第76話 特別合宿の夜(その1) ー撫山教授の個室にてー
さて、特別合宿1日目の夜、お礼を述べに、私は撫山教授の個室に伺った。
私と撫山教授は、先生の個室で机を挟んで座り、私は頭を下げた。
「先生、今回は特別合宿の講義、ありがとうございました。
孝も、帰ってきた当初はおかしかったですが(第74話)、
笑顔も戻ってきたので(第75話)、もう大丈夫かと。。。」
撫山教授は笑顔で返した。
「ああ、今夜は私達(=先生達)が、念のため、孝君を見張るよ。。。
まあ、もう大丈夫だと思うがね。。。」
私は頭を下げた。
「よろしくお願いします。
また、他の先生方にも、お礼を伝えてもらえませんか?」
撫山教授は「もちろんだ。」と返した。
撫山教授は話題を変えた。
「さて、せっかく、愛唯君が来ているから、
一昨日の話(第70話、第71話)の補足をしておきたい。。。」
私は戸惑い、「え?」とつぶやいた。
撫山教授は私に語り掛けた。
「あの時、私は、
『孝君をはじめ、100分の1の男性には、
100分の1に激減したが故の、永遠の試練がある』
と言ったよね?」
私はなおも戸惑い、「はい。」と答えた。
撫山教授はため息をつき、話した。
「あの予測は、私が、ツテを辿って、ある官僚から聞いたものだ。」
私もため息をつき、答えた。
「そうなんですか。。。」
官僚から聞いたということは、政府はそのことを予測しており、かなり確度が高いことになる。。。
私は、あの永遠の試練について、あらためて気が重くなった。。。
しかし、撫山教授から次に出てくる言葉は驚いた。
「あの予測とほぼ同じことを、1年前に、予測した者がいるんだ。。。
『誰だと思う?』」
唐突な問いに私は戸惑った。
しかし、予測できたものがいたとしたら。。。
私は1人の人物が思い当たり、私は思わずつぶやいた。
「それって、、、まさか。。。」
撫山教授はうなずき、答えた。
「そう、、、『孝』君だ。。。」
バカ(=孝)は、1年前、自分自身が軟禁されることを予測していた(第9話)。彼なら、永遠の試練も予測していても不思議ではない。。。
撫山教授が続ける。
「1年前、新しい入校許可証を、君達に配布した日、
彼はこの部屋に来て、その予測を私に突き付けたんだ。。。」
私は混乱した。
「ちょっと待ってください!
先生と孝は、孝が男子クラスメートの弔いに行きたいからって、
住所と連絡先を教えてほしいってことで揉めていたのでは(第2話)?」
撫山教授はうなずき答えた。
「ああ、その通り。
でもあの日の私と孝君の話し合いは『前半と後半に分かれる』のさ。
後半は、愛唯君が知って通り、
亡くなった男子クラスメートの住所や連絡先を教えるか否かで揉めていた。
前半は、100分の1の男性への、永遠の試練についてだった。。。」
撫山教授は続けた。
「孝君から、その予測を突き付けられた時、私は驚いた。
そして問うた。『誰から、その予測を聞いた?』と。。。
だが、孝君はこう答えた。
『論理的に考えれば、自然に出てくる答えだ』と。。。
確かに、孝君の言うとおり、私も論理的に考えると、
あの官僚の予測と同じ答えになるな。。。
でも、『愛唯君に伝えたいのは、そこじゃない』。。。」
私は混乱して、さっぱり訳が分からなくなり、撫山教授に問うた。
「私に伝えたいことって?」
撫山教授は微笑み語った。
「君に伝えたいのは、
孝君はあの日、
『永遠の試練に生き残りたい』
って言ってきたんだ。
そして、
『種牛や種馬でない、何かになりたい』
って言ってきたんだ。。。」
そうだ、あの日、バカ(=孝)は、『種牛か種馬の如くになるんですよね』と撫山教授に言っていた(第2話)。。。
すっかり忘れていた。。。
私は気を取り直し、撫山教授に問うた。
「先生、永遠の試練に生き残る方法があるんですか?」
撫山教授はうなずき答えた。
「もちろんだ。101人の村で話をしよう。
『たった1人の村人でも、
100人の村人にとって重要な人物であればよい』
だろ?」
私は「確かに。。。」と返した。
撫山教授は首を横に振り、話を続けた。
「だが、孝君はこう言ったのだ。。。
『僕は何をやっても不器用だし、口下手だし、
コミュニケーション能力も低い、今のままでは、生き残れない。』
って相談しにきたんだ。」
私は慌てて否定する。
「そんな。。。孝は、そんなに低評価な人ではないです。。。」
撫山教授はあきれて答える。
「君は孝君のことを、
いつも『頭以外はポンコツ』って評しているだろ?
孝君はそのことに自覚があるんだよ!
コンプレックスがあるんだよ!!
それに、彼はコミュニケーション能力は、はっきり言って低い。。。
社会に出れば苦労するタイプだ。」
撫山教授はその時の結論を話した。
「『頭以外はポンコツ』なら、
『頭を磨く』以外、永遠の試練に、生き残る方法はないというのが、
あの時の孝君と私の『結論』だった。。。」
撫山教授は続けた。
「そこで、私は、他の先生とも協力の上、孝君に特別課題を課すことにした。
孝君の頭を磨くためにね。。。」
そうだ。。。
バカ(=孝)と特別課題を行っていた時、バカ(=孝)は『将来、生き残るため』と言っていた(第43話)。。。
しかも、その将来は『あまり愉快な話ではない』とも言っていた。。。
あれは、バカ(=孝)が永遠の試練に生き残るためだったのか。。。
撫山教授は笑顔で語った。
「この1年、孝君には特別課題を課した。
その結果、なんとか帝大系や有名私大に行っても、
通用するくらいまでは鍛え上げたつもりだ。
もちろん、それだけで、永遠の試練に勝てるわけではない。
でも、私をはじめ、
『CCコースの先生方ができることは、孝君には施した』つもりだ。。。」
バカ(=孝)が特別課題を課せられていた理由は分かった。。。
だが、、、納得いかない部分もある。。。
私は頬を膨らませて、問うた。
「先生、それじゃ、
どうして、その特別課題を私(=愛唯)にまで課したのですか?
あの特別課題、メッチャ難しかったんですけど。。。」
撫山教授は微笑みながら、答えた。
「それはいくつか理由がある。
一つの理由は、孝君には、危うさがあるからだ。
孝君は、孤独に自分一人でやろうとする気質がある。
そういうところが危うい。」
私は戸惑い、「たとえば?」と問うた。
撫山教授は苦笑いを浮かべ、答えた。
「男子クラスメートの全員の弔いに行っただろ?
しかも、『全員の住所を教えろ』と言って聞かなかった。(第2話)
個人情報なので教えるわけにもいかなかったが、
聞き入れなかった。。。」
私は思わず、「あ!」とつぶやいた。
撫山教授はしかめっ面になり、話を続けた。
「しかも、『たった一人』で行こうとした。。。
また、1年前、パンデミック前よりも一人で一段と努力した結果、
ただでさえ、女子クラスメートとの仲が良くなかった上に、
さらに対立を生んでしまい。
その結果、自殺を図った(第15話)。。。
まあ、愛唯君がそれは防いでくれたが(第16話)。。。」
私は思わず、「確かに。。。」とうなずいた。
撫山教授はため息をつくと、苦笑いを浮かべ、語った。
「孝君にはそういう危ういところがある。」
撫山教授は続けた。
「愛唯君に特別課題を課した理由はいくつかあるが、
一つの理由は、孝君だけに特別課題を課していたが、
それを『やっかむ生徒が現れないかと危惧』していた。。。
人によっては、
『孝君だけ特別扱いしている』
と見られる恐れがあったからな。。。」
確かにバカ(=孝)だけ、特別課題を課していると、やっかむ生徒もいるかもしれないので、それはわかる。。。
しかし、私は『理由はいくつかある』と言ったことが引っ掛かった。
だから、私は問うた。
「そういうことですか。。。
でも、他にも理由があるような言い方ですが。。。」
撫山教授は微笑み、答えをやんわりと拒否した。
「それは、いずれ、話す。。。
『こっちにも思惑がある』とだけ、言っておく。。。」
私は、「はあ。」とつぶやいた。
おい、このオヤジ(=撫山教授)、何企んでやがる。。。
撫山教授は話を戻した。
「話を戻すと、孝君は、『孤独に自分一人でやろうとする気質』がある。
愛唯君と孝君は『I大学の最凶最悪コンビ』との異名がある。。。
愛唯君は2度にわたって、孝君を車のトランクに入れて、
検問を突破したこと(第17話、第20話)、
そして孝君は、100分の1の男性専用のスマホを2度にわたって、
ハッキングを試みたことが直接原因だ(第28話)。
私は、本質的に、愛唯君は『陽の暴走キャラ』で、
孝君は『陰の暴走キャラ』であることだと思う。。。
愛唯君の『陽の暴走キャラ』は、周囲を巻き込むが、
孝君の『陰の暴走キャラ』は、孤独をいとわない。。。
だが、101人の村の中の、たった1人の村人が、
孤独をいとわず行動するのは、
101人の村の中で、余計孤独になるとは思わないか?」
私はため息をつき、うなずいた。
「そうですね。。。」
撫山教授はじっと私を見つめ、語った。
「愛唯君、君は孝君の妻になるのだから、そこは気を付けてほしい。」
私は再びため息をつき、「はい」と答えた。
撫山教授との話が終わると、私は、特別合宿が開かれている、留学生会館の、女子が寝泊まりする部屋に戻った。
(次話に続く)
第31話の後書きで、
40歳未満の男性が100分の1となった社会を切り開くとすると、
こんなカップルではないかと思いついた
と書きました。
補足すれば、
この世界の40歳未満の男性は100分の1となりますから、
政治的には無力な存在です。
加えて、軟禁されてますから、社会に向けて、ほとんど何もできません。
つまり、この世界の主役は『女性』となるのです。
この『女性が主役の世界』を切り開くとすれば、
『女性を率いるリーダー』であり、それが主役の愛唯を考えた出発点でした。
そう、『陽の暴走キャラ』として、周囲を巻き込む暴走キャラの愛唯を考えたのです。
一方、この世界の男性は、そのリーダーに知恵を貸すくらいしかできません。
いわば『参謀役』くらいしかできず、それが孝を考えた出発点でした。
そう、『陰の暴走キャラ』として、孤独をいとわぬ暴走キャラの孝を考えたのです。