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第8話 父との和解、そして長く辛い試練

私と孝は、亡くなった男子クラスメートの弔いを1週間で終えた。

まあ、途中で優子が加わったので、移動中は私と優子は喋っていたので、あまり苦ではなかったが。。。


私は孝のスマホから男子クラスメートの住所・電話番号の消去を確認した。


念のため、消去前後のスマホの画面も、撮影しておいた。


日誌にこの画像と、男子クラスメートの遺影の写真を添えて、日誌を撫山(なでやま)教授にメールで添付した。

cc:には孝を加えてある。


数時間後、撫山教授から私に返信が届いた。cc:には孝を加えてあった。

「まずはご苦労様」と始まり、「レポート提出と見なし、単位を与える」とのことだった。

ようやく、私の3年生進級が決まった。


メールには、個人情報の観点から、日誌に添付してあった『写真データも私のスマホから削除』するようにとの指示が添えてあった。


私は「わかりました。弔いで撮影したデータは削除します。」と、撫山教授に返信した。

これにもcc:に孝を加えてあった。











その翌日か、翌々日ぐらいだったと思う。健司(恋人)のご両親から手紙が届いた。


内容は、

 『手紙を拝見しました。

  私達(=健司のご両親)は心が軽くなりました。ありがとうございました。』

とあり、

 『愛唯(メイ)さんも新たな恋人を探してください』

と結んであった。



 

私の心は更に軽くなった。まあ、健司ほどの恋人に出会う可能性は低いが。。。

孝? 彼はありえない。。。




私は優子のスマホに電話を掛け、健司の両親から手紙が届いたことを告げた。

電話での優子の反応は以下の通り。


「そうか、愛唯(メイ)、よかったね。

 私も、今日、翔のご両親から返事の手紙が届いて、今読んだところ。。。」




私は驚き、優子に問うた。


「えー! なんて書かれてあった?」




優子は明るい声で答えた。


「あんたと同じよ。 翔のご両親から感謝されちゃった。

 手紙を書いたときから、更に、心が軽くなったわ。」



私は「孝には感謝しなきゃね。。。」というと、優子は「本当。。。」と返した。







次の日曜の朝、聡君のお母さんに言われた通り(第5話)、私は、両親、特に父との関係を修復することを決断した。


私があのウイルスに勝ちたいのなら、第1歩として、両親、特に父との関係を修復しなければならない。


そして、聡君のお母さんの言うとおりだ。


私はもう21歳なのだ。父の立場を理解しているのなら、大人として行動しなくてはならない。



 

私は居間でテレビを見ながら寛いでいる父に、勇気を出して、話を切り出した。


「父さん。

 今まで、父さんが、武(弟)の見舞いに来なかったこと、

 死に目に来なかったこと、葬式さえ来なかったことに、

 ずっと拘っていた。。。


 もちろん、私も、もう大学生だから、パンデミックの状況を鑑みて、

 県庁で幹部を務める父さんの立場を考えれば、仕方がなかったと思う。。。


 でも、でも、家族として、ずっと許せなかった。

 『一生許すものか』と思っていた。。。

 正直、まだ許せない部分はある。


 だけど、だけど、将来のことを考えると、

 いつまでも、このままではいけないと思う。。。」

  

   

私は父に頭を下げた。


「だから、父さん、いままで、ごめん。」

 


 

父は突然の私の謝罪に驚いた。


愛唯(メイ)、、、

 いきなり、なんだ?

 武のことはすまないと思っている。


 そして愛唯だけでなく、母さんにも、

 『一生許されない』ことをしたと思っている。


 その罪を死ぬまで背負わなくてはならないと思っている。。。」

    



父は頭を下げた。


「謝らなくてはいけないのは父さんの方だ。

 仕方がなかったとは言え、父として最低だった。

 すまなかった。。。」




父は私に問うた。


「でも、いきなりなんだ?」




私は孝から言われたことを掻い摘んで説明した。


「私の子供、つまり、父さんと母さんの孫が、

 親になった時のことを考えたの。


 私は一夫多妻の妻になるか、または精子提供を受ける可能性が

 極めて高いわ。


 そんな環境で育った子供は、父親の存在が希薄に育つわ。

 それを防ぐには、父さんと母さんに、子育てを手伝ってもらう必要があるの。


 祖父母としてでなく、第2の父と母として、

 私の子供をともに育ててほしいの。」

 



父はさらに驚いた表情となった。


「愛唯。それはお前の知恵か? 政府内部でまだ検討中の筈だ。」




私は顔を横に振り答えた。


「いえ、自分のクラスで唯一生き残った男の子から聞いたわ。


 その人は、

  『僕達の子供が親になるまで、つまり父や母の孫が親になるまで、

   本当の夫婦の姿を、働く父の姿を、家庭での父親の本当の姿を、

   父や母に見せてもらわないといけない』

 って」




父の問いは続く。


「おいおい、その男性はどこからその情報を得たんだ?」




私はすまし顔で答えた。


「本人曰く、シミュレーションすると出てくる自然な答えだといっているけど?」




父は感心した。


「まあ、確かにそうなんだが。その男性はすごいな!」




私は両掌を天井に向け、顔を横に振って、笑顔で話した。


「本人は『僕は所詮、井の中の蛙です。』って謙遜しているけどね。」




父は笑顔で話した。


「まあ、確かに、政府内部ではもっと議論が進んでいる。

 たしかに彼よりすごい人間はいっぱいいる。

 でも、愛唯と同じ年齢だろ? それはすごいぞ!」

  


私は孝について語った。

  

「彼にはね、こんな夢があるの、

  『僕の孫の一人が、

   僕とそっくりでくそ真面目しか取り柄がなくて、

   そんな孫が僕の友達とそっくりな友達と

   遊んでいる姿が見たい』

 って。。。」

 



そして私の夢を語った。   


「だから、私にも夢があるの、


  『私の孫に、武(弟)にそっくりな孫がいて、

   もう一人、私そっくりな孫がいるの。

   そして、私そっくりな孫が健司みたいな恋人がいて、

   青春を謳歌している。』


 そんな未来が見たいの。


 だから、協力して。父さん。


 そして、、、母さん。」


と母に振り向いた。




母は困った顔をして答えた。


「愛唯、実は父さんに離婚を申し入れているの。。。


 愛唯と同じで、武(弟)のことで許せなかった。

 もちろん、県庁幹部として、やむを得なかったのはわかる。


 でも、でも、武の母として許せなかった。。。」

 


    

私は縋るように母にお願いする。


「えー。離婚踏みとどまってよ!

 私の子供のために、私の夢のために、お願い!」




母はため息をついて、答えた。


「そうね。

 今まで、あなたの子、つまり孫のことを考えなかった。

 離婚してしまうと、孫に『本当の夫婦の姿』を見せられなくなるわね。。。」




父は困った顔で、母に話しかけた。


「母さん、離婚はやめないか? 私が悪かったんだから。。。」




母は苦笑いをして、私に話しかけた。


「もう一つ、愛唯の夢、

  『愛唯と武とそっくりなひ孫がいて、

   彼らが姉弟としてじゃれ合っている未来』

 は、私もみたいわ。」




父が相槌を打った。


「そうだな、そんな未来を私も見たい。

 100歳くらいになっているだろうけど、不可能ではないか。。。」




私は怪訝な表情で母に問うた。


「ねえ、私の夢を、少しいじってない?」




母は笑顔で答えた。


「まあね。愛唯の夢を、私の夢にいじったわ。

 わかった。離婚については一時保留にします。」

 でも、許したわけじゃないからね。父さん。」




父は私と母に改めて頭を下げた。


「仕方がなかったとは言え、父として最低だった。

 改めて、すまなかった。。。」




父は孝に感謝していた。


「愛唯のクラスで唯一生き残った男性には感謝しなきゃな。

 愛唯と和解し、離婚の危機もとりあえず回避できた。」





     

それだけじゃない、ウイルスに勝つ方法と、健司への手紙で、孝は私の心も救ってくれた。


別に孝は、私の心を救おうとしたわけじゃない。


健司の見舞いができなかったという心に突き刺さっていたものを、抜こうとしたわけじゃない。


私と父を和解させようとしたわけじゃない。


父と母の間をとりもとうとしたわけじゃない。




だが、結果的にだが、孝は私を何度も救ってくれた。。。本当に不思議なやつだ。。。










 











父は真剣な表情となり、私に語った。


「彼には感謝しているから、特別に話す。

 彼を守ってあげなさい。」



私は父の『守ってあげなさい』という言葉に戸惑った。

だから、「え?」っとつぶやいた。

 

  

父は、孝をはじめ、100分の1の男性に訪れる、新たな『長く辛い試練』を語りだした。


「まもなく、100分の1の男性は数か所に集められ、

 40歳になるまで、そこから出られない。

 自由に、買い物に出かけたり、旅行することはできなくなる。

 つまり、『軟禁状態』に置かれる。」

  


  

私はあわてて質問した。


「ちょっ、ちょっと、待って! どうして?」




父は真剣な表情のまま答えた。


「世界中で、40歳未満の男性に対する、拉致・誘拐が多発しているため、

 彼らを保護するためだ。

 100分の1の男性を失えば、国家はいずれ滅亡を迎えるためだ。」

 


   

たしかに、最近、そのような報道が多い。


『暴力団等の犯罪組織が、40歳未満の男性を誘拐し、

 他国に売り払って、自らの資金源にしている』とか、


『強権抑圧国が、他国の40歳未満の男性を拉致し、

 権力基盤の維持や、他国の国力棄損を試みている』とか


の類だ。


どの国も100分の1の男性は貴重であるからだ。




私は戸惑いながら、父に問うた。

  

「数か所に集めるってどこに集めるの?」




父は私を見つめながら答えた。


「それについては紆余曲折があったが、、、


 最終的に、学校あるいは職場となった。


 つまり、愛唯のクラスで唯一生き残った男性は、

 I大学の学内で、軟禁状態に置かれる。」




私は更に問うた。


「どうして、大学内って決まったの?」




父は答えた。


「政府からの資料によると

  『100分の1男性は、結婚してもらう必要があるため』

 となっている。

 だが、私個人の考えだが、それだけではないと思う。」




私は更に父に問うた。


「つまり、I大学でしか、今後、彼には会えないってこと?」




父はうなずき、答えた。

 

「そういうことだ。」


 


そのとき、テレビから

 「100分の1の男性保護のため、大学や企業に集められ、

  設備に住むことができるようになるらしいですよ。」


 「いいですねー。100分の1の男性は。

  過保護じゃないですかね、まったく。」


とのコメンテイターのコメントが流れた。




思わず、私はテレビを指さし叫んだ。


「こんな放送おかしいじゃない!」




父もテレビを見ながら話した。


「これは政府が流す世論操作だ。


 政府も100分の1の男性を軟禁状態に置くことは、

 よくないことだとはわかっている。

 スムーズに100分の1の男性を数か所に集めるための苦肉の策なんだ。」




そして、父は私を見つめると、真剣な表情で私に語った。


「いいか、『絶対に彼を守るんだ』。」



 



私はテレビを指さしたまま、父を見つめながら、心の中で叫んでいた。


『私は非力な女子大生だぞ! 【守れ】って、一体何ができるの!?』



と。。。

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