表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【2巻発売中】冒険しない私の異世界マニュアル  作者: 有沢ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/106

103

間違えて101話を二回あげてしまいましたごめんなさい!

あらためての103話です!

ネリーに紹介された、銀の尻尾亭には、ジェレイドが案内してくれた。

向かう間中、荷物が多すぎるとぶつぶつうるさい。


「まあ確かに。じゃあ……ちょっとこっちにどうぞ」


脇道に入り、建物の陰に入る。

そこで、女神の懐(シーノスデェ)を唱え、荷物を全て収納した。


「……なんだ今の」

「私がなんと呼ばれているか、知らないんですか?」

「いや……ああ、まあ、魔法使い様、と」


呆然とした様子だったが、紗良が歩き始めると、大人しくついてくる。

やがて目的地に到着した。

そういえば、予約もしていないが大丈夫だろうか。

というか、ヴィー、無理じゃない?


「別のところに……」


言いかけた時、肩に乗っていたヴィーが、すとんと地面に降りた。

そして、びゃー、と一声鳴いて、すたすたとどこかへ行ってしまった。

気を利かせてくれたらしい。

せっかく紹介してもらったし、手早く食べてヴィーを迎えに行こう。

そう思いながら、ドアを開ける。

綺麗なドアベルが鳴り、中から、きちんとした恰好のウエイターが出てくる。

思った以上にちゃんとした所だ。


「すみません、予約をしていないのですが」

「これは魔法使い様。もちろんお席をご用意しましょう」


ウエイターの目が、背後のジェレイドに向く。


「個室を頼む。席は一つでいい」

「かしこまりました。ではこちらへ」


案内されたのは、二階の手前の部屋だ。

中に入ると、街がよく見える一室だった。


「一緒に食べないんですか?」

「護衛は座らない。同じものを飲み食いすることもない」


そう言うと、ドアの脇に立った。

そういうルールらしい。

ウエイターに、おすすめの料理とワイン、伝統のパイを注文する。

しばらくして運ばれてきたのは、魚介の煮込みだった。

アクアパッツァに似ている。

酸味のある野菜も入っていて、貝の出汁がひたひたにしみて美味しい。

添えられたスープは、意外にも牛っぽい風味がする。


「こちらはピーカスのテールスープです。当店が発祥の料理で、ピーカスの毛並みが銀色であることから、この店の名もつけられました」


肉自体はほとんど入っていないが、澄んだスープはかなり時間と手間をかけていることが分かるし、添えられた香りの強い野菜がまた良い。

シャキシャキしていて、歯ごたえも楽しい。

パンをひたすとこれまた最高に美味しい。


どうやら牧場が近いようで、チーズも八寸のように少しずついろんな種類を盛り合わせてくれた。

ワインも進む。


デザートは、ネリーの言った通り、パイだった。

しかし、紗良が思っていたようなサクサクしたものではない。

全体にバターがしみしみにしみている。

バターの暴力だ。

食べてみるとそれが、バターだけではなく、シロップにもドボンと漬けているらしいと分かる。

甘い。

甘いの暴力だ。

中にはナッツがほどよく詰まっている。

最初は甘さに目を回しかけたが、なぜか、一口、あと一口と止まらず、結局一切れ食べてしまった。

恐ろしい。

カロリー爆弾だ。

メニューにコーヒーはなく、紅茶だったが、むしろそれで良かったと思う。

もしコーヒーがあったら、もう一切れ食べていたかもしれない。


「……あの、テイクアウトってできます?」


ウエイターは、全てわかっている、とでもいうような笑顔で頷いた。








「護衛はいらない、と言ったのは、本当にいらなかったんだな」


腹ごなしにせっせと歩いていると、ジェレイドが顔をしかめて言った。


「そうですね。でも、万全を期したい気持ちは分かるので」

「ほんとに女なんだな」

「なにをもってそう思ったんです?」

「男はあのパイを二個食おうとはしねえ」

「そんなバカな」


パイの話をされると、また食べたくなる。

なんだあのパイは。

結局、半ダース買って収納に入れてある。

ふふ。ふふふふふふふ。


「だめ、パイのことは忘れましょう。それよりヴィーの気配はこの辺なんだけどな」


通常時でもなんとなく方向は分かるが、今はいつでも一緒(シーモル)をかけているので、さらにはっきり感じ取れる。

ヴィーの気配は、もう少し先。

あの店の辺り。


「あ、いた。ヴィー!」


ヴィーがいたのは、ブローチやネックレスなどの小物を扱う店の前だ。

前脚を窓にかけ、ぎゅうっと伸びて何かを見ている。


「何見てるの?」


隣に並んで、窓の中を覗く。

外から見やすいようにショーウインドウになっていて、並べられた商品がいくつかあった。


「え……これ」


そこにあったのは、(かんざし)だった。

シンプルな玉簪だが、飾り部分はサンゴだろう。

表面に桜の花が彫られた手の込んだもので、若い娘の好むような可愛らしいものだ。

こちらで、他にこのような形のアクセサリをみたことはない。

どの領地でも。


紗良は、するんと肩に乗ってきたヴィーと、店に入った。


「すみません、窓辺の品なのですが」

「はいは……これは魔法使い様」

「あの簪は、どこで手に入れたものですか?」

「カンザ……? あの、申し訳ありません、当店は出入りの業者から買い付けておりまして、外地へ直接探しに行ったりはしないもので」

「そうなんですか。その業者というかたは?」

「もう、数年前に亡くなりました」


それは残念だ。

あれは、おそらく、春子のものだろう。

どこかから流れて、ここへたどり着いた。


「買います」

「やあ、本当ですか。使い方も分からず、ずっとあそこにあったんです」


そうか。

ではきっと、紗良が来るのを、待っていたのかもしれない。










「おかえりなさいませ、紗良様。

 まあ、手ぶらですの? お気に入るようなものがなかったでしょうか……」


笑顔の出迎えから一転、しょんぼりしたミネットに、慌ててしまう。


「いえいえ、沢山買いました、沢山!

 魔法で収納しているんです、ね?!」


傍らのジェレイドに必死で目くばせすると、彼も慌てたように頷く。


「は、はい、それは沢山お買いになられ、私など両手いっぱいに荷物を持たされまして!」


一言余計じゃん。

しかし、ミネットは安心してくれたらしい。

途端に笑顔に戻ってくれた。


「そういえばジェレイド、あなたをネルフィアに異動させるという話が出ているの。お父様から話があると思うわ」


ネルフィアってどこだっけ。

あ、アンナの領地か。

つまり、学園に通うためのタウンハウスの護衛にする、ということか。


「えっ、それは困りますよね、だって恋人がこっちにいるんだから」


思わず口から出た。


「あら。そうなの?」


ジェレイドは、何か必死な顔をした。


「あ、いえ、私はもちろん、命令に従うつもりで」

「そうよね、命じられちゃったらおしまいよね、断れないもの。

 お父様は、あなたが護衛で一番強いから、私の護衛につけようとなさっているのよ。

 でも別に、二番目でもいいわよね」

「あ、いや、しかし」

「いいわ、私も一緒にお父様のところに行きます。

 紗良様、大事な情報をありがとうございます!」

「いえいえ」


ミネットに引きずられていきながらも、ジェレイドは紗良を振り返り、そっと頭を下げた。


いくつかの偶然が重なって、春子のかんざしに会えた。

同時に、一人の護衛の人生も変えたかもしれない。

それがいいことか悪いことかは分からないが、あとは二人の問題だ。


紗良には、別の大事なことがある。


「とういちろうさんに届けてあげようね」


それに答えるように、ヴィーは額を紗良の頭にごっちんとぶつけた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
バクラヴァですか?なんて美味しそうなんだ〜
前話では「めんどくせえ」と言っていたけど、ちょっとほっとした感じがなんとも・・・ 余計なお世話のようで言ってよかったね。 ヴィーちゃん、よく気が付いた!早くとういちろうさんに届けてあげてほしい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ