************


餌は?


**********************************


「それだーっ!」


紗良は部屋にとって返し、魚肉ソーセージを持って戻って来た。

ちぎって捕獲網に入れながら、ふと、共食いだな、と考えてしまった。

手が思わず止まってしまうが、その考えをそっと片隅に隠してから、残りをささっと放り込んだ。


ところで、マニュアルノート、見出し考えるのめんどくさくなってない?


などと考えながら、川の中に設置して、これでよし、と肯く。

今日は、萌絵のところに出かける日だ。

帰ってきたらきっと、大漁に違いない。

紗良はうきうきしながら着替え、ヴィーに声をかけてから、神殿へと転移した。










転移の時には杖を使う。

だから、神殿の入り口に到着した時から、すでに杖を手にしていることになる。

そのせいか、萌絵のところまでの案内はとてもスムーズだった。


「こんにちは佐々木さん」

「いらっしゃい。すごい荷物だね」

「うん、お土産」


前回は帰り際に、いろいろと食材を持たせてもらった。

そのお返しだ。


「私が焼いたバタークッキーと、あとポテチ、これ」

「うわあああああ、ありがとおおおおお!」

「それと、これとー、これとー」


トートバッグから次々取り出して、テーブルに並べていく。

ひとつは、ムダ毛用の剃刀。

これは萌絵に頼まれていたものだ。

丁度新品があって良かった。

あとは、サニタリー用品。

他に、使いかけではあるが、化粧水と乳液と化粧道具一式だ。

紗良の分はリセットするので、あるだけ持って来た。


「ほんっと助かる……」


萌絵がしみじみと言う。

だよねえ、と同意した。

ネットが使えないことよりも、意外とこういうところのほうが大変だと思う。


お金を稼ごうと思った時、紗良の部屋から日本製品を持ち出して売ることも考えた。

けれど、歴史に介入する、というと大げさだけれど、段階を踏まないいきなりの進化はどうも受け入れられない。

それに、紗良が考えた訳でも、作ったわけでもないのに、お金に換えることは抵抗がある。

なにより、長くは続かないだろうところが一番のネックだ。





「それでは、第一回、お金儲け会議を開催します」


会議の場所は、萌絵の私室だ。

神殿内にあるその部屋は、石造りだが、壁にはいくつものタペストリーがかけてあった。

寒くないように、という気遣いだろう。

自然を描いた心和む風景が、雰囲気を柔らかくしてもいる。

大事にされているようで、なによりだ。


それに、なんと、萌絵が希望したのであろう、座卓が据えてある。

どう考えても、こうやって靴を脱いでラグの上でくつろぐ文化ではないだろうに、床に座ってちょうどいい高さのテーブルだった。


紗良は、ノートとペンケースを出し、そのテーブルの上に広げた。


「各自、ふたつずつ発表しましょう。ではまず私から。

 一案、転生知識を特許申請して、使用料をとる」

「特許とかあるんだ」

「ないよ。まあだから、アイディアを売って使用料を取るイメージかな」

「例えば?」

「原始的な仕組みが分かるものかなあ。カメラとか」

「あー、箱にピンホール開ける的な?」

「そうそう、あとは美味しいビールの作り方とか」


確かに、アイディアを売るというのは手っ取り早くお金が入る。

それに、いきなりの進化にもならない。

ただ、本当に原始的なアイディアだけで、後の研究は丸投げということになるため、さほどの金額にはならないだろう。

それに、


「そんな沢山は知らないってのがネックだよね」


その通り。

便利なものは沢山あるが、仕組みを知っているものなどほとんどない。


「次、第二案。食堂を開く」

「ほお……」

「私が物件を探して借り上げか購入、そこで津和野さんが働く感じ。

 なにせ、私は気軽に外に出られないからね……」

「ほうほう」


食堂。

いい響きだ。


「問題点としては、経営なんてどっちもしたことないこと、知識もないことだね」

「二人とも教育学部だもんね……」

「仕入れとか従業員雇うとか、原価計算とか分かんないし」

「税金のこととか、法的なことも分かんないね」

「割と重大な問題点だけど、相談役を置けば解決は可能、って感じ。

 その分、人件費はかかるけど。

 さ、じゃあ、津和野さんは?」



紗良はペンを回しながら、メモを見返す。


「そういえば、聖女パワーストーンはどうなったの?」

「教皇様に怒られた」


にっこり笑って彼女は言った。


「そりゃそうか……」

「どうせ売るなら教会で売る、ですって」

「うわー、アイディア泥棒じゃん!」

「だよねえ? 断固、抗議するわ。売らせるもんですか、ふふっ」


聖女交通安全守り、私も欲しいもんな、と紗良は肯いた。


「じゃあ私の案ね。

 一つ目は、佐々木さんの助手をすること」

「……どういうこと?」

「うん、この間、森の近くの神官さんの、実家にお邪魔したんだけど」

「ああ、年末年始ね」

「私、聖女様を助ける役なんだって。なんかそう言ってたんだよね。

 だけど、全然そういう仕事回ってこないから、佐々木さんか誰かが止めてるんだと思って。

 それで、そのお仕事をする。そして予算を適正にいただく」


すると、萌絵は、両手で大きくバツを書いた。


「だめー」

「だめとは!?」

「津和野さんは、私が無理やり呼んだこと、忘れないで。

 教皇庁はね、その黒歴史を隠すために、聖女の半身っていう話をでっちあげてるの。

 だから、津和野さんにそんなことする義務はないの」

「えっ、それ……本当?」

「うん。政治家みたいっていうか、大企業みたいっていうか、ここも結局はある種の利害関係がある組織だからね。イメージが大事なんだって。

 私の我儘なのに、それを隠蔽してるんだよ。

 だから、女神様の神託で、直々に津和野さんについてはノータッチって言われてるの」


知らなかった。


「私も少し前まで知らなかった。そもそも、半身って話になってるのも知らなかったから。

 二人で商売する、って言ったら、その時になって初めて、タブーに触れたらいけないからって教えられたの」

「例えば今みたいな、私が神殿で働くとか、そういうことだ」

「そう」


萌絵は少し怒っているみたいだった。

もしかしたら、それを教えた人や、今まで隠していた人たちと、やりあったのかもしれない。

それを紗良に知らせる気はないようだけれど。


「そっかー。じゃあ二つ目の案ね。

 荷物を運ぶお仕事はどうかなって」

「ふむ……そうか、魔法かぁ」

「うん、運搬(アンゲスト)転移(カナブラデオ)があれば、いわゆるチートレベルでは?」


萌絵は、あごに手を当てて、肯いている。


「つまり……魔……魔法使いのたっ……宅配便」

「ギリセーフ? ……いやアウト?」

「魔法使いの運送業!」

「セーフでしょ! いける!」


紗良と萌絵は頷き合う。


「荷物を持ち込む必要はないんだからさ、事務所は一畳分でもいいよね」

「まあ実際は色々と事務用品が必要だろうけど、2、3坪でいけそう」

「しかも、荷物を持ち運ぶ必要はない」

「うん。行ったことないとこには飛べないけど、転移石を解放してもらうか、私が足を運ぶだけ。

 転移で帰ってきて、転移で荷物を運べばいい」

「天才では?」

「天才では?」


二人は両手をパチンと打ち合わせた。


「神殿の人にちょっと色々聞いて確認してみる」

「それは助かるかも。私が森にいる限り、依頼は佐々木さんを通してもらうことになるから。

 つまり、佐々木さんが事務員、私が作業員」

「任せてよ」


話が聞け次第、第二回お金儲け会議を開催することとして、その日は解散になった。











森に戻って来た紗良は、そろそろ日が暮れそうだ、と空を見上げた。

少しずつ、日暮れの時間は長くなっている。

春は遠くない。

そんな気がした。


今日の議事録を作るべく、ウッドデッキに上がり込み、そこでようやく異変に気付いた。

河原にヴィーがいることは感じていたが、視界に入らなかったため、違和感があったのだ。

しかし、その理由はすぐに知れた。


いつもの魔物もダメにするクッションに、小さな黒い生き物が丸まっていた。

紗良が近づくと、それはひょいと顔を上げる。

あごの下に、赤い石が揺れていた。

いや、それを見るまでもなく、紗良は、それがヴィーであると魔力をもって感じていた。


「な……ななななななんで縮んでるの!?

 やっぱりあの変なライチみたいなやつ! あれを食べたからでしょう!?

 変なもの食べるから、こんなに……こんなに小さくなってー!」


見た限り、それはほとんど猫だ。

紗良はヴィーに駆け寄り、心配のあまり、オロオロと手を泳がせるばかり。

しかし、当のヴィーはと言えば、呑気にあくびだ。

そして、泣かんばかりの紗良の前で立ち上がり、見慣れた仕草で一周回ると、ひゅ、と息を吐いた。

そのとたん──ヴィーの身体はみるみる膨らみ、もとのでっかい魔物になった。


「……は?」


唖然とする紗良のお腹がもぞもぞとし、つい習慣で取り出したマニュアルノートを開くと、こうあった。





**********************************


<魔物の変態について>


高位の魔物は、魔力が強くなると、他の魔物を取り込みその能力を獲得することがあります!

その中には、変態の習性も含まれます。

例えば、ある種の魔魚は、危険が及ぶと食欲をそそらない色の種に形を変え、難を逃れるなどが挙げられます。


変態し、動物に擬態した魔物は、街に連れて行くことも出来るでしょう!



**********************************



ヴィーを?

街に?


「あんた、行きたいの?」


でっかい魔物は、むふん、と鼻息を吐いた。

すると、どういうことになるだろう。

さっきの小さな黒猫を連れ、運送業をすることになる。



「いや、アウト」






ヴィーがヒーロー説

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― 新着の感想 ―
よっしゃ、街へ行ってもお別れにならない、いいぞ〜
書籍購入し、なろうに来ました!面白かったです! モロ魔女宅w異世界に著作権ないからセーフw
魔女の宅〇便じゃん!!でもあり頼のありでは? ヴィーも結局のところちゃんと猫じゃないし? 魔物だからいけるいける!
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