第53話 孝の運転免許更新
時期は3年生上期のテストや課題提出も終わった9月末だった。
いつものように、課室で特別課題に取り組んでいたら、バカ(=孝)が話しかけてきた。
「愛唯さん。
運転免許の更新のために、
次の日曜日にFM運転免許試験場に行きたいと思うんです。。。」
ああ、パンデミック後の世界では、運転免許の更新は、特に100分の1の男性はちょっと面倒でね。
3ヶ月に1度、100分の1の男性占有日が日曜日に設定されていてね。
誕生季節の前後2回の100分の1の男性占有日に更新しないといけないんだ。
つまり計3回中の100分の1の男性占有日のうち、1回だけ運転免許試験場に行って、運転免許を更新しないといけないんだ。
バカ(=孝)は続ける。
「パンデミック前なら、運転免許試験場の交通手段は、
公共交通機関でもよかったんですけど、
僕ら、100分の1の男性は、
公共交通機関の使用は危ないので不可になっています(第14話)。
そこで、当日、運転免許試験場まで、
車で送り迎えをお願いしたいんです。。。」
私はもちろん了解した。
「もちろん、いいわよ!」
実はね。。。FN運転免許試験場は、パンデミック前は数百万の人口を有したNOH市の東部にあるのさ。。。
つまり、バカ(=孝)が運転免許更新した後は、NOH市東部のちょっと洒落た店で、デートができる。。。
いつもはI大学周辺のCV市しかデートができないのでね。。。
やっぱり、パンデミック前は数百万の人口を有したNOH市の店より、I大学周辺の店は少しランクが落ちるのさ。。。
そう、NOH市東部のちょっとしゃれた店でデートするのが目的で、FN運転免許試験場への送迎を了解したって訳。。。
バカ(=孝)は嬉しそうな顔で続けた。
「それで、車の送迎だけでなく、、、
愛唯さんも運転免許証を更新しませんか?」
私は驚き問うた。
「え?
私は今年は免許更新の必要ないし、誕生月も違うわよ?
そもそも、次の日曜は、100分の1男性占有日じゃ?」
バカ(=孝)は笑って、顔を横に振った。
「今年の夏から、ルールが変わって、
付き添いも、更新年度や誕生月に関わらず、更新が可能になりました。
しかも、僕達、100分の1の男性は5年間更新不要ですが、
付き添いも免許更新すると、5年間更新不要です。」
私もバカ(=孝)も運転免許を取得して、5年を経過していないため、パンデミック前なら更新期間が5年になることはなかった。
そう、100分の1の男性が更新期間が5年となるのは、免許更新のため、外出して、誘拐・拉致されるリスクを下げるためだろう。
ま、例によって、マスコミは「100分の1の男性は恵まれすぎ」と騒いでいるけど。。。
そして、、、私も一緒に運転免許を更新すれば、更新期間が5年になるから、更新しない手はない。
もちろん、一緒に運転免許を更新することにした。私は興奮して、答えた。
「もちろん、一緒に更新するわよ!」
しかしだ。。。どうして、付き添いも一緒に運転免許更新することを認め、更新期間を5年にしてくるのだろう?
それは、免許更新の講習でわかることになる。。。
バカ(=孝)はスマホを操作し、自らの運転免許更新と、付き添いの私の運転免許更新の予約を行った。
ま、免許更新はパンデミック前も予約が必要だったけど。。。
ああ、実は100分の1の男性は、ほとんどの書類は、オンラインで役所に申請可能になっている。
例外は、運転免許とか、戸籍ぐらい、、、わざわざ役所に行かなくても、良いようになっているんだ。
もちろん、100分の1の男性の安全確保のためだ。
バカ(=孝)はオンライン申請後、外出申請書を作成し、撫山教授に提出した。
もちろん、撫山教授は外出許可を出した。
次の日曜日、予約した時刻に、私はバカ(=孝)を乗せて、FN運転免許試験場に行った。
FN運転免許試験場の入口には警察官が立っていた。
彼は窓越しに私達(=愛唯、孝)に声をかけた。
「お二人の運転免許証と、
スマホにダウンロードした予約票を呈示ください。」
私達(=愛唯、孝)は運転免許証を警察官に渡し、バカ(=孝)はスマホの画面に予約票を呈示した。
警察官はそれらをチェックすると、黙って、運転免許試験場の駐車場を指さした。
いやー、警戒厳重でビビったね。。。
後で聞いたんだけど、100分の1の男性占有日以外では、こんな警戒態勢は取らないらしい。。。
運転免許試験場は人がまばらだった。
そう、3ヶ月に1度の100分の1の男性の占有日であっても、運転免許試験場はまばらだった。
あらためて、『100分の1』を実感したね。。。
ま、おかげで、手続きはスイスイできたけど。。。
ただ、手続きの後の、講習が長かった。
100分の1の男性占有日の講習が2種類あるんだ。
1つは当然、交通安全に関するもの。交通安全のビデオを見せられて、数年前、運転免許を取得したころの、安全の意識を高める良い機会だったと思う。
実は、もう1つ、100分の1の男性に対して特別講習があるんだ。それは100分の1の男性に対する誘拐・拉致だったんだ。。。
そう、駅のホームで誘拐・拉致された事件があり(第14話)、公共交通機関は100分の1の男性にとって、安全な移動手段ではない。
よって、車での移動の方が、100分の1の男性にとって、公共交通機関を利用するよりは安全だ。
でも、残念ながら、、、『車による移動も100%安全ではなかった』んだ。。。
これはわが国で起きたことではないんだけど、、、再現ビデオが上映されてね。。。
100分の1の男性が乗った車が信号待ちしていたところ、銃を突きつけられて、誘拐・拉致されるケースが外国では珍しくないんだって。。。
ビデオを上映した係官は真剣な表情で言っていた。
「これは外国で起きた事件ですが、
日本で類似の事件が起きないと言う保証はありません。
治安の悪い場所には、車でも決して通らないでください。」
次は、後部座席横の窓ガラスが壊された車の写真が映しだされた。
どうも100分の1の男性、実は8歳の男の子と両親が乗った車が路地裏を走行していたら、突然、2台の車が前後挟んで動けなくして、誘拐・拉致を試みたケースがわが国でも起こったんだって。。。
前後を挟まれた時、とっさに母親が男の子のスマホを操作して、警察が数分で駆けつけたので、誘拐・拉致は防げたみたいだったけど。。。
でもね。。。
車に立てこもったけど、専用工具で瞬く間に、男の子が座っていた後部座席横の窓ガラスを割られ、後部座席のドアをこじ開けられ、男の子は無理やり車内から引きずり出されたんだって。。。
両親は大怪我を追いながらも、連れ去られないように、なんとか抵抗していたら、間一髪で警察が駆けつけて、事なきを得たんだって。。。
やはり係官は真剣な表情で言った。
「もし、数分、我々(=警察)が駆けつけるのが遅れていたら、
その8歳の男の子は連れ去られていました。。。」
係官は続ける。
「たとえば深夜の危険な時間帯や、治安の悪い危険な場所では
運転しないでください。
そして、なるべく大通りを走ってください。裏道を走るのはお勧めしません。」
係官はさらに続ける。
「襲われたのは、その男の子の祖父母の家の近くで、
人気のない路地裏でした。。。」
係官はさらに続ける。
「一部は取り逃がしましたが、
犯行グループのほとんどはその場で現行犯逮捕し、取り調べました。
その結果、その祖父母の家の近所の人から、祖父母の孫が生き残り、
ときどき祖父母の家に遊びに来ているとの情報を得ていたそうです。
そして祖父母の家を見張って、
遊びに来る男の子とご両親の行動パターンを調べていたそうです。」
その話を聞き、ぞっとした。
隔週に1度、夕食を漁りに、もとい、I大から外出させるため、バカ(=孝)を私の実家に連れ出している(第35話)。
おそらく、実家の近所の人は、100分の1の男性、すなわちバカ(=孝)が日曜日に私の実家に来ていることを知っているだろう。。。
もしかしたら、その情報が、犯行グループに伝わるかもしれないのだ。。。
そう、、、私とバカ(=孝)にも、この8歳の男の子と両親に起きた事件が起きる可能性はあるのだ。。。
いままで、気にしなかったが、私の実家にバカ(=孝)を連れてゆくとき、人気のない路地裏は通らないようにしなくてはならない。
そして、あまり夜遅くにならないよう、早めに帰らなくてはならないのだ。
講習が終わり、係官は語り掛けた。
「ご察しの通り、
100分の1の男性の運転免許更新期間を5年に延ばしたのは、
リスクを低減するためです。」
係官はこう締めくくった。
「そしてなるべく多くの人に、この講習を受けていただき、
誘拐・拉致を減らさなくてはなりません。
だから、付き添いの人も、本講習を受ければ、
更新期間を5年に延ばす措置を行ったのです。。。」
私は思わず隣に座っていたバカ(=孝)を見た。
この講習を受ける前まで、はやく講習が終わってほしいと思っていた。
そして、はやくバカ(=孝)とNOH市の東部でデートしたいと思っていた。
だが、それは間違っていた。。。
私は隣に座っているバカ(=孝)を見ながら、自分を恥じていた。。。
でも、講習が終わると、FN運転免許試験場の近くのイタリアンレストランでランチとしゃれこんで、次にRPのショッピングモールに行って、デートしたんだけどね。。。
その後、私の実家に行って、母から夕食をご馳走してもらった。。。
うん、やっぱり、パンデミック前は数百万の人口を有していたNOH市は、I大近くの店よりレベルが違って、楽しくデートをさせてもらったよ。。。
(次話に続く)