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第51話 瀬名の話(その3) ー瀬名の教育実習(後半)ー

(前話からの続き)


今回の担当も、私、瀬名です。


今回の話は、9月初旬、私が教育実習に行った時の、竜二さん絡みで3つ目のトピックスなんだけど。。。




話は2つ目のトピックスで、1年生の体育授業で、一部の女の子が、竜二さんを怖がっていたところから始まるの。。。


一部の女の子が、竜二さんを怖がっているのを見て、担当教員の方が申し訳なさそうに、竜二さんに近づいて、小声で頼んできたの。。。


「竜二君、申し訳ないんだけど、、、

 この子達(=小学1年生)にとって、若い男性に触れる貴重な機会だから、

 何かしてくれないかな?」




竜二さんはちょっと考えて、


「じゃあ、サッカーボールをお借りしてもよいですか?」

 


と言って、竜二さんは得意なサッカーを披露して、小学1年の女の子の感心を得たの。




担当教員の方は私に近づいて、質問したの。


「竜二君、サッカーがものすごくうまいけど、どうして?」

 



私は竜二さんの経歴を、小声で教えたら(第37話)、目を丸くしていたわ。

 



3つ目のトピックスは、その翌日だったんだけど、別の教員の方が、控室に来てね。。。


「竜二君、教員Bから聞いたんだけど、君、サッカーやっているんだって?


 僕はボランティアで、

 NE区の中学サッカー部の合同チームのコーチをしているんだ。。。


 今度の土曜日の午前中、合同練習があるんだが、

 臨時コーチとして、参加しないかい?」




もちろん、竜二さんは快諾し、HW大の指導教員に連絡を取ったわ。指導教員から、合同練習の場所と、付き添い3名の申請することで了解を得たわ。


竜二さんはスマホで久美子さんに連絡して、I大学から合同練習の場までは、久美子さんが送って、私と里子さんは合同練習の場所、NE区のある中学校(=男子生徒受け入れ校)に現地集合することにしたわ。




NE区の合同中学サッカー部は、NE区は中学校は全部で約10校あるんだけど、そこからかき集めても、サッカー部員は、男子は1名、女子は12名だったわ。。。


合同チームのコーチ(=教員C)曰く、


「NE区の女の子でサッカーをやっていたのは、

 パンデミック直後は19名いたんだけど、

 辞めた女子も少なくないし、別のクラブに移籍した女子も多い。。。」



という話だったわ。。。




合同チームのコーチ(=教員C)が、練習前に竜二君を紹介したわ。。。


「皆。

 今日は、ここにいる竜二君に臨時コーチに来てもらった。

 竜二君は、実は、、、」



て、竜二さんの経歴を紹介したら、合同チームメンバーは大歓迎だったわ。。。




でも、たった1人の男の子は、女の子に交じらず、1人で練習していたの。


合同チームのコーチ(=教員C)の話だと、その男の子はパンデミック前はジュニアユースに所属していたんだけど、パンデミック後、そのジュニアユースは解散しちゃったの。。。

 

だけど、合同チームでは、いつも1人で練習していてね。。。


合同チームのコーチ(=教員C)が、竜二さんを合同練習に誘ったのは、彼を説得してほしいからでもあったの。。。




竜二さんはその男の子に近づくと、「ちょっと話をしようよ。」と声をかけて、

グランドの脇で左右に並んで座ったの。


竜二君は男の子に優しく語り掛けた。


「君、女の子と交わらず、1人で練習しているけど、なぜ?」




男の子は最初言いづらそうだったか、竜二さんの笑顔につられ、恐る恐る答えた。


「だって、

 ユースよりレベル低いし、、、

 接触プレーは遠慮しなくちゃいけないし、、、

 面白くないもん。。。」




竜二さんはね、首を縦に振りながら、優しく言ったの。


「わかるよ。その気持ち。。。

 僕も数か月前、そうだった。。。

 

 でも、今は女子サッカー部と一緒に練習している。なぜだかわかる?」




男の子は首を横に振った。

 

竜二は答えた。


「だって、今、『サッカーの危機だから』。。。

 僕はね、『サッカーを守りたい』んだ。」



  

竜二は合同チームのコーチへ顔を向けて問う。


「コーチ、

 NOH市全体で、男子中学生のサッカー部員は全部で何人ですか?」




教員Cは言いづらそうにしていたが、重く口を開いた。


「4月では20人弱いたが、何人か辞めてしまって、今は16人だ。」

  



竜二さんは男の子に優しく語り掛けた。


「NOH市全体でも、

 サッカーをやっている男子中学生は、もう、たった16人しかいない。


 パンデミック前、数百万の人口を抱えていたNOH市でさえ、

 1試合行うに最低限必要な22人を揃えることができない。


 今、サッカーの危機だとは思わないかい?

 『このままだと、男子のスポーツからサッカーが滅ぶ』とは思わないかい?」




男の子は首を縦に振った。




竜二は男の子に優しく問うた。


「あのパンデミックで、

 君が所属していたジュニアユースは何人が生き残った?」

  



男の子は哀しそうに答えた。


「おれ、1人。。。」



 

竜二は微笑み、うなずき、続けた。


「そうか。。。

 僕と一緒だ。。。

 僕は今の大学に移る前の、前の大学のサッカー部では、

 僕1人が生き残った。。。


 もし、男子のスポーツの中から、サッカーが滅んでしまったら、

 亡くなった前の大学のサッカー部の皆に、申し訳が立たない。。。


 だから、僕は『サッカーを守りたい』んだ。


 サッカーを守るためには、今は、どんな形であれ、

 男子のスポーツの中に、サッカーを繋いでいかなくちゃいけない。。。


 いろんな方法はあるんだろうけど、

 女子と一緒にサッカーの練習をするのも一つの選択肢だと思う。。。


 だから、今、女子サッカー部と一緒に練習しているんだ。。。

      

 ねえ、君も僕と一緒に、

  『サッカーを守ってくれないか?』

 亡くなったジュニアユースのメンバーのためにも。。。


 もし、男子のスポーツから、サッカーが滅んでしまったら、

 亡くなったジュニアユースのメンバーに申し訳が立たないだろ?」




男の子は首を縦に振った。


竜二さんは優しく男の子に語り掛けた。


「じゃあ、練習に参加しよ!」




男の子はうなずき、「うん!」と言うと、練習の輪に駆けて行ったわ。。。

 

 




私は久美子さんに話しかけた。


「竜二さん、答えにたどり着いたんですね。。。」


 


久美子さんは、サッカーを教えている竜二の姿を目で追いながら、微笑んで答えた。


「ええ、

 HW大に転校して、全国立大学の体育専攻のサッカー部員かき集めても、

 やっと11人という状況から気が付いたみたい。。。


 11人いても、紅白戦とか、それなりの規模で練習しようとすると、

 女子サッカー部に交じらないと、すべての練習は不可能だし。。。」


 


そう、孝さんの導いた答えも同じだった(第40話)。


つまり、竜二さんがすべきことは、『サッカーを守る』ことだったの。。。


特に、竜二さんのサッカー経歴を考えれば、『竜二さんはサッカーを守らなければならない』わ。。。


だって、、、竜二さんは、『普通のレベルのサッカー部メンバーではない』もの(第37話)。。。

 



そして、竜二さんが以前在籍したI大学では、とっくに、女子と一緒に練習するように勧められていたわ(第37話)。


要するに、『とっくに、竜二さんには答えが示されていた』の。。。



 

でも、そのときは竜二さんは拒否したわ(第37話)。


安易に答えを言えば、竜二さんはまた拒否する恐れがあったわ。。。



 

だから、、、竜二さんは、どうして女子と一緒に練習する必要があるのか、自分で考え、ちゃんと理解する必要があったの。。。


したがって、孝さんは、久美子さんに、こう言伝したの。。。


「僕なら、

  『亡くなった男子サッカー部メンバーのために何をすべきか』

 を考えます。」(第40話)


って。。。

       




       

合同練習が終わったら、私は竜二さんを褒めたわ。


「竜二さん、男の子への説得、立派だったわ。。。」




竜二さんは照れながら、返したわ。


「いや、、、どうも、、、


 でも、大学祭の時、愛唯から言われた言葉、

  『したいことができないとき、すべきことをしろ』(第38話)

 は効いたよ。。。


 あいつ(=愛唯)、すげー女だな。。。」




私は笑って返した。


「あー、あれね。。。


 実は先日、一緒に墓参りしたんだけど(第49話)、

 その時、愛唯さんから、教えてくれたの。。。

       

 あのフレーズのオリジナルは、孝さんのお母さんなの。。。


 孝さんが退院直後、落ち込んでいた時、孝さんに言った言葉なの(第6話)。。。


 愛唯さん、大学祭の時、そのフレーズが、とっさに出たらしいわ。(第40話)」




竜二さんと久美子さんと里子さんは感心したようだったわ。。。


「「「へー!」」」

 


 

私は続けた。


「で、墓参り時、愛唯さんは話してくれたんだけど、、、

  『したいことができないとき、すべきことをしろ』

 には続きがあってね。。。」

 



私は、孝さんが、孝さんのお母さんから『大バカ』と罵られた話をした(第34話)。




その話を聞いた、竜二さんも、久美子さんも、里子さんも、笑ったわ。。。


まずは里子さんが笑った。


「ははは! 孝のお母さんって面白い!」




竜二さんも笑った。


「ははは!

 俺はサッカーしか能がないのに、

 サッカーさぼって、しかも女の子に手を出した俺は、

 孝の『大バカ』以上のバカだから、、、


 さしずめ、『超大バカ』か!?」




久美子さんは竜二さんに顔を向けて笑った。


「ははは! 言えてる!」






私は墓参りの話を続けた。


「で、墓参りには、その孝さんのお母さんもいてね、、、


 孝さんのお母さんは、孝さんに、

  『99人分の弔いをして、自分の命の重さを知り、生き残った責任を果たせ』

 って、言っているらしいわ(第49話)。」




竜二さんは真顔に戻り、つぶやいたわ。


「そうか、孝だけでなく、

 俺も、100分の1の男性は、『生き残った責任』があるよな。。。」




私は続けた。


「孝さんはね、、、

 CCコースの元男子クラスメート19名をはじめ、

 自分の友人を弔っているの。。。


 でも、それだけじゃ99人に到達しないから、見ず知らず人も弔っているわ。。。


 その中に、私の兄も含まれているの。。。


 でも、それでも、まだ86人しか弔ってなくって、あと13人弔うよう、、、

 孝さんのお母さんから、催促されているわ(第49話)。。。」




竜二さんと久美子さんは、孝さんがすでに86人を弔っていることに驚いていたわ。。。


竜二さんはつぶやいた。


「え? 86人も弔ったなんて、大変だぜ?」




久美子さんも「うそ!」とつぶやいた。






里子さんは黙ってスマホを取り出してね。。。


孝さんが聡さん(=里子の元恋人)の実家を訪れた時の動画を見せたわ(第3話)。。。


もちろん、オリジナルは愛唯さんのスマホの動画よ(第17話)。

 



実は、聡さんの墓に行った後、CCコースの女の子の多くが、この動画が欲しいと言ってね。。。


でも、本当は消さなくてはいけないもので(第8話)、拡散させるのはもっての外ってことで、、、


聡さんの恋人だったということで、里子さんだけ特別にコピーをもらったの。。。

 



動画を見た、竜二さんと久美子さんは驚いていたわ。


竜二さんはつぶやいた。


「これ、、、聡の実家かよ?」




久美子さんは竜二さんに顔を向け語った。


「でも、これ、、、聡の遺影よ。。。間違いないわ。。。」




そして、竜二さんは、動画を見ながら、こうつぶやいたの。。。


「孝の言うとおりだ。。。

 俺の敵は『あのウイルス』だ。。。

 ましてや、孝じゃなかった。。。

 俺は、敵を間違えた。。。」




私は続けた。


「孝さんのお母さんはね、

 孝さんは大学で軟禁されて、母親として、もう何もしてあげられないから、、、


 愛唯さんに、孝さんが

  『自分の命の重みを知って、生き残った責任を全うする』よう、

 託したの(第49話)。。。」

    


   

私は微笑みながら、締めくくった。


「その場には、私のほかに、優子さんがいてね。。。

 愛唯さんに、『恋人は責任重大だね』って、、、

 優子さんと一緒にからかったわ(第49話)。。。」

 



ま、私の場合、嫉妬の解消も含んでたけど。。。




で、、、私がうかつにも『恋人は責任重大だね』と言ったことが、久美子さんの心に、『変なスイッチを押しちゃって』ね。。。


久美子さんは真剣な表情になり、私に問うたの。


「ねえ、竜二にも『生き残った責任』があるんでしょ?


 そして、私にも、竜二が

 『自分の命の重みを知って、生き残った責任を全うする』よう

 導く責任があるわよね?」




私は久美子さんの発言に驚いた。


「へ?」



  

久美子さんは竜二さんに向かい語った。


「竜二、私達も、99人分の弔いをやるわよ!」




竜二さんも久美子さんの突然の発言に驚いた。


「ちょ、ちょっと、、、いきなり、なんだよ?」




久美子さんは続ける。


「だってさ、私達、あの2人(=愛唯と孝)に、世話になりっぱなしなのよ。。。

 こっちに来るときも、あの2人の知恵を借りたし。。。」




竜二さんは即座に返した。


「そりゃ、俺ら、脳筋だし。。。」



  

久美子さんは、グッと詰まったが、すぐに返した。


「だとしても、

 あなたが『サッカーを守る』という答えに辿り着いたのも、

 孝さんからヒントをもらったからだし(第40話)、

 あなたを叩きなおしたのは愛唯さんだし(第38話)。。。」




竜二さんは戸惑いながらうなずいた。


「まあ、そうなんだけど。。。」




久美子さんは真剣な表情で竜二さんに語り掛けた。

  

「わたし、やっと、

 大学祭で、愛唯さんが、

  『恋人として付き合うきっかけとなったのは、

   孝さんの生き方や考え方に触れたから』(第38話)

 って言った意味が分かった。


 孝さんの『生き残った責任を全うしよう』とする姿に触れたからなのよ。」




里子さんが相槌を打った。


「まあ、その姿を見て、

 私を含め、CCコース女子クラスメート全員が変わったとも言えるわね。」

 (第17話)




私もうなずいた。


「確かに。。。」





       

久美子さんは続けた。


「もっと、早く、竜二を

 『生き残った責任を全うする』ように導く責任を私が自覚していたなら、、、


 竜二、あなたが、『生き残った責任』を自覚していたら、、、


 HW大へ転校しなくてもよかったんじゃないの?」

 


     

里子さんはさらに相槌を打った。


「確かに、竜二が『生き残った責任』を自覚していたら、

 久美子がいるのに、他の女子生徒に手を出すなんて、

 バカなことはしなかったかもね。。。」

  


  

竜二さんは終始無言だった。。。

  



久美子さんは続けた。


「私達と、あの2人(=愛唯と孝)の、決定的な違いは、

 『自分の命の重みを知って、生き残った責任を全うする』姿勢

 だったのよ。。。

       

 この違いは埋めなきゃいけないわ。。。


 だから、私達も、99人分の弔いをやろう! 竜二!


 手始めに、I大の男子サッカー部メンバーの弔いをしようよ!」

       



竜二さんは戸惑いながら、返す。


「いいけど、、、

 でも、俺も、久美子も、男子サッカー部のメンバーの家しらねーだろ?

 まあ、聡は、里子に案内してもらうとして、、、

 他のメンバーどうする?」




竜二さんの発言を聞き、今まで気付かなかった疑問を口にした。


「そうね、、、

 そもそも、孝さん、どうやって、

 CCクラスの男子クラスメートの住所調べたんだろ?」

  



すると、里子さんが孝さんにスマホで電話で話をした。里子さんはスマホの電話を切ると、私達に語った。

 

「孝の話によると、孝はうちのCCコースの先生から、

 無理やり聞きだしたんだって(第2話)、、、


 あのときは、個人情報ということで、なかなか教えてくれなかったそうよ。。。

       

 孝の意見だと、

  『もう竜二はI大の学生じゃないから、もっとハードルが高くなって、

   I大のサッカー部の顧問や監督に、

   竜二が頼んでも教えてくれないだろう』

 って言ってた。。。」

 



久美子さんはがっかりした様子でつぶやいた。

      

「それもそうか。。。」




でも、里子さんは、孝さんの別のアイデアを伝えた。


「だからね、、、

  『男子サッカー部に女子マネージャーがいたなら、

   適当な理由をつけて、女子マネージャーから

   顧問や監督に頼んでみたら?』

 って孝が言ってた。。。


 それとね、孝は、

  『男子サッカー部の女子マネージャーなら、非常連絡網ということで、

   もしかすると、

   かなりのメンバーの住所と連絡先を知っているんじゃない?』

 と言っていたけど。。。」

 



久美子さんはハッとして竜二さんに問うた。

 

「竜二、女子マネージャーのスマホの番号知ってる?」




竜二さんは戸惑いながら、スマホを取り出し、答えた。


「ああ、

 俺のスマホに、女子マネージャー2名全員、登録してある。」

  



久美子さんは、竜二さんのスマホを借りると、男子サッカー部の女子マネージャーに電話を掛けた。

 

「非常連絡網の情報が、彼女のパソコンに残っていたから、

 当時の全メンバーの住所と連絡先がわかるって。。。


 竜二、弔いに行くには、HW大の指導教員の許可がいる?」

 



竜二さんは、久美子さんからスマホを返してもらうと、HW大の指導教員に電話を掛けた。

 

「あきれた口調で、訪問する場所と、

 付き添い3名の名前を事前申請すれば、許可するって。。。」

 



久美子さんはうなずき、竜二さんと里子さんに語り掛けた。

 

「よし! 

 まず、聡の実家に今から行くわよ!


 里子、申し訳ないけど、聡の実家の道案内と事前連絡してくれる?


 私は女子マネージャーさん2名に連絡とって、

 聡の実家に来てくれるか頼んでみる。」

 



そういうと、久美子さんと里子さんはスマホで連絡を取った。


聡さんの実家も、女子マネージャーさん2名も、快諾したので、久美子さん、里子さん、竜二さんは聡さんの実家に向かった。私はここで別れた。

 





週明けの月曜日の朝、私が教育実習生の控室にいると、疲れた表情で竜二さんが控室に入ってきた。


私は心配になって、竜二さんに問うた。


「どうしたの?」



竜二さんは疲れた表情のまま答えた。


「あれから(=土曜日の午後)、聡の実家に行った後、

 里子と別れて、久美子とマネージャー2人の計3人の付き添いで、

 キャプテンと副キャプテンの実家に行ったよ。。。


 翌日の日曜日は朝8時から夜8時まで、6人の実家に行った。。。


 久美子の奴、夜8時を回っても、

 『弔いに行こう』と言って聞かなくってさー。


 ご遺族にとって、迷惑だからって、なんとか説得したよー。」




私は戸惑い問うた。


「え? わずか1日半で、もう9人の弔いしたってわけ?」




竜二さんは疲れた表情でうなずき答えた。


「そう、、、もう、、、へとへと。。。


 今日も、教育実習が終わったら、1人、実家に行く予定。。。


 あ、教育実習が終わるころに、マネージャーが迎えに来るから、

 今日以降は僕をI大まで送る必要はないから。。。」

 


私は唖然として竜二さんに語った。

      

「久美子さん、スパルタね。。。。」




竜二さんはうなずき、「うん。。。」と言うと、控室の椅子に腰を下ろした。

 



ごめんね、竜二さん。。。


私が、久美子さんの心に、変なスイッチを押しちゃったもんだから。。。


調子に乗って、、、孝さんのこと、、、語りすぎたわ。。。。

 

 


一方で、、、今の久美子さんを見た時、、、墓参りで、愛唯さんに、優子さんが言った言葉を思い出したの。。。


『100分の1の男性が背負っている生き残った責任を、結婚相手の女性も、共に背負わなくてはならない』を。。。(第49話)

 

そう、久美子さんは、竜二さんが背負う『生き残った責任』を、共に背負うつもりでいるのよ。。。

 



今まで、私は、愛唯さんや久美子さんがうらやましかった。。。


だって、、、40歳未満の男性が100分の1となった、この世界では、男性の恋人になれる人は、女の子の中で圧倒的少数なんだから。。。


でも、、、恋人になったら、なったで、、、大変なんだって分かった。。。

 

 


私は、今後、素敵な男性に出会えるだろうか?


私は、その人と恋に落ちることができるだろうか?


私は、その人と結婚することができるだろうか?

 



40歳未満の男性が100分の1になったこの世界では、その可能性は、限りなくゼロに近い。

 

でも、、、もし、、、結婚することができたのなら、、、


私も、『生き残った責任』を共に背負わなくてならない。。。

 



久美子さんを見て、それがわかった。。。


第37話の後書きで述べましたが、竜二が転校する前、久美子は『失望して自暴自棄になった恋人の竜二をどうするのか?』という試練の中にいました。


いま、久美子は『転校して離れ離れになった竜二との関係を維持する試練』の中にいます。


そう。まだまだ、久美子の試練は続くのです。


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