第56話 集団デート(その2) ー貴重な場ー
(前話の続き)
集団デートの朝、その日は土曜日で、私はバカ(=孝)と優子を車に乗せて、NOH市繁華街の地下駐車場にやってきた。そこで、瀬名や里子や女子クラスメートと合流し、最初にショッピングに行った。
まず、バカ(=孝)の衣服を探すことにした。ご存じの通り、バカ(=孝)の衣服は、武(=弟)の古着を使わせている(第20話)。
ただ、武(=弟)の古着が、すべてバカ(=孝)に似合うわけではない。というのも、武(=弟)はパンデミックの頃は高校3年生だったのだが、バカ(=孝)は今22歳だ。
そう、高校生が着た服は、今のバカ(=孝)が着るには、似合わないものもある。
特に武(=弟)が高校1年生とか、ひどければ中学生のときに購入した古着は、さすがにバカ(=孝)には似合わない。パンデミックの発生時期は、武(=弟)が高校3年生の10月の頃だったから、高校3年の頃に購入した秋冬物はほとんどない。
つまり、バカ(=孝)がこれからの季節を乗り切るには、少々心もとない。ということで、補充の意味で、新しい衣服を上下1着ずつ、欲しかったのだ。
で、バカ(=孝)を着せ替え人形として、バカ(=孝)の衣服を探したのだが。。。
いや~、女子が15人もいるとな、、、どの服を買うべきか、ちっともまとまらないんだよ。。。
優子は勝手なチョイスをバカ(=孝)に話した。
「やっぱり、このジャケット加えた方がいいんじゃない?
ちょっと試着してみて~♪」
里子も負けじと勝手なチョイスをバカ(=孝)に話した。
「いやー、あっちのセーターの方が良いよ。
これも試着して~♪」
良識派の瀬名もやっぱり勝手なチョイスをバカ(=孝)に話した。
「いえ、そっちのシャツの方が良いと思います。
これも試着お願いします。」
別に、優子、瀬名、里子だけが勝手なチョイスを言っている訳でなく、クラスメート全員が勝手なチョイスをバカ(=孝)に話した。
「うーん、、、ズボンをこっちに替えようよ。試着して~♪」
「いえ、、、ズボンはこのままが良いと思います。」
「そうかなー。あっちのズボンにしようよ?試しに試着してみてよ。」
で、組み合わせも、まとまらない。。。。
優子は自分勝手な組み合わせを推薦した。
「やっぱり、この組み合わせで行こうよ。」
負けじと里子も自分勝手な組み合わせを勧めたし。。。
「いや、あの組み合わせの方が良い。」
何度も言うが、良識派の瀬名でさえ、組み合わせは退かなかった。
「いえ、その組み合わせが最適です。」
で、結局、試着をやり直すことになる。
優子は
「じゃ、もう一回、試着して比較してみようか?」
と言って、、、
瀬名も
「そうですね。。。やり直してみましょう。」
賛同した。
こんな感じで、ちっとも進まない。。。
バカ(=孝)は何着も試着させられ、かついろんな組み合わせで試着させられ、しかも同じ組み合わせを何回も試着させられて、試着室でヘトヘトになりながら、不平をこぼした。
「もう、、、勘弁してください。。。」
私は笑いながら、バカ(=孝)に指示した。
「がはは! バカ(=孝)、うるせー。
皆が選んでくださっているんだ。さっさと試着しろ!」
だが、優子の奴、ただでさえ、まとまらないのに、更に引っ掻き回しやがった。
「いっそのことさ、
髪型をこー変えれば、この新コーディネートでうまくいかない?」
私は慌てて止めた。
「優子、ヤメロ!
ただでさえ、まとまらないのに、余計まとまらなくなる!」
だが私の制止を振り切って、優子の意見に追随する意見が続いた。。。
瀬名も追随したし、
「そうですね。
髪型をあー変えれば、斬新な、あの新コーディネートもありかも?」
里子も追随した。
「そうね。
髪型をそー変えれば、奇抜な、その新コーディネートも面白いかもよ?」
思わず、私は優子に抗議した。
「優子、ほら見ろ!
余計まとまらなくなったじゃないか!」
優子は苦笑いを浮かべて私に謝った。
「ふふふ! ごめん。ごめん。。。」
ということで、バカ(=孝)の髪型はそのままにして、衣服を探したのだが、それでも、結局、上下1着ずつには絞り切れなくって、上下何着か買うことにした。。。
しかし、バカ(=孝)は困った顔で言った。
「こんなにたくさん買えないです!」
まあ、男性衣服は1着、安くてもウン万円なんでな。。。ウン十万円かかるものも珍しくない(第20話)。。。
だが、上下何着も買う経済力はバカ(=孝)にはない。。。
ということで、女子クラスメートを含めて、16人でお金を出し合って、買うことになった。しかし、1人あたりでも、結構な出費となり、里子が不平をこぼした。
「それにしても、男性衣服が、なんで、こんなに高いのよ。。。」
店員さんは申し訳なさそうに答えた。
「結局、40歳未満の男性が100分の1になったので、あまり数が売れないから、
男性衣服は、ほとんどオーダーメードみたいなもんなんです。。。」
瀬名は「そっか。。。」とつぶやいた。
優子もため息をつき、つぶやいた。
「どうして、愛唯が孝に、武君(=愛唯の弟)の古着を着せているのか分かった。」
がはは!
皆(=女子クラスメート)、私がリフォーム騒動のときの体験(第20話)を、今してやがる。。。
ま、、、実は、この『バカ着せ替え人形(=孝の衣服選び)』が、皆(=女子クラスメート)の中で、集団デートで一番好評だったんだけど。。。
次は映画館へ行った。ま、総勢16人なんでな。事前に予約していたのは言うまでもない。
もちろん、特等席、つまりバカ(=孝)の右隣は私だ。で、バカ(=孝)の左隣はブロックしてもらうために、優子に座ってもらった。
実は、、、瀬名にしようかと迷ったんだけど。。。
でも、、、あからさまにやると、訝る他の女子クラスメートもいるだろうし、かえって瀬名にとって迷惑かもしれないと思ったんだ。。。
そして、中心の3人を取り囲むように、前後左右を残り13名で取り囲んで映画を見た。
バカ(=孝)と一緒に、本格的な映画を見たのは、これが最初だった。まあ、正確には大学祭で映画の屋外上映を一緒に見ているが(第38話)、あの映画も放映権の問題で、10年前のアニメ映画だったんでね。。。
映画自体は面白かったよ。うん。
でも、パンデミック前と違って、40歳未満の男性俳優がほとんど亡くなって、いろいろと演出も難しいみたい。実写映画で、しかも恋愛ものとなると、40歳以上の男性俳優と、若い女性のカップルという演出になることが多い。。。
映画だけでなく、テレビも、ネット配信も、若い男性俳優を見る機会はほとんどなくなった。パンデミック前は、イケメン俳優見るのが、好きだったんだけどな~。
今回見た映画も、、、実はアニメ映画だった。。。というより、パンデミック前と比べてアニメ映画が増えている気がする。。。
さて、映画の後は、皆で夕食を共にした。食事は何にするか、実は揉めた。
飲酒を伴う食事は、どうしてもお手洗いに行く機会が増える。実は、飲酒の場でのお手洗いで、100分の1の男性が誘拐・拉致されるケースが多い。
そのため、飲酒を伴わない食事をアレンジしようとしたのだが、多くの女子クラスメートに「どうしても焼き肉が食べたい」と反対され、押し切られた。
当然、焼き肉は飲酒を伴うし、、、座席を頻繁に移動するし、、、会話に夢中になって、バカ(=孝)がお手洗いに行くのを気が付かないかもしれない。
そもそも、店の構造によっては、
『バカ(=孝)を取り囲んで、女子トイレに行って、
個室でしてもらい。かつ、個室の外は、女子が見張る。』
が難しいかもしれない。
なので、、、焼き肉店に相談しようとしたら、、、100分の1の男性が混じっていると聞いた瞬間、予約を断ってきた店が少なくなかった。。。
どうも、犯罪組織と飲食店がグルになって、100分の1の男性を誘拐・拉致するケースが少なくないらしい。そこで、政府当局は、飲食店で100分の1の男性が誘拐・拉致された場合、最悪、その飲食店の営業許可を取り消すらしい。。。
犯罪組織とツルンでいない飲食店としては、万が一、100分の1の男性が誘拐・拉致され、営業許可が取り消されてはたまらん。。。ということで、100分の1の男性の入店を拒否するってわけ。。。
やっと、100分の1の男性の入店を受け入れてくる、焼き肉店を見つけた。そして、相談したところ、「安全を確保するため、従業員が見張る」ことを約束してくれた。
まあ、念のため、私はずっとバカ(=孝)の隣に座り、お手洗いに行くときは、付き添うつもりではあるが。。。
焼き肉店で、席に着いたバカ(=孝)はお酒を飲まないように、ビールを注ごうとする女子クラスメートに語る。
「ゴメン、僕、お酒は一滴も飲めないんです。」
そういって、バカ(=孝)は、ウーロン茶を注文した。もちろん、バカ(=孝)の隣に座った私はあきれて、バカ(=孝)の耳元にささやく。
「おい。嘘つき。」
第36話で述べたが、たまに私の下宿で、バカ(=孝)と飲み会をするのだが、実はコヤツは物凄い酒豪なのだ。。。
すると、バカ(=孝)は私の耳元にささやいた。
「だって、愛唯さん運転するから飲めないし、、、
愛唯さんと飲めないなら、面白くないですから。。。」
そうか、私と一緒に、お酒は飲まないつもりか。。。
まあ、お酒を飲むと、どうしてもお手洗いに行く回数が増えるので、危険を避けるためには、ここでの飲酒は避けた方がよい。
私は再度、バカ(=孝)の耳元にささやく。
「それじゃ、後日、私の下宿で、飲み会を開きますか。」
バカ(=孝)も私の耳元でささやいた。
「お願いします。」
同じ席には、優子、瀬名、里子がいて、私と孝の会話が聞こえたらしく、彼女たちも私達の耳元でささやいた。
「ねえ、私(=優子)も混ぜて。」
「私(=瀬名)も。」
「当然、私(=里子)も混ざって良いよね?」
と、いうことで、後日、私の下宿で飲み会を開くことになりました。それについては、数話後に。。。
話を戻して、今回の焼肉の乾杯の音頭はバカ(=孝)がとった。
バカ(=孝)は、
たくさんの衣類が買えたこと、
本格的な映画が見れたこと、
本格的な焼き肉を食べることができたこと、
全てが外出制限のある100分の1の男性にとって、『夢のようなこと』であり、それを実現してくれた女子クラスメート全員に謝意を述べた。
謝意の後、「乾杯」と言った。
「乾杯」と言った後は、バカ(=孝)は、ビール瓶を持って、私達の席以外の、女子クラスメートにビールを注ぎに行った。
バカ(=孝)は、一通り、ビールを注ぐ終わると、席に戻ると、焼き肉を一切れだけ食べた。
すると、、、バカ(=孝)は目をつぶって、顔を下に向け、本当においしそうに、そして喜びの声を絞り出した。
「うーん、2年ぶりの焼肉。。。うまあああい!」
そうだった。。。あのウイルスでパンデミックが発生したのは、ちょうど2年前の10月だった。入院時期と軟禁開始時期を考慮すれば、バカ(=孝)は、この2年間、焼き肉を食する機会はなかっただろう。
あれ? 私は焼き肉を、最後に、いつ食べたっけ?
「そういえば、最後に焼き肉を食べたのは、
健司(=元恋人)と翔(=優子の元恋人)と優子と、
海に行った帰りに食べたきりだから、私(=愛唯)も焼肉は2年ぶり。。。」
優子も驚いた表情でつぶやいた。
「本当だ、私も焼き肉は2年ぶり。。。」
瀬名も口を開いた。
「私は2年半前、
CCコースの当時の新1年生の新歓コンパで食べたきり。。。」
里子が口を開いた。
「私は、4月に部活の新歓コンパで食べたけど、、、
その他の女子クラスメートは、愛唯・優子・瀬名と同様に、
2年ぶりに焼肉を食べた人が多いんじゃないかな?
だから、たぶん、、、
この集団デートで『どうしても焼き肉が食べたい』って
強硬意見が出たと思う。。。」
私をため息をついてつぶやいた。
「そういうことか。。。
ところで、里子の部活の新歓コンパで思い出したけど、
今年のCCコースの新歓コンパって行ってないよね?
例年、新歓コンパって上級生も呼ばれるけど、
今年は呼ばれた記憶がないもん。。。」
バカ(=孝)が渋い顔をして、口を開いた。
「言いにくいんですが、
今年の新歓コンパは1年生と先生方だけで行われました。」
里子も渋い顔で頷いた。
私は驚いた。
「え? どうして?」
里子が答えた。
「問題は3つあってね。。。
1つ目の問題は、
これまで新歓コンパは、男の子、特に聡(=里子の元恋人)が仕切っていたけど、
それが全員亡くなって、仕切る人がいなくなったこと。。。
でも、まあ、これはあまり大きな問題ではないわ。。。
残り2つが大問題だったの。。。
2つ目の問題は4月の時点で、
私達3年生は愛唯と孝のおかげで立ち直っていたけど、
2年生と4年生は立ち直っていなかった。。。
特に4年生は、4月に再開されたから、
4年生には、4月に4年に進級した子と、2年ダブった子が、
ほぼ同数いるから(第1話)、
4月の時点では、4年生の間には、
ある種の緊張状態にあったらしくって、先生方は気を遣っていたの。。。」
私は思わず「あ!」とつぶやいた。
そうだ! 考えてみれば、4年生は進級した先輩と、2年ダブった先輩がいて、先生方は大変なはずだ。
里子は話を続けた。
「その緊張状態だから、酒の席となると、
変な衝突に発展する恐れがあったことが2つ目の理由。。。」
里子は続けた。
「3つ目の問題は、愛唯には言いにくいけど、孝の存在が問題だったの。。。」
私は戸惑い、「どうして?」と問うた。
里子はうなずき答えた。
「まず、そもそも100分の1の男性には外出制限があり、
かつ、今回のように、100分の1の男性お断りの店も少なくないので、
出席できない可能性があったこと、、、
出席できても、安全に気を付けなくはいけないから。」
里子は話を続けた。
「2つ目と3つ目の問題から、
『上級生を出席させると、
本来、歓迎すべき新入生が疎かになりかねない。』
という理由から、今年の新歓コンパは1年生と先生方で実施したの。。。」
私はため息をつき、うなずき、「そういうこと。。。」とつぶやいた。
一方、優子が怪訝な表情で、里子とバカ(=孝)に尋ねた。
「ところでさ。
なんで、そんなこと、里子と孝が知っているの?」
バカ(=孝)は苦笑いを浮かべて答えた。
「僕も、里子さんも、聡君(=里子の元恋人)の代わりに、
新歓コンパを仕切ろうとして、撫山先生に相談に行ったら、
里子さんの説明通りに、拒否されまして。。。」
瀬名がうなずき、「なるほどね。。。」とつぶやいた。
里子も苦笑いを浮かべて、バカ(=孝)に語り掛けた。
「聡のために、仕切りたかったんだけどね。。。
残念ね。。。」
バカ(=孝)はうなずき、答えた。
「僕も残念です。。。」
里子は私とバカ(=孝)を見つめ、苦笑いを浮かべて、話しかけた。
「大変いいにくいけど、孝の問題があるから、来年の新歓コンパも、
新入生と先生方だけで、実施する可能性が高いと思う。。。」
バカ(=孝)はため息をついて返した。
「そうですね。。。」
私は話を戻した。
「話を戻すと、考えてみれば、パンデミック後、
私達、CCコース3年生の間でも、交流の場ってなかったわね。。。」
優子もうなずいた。
「そうね、今回の集団デートが、
パンデミック後の最初の交流の場だったわ。。。」
バカ(=孝)は、3月、女子クラスメートから浮いていて、男子クラスメートを全員亡くし、軟禁され、家族から切り離され、孤独を味わった(第11話~第18話)。
再び、そんな孤独の状態にならぬよう、交流の場は必要だ。
となると、、、今回のような集団デートは悪くない。。。
私は立ち上がり、他の席に座っている女子クラスメートにも聞こえるよう、大声をだした。
「皆。
今日は、集団デートに参加してありがとう。
今後も、数か月に1度の割合で、集団デートを行おうと思う。
もちろん、皆、参加してくれるよね?」
女子クラスメートは全員笑顔で賛意を示した。
女子クラスメート:「「「「「おー!」」」」」
ただ、集団デートだと、私がバカ(=孝)を独り占めできないのが残念だが。。。
それは、どこかでバカ(=孝)の知恵を借りるとしよう。。。
絶対、いつか、バカ(=孝)と2人きりで、繁華街でデートしてやるぞ。。。
こうして、集団デートは終わったのでした。
集団デートについては、もう一話続きます。




