第94話 苦かった新婚生活(その3) ー 悩む孝 ー
あれは、私にとって、最初のデート日だった。
実は、デート日だけでなく、エッチナイトも、平日もコミュニケーションタイムも、その場にいない人に対する愚痴が多い。
例えば、優子が平日のコミュニケーションタイムで、バカ(=孝)と優子が散歩に出かけると、私と瀬名は、優子とバカ(=孝)への愚痴を言い合って、憂さを晴らしている。
逆に瀬名がコミュニケーションタイムのときも、私と優子は、瀬名とバカ(=孝)への愚痴を言い合っている。
たぶん、、、今頃、優子と瀬名は、私とバカ(=孝)への愚痴を言い合って、憂さを晴らしているんだろう。。。
でも、これも悪くないと思っている。
ヨメンズとバカ(=孝)とのコミュニケーションも大事だが、ヨメンズ内のコミュニケーションも大切だ。
結果的にはあるが、私は優子と瀬名と1対1でコミュニケーションが取れている。
さて、デート日は土曜日または日曜日の朝9時から夜9時までの12時間、エッチ以外ならなんでも可となっている。
瀬名とのデート日は一緒に菓子作りをしたり、優子とのデート日は大学100m以内の店にデートしたりするらしい。。。
私のデート日は、、、バカ(=孝)の表情を見て、最近のバカ(=孝)の様子を見て、、、朝からお酒を飲むことにした。
なぜって? あの頃のバカ(=孝)は結婚生活でストレスが溜まっていたんだ。。。
私とバカ(=孝)は卒業研究で同じ研究室になり、夕方まで研究室にいた。
午後6時の夕食までには共同住宅に帰らなくてはならないが、ギリギリまで研究室にいようとした。
午後6時直前になり、私が「孝、そろそろ帰らないと」と帰宅を促すと、ようやくため息をついて、一緒に共同住宅に帰った。
明らかに共同住宅には帰りたくないってことが分かった。
ま、研究室から共同住宅まで歩いて10分の距離なんだけどね。
どうして、『バカ(=孝)が共同住宅に帰りたくなかったか?』
それはいろんな問題があって、あの頃のバカ(=孝)にはどれも難しくって、お手上げ状態だったんだ。
せめて一緒にお酒を飲んで、ほんの一時でも、バカ(=孝)に結婚生活の問題を忘れさせてあげようって思ったんだ。
私の最初のデート日は朝から飲んでいたんだけど、こんな感じで優子と瀬名への愚痴から始まった。
私は飲みながら、優子への愚痴をしゃべった。
「もー、、、優子ったら細かくて細かくて。。。」
バカ(=孝)は苦笑いを浮かべ、うなずいた。
「そーですね。もうすこし大らかにならないですかねー。」
そう、『優子はあれで細かい』のだ。
だからハイパーモグラたたき(第41話)でお金の管理を任せたし、我が家での家計簿の管理を任せている(第92話)。
私は続けた。
「瀬名を怒らせると怖いし。。。」
バカ(=孝)はやはり苦笑いを浮かべ、うなずいた。
「しかも、理詰めなので、反論できないですしねー。。。」
そう、『我が家で最強なのは瀬名』なのだ。
バカ(=孝)が拍子法行為を行った時に、瀬名は私を問い詰めたことがあるが(第73話)、あんな感じで理詰めで攻めてきて、しかも反論を許さない雰囲気があるので、誰も勝てないのだ。
一度、私とバカ(=孝)は床の上に正座させられたうえ、瀬名に2時間も説教を喰らったことがある。
『瀬名だけは怒らせてはならない』のだ。
酒を飲みながら、お互い傷口を舐めあった。
「まー、私達(=愛唯と孝)、料理うまくないしね。。。」
「えーお互い。。。」
「結局、最凶最悪コンビも一人一人は、ポンコツだし~。」
「えー、優子さんと瀬名さんに家事はおんぶにだっこの状態で、
僕達(=愛唯と孝)、お荷物ですしね~。」
バカ(=孝)は飲みながら、悩みの1つを打ち明けた。
「優子さんとのコミュニケーションで悩んでいるんです。」
私は戸惑い、「え?」とつぶやいた。
バカ(=孝)は続けた。
「愛唯さんとは恋人として付き合ってきたので、
どのようにコミュニケーションすればよいのかは分かっています。
瀬名さんとは性格が似ているので、お互い共鳴できる部分があるし、
1年生の時から親しくしているので、
どのようにコミュニケーションすればよいかわかります。
でも、優子さんとは共通項がないし、
愛唯さんや瀬名さんほど親しかった訳じゃないから、
どのようにコミュニケーションをとればよいのか、
わからないんです。。。」
バカ(=孝)はさらに続けた。
「しかたなく、4人全体の相談をしていたんです。。。
でも、先日、『私のことを見ていない!』と
優子さんから怒られちゃいました。。。
愛唯さん、愛唯さんと優子さんは中学からの親友ですが、
優子さんとどのようにコミュニケーションすれば良いんですか?
教えてください。」
私は腕を組みながら考えるが、良いアイデアが浮かばない。
「うーん。。。
あまりそういうこと意識して、優子と接したことないからな~。
パッとアイデアは浮かばない。
ちょっと考えさせてくれる?」
バカ(=孝)はちょっとがっかりした表情で語った。
「そうですよね~。」
ただ、この優子とバカ(=孝)との関係の問題は、まだ『ちっぽけなもの』だったんだ。
バカ(=孝)はさらに悩みを打ち明けた。
「いまだに、
愛唯さん、優子さん、瀬名さんとの距離感が掴めないんですよ。。。
3人を平等に扱えば、愛唯さんが不満な顔をするし。。。」
私は少し強く言った。
「当たり前だ。私はお前と恋人同士だったんだぞ。」
バカ(=孝)は困った表情でうなずいた。
「そうですよねー。」
そう、私は『ヨメンズの中で一番でなければ嫌』なのだ。私だけがバカ(=孝)と恋人として付き合っていたのだから。。。
私のプライドの問題なのだ。
孝は続ける。
「と言って、あからさまに愛唯さんを特別扱いすれば、
優子さんと瀬名さんが不満な顔をする。。。
優子さんと瀬名さんが不満に感じず、かつ愛唯さんを特別扱いする、
絶妙な距離感が掴めないんです。。。」
私はバカ(=孝)のコップに酒を注ぐ。
「孝、まあ、飲め飲め。」
私も答えがない。せめて、お酒に付き合うくらいしか、私にできることがない。
バカ(=孝)はため息をついて、さらに悩みを打ち明けた。
「それにしても、『喧嘩が絶えません』ね。。。
喧嘩の仲裁で、もう『疲れちゃいました』。。。」
そう、これが、この時の、バカ(=孝)の『最大の悩み』だった。
このころ、ヨメンズ内の喧嘩が絶えなくってな~。取っ組み合いの喧嘩も頻繁だった。。。
その都度、喧嘩を仲裁していたバカ(=孝)には、大変な負担だった。。。
バカ(=孝)は続ける。
「先日、思い余って、、、
喧嘩していた優子さんと瀬名さんに手を上げてしまいました。。。
最低でした。。。」
このことについては、私は冷たく返した。
「そうだな、あれは最低だった。反省しろ。」
バカ(=孝)は下を向いて答えた。
「はい。。。」
どんな理由があっても、手を上げたことは最低だ。
しかし、実は私も、優子と瀬名との距離感は悩んでいた。。。
私と優子は親友だ。だが、同じ孝との妻となると、微妙に『距離感が異なる』のだ。。。
優子と瀬名が喧嘩になったとき、孝が仲裁に入ったのだが、私も仲裁に入ってよいのか躊躇した。
私も仲裁に入れば、優子と瀬名は『私をどう見るだろうか?』と考えてしまう。
実際、喧嘩の後、個別にフォローしようとしたら、瀬名から『愛唯さんは孝さんと付き合っていたから、上から目線ですね』と言われてしまった。
なにも、喧嘩するのは優子と瀬名の間だけでなく、私と優子、私と瀬名の間でもある。
何度も言うが、私と優子は親友だ。だが、親友の間では許せたものが、『一緒に生活する者同士では許せなくなる』こともある。
私は大雑把な性格だが、優子はあれで細かい、それで喧嘩になったことがある。
そういったものを『すべて仲裁している孝は大変』だ。
それが積み重なって、先日、手を上げてしまった。もちろん、手を上げてしまったことは最低だ。
孝は悩みをごまかしたいかのように、早いピッチでお酒を飲んでいる。
問題が多すぎて、今の彼にはお手上げなのだろう。
私とのデート日だけはお酒に逃げたいのだろう。
いいさ、今日ぐらい、いくらでも飲むがいい。。。
私も孝のグラスに酒を注ぐ。
「孝~。まあ、飲め飲め。。。」
いくらでも付き合ってやるよ。
孝は無言で私のグラスに酒を注ぐ。
私の酒を飲むピッチも、いつもより早い。
私はバカ(=孝)と飲みながらずっと思っていた。
バカ(=孝)がこんなに悩むのなら、『一夫多妻を受け入れたことは間違いだったのか?』と。
酔ったふりして、孝の肩を抱いて、甘えてみた。
「(酔ったふり)ねー、孝~。
どこか、異国へ逃げて、二人で暮らしてみない~。」
孝も酔ったふりして答える。
「(酔ったふり)うーん。。。
拉致・誘拐されたって偽装して、逃げてみます~?」
私は酔ったふりして返す。
「(酔ったふり)ぶぁか! 冗談に決まっているだろ!」
孝も酔ったふりして答えた。
「(酔ったふり)僕も冗談ですよ~。」
実は半分本気だ。
バカ(=孝)、叶うことなら、今からでも二人で逃げて、どこか遠くの異国で、二人きりで暮らしたい。
でも、こんなこと、、、私とバカ(=孝)と二人っきりでも、、、酒に酔ったふりじゃないと、とても言えない。
シラフのとき、こんなこと言ったら、本当に二人で逃げてしまうかもしれない。
優子と瀬名を裏切ってしまう。そんなことは許されない。
たとえ私とバカ(=孝)の二人っきりでも、酒の席の冗談でしか、言えない。
バカ(=孝)も酔ったふりだ。彼は酒豪だ。このくらいのアルコール量じゃ酔わないことは知っている。
バカ(=孝)も同じ思いなんだろう。
つまり、私とバカ(=孝)は、酒に酔ったふりの冗談として、本音トークをしているのだ。
お酒の力を使って、本音を言っているのだ。
私は、もう一度、酔ったふりをして、バカ(=孝)に甘えて尋ねてみる。
「(酔ったふり)ねー、孝~。
一夫多妻を受け入れたこと後悔している~?」
バカ(=孝)も酔ったふりして答える。
「(酔ったふり)うーん。。。
後悔していないと言えば、ウソになるかな~。
でも、あのとき~、
一夫多妻を選択しないで、再び拍子法行為が命じられたら~、
再び、愛唯さんを苦しめたかもしれないと思うと~。
それも後悔したと思うんですよね~。
け~きょく、僕はどちらを選択しても、後悔するしかなかったんですよ~。
だから、過去の自分を尊重するしかないのかな~って」
私は酔ったふりして返す。
「(酔ったふり)孝~。
お前、ぶぁかだけど。 たまに良いこと言うよな~。」
私はバカ(=孝)のグラスにお酒を注ぐ。
「(酔ったふり)孝~。ほれ、飲め飲め。」
そう、私もバカ(=孝)に一夫多妻を勧めたことを後悔していないといえばウソになる。
だって、もう私がバカ(=孝)を独り占めすることは許されないのだから!
でも、あのまま、私とバカ(=孝)が二人きりのまま、再び拍子法行為が命じられたら、一夫多妻を選択しなかったことを後悔しただろう。
バカ(=孝)の言うとおり、どちらを選択しても、後悔するしかなかったのだ。
バカ(=孝)の言うとおり、過去の私を尊重するしかないのだ。
だって、あの決断は、さんざん悩んで下したものなのだから。。。仮にあの日に帰っても、同じ決断を下したと思う。
『二人きりで暮らせなくなった』との後悔は受け入れる以外にない。それはわかっている。
でも。。。でも。。。でも。。。でも。。。
バカ(=孝)は連日、ヨメンズの喧嘩の仲裁と、自身とヨメンズ一人一人の距離感の調整で疲れている。
せめて、私とのデート日は、酒を介して、私に甘えたいのだろう。癒されたいのだろう。
いいさ、せめて私とのデート日くらい、私に甘えるがいい。私が癒してあげる。
私も、酒を介して、バカ(=孝)に甘えたい。癒されたい。
バカ(=孝)、この日くらい、私もお前に甘えてもいいだろ。癒してくれ。
つまり、私とバカ(=孝)は、酒を介して、甘え合っているのだ。癒し合っているのだ。
そうやって、私とバカ(=孝)は、お互いのグラスに酒を注ぎ合った。
「愛唯、愛唯」と揺り起こされる。優子が私を揺り起こしていた。
私は寝ぼけながら優子に語り掛けた。
「あれ? 優子? もう夜の9時過ぎ?」
優子はあきれて問うた。
「9時過ぎじゃないわよ。 何? この空き瓶と空き缶の山?」
私は目をこすりながら、あくびをしながら、答えた。
「えーと。。。
朝から飲んで、昼寝して、また飲んで、昼寝して、夕方飲んだかな。。。」
優子はあきれ果てたように、私に語った。
「一日中飲んでったこと? あきれた。。。
それとなんであんた下着姿なのよ?
恥ずかしいから何か着なさいよ!」
言われてみると、いつの間にか上着を脱いで、下着姿だった。
寝ている間に、無意識に上着を脱いでしまったのだろう。。。
「あれ? いつ上着脱いだんだろ? 覚えてないや。。。」
瀬名は、バカ(=孝)の近くにおびただしい空き瓶と空き缶があるのを見て、私に問うた。
「旦那様(=孝)の飲酒量がとんでもないことになってますが、
何話しながら、こんな飲酒になったんですか?」
優子と瀬名に本当のことは言えないので、とぼけることにした。
「さー、浴びるほど飲んだから、覚えてないや。。。がはは。。。」
(次話に続く)
ハーレムにしろ、逆ハーレムにしろ、一見羨ましいですが、たぶん今話の孝のように、その維持に悩むのではないでしょうか。




