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虚影⑧

私は奴らが嫌いだ。どうしようもなく大嫌いだ。

この想いはどう拷問されようが変わらないし、死んでも変わらない。むしろその恨みは増すだろう。


最悪で醜悪で害悪で邪悪で醜悪で卑陋で下劣で下賤で下品で極悪で。

目の前でパパとママが殺されたあの日は、ずっと頭に残り続けてる。

真っ黒なアイツ。師匠に拾わるまで『お化け』と呼んでいたアイツ。


いろんな道具で苦しめた。

指、腕、内臓、脳ミソ。切って削いで抉って縫って貫いて焼いて剥いで噛んで殴って殺して。

アイツはパパとママを散々叫ばせた後、一つの言葉も残すことなくあっけなく殺した。


その頃の私は霊力が全然なく、アイツに感づかれることなくクローゼットに隠れることが出来た。

あの夕飯時、何かを感じてクローゼットに私を押し込めた母は「何があっても出てこないでね」と優しく厳しく私を撫でた。

何がその後起こるのかも知らず、クローゼットから飛び出す時はどんな変顔をして笑わせてやろうか。なんて考えていた。


それが気づけば細い隙間から見えた光景は血の舞う地獄。

あまりの恐ろしさに声も出なかった。……いや、きっと出そうと思えばできた。

でも見つかるのが怖かった。切られて削がれて抉られて縫われて貫かれて焼かれて剥がされて噛まれて殴られて殺されたその痛みを、自分が受けるのが怖かった。

涙を流して絶叫する両親を、ただ見つからないよう声を抑えて震えた。


普段の優しい両親からは出ることのない聞くこともない絶叫。終わりのない断末魔。

普段の穏やかな両親からは考えられない見たくもない苦痛の表情。無限に鼓膜に張り付く痛みの声。


けれど縋りはしなかった。

「やめて」も「助けて」も「いっそ殺して」とも。目のまえのアイツや、隠れている私に縋りつくような言葉は一言も発していない。

憶えている。覚えている。あの時のことは、いつまでも。

アイツの見た目も、両親が解体される様子を。


長い時間をかけて両親が事切れた後、私は気づけば病室にいた。

私にしか見ることが出来ない"刀"を携えて。


私にはあの後から病室で気が付くまでの記憶が一切なかった。

医者には精神的ショックには、記憶に影響を及ぼす場合もある。と言われた。

私は、それまでの記憶を一切失っていることにした。

本当は何もかもを覚えているけれど、子供ながらに色々考えたのだ。


記憶に影響を及ぼすと言っているが、私が失っているのは両親の死から病室まで。

一番遠ざけたい両親の死は鮮明に残っているし、忘れる気もなかった。

更に視界の端々に映る『お化け』。


後になって師匠から「幽霊」の正体を聞いた。この時から視えるようになった。


それはきっと『普通』じゃない。


だから、あの時も見えないふりが出来たらよかった。

でもしたのは真逆。凝視した。目に焼き付けた。忘れることは出来ない、しない、させない。


この恨みは、復讐心は私だけのもの。


そんな思いを抱えて入学した高校での入学式の日は衝撃的だった。

私と同じ目をした少年がいた。


思わず話すきっかけづくりのために知らない女子生徒の帽子を取ったりまでした。

結局、中学時代は復讐のためだけに師匠と訓練を重ねてばかりで、碌な人間関係を築くことをしなかった私はそのまま話すこともなく、早足で逃げてしまったけど。雪代君の顔すら見ることはできなかったけど。


私は、復讐を果たすきっかけの天使が舞い降りたと本気で信じた。









シャラシャラと軽い音が浮遊する白菊から聞こえ、赤城は二つの考えの間で苦悩していた。

一つ目は白菊がこの悪霊に怪我をさせられるのではないか。

二つ目は二対一で戦ったとしても、うまく連携が取れるのだろうか。


どちらにせよ独りで戦う方が良いと云う考えではあるのだが、横目で見る限り白菊は本気で悪霊とやり合おうとしている。その闘志の中には赤城を死なせたくないと強い感情が含まれていることは、流石の彼女も理解できていたため、その思いは無下には出来なかった。

一時期は霊であれば善霊だろうが何だろうが一切合切を()(はら)ってきたが、存在について師匠から説かれてからは一応判別を付けて祓っていた。


赤城の境界が曖昧なその時、白菊に出会った。善霊で善良。ユニークでユーモアのある可愛くも美しく、強かな白菊に出会ってしまった。完全に赤城の心は白菊に堕ちていた。

あえて例えるとするなら、ひよこが産まれた瞬間に見た者を親だと認識してしまう『インプリンティング』と似たようなものだろうか。


だから傷つけたくない。

傷つくのは自分だけでいいし、他人が傷つくのは見たくない。そんな自己犠牲の上に刀を振るう赤城だったが、()()を"優しさ"と呼ばないと、とうに自覚している。自分が傷つくことで、それを見た他人が心を痛めることがある、という事実すらもちゃんとわかっている。

わかっている上で、自分のワガママってヤツで、白菊にはここから離れて欲しいと想うのだ。


「……なんて考えるのは、傲慢かな」

それは自分が好かれていること前提だ。

儚く目を伏せ、それに白菊が怪訝な目を向けた瞬間、悪霊が口を大きく開けて不快な笑い声と共に突進してきた。

「来ますよっ!」

「うん」


まるで隙だとも思っていないかのように、赤城は刀を振るった。しかしその剣線が通り過ぎたのは、瞬きよりも早く去った悪霊の影だった。

「……ッ」

咄嗟に勘と気配と霊力波によって場所を特定し、迫る悪霊の一撃を刀で受けた。それは無意識に行った行動で、目と脳がその悪霊を認識した瞬間にはもういない。


その後三回、蝙蝠のような黒い外套から出る爪のようなもので攻撃をされたが全て弾く。

一撃が重い上に、速い。計四回受けただけで手が痺れるような感覚が赤城に襲い掛かるが、それを休めるための暇など相手が与えてくれるわけもない。気づけば、悪霊は目の前で赤城をあざ笑うかのように歯をカチカチと鳴らした。

「(手が痺れるとはいえ、動かない訳じゃない。怪我をしているわけでもない)」

ぐっと拳に力を入れれば、違和感こそあれど刀を振るうことに支障はないと判断して正眼で構える。


「赤城さん、大丈夫ですか」

「問題ない」

その言葉と共に地を蹴り攻撃を仕掛けた。

相手からの攻撃を受け続けても前には進めない。ならば攻撃をさせる間もないほどに攻めればよいという考えの元だ。

手瀞崩魂流(てとろほうこんりゅう)五ノ太刀(ごのたち)(みだれ)』」

繰り出された『乱』と呼ばれた技の特徴として()()()()外に広げるように斬るため、初動は必ず中心に刃が向く。


人間相手に繰り出せば全面が裂け、肺と心臓が剝き出しになる。それが花の(らん)のように見え、蘭から転じて(らん)(みだ)れと呼ばれるようになった。

その太刀筋の本質に気づくことが出来れば対処としては容易な方に入る。が、それは人間同士の話だ。普通の人間が、普通の人間相手に繰り出す場合の話なのだ。


特殊な抜刀術である『(しろがね)』は、最大まで霊力で身体強化した場合、音速ギリギリまで速度が上昇する。

それをたたき出せる程の技量で『乱』を放てばどうなるのか。それは、『乱』を見た者は知ることになる。

「ええっ……」

ドパンッ!!と音と共に悪霊の体の半分が爆ぜた。正確には爆ぜたように見えた。

赤城の放つ全力の『乱』は全十二回斬る。十二回目の斬り付けが終了するまで、時間にして約0.3秒。白菊には辛うじて認識することはできたが、常人には何が起こったかすらもわからない。


直撃こそ避けてはいるが、十分致命傷だった。

自身の最高速度での技で、『乱』で勝負を決するつもりで放ったが決め切れずに少々動揺を覚えた。

『しゅふしゅふしゅふしゅふしゅふしゅふ』

身体を半分失ったにも関わらず笑みを浮かべる悪霊だが、先ほどまでのキレはない。霊体の修復に霊力の大半をつぎ込んでいるからだ。明らかに先までの攻撃に対する意思が揺らいでいる。


それを好機と捉えた白菊の『束従の鎖』、通称金鎖(きんさ)が袖の下から伸びて悪霊を縛り上げた。この鎖は攻撃力を犠牲に捕縛力はこれ以上ないくらい仕上がっている。過去、白菊の存在した数百年で片手で数えるほどしか抜けられたことはない。

加えて赤城の与えた傷だ。抜けられる訳もない。通用はしていることに動揺の溜飲は下がった赤城だった。


「赤城さん!」

上手く頭部だけ残し縛り上げられた悪霊は、赤城にとっては絶好の獲物でしかなかった。

ヒュッと小さく音が鳴る。それが赤城の一息だったのか風切りの樋鳴りだったのか、それとも悪霊の声にならない断末魔だったのかは誰も知る由はない。

音の後には既に悪霊は黒い煙となって消滅し始めていた。





カインッ。

硬い金属同士がぶつかるような軽い音が山道に響く。

音の正体である片方は表面が波打つ青で彩られた筋引包丁だが、もう片方は金属音を出すには少々不可解な木の枝だった。

不規則に伸びる木の枝は正確に命の心臓部を狙って伸びている。

一部……心臓しか狙われていないからこそ今も捌き切れてはいるが、正直戦況は厳しかった。


筋引包丁の霊刀・流星での受け、身を捩り翻す避け、身体に到達する前の迎撃と逸らし。

なんとか未だかすり傷程度で済んでいるが、疲れを知らない悪霊と肉体を持つ命ではこのままでは分が悪い。

何より攻撃に出られないのだから勝ち目を見出すどころではなかった。


命が相手取る悪霊は白くのっぺりとした人間体だった。全身の毛を頭からつま先まで取っ払われて、その上で蓄光の白ペンキで塗りたくられたような見た目だった。

だが、所々から木の枝が突き刺さっている。その刺さった木の枝が伸縮し、霊力で補強された上で命に襲い掛かっているのだ。


刺さっている部分からは血が滴り落ちてるが、命は事故か何かで木の枝が刺さって死亡した悪霊なのではと考察している。

この手の悪霊は、総じて事故現場となり易い場所に近いほどに霊力を増すのだが、ここは特に険しいわけでもない普通の一般的な山道である。

事故現場になり易い場所以外で、ここまでの出力の悪霊なら別のナニカとの複合体だと思われる。


「それが"白い身体"か……っ」

死亡原因が木の枝なら、それが刺さった人間体の方がまるでマネキンのような姿である意味がない。

ただその白い方の特性が分からない。いまはただ捌くだけで手一杯なのだ。

枝が差し迫るのを捌く、と字面だけ見れば簡単かもしれないが、実際は枝に扮した銛が襲い掛かってきているようなものなのだ。実際、いなした先にあった木の幹には、拳大ほどの穴が開いて風通しが良くなっていた。


あと何回か攻撃を受けたらどこかしらに傷を受けるかもしれない、と考えた時、命の耳に明瞭な声が飛び込んだ。

「しゃがめッッ!!」

疑うことなく、力づくで戦闘態勢にあった自身の体を低くした瞬間、命の頭上に何かがまっすぐ飛んだ。

それが何か知ることになったのは。もう一瞬先のことだった。


ドゴオゥンッッ!

半径三メートルほどの小さい爆風が命の前で広がった。

「うぇ!?RoG(ログ)!?」

目の前で爆発した対霊体用の爆弾が爆発し、衝撃と爆風で木々を揺らす。霊力を持つことのない無機物や一般人には効果のないフラッシュバンのようなものだが、霊力を持つ命からすれば普通の爆弾とそう大差ない。慌てて飛び退くのも無理はなかった。


風で宙に舞った砂が視界を覆う。こちらから相手を視認することは難しいが、相手側は命の霊力を察知して攻撃することができる。それを警戒し、流星を逆手に体の前で構えるが枝が襲い掛かってくることはない。

「あっ……そうか」

RoGを使ったことがなかった命は不意にその性能を思い出した。霊力が破裂することでダメージを与えるものではあるが、その副次的効果としてその場に霊力を撒き散らす。というものがある。所謂ジャミングのようなものだ。


「よお命。危なかったな」

「いやほんと危なかった。ありがとう」

命の肩に手を置きニカッと笑う春花は、ガントレットのついていない右手の中でポンポンとRoGを弄ぶ。

「にしてもなんだよアイツ。キモイな」

確かに個性と言えば個性だが、全身真っ白な個性がない裸体の成人男性に枝が刺さっていたらキモイと言わざるをえない。

「確かにキモイけど、めっちゃ強い。僕、未だに攻撃当ててない」

「うわマジか……。赤城の言い分じゃアイツはランクBは堅いらしいが?」

「間違いないよ。明らかにヤバい」


命が息を整える間に砂煙が風で取り払われつつある。

そうなれば、いくら霊力散布で霊力による探知を防げても、普通に視認されて攻撃を仕掛けられてしまう。

「作戦はある。まず一本、主の権限として白菊さんから『金鎖』を借り受ける」

「なるほど、それで?」

「枝をひとまとめにする。そこからの攻撃手段が見つからなかったから苦労してたんだけど、春花がRoG持ってるならあぶなーーっっ!!」

説明中に枝が砂煙を突っ切って暴れまわった。


「見えないからって無茶苦茶やってるのか……!」

相手を察知できず、且つ、一方的に蹂躙できる攻撃手段を持たない場合はどうするのか。

答えは明確、当たるまで振り回せばいい。

既に砂煙は枝の振り回しで取っ払われた。だが、振り回しは止むことがない。一定の距離まで下がった命と春花に枝が当たることはないが、これでは近づくことすらままならない。


やはり悪霊は悪霊。どれだけ戦闘能力は高いとはいえ、肉体的な脳はないため本能での攻撃しか出来ない。

「どうする、RoGもっかいぶつけてみるか?」

「いや…それは最終手段にとっておきたい。それ最後の一個でしょ?」

元々白菊が持ってきていたRoGの数は三個。一つは緊急用で()()()残してあるはずだから、春花の持ってきたRoGは残り一つだ。と確信をもって言えた。


「そもそもアレ見てよ」

そう指差した方向には当然マネキンに木の枝が刺さったような悪霊。だが、先ほどまでとは違いその表面は白から赤が覗いている。RoGによって傷ついた場所だろう。

「全然効いてねぇな……」

痛覚を原則感じることのない霊には、表皮を焼かれて中を露出させたくらいでは本質的なダメージにはなり得ない。


「多分、直接口に押し込んで爆発とかさせないと無理。頭部と心臓部は全然ダメージないでしょ?きっと枝で守った結果だよ」

人型の霊の場合、大まかな弱点は人間と同じである。大きく違う点として、人間は出血死があるが霊にはない。そのため四肢を一度にもがれようが、半身が消し飛ぼうが、失った霊力よりより多くの霊力を保持していれば、個体差はあれど再生が可能だ。


「ならどうする」

「とりあえず……」

ぐっ、と左腕に力を込める。同時に目を閉じて白菊との()()を繋げて、イメージの中で『束従の鎖』を掴んだ。

それを確認し、目を開くと一本の金色に輝く鎖が左の前腕から地面に垂れ下がっていた。それを横向きに回転させて左前腕から手の甲までぐるぐると巻きつけた。即時的な手甲の完成である。


「これで枝をガードしながら進んで、流星でとどめを差す」

走り出す用意をするかのようにつま先をトントンと蹴って靴の様子を確かめる命を、春花は眉をひそめて止めた。

「それじゃお前多分骨折じゃ済まないぜ」

未だ振り回されている枝は、周辺の木々をなぎ倒している。細い木でも根元からごっそりと持っていかれているため、それ以上の耐久力を命が兼ね備えていない限りは春花の言う通り骨折では済まない。


それではいつまで経っても祓えない、と命は眼前を見据えた。

「幸いまだ[(てん)]の効果は戦闘前に掛けなおしたし、[(こう)]も切れてない。メチャクチャな攻撃パターンだったらなんとかなるよ」

「なら二人でだ」

「……へ?」

ぐりぐり肩を回す春花に思わず気の抜けた声を出す命。

「俺も霊符の効果は残ってるし、左右で集中して捌いた方がケガは減るだろ」

「でも……」

「確かに俺は霊力身体強化はできず、霊符のみのバフがかかってるだけだがよ。このガントレットもあるし、最悪離脱用にRoGだって使ってやる。攻撃はともかく弾く程度なら俺にだって出来るぜ」

もう一人でも行ってやる、という気概すら見せる春花。春花はこうなったら止めることは出来ないと、命が一番理解できていた。


はあ、とわざと大げさに溜息をついて春花の右腕をゴツンと金鎖で撒かれた腕をぶつける。すると命の左腕から金鎖は一瞬で消えて春花の右腕に転移した。

「一時的に『束従の鎖』の一本を借りた契約を譲渡したよ。これである程度は思うままに動かせると思う」

おお、と声を上げてひゅんひゅんと金鎖を操って見せる春花。普通、自分にないものが突然生えたらその操作に戸惑いを覚えるのだろうが、ぎこちないながらも操作できているのをみて命は今更ながらに友人のスペックの高さを感じる。

「(霊能力者並みに霊力が高かったら、きっと最強格の実力になれたんだろうなぁ)」

自分の菲才を嘆く命。高校一年生という、まだ子供の年齢でありながらもここまで悪霊と渡り合える命も異常ではあったが、それは努力の結果だった。才能ではない。


(かぶり)を振って前を向きなおす命は春花に声をかける。

「じゃあ、行くよ。僕は右、春花は左からの攻撃をお願い」

「おう」

互いに前だけ見て、声を合わせることもなく二人は同時に駆け出した。


都合十七の伸縮自在な枝が一定範囲を不規則に飛び交う空間は、入るタイミングのつかめない大縄跳びのようなものだった。大縄跳びと違うのは、跳ばなくても良い事。飛来する枝は撃ち落とせば良い。

高速で動く枝は、しなって天然の鞭と化す。更に強度は霊力で補強されて簡単には傷つかない。そんな嵐の中を二人は走る。


「「……………ッッ!!」」

[皇]によって動体視力は格段に上がっているとはいえ、全てを捉えきれる訳もなかった。ガントレット、金鎖、流星と各々弾いたりいなしたりするが、逃した枝は身体を打ち付けてくる。[纏]で防御力も上昇しているが、当たった箇所は良くて打撲で最悪骨にヒビが入っているだろう。

想像を超えた痛みが襲い掛かる中、二人は互いを守ることを支えに突き進みあと一歩で手の届く範囲まで到達した。

その瞬間嵐が止んだ。今まで虚空を見ていた瞳が、ぐりんと左右の目で二人を捉えた。


「「(あ……やばっ……)」」

クロノスタシスのように、その瞬間が引き延ばされる。ぴたりと止まった枝の先端が命と春花を完全にロックオンしている。

ほんの一瞬、一秒にも満たない間に命は覚悟が決まった。眼前の敵は防御がない、殺れ。と命の心は身体に命じた。

流星を振り下ろし、確かな手ごたえと共に左肩から右脇腹にかけて大きく袈裟斬りにし、ぱっくりと斜めに腸が開いた。

「春花ッ」

「おうッ!」

命からの声に寸分違わず傷口に起動したRoGを押し込んだ。間髪入れずに後ろに倒れ込み、迫る枝を回避した。

狙いが消えれば当然向かうのはその進行方向……つまり、悪霊自身の腹中だった。

枝が刺さると同時にRoGは爆発を起こす。

吹き荒れる風と青い霊力爆発の奔流に耐えるべく、身を固くし体を丸めた。直後、瞼の裏にはまばゆい光が、鼓膜には轟音が響く。


じっと耐えた二人だが、爆発の余波は未だに二人を蹂躙しようとはしなかった。

恐る恐る目を開けると、目の前には膝から下の両足を残して黒い煙に変わりつつある悪霊の姿を見た。

そして頭上には横一文字に斬り払った後であろう状態で、赤城澪が立っていた。


「……その刀は?」

「私自身。私の魂。霊刀・(ゼロ)


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