表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/265

第76話 特別合宿の夜(その1) ー撫山教授の個室にてー

さて、特別合宿1日目の夜、お礼を述べに、私は撫山教授の個室に伺った。


私と撫山教授は、先生の個室で机を挟んで座り、私は頭を下げた。


「先生、今回は特別合宿の講義、ありがとうございました。 

 孝も、帰ってきた当初はおかしかったですが(第74話)、

 笑顔も戻ってきたので(第75話)、もう大丈夫かと。。。」

 



撫山教授は笑顔で返した。

 

「ああ、今夜は私達(=先生達)が、念のため、孝君を見張るよ。。。

 まあ、もう大丈夫だと思うがね。。。」

  

  

  

私は頭を下げた。


「よろしくお願いします。

 また、他の先生方にも、お礼を伝えてもらえませんか?」

  



撫山教授は「もちろんだ。」と返した。






撫山教授は話題を変えた。


「さて、せっかく、愛唯君が来ているから、

 一昨日の話(第70話、第71話)の補足をしておきたい。。。」

 



私は戸惑い、「え?」とつぶやいた。




撫山教授は私に語り掛けた。


「あの時、私は、

  『孝君をはじめ、100分の1の男性には、

   100分の1に激減したが故の、永遠の試練がある』

 と言ったよね?」




私はなおも戸惑い、「はい。」と答えた。




撫山教授はため息をつき、話した。


「あの予測は、私が、ツテを辿って、ある官僚から聞いたものだ。」




私もため息をつき、答えた。

 

「そうなんですか。。。」

 

 

 

官僚から聞いたということは、政府はそのことを予測しており、かなり確度が高いことになる。。。


私は、あの永遠の試練について、あらためて気が重くなった。。。

 

 


しかし、撫山教授から次に出てくる言葉は驚いた。


「あの予測とほぼ同じことを、1年前に、予測した者がいるんだ。。。

 『誰だと思う?』」




唐突な問いに私は戸惑った。

しかし、予測できたものがいたとしたら。。。

私は1人の人物が思い当たり、私は思わずつぶやいた。


「それって、、、まさか。。。」




撫山教授はうなずき、答えた。

 

「そう、、、『孝』君だ。。。」

 

 



 

バカ(=孝)は、1年前、自分自身が軟禁されることを予測していた(第9話)。彼なら、永遠の試練も予測していても不思議ではない。。。


撫山教授が続ける。


「1年前、新しい入校許可証を、君達に配布した日、

 彼はこの部屋に来て、その予測を私に突き付けたんだ。。。」

 



私は混乱した。


「ちょっと待ってください!

 先生と孝は、孝が男子クラスメートの弔いに行きたいからって、      

 住所と連絡先を教えてほしいってことで揉めていたのでは(第2話)?」

 

 

 

撫山教授はうなずき答えた。


「ああ、その通り。

 でもあの日の私と孝君の話し合いは『前半と後半に分かれる』のさ。 

 

 後半は、愛唯君が知って通り、 

 亡くなった男子クラスメートの住所や連絡先を教えるか否かで揉めていた。

 

 前半は、100分の1の男性への、永遠の試練についてだった。。。」

 



撫山教授は続けた。


「孝君から、その予測を突き付けられた時、私は驚いた。 

 そして問うた。『誰から、その予測を聞いた?』と。。。

 

 だが、孝君はこう答えた。

 『論理的に考えれば、自然に出てくる答えだ』と。。。

 

 確かに、孝君の言うとおり、私も論理的に考えると、

 あの官僚の予測と同じ答えになるな。。。

 

 でも、『愛唯君に伝えたいのは、そこじゃない』。。。」

 

 




私は混乱して、さっぱり訳が分からなくなり、撫山教授に問うた。


「私に伝えたいことって?」




撫山教授は微笑み語った。 


「君に伝えたいのは、

 孝君はあの日、

  『永遠の試練に生き残りたい』

 って言ってきたんだ。  

 

 そして、 

  『種牛や種馬でない、何かになりたい』

 って言ってきたんだ。。。」

 

 

 

そうだ、あの日、バカ(=孝)は、『種牛か種馬の如くになるんですよね』と撫山教授に言っていた(第2話)。。。


すっかり忘れていた。。。 




私は気を取り直し、撫山教授に問うた。


「先生、永遠の試練に生き残る方法があるんですか?」




撫山教授はうなずき答えた。

 

「もちろんだ。101人の村で話をしよう。

  『たった1人の村人でも、

   100人の村人にとって重要な人物であればよい』

 だろ?」




私は「確かに。。。」と返した。




撫山教授は首を横に振り、話を続けた。


「だが、孝君はこう言ったのだ。。。

  『僕は何をやっても不器用だし、口下手だし、

   コミュニケーション能力も低い、今のままでは、生き残れない。』

 って相談しにきたんだ。」

 



私は慌てて否定する。


「そんな。。。孝は、そんなに低評価な人ではないです。。。」

 



撫山教授はあきれて答える。


「君は孝君のことを、

 いつも『頭以外はポンコツ』って評しているだろ?

 

 孝君はそのことに自覚があるんだよ!

 コンプレックスがあるんだよ!!

 

 それに、彼はコミュニケーション能力は、はっきり言って低い。。。

 社会に出れば苦労するタイプだ。」

 

 


撫山教授はその時の結論を話した。


「『頭以外はポンコツ』なら、

 『頭を磨く』以外、永遠の試練に、生き残る方法はないというのが、

 あの時の孝君と私の『結論』だった。。。」

 

 

 

撫山教授は続けた。


「そこで、私は、他の先生とも協力の上、孝君に特別課題を課すことにした。

 孝君の頭を磨くためにね。。。」

 

 

 

そうだ。。。

バカ(=孝)と特別課題を行っていた時、バカ(=孝)は『将来、生き残るため』と言っていた(第43話)。。。


しかも、その将来は『あまり愉快な話ではない』とも言っていた。。。

 

あれは、バカ(=孝)が永遠の試練に生き残るためだったのか。。。


撫山教授は笑顔で語った。


「この1年、孝君には特別課題を課した。

 

 その結果、なんとか帝大系や有名私大に行っても、

 通用するくらいまでは鍛え上げたつもりだ。

 

 もちろん、それだけで、永遠の試練に勝てるわけではない。

 

 でも、私をはじめ、

 『CCコースの先生方ができることは、孝君には施した』つもりだ。。。」

 

 




バカ(=孝)が特別課題を課せられていた理由は分かった。。。


だが、、、納得いかない部分もある。。。


私は頬を膨らませて、問うた。


「先生、それじゃ、

 どうして、その特別課題を私(=愛唯)にまで課したのですか?

 あの特別課題、メッチャ難しかったんですけど。。。」

 

 

 

撫山教授は微笑みながら、答えた。


「それはいくつか理由がある。

 一つの理由は、孝君には、危うさがあるからだ。

 孝君は、孤独に自分一人でやろうとする気質がある。

 そういうところが危うい。」




私は戸惑い、「たとえば?」と問うた。




撫山教授は苦笑いを浮かべ、答えた。


「男子クラスメートの全員の弔いに行っただろ? 

 しかも、『全員の住所を教えろ』と言って聞かなかった。(第2話) 

 個人情報なので教えるわけにもいかなかったが、

 聞き入れなかった。。。」




私は思わず、「あ!」とつぶやいた。




撫山教授はしかめっ面になり、話を続けた。


「しかも、『たった一人』で行こうとした。。。

 

 また、1年前、パンデミック前よりも一人で一段と努力した結果、 

 ただでさえ、女子クラスメートとの仲が良くなかった上に、

 さらに対立を生んでしまい。


 その結果、自殺を図った(第15話)。。。

      

 まあ、愛唯君がそれは防いでくれたが(第16話)。。。」




私は思わず、「確かに。。。」とうなずいた。




撫山教授はため息をつくと、苦笑いを浮かべ、語った。


「孝君にはそういう危ういところがある。」

 

 




撫山教授は続けた。


「愛唯君に特別課題を課した理由はいくつかあるが、

 

 一つの理由は、孝君だけに特別課題を課していたが、

 それを『やっかむ生徒が現れないかと危惧』していた。。。


 人によっては、

  『孝君だけ特別扱いしている』

 と見られる恐れがあったからな。。。」

 

 

 

確かにバカ(=孝)だけ、特別課題を課していると、やっかむ生徒もいるかもしれないので、それはわかる。。。




しかし、私は『理由はいくつかある』と言ったことが引っ掛かった。


だから、私は問うた。


「そういうことですか。。。

 でも、他にも理由があるような言い方ですが。。。」

 

 

 

撫山教授は微笑み、答えをやんわりと拒否した。


「それは、いずれ、話す。。。

 『こっちにも思惑がある』とだけ、言っておく。。。」




私は、「はあ。」とつぶやいた。

 

おい、このオヤジ(=撫山教授)、何企んでやがる。。。

 

 


撫山教授は話を戻した。


「話を戻すと、孝君は、『孤独に自分一人でやろうとする気質』がある。

 

 愛唯君と孝君は『I大学の最凶最悪コンビ』との異名がある。。。

 

 愛唯君は2度にわたって、孝君を車のトランクに入れて、

 検問を突破したこと(第17話、第20話)、

 

 そして孝君は、100分の1の男性専用のスマホを2度にわたって、

 ハッキングを試みたことが直接原因だ(第28話)。

 

 私は、本質的に、愛唯君は『()の暴走キャラ』で、

 孝君は『()の暴走キャラ』であることだと思う。。。


 愛唯君の『()の暴走キャラ』は、周囲を巻き込むが、 

 孝君の『()の暴走キャラ』は、孤独をいとわない。。。


 だが、101人の村の中の、たった1人の村人が、

 孤独をいとわず行動するのは、

 101人の村の中で、余計孤独になるとは思わないか?」




私はため息をつき、うなずいた。


「そうですね。。。」




撫山教授はじっと私を見つめ、語った。 


「愛唯君、君は孝君の妻になるのだから、そこは気を付けてほしい。」




私は再びため息をつき、「はい」と答えた。


撫山教授との話が終わると、私は、特別合宿が開かれている、留学生会館の、女子が寝泊まりする部屋に戻った。


(次話に続く)











第31話の後書きで、

 40歳未満の男性が100分の1となった社会を切り開くとすると、

 こんなカップルではないかと思いついた

と書きました。


補足すれば、

この世界の40歳未満の男性は100分の1となりますから、

政治的には無力な存在です。


加えて、軟禁されてますから、社会に向けて、ほとんど何もできません。


つまり、この世界の主役は『女性』となるのです。



この『女性が主役の世界』を切り開くとすれば、

『女性を率いるリーダー』であり、それが主役の愛唯(メイ)を考えた出発点でした。


そう、『陽の暴走キャラ』として、周囲を巻き込む暴走キャラの愛唯を考えたのです。



一方、この世界の男性は、そのリーダーに知恵を貸すくらいしかできません。

いわば『参謀役』くらいしかできず、それが孝を考えた出発点でした。


そう、『陰の暴走キャラ』として、孤独をいとわぬ暴走キャラの孝を考えたのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ