第72話 愛唯と孝の最大の試練(その5) ー合宿企画(前半)ー
話は一旦、撫山教授の個室での話し合いに巻き戻る。
(第71話抜粋)
撫山教授は再び苦悶の表情を浮かべた。
「さて、ここまでの話も、他言無用だ。
今回、愛唯君には特別に話した。
ここまで話したのは、愛唯君にお願いしたいことがあるからだ。。。」
私は戸惑い、涙を拭いながら、「え?」とつぶやいた。
撫山教授は私を見つめ、語り掛けた。
「さっき言ったように、大学として、俊君のような、
自殺者をこれ以上出すわけにはいかない(第70話)。
私の代わりに、孝君を守ってほしいのだ。
私が表立って、彼を特別扱いすれば、訝る生徒もいるだろう。
そこから、孝君が拍子法行為対応したと漏れる可能性がある。
もちろん、愛唯君一人に押し付けるわけではない。
表立っては動けないが、私ができることなら、何でもする。
学長も
『学長としてできることはすべてやる』
と仰っている。」
私は撫山教授にお願いをした。
「でしたら、お願いがあるのですが。。。」
(第71話抜粋終わり)
私は言葉を続けた。
「ともかく、(孝が)帰ってきたら、孝が早まったことをしないよう、
1人にしないことが大切だと思います。」
撫山教授はその点については合意した。
「確かにな。。。俊君の自殺は、彼を1人にしてしまったこともある。」
(第68話)
私は一つの提案をした。
「ですから、孝を私の下宿で、数日預からせてもらませんでしょうか?
私が、早まったことをしないよう、見張りますから。。。」
だが、その提案は撫山教授は受け入れなかった。
彼は顔を横に振り、語り掛けた。
「残念だが、愛唯君。 それはダメだ。
君の下宿は学外にあるので、100分の1の男性である孝君を、
君の下宿に宿泊させるわけにはいかん。。。
まあ、君が孝君の婚約者ということで、
帰ってきた当日のみなら、目をつぶってやるが。。。
次の日からは、大学内に孝君はいてくれないと困る。。。」
そこで私は次の提案をした。
「じゃ、次の日からは、
私が寮の孝の部屋で一緒に寝泊まりしても良いでしょうか?」
だが、この提案も撫山教授は首を横に振り、受け入れなかった。
「それもダメだ。。。
たとえ君が婚約者だとしても、寮で一緒に寝泊まりするのを、
公然と認めるわけにはいかない。」
私は更に提案をした。
「じゃ、先生。
『次の日からは、先生が、孝と一緒に寝泊まり』してもらえませんか?」
撫山教授はこの提案に拒否はしなかったが、問題点を指摘した。
「まあ、悪くはないが。。。
それだと、私が孝君を特別扱いしているのを、他生徒が訝らないか?」
私は更に提案をした。
「それじゃあ、皆、つまり、
『CCコース3年生全員と、一緒に寝泊まり』しませんか?」
撫山教授はこの提案を受け入れた。
「『合宿』ってことか?
そうか、それなら、公然と孝君と一緒に寝泊まりできるか。。。」
撫山教授は逆に私に問うた。
「でも、合宿と言っても、何の合宿をする?」
私は答えた。
「そこはお任せします。。。
でも、今、3年生の2月なので、私達は4年生への進級がかかっていますから、
たとえば、講演とか、短期集中講義とか、
単位が足りない生徒には合宿に参加すれば単位をやるとか、
それなら、3年生全員が参加すると思います。」
撫山教授は天井を見上げ、腕を組みながら、つぶやいた。
「うーん、
私の受け持ち授業だけだと、合宿を行うには足らないから、
他の先生にも協力を仰ごう。。。
合宿の場所は学長に相談しよう。。。」
さらに撫山教授は私に問うた。
「だが、CCコースの先生達だけで、
合宿の時間をすべて埋められない場合はどうする?」
私は答えた。
「そこは、私達学生でレクレーションを企画します。」
だが、撫山教授は一つ懸念を示した。
「だが、そのレクレーションの企画は誰がやる?
いつもなら、君(=愛唯)で良いかもしれないが、君も冷静ではないはずだ。
そんな君が企画したら、他の生徒が訝るのではないか?」
私は答えた。
「仰る通りです。企画の方は、私の方から優子に依頼します。
どうせ、孝の拍子法行為で他言無用と伝える必要も
ありますので(第70話)。。。」
私は続けた。
「あと、孝が帰ってくる間、私は冷静ではいられないと思います。
クラスメートが訝るのを防ぐため、学校を休みたいのですが。。。」
撫山教授は同意した。
「それが良いだろうな。
『愛唯君と孝君は発熱のため、休んでいる』と学生達には伝えておく。」
私は頭を下げ、「ありがとうございます。」と言葉を発した。
さて、撫山教授の個室から、下宿に戻って、朝10時頃だったと思う。
撫山教授から、私のスマホに電話がかかってきた。
「CCコースの先生全員の了解を得た。
この合宿に参加すれば、3年生全員に単位を与えることにする。
ま、特別講義や、課題実習や、テストや、講演を受けてもらう
必要があるが。。。
スケジュールはこれから調整させてくれ。
それと、学長に相談し、合宿の場所は、
現在、閉鎖中の留学生会館を使わせてもらうことになった。」
私はこう返した。
「わかりました。スケジュールなどの調整は優子に依頼します。」
撫山教授は一つ課題を指摘した。
「それと、知っての通り、学食は夕食は提供していない。
自分達で用意しなくてはならないぞ。。。」
私は答えた。
「そこも、学生の方で用意します。優子に調整を依頼します。」
撫山教授の電話の後、私は優子のスマホに電話を掛けた。
「優子、今どこにいる?」
電話越しに、優子は戸惑ったように返答した。
「課室だけど。。。」
優子がいる課室はクラスメートがいる。
私と優子との通話で、バカ(=孝)について訝る恐れがある。
だから、私は電話越しに依頼した。
「じゃあさ、
一旦、皆(=クラスメート)がいないところに行ってかけなおしてくれる?」
そう言うと、私は電話を切った。
その数分後、優子から私のスマホに電話がかかってきた。
「皆(=クラスメート)がいないところに来たけど、、、何?」
私は、まず、出自を辿らせないため、バカ(=孝)の拍子法行為については、他言無用であることを伝えた。
優子は了解してくれた。
「わかった。 そのこと(=孝の拍子法行為)については、皆には黙っとく。」
それから、急遽、CCコース3年を対象に、明後日、合宿をすることになったため、先生とのスケジュールなどの調整や、レクレーションや夕食の企画を依頼した。
優子は尋ねた。
「ねえ、それって、もしかして、孝のため?」
私は答えた。
「そういうこと。。。
本当は私がやりたいけど、ちょっと精神状態が良くなくって、
こんな状態じゃ訝る子もいるだろうし、、、
だから、発熱で休むってことにしているの。。。
ね、お願い。
里子と瀬名にも協力を依頼して。。。
里子にはレクレーション、
瀬名には夕食を担当してもらえばいいと思う。。。
あ、里子と瀬名には、孝のための企画とは絶対に言わないで。。。
孝を守るためなの。お願い。。。」
電話越しに優子のため息が聞こえた。そして、優子は「わかった。。。」と答えた。
そして私は電話を切った。
電話の後、私は、下宿の中で、ずっと泣いていた。
コタツに座り、コタツの天板を見つめながら、ずっと泣いていた。
バカ(=孝)が心配でならなかったからだ。。。
不安でならなかったからだ。。。
バカ(=孝)は、無事に帰ってきてくれるのだろうか?
バカ(=孝)は、無事に帰ってきたとしても、立ち直ってくれるのだろうか?
早まったことをしないだろうか?
バカ(=孝)は、立ち直ったとしても、次の拍子法行為に耐えられるのだろうか?
バカ(=孝)は、20年乃至30年後、使い捨てられ、見捨てられないだろうか?
バカ(=孝)は、使い捨てられ、見捨てられた時、どのように生きていけばよいのだろうか?
それを考えると、心配で、心配で、涙が止まらなかった。。。
不安で、不安で、押しつぶされそうだった。。。
だが、、、これを他人に言ってはならない。。。
バカ(=孝)を守るためには、、、私だけの秘密にしなくてはならない。。。
バカ(=孝)の名誉を守らなくてはならない。。。
間違って、出自を辿られてはならないのだ。。。
そう、、、私の胸の中にしまわなければならないのだ。。。
絶対に言ってはならないのだ。。。
たとえ、どんなに親しい友人でも、そして両親にも、
言ってはならないのだ。。。
私はずっと、泣いていた。。。
泣くことしか、あのときの私には、、、
バカ(=孝)のために、できることがなかった。。。
泣きながら、バカ(=孝)が帰るのを待つことしか、できることがなかった。。。
そして、この私の涙は、バカ(=孝)以外には見せてはいけないのだ。。。
だって、私が涙を流す姿を見れば、友人や両親は訝るかもしれない。。。
それから、出自辿られる可能性だってある。。。
そう、バカ(=孝)を守るためには、涙を見せてはならないのだ。。。
だから、下宿で一人きりの時しか、泣いてはならないのだ。。。
私はずっと、泣いていた。。。
だって、一人きりの時しか、、、
バカ(=孝)のために、泣くことは許されないのだから。。。
そう、あの時の私は、、、
下宿でたった一人、、、
泣きながら、、、
バカ(=孝)の帰りを、、、
じっと、待つことしか、、、
できることがなかった。。。
(次話に続く)
100分の1の男性の恋人となる女性は、圧倒的少数です。
そう、100分の1の男性と同様に、『100分の1の男性の恋人も孤独』なのです。
きっと、今話の愛唯のように、100分の1の男性の恋人は、誰にも言えない悩みや苦しみを抱え、涙に暮れる日もあると思います。
今話の愛唯の苦しみは、
『恋人(=孝)が苦しんでいるのに、何もできず、ただ待つことしかできない』
苦しみでした。
この世界で、100分の1の男性の恋人になる女性は、神の祝福ともいえる、とんでもない幸運の持ち主です。
でも、神は祝福だけを与えません。同時に試練も与えるのです。
しかも、祝福に見合うだけの、特大の試練を与えるのです。
この物語の主人公を女性にした理由はいくつかありますが、その一つは100分の1の男性の恋人は孤独で、誰にも言えない悩みや苦しみを抱えることに気付いたからです。




