第75話 愛唯と孝の最大の試練(その8) ー特別合宿ー
バカ(=孝)が拍子法行為から帰ってきた翌日、今日は1泊2日の特別合宿の初日だ。
CCクラス3年希望者、、、と言っても、里子のおかげで全員が参加するのであるが、、、そして先生方と合宿を行う予定だ。
場所は閉鎖中の留学生会館だ。撫山教授が学長に相談し、特別に許可を得たらしい。
ちなみに、I大学は、留学生の受け入れは現在停止中で、4月に再開する予定だ。
ただ、本格化するのは、諸外国の都合から、秋以降だろうというのは、撫山教授の話だ。
それに、当分は留学生は女性のみになるだろう。。。
というのも、各国とも、40歳未満の男性の出国は厳しく制限しているためだ。。。
そう、40歳未満の男性に外出制限を課しているのは、なにも我が国だけではないのだ。
話を特別合宿に戻す。
特別合宿の『表向きの目的』は、
4年生になると就職と卒論で忙しく、
3年生のうちになるべく多くの単位を取らなくてはならないため。
となっている。
よって、昼間は特別授業とテスト、場合によって追試や、レポートが課される。
その合間に気分転換にスポーツやゲームを行う。
夜は、皆で料理を作ったり、ゲームをして過ごす。
寝るときは、バカ(=孝)と先生方は同じ部屋で寝る。
女子はいくつか部屋に分かれて寝る。
まあ、こんな感じ。。。
この特別合宿については、昨晩にバカ(=孝)に話した。
すると、バカ(=孝)は戸惑い問うた。
「これって、僕のため?
だって、僕は単位なんて十分足りてるし。。。
明らかに、『僕を一人にしないため』だよね?」
特別合宿の『真の目的』については、バカ(=孝)にはバレバレだった。
私は答えた。
「そうよ。あなたのためよ。『あなたは一人じゃない』の。。。
『あなたはいろんな人に支えられている』ってことを
『実感してほしい』の。。。
この特別合宿のために、『あなたのためだけに』、
先生方、優子、瀬名、里子が、頑張ってくれたの。。。
だから、あなたは、この特別合宿に参加しなければならないの。」
バカ(=孝)は戸惑いながら、了解してくれた。
特別合宿初日の朝、私とバカ(=孝)は身支度を整え、私はバカ(=孝)に声をかけた。
「さあ、特別合宿にいくわよ!」
バカ(=孝)は気のない返事をした。
「はーい。。。」
特別合宿の1日目、私はバカ(=孝)の様子を、常に観察していた。
やはり、帰ってきた当初のように、表情が乏しいだけでなく、ぎこちない。。。
そして、口数も少ない。。。
先生方はバカ(=孝)のために、短い時間で良く準備してきたと思う。。。
いつもより授業の内容のレベルが高かった。。。
特別課題(第43話)の内容にも触れていた。。。
そう、いつもは授業で触れないことを、触れていたんだ。。。
私も特別課題を課せられたから、気付いたんだけどね。。。
毎年の授業の内容を変更してまで、バカ(=孝)の興味を引こうとしていたことがわかった。。。
そう、、、CCコース3年生向けの特別合宿だが、授業の内容は完全にバカ(=孝)向けなのだ。。。
また、なるべくバカ(=孝)を和ませようと、ユーモアを交えて講義していた。。。
ま、空回りして、寒いギャグが多いけど。。。
でも、、、そんな先生達の苦労をよそに、バカ(=孝)は無表情のままだった。。。
里子が企画したレクレーションで、笑顔を期待した。
でも、無表情のままだった。。。
時々、考え込む素振りさえあった。。。
拍子法行為のことを思い出しているのだろうか?
まだ、立ち直るのには時間がかかりそうだった。。。
内心焦りを感じていた。。。
バカ(=孝)は『立ち直ってくれるのだろうか?』
立ち直るにしても、、、『それは、いつ?』
1泊2日では足りないかもしれない。。。
特別合宿が終わる2日目の夕方までに、
『もし、バカ(=孝)が立ち直らなかったとしたら、
どうしたらよいのだろうか?』
そればかりを考えていた。。。
特別合宿の1日目が終わった夕方、I大学の学食は夕食は提供していない。
しょうがないので、留学生会館の食堂で、私達は夕食を調理していた。。。
もちろん、瀬名を中心として、献立を検討し、買い出しは完了してある。。。
しかし、ほら、、、私ったら、料理下手なので、、、料理上手な瀬名の指導を仰いだ。。。
瀬名は私のそばで、私の料理を指導してくれた。
「愛唯さん、ひと手間ひと手間で、料理のおいしさが変わってくるんです。」
私は料理に苦戦し、愚痴をこぼした。
「そうかもしれないけど、、、
細かく言われると、、、頭が痛くなるんだよね。。。」
私の料理を見ていた、優子があきれて語る。
「あんた、
よく言えば、豪快な料理だけど、
悪く言えば、適当に料理しているよね。。。
中学のころから、『がさつ』とは思ったけど、
がさつに料理するのは良くないわよ。」
このとき、思わず、私はいつものように、優子に言い返してしまったんだ。。。
「うっさいわね!
料理なんて胃の中に入ってしまえば、みんな同じよ!」
まさか、このいつもの口癖が、バカ(=孝)の感情を呼び起こすなんて、思いもしなかったんけど。。。
それを見ていた、バカ(=孝)が笑い出したんだ!
「ははは! やっぱり、愛唯さんは面白い!!」
そう、、、あの、、、
表情が乏しく、表情がぎこちなかった、バカ(=孝)が、、、
やっと、笑ってくれたんだ!
レクレーションの時は、無表情だった、バカ(=孝)が、、、
やっと、笑ってくれたんだ!!
やっと、やっと、笑ってくれたんだ!!!
このバカ(=孝)の笑った姿を見た途端、私は思わず涙が流れそうになった。
「ごめん、瀬名。後はお願い。」
私は料理を瀬名に託し、私は目頭を押さえ、お手洗いに駆け込んだ。
そして、、、お手洗いで嗚咽してしまった!
心配して追いかけてきた、優子が私に語り掛けた。
「愛唯、どうしたの?」
私は両目から涙を流しながら、答えた。
「孝が、、、『やっと、笑ってくれた』。。。
表情が乏しくなり、、、表情がぎこちなかった、、、孝が、、、
レクレーションの時なんか、、、無表情だった、、、孝が、、、
やっと、、、やっと、、、『笑ってくれた』。。。」
優子は微笑み、私を抱きしめて、ささやいた。
「そうか。。。よかったね。。。」
私は涙を流しながら、「うん。」とうなずいた。
あの時のバカ(=孝)の笑顔ほど、うれしかったことはない。。。
あの時のバカ(=孝)の笑顔ほど、ほっとしたことはない。。。
あの時のバカ(=孝)の笑顔は、、、たぶん一生忘れないだろう。。。
お手洗いから食堂に戻ると、バカ(=孝)の衣服が油まみれになっていた。
私は驚いて、バカ(=孝)に尋ねた。
「孝。その恰好どうしたの?」
バカ(=孝)は半ば恥ずかしそうに、半ば笑って答えた。
「いやー、
瀬名さんをまねて、フライ返しをやったら、胸にべっとりついちゃって。。。」
瀬名も申し訳なさそうに話す。
「だから、慣れていないなら、ちゃんと言ってくれれば。。。」
私は、バカ(=孝)の汚れた格好を見て、腹が立った!
このバカ(=孝)!
さっきの私のお手洗いでの、『あの涙』をどうしてくれるんだ!!
『あの感動』をどうしてくれるんだ!!!
本当にこいつ(=孝)は『バカ』だ!!!!
私は思わず罵った!
「このバカ(=孝)!
料理するなら、しかも料理に慣れてないなら、エプロンしないとダメだろ!!
今すぐ、寮に行って着替えてこ~い!!!」
バカ(=孝)は、「は、はい。」と言うと、慌てて寮へ走っていった。
バカ(=孝)が寮へ走って行く姿を見て、私は、バカ(=孝)のいつもの行動パターンを思い出した。。。
そして、優子に語った。
「あー、どうせ、
あのバカ(=孝)は適当に服を選んで、
服の組み合わせがとんでもないことになるから、
私も寮へ行くわ!」
私も寮へ走り、バカ(=孝)を追いかけた。
その様子を見て、撫山教授は吹き出し、優子に語る。
「ははは。。。
やっと、孝君だけでなく、『愛唯君も通常に戻った』な。。。」
優子は微笑んで答える。
「ええ、
『愛唯も、(孝が拍子法行為に連れていかれた)一昨日の朝から、
おかしかった』ですから。。。
やっぱり、あの二人は、ああじゃないと、面白くないです。。。」
優子は振り返り、瀬名と里子を見る。
二人とも、寮へ走る私とバカ(=孝)の姿を見て、ほっとした表情で微笑んでいた。。。
友人達(優子、瀬名、里子)と、撫山教授をはじめとするCCコースの先生達の助力から、この試練を乗り切った、主人公の愛唯と孝でした。。。




