第62話 3年ぶりの成人式(その1) ー決断、すなわち欠席?ー
季節は少しさかのぼって、夏休み入る直前の大学3年生の7月のことだった。
私の実家に、1月に成人式が3年ぶりに行われるとの連絡がNOH市役所から受けた。
2年前の、1度目の大学2年生の1月は、私はちょうど20歳だったが、パンデミック発生中で、政府も地方自治体も成人式どころではなかった。
1年前の、2度目の大学2年生の1月は、私は21歳だったが、県庁の幹部である父の話では、
「まだ男性が退院したばかりで、成人式の準備が間に合わなかった。」
とのことで、行われなかった。
そして大学3年生の1月にようやく3年ぶりに成人式が行われることとなった。
そう、私(=愛唯)は今22歳であるが、ようやく実家のあるNOH市で成人式を迎えることとなった。
で、パンデミック前ならバカ(=孝)も実家のあるNOH市で成人式を迎えるはずだったのだが、100分の1の男性は企業や大学で迎えることなった。
100分の1の男性が地方自治体で成人式を行う場合は、安全確保のコストと、それに伴う混乱が大きいと判断が働いたためだ。
さて、夏休み入る直前の大学3年生の7月、成人式が行われると聞いて、私(=愛唯)はうれしかった。
だって、成人式で着る振り袖は2年前に準備していたのだから。。。
2年前は健司(=元恋人)に、私の晴れ姿(=振り袖姿)を見せたくって仕方がなかった。。。
第60話で、『健司(=元恋人)との約束で果たせなかったことは他にもある』と書いたが、その果たせなかった約束とは、
『成人式が終わったら、
私と健司(=元恋人)と優子と翔(=優子の元恋人)で、
ホテルのラウンジに行く』
ことだった。
2年前から、今年の夏まで、私はずっとこう、思っていた。
『もしかして、振り袖を着る機会は私(=愛唯)には永遠にやって来ないかも?
そして、私(=愛唯)は永遠に成人式を迎えないかもしれない。。。』
と。。。
だって、私は、もう22歳なのだから。。。
でも、こうして振り袖を着る機会を得た!
もう、健司(=元恋人)は亡くなってしまったけど。。。
せめてバカ(=孝)に私の晴れ姿(=振り袖姿)を見てほしいじゃないか!
そして、せめて、、、振り袖姿の私とバカ(=孝)で、デートしたいじゃないか!
ま、バカ(=孝)には外出制限があるので、ホテルのラウンジは難しいかもしれないけど。。。
季節は進んで、大学3年生の10月、集団デートの直後(第55話~第57話)、3年ぶりの成人式の日程がNOH市から実家に連絡があった。。。
で、まあ、例のごとく、私は、わざと甘い声で、課室に勉強しているバカ(=孝)を後ろから抱いて、こう甘えた。
「ね~孝~。
来年1月に、3年ぶりに成人式あるでしょ~。
振り袖姿の私とさ~。デートしようよ。ねえねえ。」
だが、バカ(=孝)は腕を組んで、天井を見上げ、困った顔で答えた。
「うーん、、、
愛唯さんと僕の成人式の日時が、ぶつかっているのがネックですね~。。。」
私も思わず、「あ!」とつぶやいた。
そう、私(=愛唯)は地元NOH市で成人式を迎えるのだが、3年ぶりに実施するため、20歳、21歳、22歳の女性が一斉に成人式を行うことになる。
NOH市は通常、小学校で実施するのだが、、、さすがに一日で3年分の人数を一斉に行うのは大変なので、、、土曜日、日曜日、そして振替休日の月曜日の、3日間で分割して、年齢順に実施することとなった。
で、22歳の私(=愛唯)は最終日の振り替え休日の月曜日の午前中に、実家のあるNOH市G区の小学校で成人式を迎えることとなった。
一方、バカ(=孝)は、20歳から22歳の男子が、I大学で12名しかいないため、振り替え休日の月曜日の午前に、I大学の講堂で行うこととなった。
そう、ものの見事にぶつかってしまったのだ!
バカ(=孝)は続けた。
「僕は、ほら、100分の1の男性だから、付き添いがないと、
外出ができないんですよ。。。
愛唯さんが、NOH市での成人式後に、振り袖姿のまま、
大学まで運転して来るってのは大変ですし。。。」
私は「そうね。。。」とうなずくしかなかった。
実家のある、NOH市G区から、I大学までは車で30分くらいの距離だが、いつもの洋服ならともかく、振り袖姿のまま、30分も車を運転するのは、少々キツイ。。。。
だって、振り袖姿で運転を往復1時間しなきゃいけないわけだし。。。
ま、たぶん、母がそれは許さないだろう。。。
父や母に車を運転してもらって、バカ(=孝)をI大学から実家に連れてきてもらうにしても、逆に私が実家からI大学に連れて行ってもらうにしても、、、頼みづらい。
となると、父や母以外で、誰か付き添いが必要なのだが、これも難しいんだ。
バカ(=孝)、曰く、
「他の女子クラスメートも成人式に参加しているから難しいし。。。
1月は、上級生の4年生は卒業研究で、大学院生も研究で忙しい。。。
下級生は可能だけど、
『そもそも、振り替え休日に登校してくれるのか?』
って問題があります。。。
それに、、、
『報酬を出すか?、それとも集団デートをするか?』
って話になりますから。。。」
私は即座に「それはイヤ。。。」と拒否した。
バカ(=孝)は納得した表情で、「ですよね~。」とつぶやいた。
そこで、バカ(=孝)は思い切ったアイデアを出した。
「どうでしょう?
『僕が成人式を欠席して、前日までに、
僕の実家か、愛唯さんの実家に移動しておく。』
ってのは?」
私は戸惑い問うた。
「孝の成人式を欠席しても良いの?」
バカ(=孝)は苦笑いを浮かべ、顔を横に振り、答えた。
「だって、I大学の20歳から22歳の男子って12名しかいないんですよ?
当然、振り袖姿の女性もいないし、
メチャメチャ、寂しい成人式になるのは見えているじゃないですか?」
そうか、男子だけ12人だけの成人式となると、とても寂しいそうだ。。。
だったら、最初から、成人式を欠席するってのも、アリかもしれない。。。
私は戸惑いながら、バカ(=孝)に語り掛けた。
「じゃあ、孝、あなたの成人式を欠席してくれる?」
だが、バカ(=孝)はまだ浮かぬ顔して、問題点を指摘した。
「僕が成人式を欠席するのはOKなんですけど、、、
今度は、
『愛唯さんが成人式から戻るまでに、
僕の実家か愛唯さんの実家かどこで待つか?』
ってのが問題なんですよ。。。」
私は戸惑い、「たとえば?」と問うた。
バカ(=孝)は浮かぬ表情のまま、話を続けた。
「僕の実家は、、、
『僕が実家にいると、
【あまり親しくもなかった小学校時代の女子クラスメート】なり、
【近所の人が娘さんを連れてきたり】して、
大変だった』
じゃないですか(第34話)。。。」
私は思わず、「あ!」とつぶやいた。
バカ(=孝)は話を続けた。
「うっかり成人式の日に、僕が実家にいたりなんかしたら、
その人達が、振り袖姿で来られでもしたら、
追い返すの、あの時より、もっと大変になりますよ。。。」
そうだ! 成人式にバカ(=孝)が実家にいたら、あの時(第34話)よりもっと大変になるのは目に見えている!
私はため息をつき、一旦気を取り直すと、バカ(=孝)に語り掛けた。
「それもそうね。。。
じゃあ、私の実家にいれば良いじゃない。。。」
すると、バカ(=孝)は少し神妙な表情になり、顔を横に振り、答えた。
「それも、どうかと。。。
というのも、振り袖着るの大変じゃないですか?
前日の深夜から美容院に行って、振り袖着付けして、大変じゃないですか?
それに付き添う、愛唯さんのお母さんも大変じゃないですか?
そんな大変な状況で、僕が、愛唯さんの実家に滞在するのは、
愛唯さんのお母さんに2重の負担をお願いすることになります。
愛唯さんのお母さんから見て、僕は非常識な人間に映るかもしれないし、
下手すりゃ、愛唯さんと僕との交際を反対するかもしれませんよ。。。」
そうか、母はそういうの厳しいからな。。。
しかし、これでは、バカ(=孝)に、私の晴れ姿(=振り袖姿)を見てもらえないじゃないか!
私たら、つい、私は頬を膨らませて、不平をぶちまけてしまった。
「なによ!孝ったら! 私の振り袖姿、見たくないの?」
バカ(=孝)は反論した。
「そりゃ、
『女子の振り袖姿は、成人式の華なんですから、見たい』に
決まっているじゃないですか。
特に、
『愛唯さんの振り袖姿は、身近で見て、瞼に焼き付けたい』ですよ。。。」
バカ(=孝)は続けた。
「今回、成人式が男女別になっちゃたので、
『男性が振り袖姿の女性を身近に見る機会はなくなりました』。
加えて、僕ら、100分の1の男性は、めったに外出できませんから、
『振り袖姿の女性をちらっと見る機会すら、将来ない』でしょうし。。。
でも、『うまいアイデアが浮かばない』んですよ。。。」
このバカ(=孝)の発言の前までは、孝に私の振り袖姿を『見てほしい』と思っていた。
『私のための成人式』を、バカ(=孝)にしてほしいと思っていた。
しかし、考えてみれば、バカ(=孝)の言うとおり、100分の1の男性は大学の外に出るのが難しい。
つまり、振り袖姿の女性をナマで見るのは難しい。
この成人式の機会を逃せば、身近に振り袖姿の女性に接する機会は、ほぼないと言っていいだろう。
バカ(=孝)の発言の後、私は、
『バカ(=孝)に私の振り袖姿を【見てほしい】。』
から、
『バカ(=孝)に私の振り袖姿を【見せてあげたい】。』
と思うようになっていった。
そして、バカ(=孝)の成人式はI大学での20~22歳の男子あわせて、たった12人の寂しいものだ。
私は、『私のための成人式』でなく、『バカ(=孝)のための成人式』をすべきではないかと思うようになっていた。
私(=愛唯)はいたずらっぽく、バカ(=孝)に問うた。
「孝~、あなたが成人式を休む選択肢があるのなら、
逆に私が成人式を休むって選択肢もあるわよね?」
バカ(=孝)は戸惑いながら、うなずき、答えた。
「ええ、もちろん。
でも、僕が愛唯さんの成人式に参加できないのと同様に、
愛唯さんも僕の成人式には参加できませんよ。。。」
私はなおもいたずらっぽく、バカ(=孝)に問うた。
「ふ~ん、孝の成人式が行われる大学講堂に、私が入らなければいいよね?」
バカ(=孝)はなおも戸惑いながら、うなずき、答えた。
「ええ、たぶん。」
私は笑顔を浮かべ、バカ(=孝)に話しかけた。
「ヨシ!
私、振り袖着て、大学講堂の外で孝の成人式が終わるの待ってる!」
私の発言を聞いた直後、一瞬、バカ(=孝)は豆鉄砲を食らった鳩のような表情となった。
その後、当惑の表情に変わった。
「ええー!!
愛唯さん、地元での成人式を休むんですか?
成人式のセレモニー受けられませんよ?
それに小学校の頃の友人と旧友を温めることができませんよ?」
私は微笑み答えた。
「ええ、そうよ。
孝に私の振り袖姿見てもらうんだったら、そんなもの大したことないわ!」
バカ(=孝)は戸惑いの表情を隠せない。
「愛唯さん、、、本当に、、、良いんですか?」
私はいたずらっぽく答えた。
「ええ、その代わりと言っちゃなんだけど、
成人式の後、デートに付き合ってもらうわよ~♪
生活必需品購入のためって、外出許可取っておいてね~♪
たぶん、生活必需品購入の外出許可制限の1時間じゃすまないから、
あとで、『みっちり』、撫山先生に叱られてね~♪」
バカ(=孝)は当惑の表情のまま、うなずき、答えた。
「は、、、はい。。。それくらいなら、喜んで。。。」
私はさらにいたずらっぽく、バカ(=孝)に話しかけた。
「それと、車の運転お願いね~♪
いつもは私が運転しているけど、振り袖で運転はちょっときついから~♪」
バカ(=孝)は当惑の表情のまま、やはりうなずいた。
「も、、、もちろんです。」
私はさらにいたずらっぽく、バカ(=孝)にトドメを刺した。
「あ、デートのコースだけど、最初に写真スタジオに行くから~♪
母が『お見合い用の写真撮れ』ってうるさいの~♪
写真撮ったら、食事に連れて行ってね~♪
まあ、ファミレスで良いから~♪」
バカ(=孝)は終始、当惑の表情のまま、うなずいた。
「わ、わかりました。。。」
まあ、このバカ(=孝)へ要求は、私が成人式のセレモニーの参加をあきらめざるを得ないので、バカ(=孝)をイジメて、溜飲を下げているのだが。。。
バカ(=孝)へのイジメを終えたら、私は宣言した。
「ヨシ! これで決まり!」
バカ(=孝)は慌てて、
「ダメ元ですが、大学での成人式に愛唯さんが参加できないか、
撫山先生に掛け合ってきます。。。」
と言って、課室から駆けて行った。
まあ、十中八九ダメだろう。。。
バカ(=孝)が課室から駆けだすのを見て、一連のやり取りを見ていた優子が話しかけてきた。
「愛唯、あんた本当に良いの? 成人式のセレモニー受けられないわよ?」
私は手を左右に振り、答えた。
「あんなもん、退屈なだけよ。」
優子も当惑の表情を浮かべ、私に問うた。
「そうなんだけど、小学校の頃の友人と旧友を温めることができないわよ?」
私は苦笑いを浮かべ、うなずき、答えた。
「確かに小学校の頃の友人と会えないのは残念よ。。。
でも、『孝とどっちをとるか?』っていえば、孝でしょ。」
優子は残念そうな顔で私に語り掛けた。
「私と愛唯は小学校は別だけど、すぐ隣の学区じゃん?
成人式の後に会って、記念写真撮りたかったんだけど。。。」
私は苦笑いを浮かべたまま、本音を述べた。
「それが本音?
私も本音を言うとね。
最初は孝に、私の振り袖姿を『見てほしい』と思っていた。
でも、孝は100分の1の男性で、学内からめったに外出できなくって、
この学内にあまり娯楽はないわ。。。
加えて、この機会を逃すと、
振り袖姿の女性を身近に見ることができなくなるじゃない。。。
だから、今は、せめて孝に、
私の振り袖姿を『見せてあげたい』と思っているの。。。
私も優子と成人式の後に会って、記念写真撮りたいわ。
でも、、、勘弁して。。。」
優子は苦笑いを浮かべ、うなずいた。
「そういうこと。。。
確かに、振り袖姿の『私達』を孝に見せてあげたいね~。」
私は慌てて問うた。
「『私達』って何?
まさか、あんたも、地元の成人式欠席して、
こっち(=大学講堂)に来ないでしょうね?」
優子も慌てて、顔を横に振り、答えた。
「そういうことじゃなく、100分の1の男性に行動制限なんてなく、
自由に振り袖姿の私達が見れる社会に早くなればいいなってこと。。。」
私は微笑み、優子に語り掛けた。
「そういうこと? それも未来の夢ね。。。
私達の子や孫の時代では、そうなっていると良いわね。。。」
優子も微笑み、「ええ」と答えた。
バカ(=孝)が駆けて戻ってきた。
バカ(=孝)は戻ってくるなり、申し訳なさそうな表情で、私に語り掛けた。
「すみません。撫山先生に掛け合ってきましたが、
こっぴどく怒られました。『何考えてる!』って」
そりゃ、I大の男子学生のためだけの成人式に、私の飛び入り参加なんて認めるわけがないだろう。
私は笑って、バカ(=孝)に語り掛けた。
「がはは! そりゃそうね。。。
じゃあ、私、振り袖着て、大学講堂の外で孝の成人式が終わるの待ってる!」
その週末、バカ(=孝)を連れて、私の実家に帰った。
父と母に、
『私は地元の成人式を欠席して、バカ(=孝)の成人式の会場に行く』
と話した。
ま、『バカ(=孝)の成人式に参加するとは言っていない』ので、嘘はついていない。
うん。。。
2人とも、あきれ返っていたが、お見合い用の写真を撮ることで、了解してもらった。。。
がはは。。。
それから、2週間くらい後だったと思う。。。
寮によく通う私は、他の100分の1の男性の恋人とも、すっかり顔なじみだ。
その一人、綾子から成人式について問われた。
彼女は身長約160cmで、色白で、髪型は少しブラウンに染めた、セミロングの清楚な感じの女の子だ。
確か人文系に通っており、同じ人文系の俊君の恋人だ。
二人とも、私達(=愛唯と孝)と同じ、大学3年生だ。
綾子は困ったように、私に問うた。
「愛唯さんは成人式はどうするの?
私の晴れ姿を見てほしいんだけど、
会場別だし、彼は大学から簡単に出られないし。。。」
私はけろりと答えた。
「あー私ね、
振り袖着て、大学講堂の外で孝の成人式が終わるの待ってる。」
綾子は驚いて私に問うた。
「どうして? 地元の成人式を欠席するの?」
私は笑顔で答えた。
「ええ、だって、
孝もあなたの彼も同様、学外には簡単に出られないでしょ?
しかも、この学内には楽しみはほとんどない。
100分の1の男性には、振り袖姿の女性を間近で見る機会はないわ。
だから、せめて、『私の晴れ姿を見せてあげる』の。」
綾子は戸惑い問うた。
「でも、大学の成人式には参加できないわよ?」
私はうなずき、答えた。
「そうね。。。
でも、『私の晴れ姿を見せてあげる』ことのほうが、私は大事だと思う。」
綾子は困惑した表情だったが、あまり長い立ち話も嫌なので、私はその場を離れた。
そして、年が明け、成人式がいよいよ近づいていくのだが、それについては次話で。。。
今話からしばらく、22歳の主人公の愛唯と恋人の孝の成人式を描く、
『3年ぶりの成人式』を展開予定です。