第60話 クリスマスデート
さて、集団デート(第55話~第57話)として、私とバカ(=孝)、NOH市の繁華街で、ショッピングや映画や食事を楽しんだ。
なにより、集団デートは、CCコース3年生同士の交流の場として有益であることは、十分承知している。
しかしだ。。。。私としては、やっぱりバカ(=孝)と2人きりで、NOH市の繁華街でデートがしたい。
というわけで、、、いつものごとく、私は、わざと甘い声で、課室に勉強しているバカ(=孝)を後ろから抱いて、こう甘えた。。。
「ね~孝~。集団デートじゃなくてさ~、
本当に2人でさ~。NOH市の繁華街でデートしようよ~。
行こう、行こう、行こうよ~」
バカ(=孝)は困った顔で答えた。
「うーん、家族やクラスメートなら、
無償で付き添いをしてくれるでしょうけど、、、
それ以外となると、付き添い4人に報酬を払う必要がありますね。。。」
そうか、報酬を払わなきゃいけないか。。。
でも、学生の身である、私もバカ(=孝)も、そんなに報酬払えないし。。。
私は問うた。
「報酬っていくらくらい?」
バカ(=孝)は渋い表情で語った。
「最低でも付き添い4人合計で
数万円単位の報酬として払う必要があると思います。
あと、食事や映画を見たりするなら、
付き添いの人の食費や、映画チケット代も、
別途こちらでもつ必要があるでしょうね。。。」
私はため息をついて、返した。
「相当かかるわね。。。」
バカ(=孝)は渋い表情のまま、話を続けた。
「ええ、それに、そこまでお金をかけるなら、
それなりの食事をしないと割に合わないじゃないですか。。。
ウン万円の出費をするのに、
安い食事を繁華街でするのは割に合わないじゃないですか。。。
一方、僕達の食事にお金をかけると、
付き添いの人の食事は安いものって訳にはいかなくなる。。。」
私は渋い表情となり、うなずきながら、バカ(=孝)に返した。
「それもそうね。。。つまり、、、もっとかかる。。。」
バカ(=孝)もうなずき、渋い表情のまま、話をさらに続けた。
「ええ。。。
僕も、愛唯さんと2人きりで、繁華街でデートしたいですが、
現在の経済力では困難です。。。
ほら!
先日の集団デートで、
男性衣服を上下を何着も買っちゃったのでしばらくは無理です。。。」
(第56話)
私は下を向き、つぶやいた。
「そうだった。。。」
実は、先日の集団デートで高価な男性衣服も上下で何着も買うことになったが、バカ(=孝)の経済力では到底購入不可能だった。そこで、参加者16人でお金を出し合ったのだが(第56話)、16人で均等にしたわけではない。
私とバカ(=孝)が出せるだけのお金を出して、それでも足りない分を残りの14人で均等に割った。つまり、私とバカ(=孝)は『すっからかん』なのだ。。。
うーん、、、こうなると、、、あのとき、無理にでも上下1着ずつに絞るべきだったか? でも、そんな雰囲気じゃなかったしな~。。。
バカ(=孝)は続けた。
「ですから、、、
今は、少しずつお金を貯めるしかないですね。。。」
私もあきらめるしかなかった。
「そうね。。。頑張ってお金を貯めますか。。。」
ただ、バカ(=孝)は、正確には100分の1の男性は、外出制限があり、バイト先が限られているため、いっぱいバイトして、お金を貯めるってことは難しい。
もちろん、大学当局から隠れて外出し、バイトはしている(第30話、第31話)。
一方、隠れてバイトしているから、バイト先はそんなに増やせるわけではない。。。
つまり、細々とお金を貯めるしかないのだ。。。
私とバカ(=孝)は半年後を目標に10万円を貯めることにした。それで、2人でNOH市の繁華街でデートをするつもりだった。デートの最後は高級レストランで2人で食事するつもりだった。
だが、高級レストランの食事については、あっさりとそれが実現してしまったのだ。。。
実は、私の両親と、孝のお母さんが、私とバカ(=孝)に、NOH市の高級フレンチのクリスマスディナーをプレゼントしてくれたのだ。
隔週日曜日、私とバカ(=孝)は、母の夕食を目当てに(第35話)、、、もとい、バカ(=孝)を外出させるため、私の実家を訪ねるのだが、実家にて母から話があった。
「あなたたち(=愛唯と孝)、
フレンチレストランのクリスマスディナーに行きなさい。
もう予約しておいたから。」
私は驚き、母に問うた。
「え? どうして?」
母は微笑み答えた。
「私と父さんが、
結婚前、つまり恋人として付き合っていたころと比較して、
あなたたち(=愛唯と孝)は、あまりにも制約が多くって、
デートに苦労しているようだったから、、、
私と父さん、それと孝さんのお母さんからのプレゼントよ。」
思いがけないプレゼントにうれしかったが、私は戸惑い問うた。
「プレゼントはうれしいけど、、、なぜ?」
母は微笑んだまま、更に答えた。
「私と父さんからは、孝さんへの礼よ。
あなた(=愛唯)を立ち直らせてくれた礼。
そして私達(=母と父)の離婚を回避させてくれた礼。
孝さんのお母さんからは、あなた(=愛唯)への礼。
いつも、孝さんのお母さんの代わりに、
あなた(=愛唯)が孝さんを支えているお礼だって。。。」
私の両親と、孝のお母さんは、私達(=愛唯と孝)を見守ってくれていることがわかり、とてもうれしかった。だが、一応確認しなくてならないことがある。。。
バカ(=孝)は戸惑いながら、母に問うた。
「愛唯さんのお母さん、僕達(=愛唯と孝)への配慮、ありがとうございます。
念のためですが、、、
レストランへの移動手段や、レストラン自体の安全対策は大丈夫でしょうか?」
母は微笑み、顔を横に振って、答えた。
「心配ないわ。
レストランへの移動は、レストランが送迎の車両を数名の警備員が
同乗付きで準備するそうよ。
レストラン自体も出入口を数名の警備員で固めるって。」
それなら、安全対策も問題なさそうだ。
私達(=愛唯と孝)は、厚意に甘えて、クリスマスイブの夜、高級フレンチレストランで食事に出かけることにした。
週明けの月曜日、バカ(=孝)は外出申請書を作成し、撫山教授の元を訪れ、あっさり許可を得た。
「安全対策はしっかりなされているし、問題なかろう。」
とのことだった。
さて、クリスマスディナーの日、つまりクリスマスイブの夕方4時15分頃、私はスーツ、バカ(=孝)は背広を着て、大学の正門のロータリーにいた。
バカ(=孝)は恥ずかしそうに語る。
「背広なんて、入学式以来だから、3年と8か月ぶりかな。。。」
私もちょっと恥ずかしかった。
「私もスーツなんて、
健司(=元恋人)と2年の5月にレストランで食事して以来だから、
2年と7ヶ月ぶりよ。。。」
バカ(=孝)は恐る恐る私に問うた。
「健司さんとは、クリスマスディナーに行ったことは?」
私はちょっと悲しげに、顔を横に振り、答えた。
「ないわ。
本当は2年生の夏休みに、
『クリスマスディナーに行こう!』
って約束したんだけど、
約束の後、パンデミックが発生して、
彼は亡くなって、それは果たせなかったわ。。。」
バカ(=孝)は
「そうですか。。。変なこと聞いてごめんなさい。」
と言うと、頭を下げた。
私は手を振り、優しく、バカ(=孝)に語り掛けた。
「いいのよ。。。気にしないで。。。」
一方、心の中で、健司(=元恋人)に話しかけた。
(健司(=元恋人)、あなたとクリスマスディナーに行きたかったな。。。)
実は、健司(=元恋人)との約束で果たせなかったことは他にもある。それについては別の話で。。。
そして4時半頃、大学の正門のロータリーにレストランのマイクロバスが迎えに来た。マイクロバスにはすでに1組のカップルと、運転手と5名の警備員が乗車していた。
マイクロバスに乗り込む際、運転手から説明があった。
「すみません。
ここからレストランに直接行けば、5時半くらいには着くのですが、
これから、いろんな企業を回って、カップルを迎えに行きますので、
到着は6時半過ぎになると思います。ご容赦ください。」
私は笑顔で返した。
「わかりました。気にしないでください。」
実際にいろんな企業を回って、カップルを乗せたので、レストランに着いたのは6時45分くらいだったと思う。
出入り口には数名の守衛がいて、私達を通すと、本日は予約客のみということで、入り口を閉めた。
私達は席に座り、7時から食事が始まった。
ただその前にレストラン経営者から挨拶があった。
「皆様、今夜は当店にお越しいただき、ありがとうございました。
本日のお客様は、100分の1の男性とその恋人あるいは奥様です。
クリスマスディナーとなると、やはりカップルでの食事が中心となります。
当店といたしましても、
100分の1の男性が安全に食事ができる方法について、模索しておりました。
その結果として、今回のように、
警備員付きの送迎バスと、出入口の守衛によって、
ようやく、NOH市当局から許可が得られました。
当店といたしましては、これを機に、
100分の1の男性が安全に食事ができる店として、営業を行う所存です。
今夜は、当店の食事をお楽しみください。」
この挨拶を聞いたとき、私は、いやレストランの客全員は、おもわず拍手をしてしまった。
そう、安全に食事ができる店が増えれば、バカ(=孝)と食事を楽しむ機会が増える。
日頃、デートで苦労している私にとって、こうして頑張ってくれる店はありがたかった。。。
私とバカ(=孝)は高級フレンチのディナーを楽しんだ。
え? どうだったかって?
そりゃ、おいしいに決まっているじゃない。いつも宅配冷凍弁当をレンジでチンする食生活よ?
雲泥の差よ。。。
ま、バカ(=孝)はテーブルマナーに苦労していたし、、、
しかも給仕がテーブルの近くにいたから、、、
緊張して真っ赤な顔して食していた。。。
たぶん、味はよくわからなかったと思う。。。
がはは!
食事中、隣のテーブルにいたカップルが話しかけてきた。
私達より先にマイクロバスに乗っていたカップルで、好美さんと清さんと名乗っていた。
好美さんは30歳前後で、横分けショートヘアの身長160cmくらいで、色白の美人さん。
清さんも30歳前後で、横分けの身長170cmくらいで、眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな男性だった。
好美さんは笑顔で話しかけてきた。
「あんた達(=愛唯と孝)、I大で乗車したから、学生さんでしょ?
どうして、今回のディナーを予約することができたの?
ここ、めっちゃ高いじゃん。」
そう、ただでさえ、クリスマスディナーとなると高額になるが、しかも護衛付きの送迎バスがついているから、メチャクチャ高いのだ。
いつもの私とバカ(=孝)の経済力では、というか学生の経済力では、到底、予約なんてできない。
しょうがないので、正直に話した。
「実は、孝の外出制限で、デート先に制約が多いので、、、
見かねた私と孝の親が、プレゼントとして、
この店を予約してくれたんです。。。」
好美さんはため息をつきながら、返した。
「そういうこと。。。
うち(=好美と清)も、デートには苦労しているわ。。。
私達(=好美と清)は同じ会社に勤めているんだけど、
清が会社の寮から外出するには制約があるもの。。。」
清さんが会話を引き継いだ。
「でもさー、軟禁生活が始まった3月より、多少緩和されたよな。。。
ほら、最近、会社のあるSC市なら、好美と一緒なら1時間程度は、
事前申請すれば外出自由になったじゃん。。。
あれって、ある大学で、学生達が団結して、
購買を故意に欠品させて、毎日100分の1の男性を外出させたことが
キッカケらしいよ。。。
君達(=愛唯と孝)、学生さんでしょ?
その辺の話って心当たりない?」
がはは!(ごまかし笑い)
はい。心当たりあります! しかも、当事者です(第41話)!!
でも、『心当たりあります。しかも当事者です』とは言えないので、適当に笑ってごまかした。
「いやー、、、心当たりないです。。。」
バカ(=孝)を見ると、バカ(=孝)は苦笑いを浮かべていた。
しかしだ。。。なんでこんなこと、学外の人が知っているのだろう?
私は恐る恐る問うた。
「あのー、そもそも会社に勤めておられて、
どうして、その『ある大学』の事件をご存じなのでしょうか?」
清さんが答えた。
「うん、うちの会社の寮長が特別に教えてくれた。
100分の1の男性について、ある程度大きな事件が起きると、
政府当局に報告する義務が企業や大学にあるらしく、
政府当局はその報告を受けると、概略について、
他の企業や大学に連絡をいれるらしい。。。
その『ある大学』の事件も、政府当局から、
うちの会社に情報共有として連絡があったらしい。。。」
がはは!(あきれた笑い)
私とバカ(=孝)がやった『ハイパーモグラたたき』が、政府に連絡がいっているってことね。。。
どうしよう。私。。。
I大学だけでなく、政府公認の『何しでかすかわからん、危険な女の子』になっているかも。。。
『政府のブラックリストに載ってしまっている』かも。。。
『ヤバいじゃん、私』。。。
今後は控えないと。。。
がはは!(ヤケクソ笑い)
清さんが、ご自身の100分の1の男性専用のGPSスマホを取り出し、話を続けた。
「他にも、このGPSスマホのハッキングが頻発していて、
ハッキングが成功してしまった事例もあったらしい(第28話)。。。
さっきの『ある大学』の件を含めて、政府当局は頭を抱えていて、
外出制限を多少緩和するよう、企業や大学に要請したらしい。。。」
バカ(=孝)を見ると頷いている。GPSスマホのハッキング成功はどうやら事実らしい。。。
よし! 政府が監視するにしても、そのハッキング成功者を真っ先にするだろうから、私はしばらく控えていれば、大丈夫かも。。。
食事もあらかた終わり、デザートを食していると、多くのカップルがプロポーズをした。
隣のテーブルのカップルも、清さんが好美さんにプロポーズをした。
清さんはあらかじめ店の人に頼んでいたらしく、店の人から花束をもらうと、好美さんに手渡しして、こう言った。
「好美さん、君には感謝しかない。
パンデミックの前から付き合っていたけど、、、
パンデミックの頃の1年以上の入院で、献身的に看病してくれた。。。
退院したら、同僚や友人が全員亡くなっていて、その孤独を癒してくれた。。。
仕事に復帰したら、亡くなった同僚の業務を多く引き継がざるを得ず、
毎日残業で、疲れた僕をケアしてくれた。。。
もう、好美さん、君しか考えられない。どうか、結婚してください。」
好美さんは戸惑いの表情を浮かべたが、やがて微笑んで答えた。
「はい。」
私とバカ(=孝)は拍手を送った。
さて、帰りのマイクロバスの中、好美さんと清さんのカップルは、私達の後ろの座席に座っていたのだが、私達に話しかけてきた。
「ねー、あんた達さー(=愛唯と孝)。
私達(=好美と清)のプロポーズで盛り上がったじゃない?
だから、あんたたちも、何か盛り上げなさいよ。」
いきなり無茶振りをされて戸惑った私は、後ろの座席の好美さんに返した。
「何かって?」
好美さんはちょっと思案すると、ニヤリと笑って語った。
「キスしなさいよ。キス!」
私とバカ(=孝)は、このムチャ振りに焦って、同時に声をあげた。
「「えー!」」
好美さんは手を叩いて、キスを迫った。
「キス! キス! キス!」
それに清さんが手を叩いて加わった。
「「キス! キス! キス!」」
そこから、バスに同乗していた全カップルも手を叩いて、キスを囃し立てた。
「「「「「キス! キス! キス!」」」」」
バスに同乗していたカップルだけでなく、同乗していた警備員も手を叩いて、キスを囃し立てた。
「「「「「「「「キス! キス! キス!」」」」」」」」
もう、バスの中の雰囲気として、、、私達がキスをしないわけにはいかなくなった。。。
で、バカ(=孝)は、、、恥ずかしがって、、、耳まで真っ赤になりやがった。。。
がはは!(あきれた笑い)
まったく、このバカ(=孝)は、、、ウブな奴だ。。。
バカ(=孝)は、真っ赤な顔して、風のようにさっと短く、私に口づけをした。
次の瞬間、私は両手をバカ(=孝)の顔に回して、バカ(=孝)の顔を引き寄せると、こう言った。
「キスってこうやるの!」
そして、もう一度、私とバカ(=孝)はキスをした。
バスに同乗していた、全カップルと全警備員は歓声を上げ、拍手を送ってくれた。
「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」
バカ(=孝)は、キスの直後、私に問うた。
「キスの経験があったんですか?」
私は微笑んで答えた。
「ええ、、、健司(=元恋人)と何度かね。。。」
さて、マイクロバスがI大の正門のロータリーに到着し、バスから降りると、私達はロータリーから寮までの道を2人で歩き出した。
私はバカ(=孝)に話しかけた。
「今日は楽しかったわね。」
バカ(=孝)はうなずいたが、苦笑いを浮かべ答えた。
「ええ、、、でも、帰りのバスは参っちゃいましたけど。。。」
私は小さく笑った。
「がはは。。。そうね。。。」
バカ(=孝)は微笑み、私に語り掛けた。
「今晩のように、安全に食事ができる店が、
将来は増えるでしょうから、また行きましょう。」
私も微笑み、うなずき、答えた。
「そうね、、、次は私達でお金を貯めて、行きましょう。。。」
寮の前に着くと、私は周りを見渡し、誰もいないことを確かめると、バカ(=孝)に言った。
「ねえ、もう一度キスして。」
バカ(=孝)はうなずき、「はい。」と答えた。
そして、私達はキスをして、バカ(=孝)は寮の中へ、私は下宿に戻った。
こうして、私とバカ(=孝)のクリスマスデートは終わりました。
それと、、、このクリスマスデート以降、私達は2人きりのときは、ときどきキスをするようになりました。。。
えへ!