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第50話 瀬名の話(その2) ー瀬名の教育実習(前半)ー

今回の担当は、私、瀬名です。


今回の話は、9月初旬、私が教育実習に行った時の話です。




ああ、私は入学した時から教員志望で、そのための単位は取得しています。 


ちなみに、孝さんは中高でいじめられた経験があるので、ちゃんと指導できる自信がないということで、教員は志望しないわ。


また、愛唯(メイ)さんも中学生の頃、校則をギリギリかわして、先生達を引っ掻き回したので(第26話、第35話)、教員に興味はないというより近づきたくないらしいわ。


愛唯さん苦笑いして言っていたわ。。。


「あの頃の先生と合わせる顔がないし。。。」




教育実習を受けた学校は、実家の近くの小学校で、NOH市NE区にある、数少ない『男子生徒受け入れ校』だったわ。


え? 『男子生徒受け入れ校って何?』ですって。。。


ごめんごめん、地元のNOH市は、パンデミック前は人口数百万の大都市だったんだけど、パンデミック後の男子小学生はNOH市全体で、約600人しかいないの。だから、すべての小学校で男子生徒を受け入れると、高い塀を建設したり、セキュリティゲートを設置したり、守衛を雇ったり等の、安全対策をしなければいけなくて、コストがかかりすぎてしまうの。。。

 

なので、NOH市全体では小学校は300校弱あるのだけど、男子生徒を受け入れているのは各区に1校だけ、NOH市は全16区だから全16校だけなの。




中学までは家族用の集合住宅をNOH市が準備し、そこからマイクロバスで通学するの。つまり、中学までは家族も集合住宅に住む必要があるの。


まあ、100分の1の男性家族用に特別に用意した集合住宅は、出入り口にセキュリティゲートを設けて、24時間体制で守衛が待機しているから、安全なんだけど。。。


でも、、、あまり広くはないの。。。

 

といって、、、特に10歳以下の男の子の誘拐・拉致が頻発していてね。。。


犯罪組織が誘拐した男の子を海外に売って、資金源にしているの。。。


だから、子どもの安全のためには、仕方がないの。。。




もちろん、ご家族の中には、新居を泣く泣く手放した人もいて、、、


「せめて、もっと広い家を」って望むご家族は少なくないのだけど、、、


一方で、「100分の1の男性をもつ家族だけ、特別扱いするのか?」って声の方が圧倒的でね。。。


 

  

高校からは家族が集合住宅から送り迎えするか、寮生活となるわ。寮生活なら、家族は集合住宅に住む必要はないの。




ちなみに、私立中学や私立高校に進学した場合も、家族が集合住宅から送り迎えするか、寮生活となるわ。 でも今は、私立学校で男子生徒を受け入れている学校はほとんどないわ。


理由は、安全対策のコストがかかりすぎるから。。。教育機会の均等の観点からは、よろしくないのだけど。。。




高校もNOH市には、公立高校は40校弱あるんだけど、10校余りしか男子学生を受け入れていないの。。。


これでも、、、私立高校のほとんどが男子生徒を受け入れない現状から、公立高校でなるべくカバーするようにしたのよ。。。




話をNOH市の小学校に戻すと、NOH市全体で男子受け入れの小学校を1つに集約すべきとの意見もあったわ。

その方が財政的には効率的だから。。。


でも、そうすると、男子生徒と触れる機会がほとんどなしで成長してしまう女子生徒が、圧倒的多数になってしまって、将来に悪影響が及ぶかもしれないってことで、各区に1校ずつの計16校で男子生徒を受け入れるってことになったみたい。


 

 

ちなみに、男子生徒の受け入れ校の設置については、地方自治体ごとにバラバラよ。1つに集約している自治体もあるわ。


財政規模の小さな地方自治体の場合、安全対策が十分な住宅や学校を確保できなくって、都道府県に泣きついて、都道府県が準備した集合住宅に住んだり、都道府県が準備した学校に通ったりするケースもあるわ。その場合、家族は遠くに引っ越さなければならず、大変なの。。。


この前、テレビニュースで、そういう家族のインタビューが放送されていて、、、


彼らは仕事の関係上、その土地を離れるわけにはいかなくって仕方がないから、両親は残って、祖父母が一緒に引っ越して、孫と集合住宅で住んでいたわ。。。

 

 


話が何度も脱線してゴメン。

 

教育実習した小学校は、さっき言ったとおり、NOH市NE区で男子生徒を受け入れているたった1つの小学校なのだけど。。。


NOH市NE区で男子生徒を1つにまとめても、男子生徒は、全学年で合わせて40名程度なの。

 

つまり、各学年で男子生徒は6,7名しかいないの。。。


この学校の各学年で5クラスあったんだけど、等しく分ければ各クラス1,2人なっちゃうじゃない?

 

でも、そうすると男の子が、クラスの中で、孤独になっちゃう恐れがあるので、男子がいるクラスが2つだけ作っていたわ。


だけど、男子がいるクラスでも、男の子は3,4名しかいないの。。。


改めて、『100分の1』を実感したわ。。。




教育実習はどうだったって? わからないわ。注意されてばかりで。。。

 


 

あ、、、教育実習の実習生の控室で、意外な人と再会したの。。。


控室に入ったら、1人の背の高いイケメン、背は180cm弱で、丸坊主なんだけど、顔立ちの整ったイケメンが、私に近づいてきて、「やあ久しぶり」って声をかけてきたんだけど、最初は誰か分からなかったの。。。


私は戸惑って、


「すみません、どなたでしょうか?」



と尋ねたの。





そしたら、そのイケメンは苦笑いを浮かべて、


「俺! 竜二!」(第36話~第40話)



と答えたの。ビックリしちゃった。。。



 

だって、竜二さん、I大学にいたころ(第36話~第40話)と、髪型がまるで変わっていたし(ツーブロックショート→丸坊主)。。。

 

あと、表情も変わっていてね。。。


あの頃は、拗ねた表情をしていたけど、なんていうか吹っ切れたような表情でね。。。


印象がまるで変っていたの。。。




それより、私には訊きたいことがいっぱいあってね。

恐る恐る問うたの。


「竜二さん、

 まさか、教育実習のためだけに、

 転校先のHW大のあるTC県から、地元に戻ってきたの?」




竜二さんは笑顔で「うん。」とうなずいた。




私は再び恐る恐る問うた。


「I大で教育実習を受けている男子は、

 付属学校で受けているけど、HW大の付属学校で受けなかったの?」




竜二さんは苦笑いして答えた。


「それがさー、、、

 HW大にも付属学校はあるんだけど、同じ県にはなくてさー。


 別の県に移動しなくちゃいけなくって、

 移動手段とか宿泊施設が面倒でさー。。。


 特例として、地元に帰ることを許可してくれたんだ。。。


 まあ、たぶん、転校の際、慌ただしかったから、

 その配慮もあったんだと思う。。。


 一応、ここ、俺の母校でさー、、、

 しかも、男子学生受け入れ校なんで、安全対策もされているから、

 ダメ元で教育実習を頼んだら、移動手段と宿泊施設の確保を条件に

 了解してくれたんだ。。。」




私は移動手段が気になったの。。。というのも、、、100分の1の男性に旅行の自由はないのよ。。。


「移動手段って、、、

 HW大のあるTC県からここまでって、かなり距離あるよね?


 どうやって移動したの? 電車?」




竜二さんは再び苦笑いして答えた。


「いやー、大変だった。。。


 まず安全に考慮した移動方法案を提出して、

 HW大での指導教員の許可を得ないといけなかったから。。。

      

 電車の方が楽なんだけど、

 駅のプラットホームとか混雑する場所は危険が多いので、

 電車では許可がおりないんだ。。。

  

 久美子に頼んで、8人乗りワンボックスカーをレンタルしてもらって、

 HW大まで迎えに来てもらった。。。


 付き添いに久美子を含んで5人必要だから、里子にも頼んで、

 里子と女子ラクロス部の部員3名も来てもらった。。。


 途中休憩を含めて、ドライバを交代しながら、8時間かかった。。。」




私は驚いた。

      

「それって大変じゃない?」




竜二さんは苦笑いのまま答えた。


「まあ、大変だったけど、ドライバは6人で交代しながらだったから、、、


 むしろ、休憩が大変だったかな。。。

 安全確保しないといけないから。。。


 サービスエリアでは久美子に食事買ってもらって、皆で車内で食ったし。。。


 でも、一番大変だったのは、お手洗いかな。。。

 お手洗いで誘拐・拉致されるケースがあるし。。。」




私は再び恐る恐る問うた。


「どうしたの?」




竜二さんは斜め上を見上げ、答えた。


「うーん、、、

 付き添いに取り囲んでもらって、女子トイレに入って個室でしたよ。。。


 当然、付き添いは個室の前で待ってもらった。


 ちょっと恥ずかしかったけど。。。

 でも、安全には替えられないから。。。」




私はハッとして、確認した。


「ちょっと待って!

 久美子さんと里子さんは

 『8時間かけて、一度HW大学まで行って、戻ってきた?』

 と。。。

 つまり、『往復16時間の旅をした』と?」




竜二さんは苦笑いを浮かべたまま、うなずき、答えた。


「まあ、そうなんだけど、、、

 

 正確には、

 『HW大学に来るときは、

  前日に地元でワンボックスカーをレンタルして、

  夕方にHW大に来たよ。』


 『その日の夜は、僕と付き添いの計6人で、

  一緒に外食したり、ちょっと観光した。』


 その後、僕はHW大に戻ったけど、

 久美子達、付き添い5人は、車中泊したみたい。。。


 『当日の朝に、HW大を出発して、

  約8時間かけて、地元に戻って、僕を宿泊先に届けると、

  久美子達はワンボックスカーを返した。』」




私は恐る恐る確認した。

 

「つまり、『久美子さんと里子さんは2日かかりだった』ってこと?」




竜二さんはうなずき、「そういうこと。」と答えた。




私は再び、恐る恐る尋ねた。

 

「まさか、、、帰るときも同じ?」




竜二さんは再びうなずき、「まあ、そうなるね。。。」と答えた。

  





もう、私、あきれちゃった。。。


竜二さんは良いわよ。。。1往復するだけなんだから。。。


でも、久美子さんと里子さんは、竜二さんの教育実習のために、延べ4日間の2往復する気よ。。。




私はあきれながらも問うた。


「じゃあ、宿泊先は?

 安全対策上、実家には泊まれないわよね?」




竜二さんは苦笑いを浮かべて答えた。

 

「それについては紆余曲折があって、、、


 結局、I大学在籍当時のサッカー部の監督が、I大当局に頼んでくれてね。。。


 教育実習中は、I大学の寮、しかも元俺の部屋に泊っている。。。」




私は、ますます、あきれてね。。。


「それじゃあ、I大学の寮から、このNOH市NE区の小学校に通っているの?

 車で40分はかかるわ。

 いや、朝の通勤時間なら、もっとかかるわ。。。」




竜二さんは苦笑いを浮かべて、視線を下に向けて答えた。


「大学近辺で下宿している女子ラクロス部員に車で送ってもらっている。


 本当は、久美子がやりたかったんだけど、

 あいつも、別の学校で教育実習中なんでね。。。」




私はあきれが、もう、突き抜けた。

右手を頭に当て、竜二さんに語り掛けた。


「教育実習が終わる夕方は、私がI大まで送ってあげるわよ!

 もう!」




竜二さんはうれしそうに答えた。


「ありがとう! 早速、女子ラクロス部員には断っとく!」



と言って、竜二さんはスマホで電話を掛けてた。。。






私は、竜二さんの電話が終わるのを待って、質問したの。。。


「ところで、一連のアイデアは誰が考えたことなの?」




竜二さんは笑顔でうなづきながら答えた。


「ああ、

 久美子に『地元に教育実習したい』って相談したらさ、、、


 久美子の奴、里子に相談して、里子が久美子を連れて、

 愛唯と孝に相談したらしい。。。」



私はため息をついてつぶやいた。


「やっぱりね。。。」




竜二は戸惑いながら問うた。


「わかる?」




私はうなずいて答えた。


「ええ、

 4月から、ずっと、

 あの2人(=愛唯と孝)の悪だくみを、課室で聞いているから。。。

 あの2人(=愛唯と孝)が、思いつきそうなアイデアの気がしたから。。。」




竜二さんは笑顔のまま、うなずき、語った。


「ああ、

 でも、久美子が言っていたけど、あの2人(=愛唯と孝)のアイデアを元に、

 久美子と里子が『アレンジを加えた』って言っていた。。。


 それと、愛唯が

  『たぶん、瀬名が竜二君の帰りは送るというと思う』

 と言っていたって。。。」



 

私は右手で頭を抱えて、つぶやいたわ。


「私の行動も、あの2人(=愛唯と孝)は、予測していたってわけね。。。」

 



ところで、最初に述べたように、私自身の教育実習で話せることは特にないんだけど、竜二さん絡みでトピックスが3つあったわ。。。。


【1つめのトピックス】

1つ目のトピックスは、教育実習生用の控室に、ときどき教員の方が来られてね。。。


「竜二君、ごめん。。。 ちょっと、力仕事手伝って。。。」


 


まあ、パンデミックの時に、多くの若い男性教職員の方が亡くなってね、、、残った教職員に力仕事の負担が増えて、大変みたい。。。

竜二さんは、久々の若い男性で、しかも体育会系なので、力仕事に重宝されていたわ。。。

 

 

 

【2つ目のトピックス】

2つ目のトピックスは、竜二さんと一緒に、小学1年生の体育の授業をした時のことなんだけど、一部の女の子が、竜二さんを怖がっていたの。。。


竜二さん、困ってた。。。


「頭を丸めたのがまずかったかな?」




そしたら担当教員の方が竜二さんをフォローしてね。


「竜二君、君のせいじゃないの。。。


 パンデミックが2年前のことだから、

 小学1年生だと4歳か5歳だったから、若い男性に慣れていないの。。。


 この学校に若い男性の先生はいないし。。。


 しかも、生徒のほとんどは、お父さんがその時、亡くなっているわ。。。


 4歳だと、お父さんをよく覚えていない子もいるの。。。


 でも、これから、お父さんを覚えていない子が増えていくわ。。。」

       



私と竜二さんを顔を見合わせたわ。そして、私はつぶやいたの。


「そうか! こういう問題があるんだ!」



竜二さんも戸惑い、うなずいた。


「そうだね。。。」




私は、学校全体で約40名しかいないけど、それでも、どうして、各区で1校だけでも、男子受け入れ校をNOH市が作った理由が分かった気がしたわ。


効率重視でNOH市で男子受け入れ校を1つに集約すると、生まれてからずっと若い男性に触れる機会がなかった女の子が、どんどん増えてしまうもの。。。


竜二さんはつぶやいたわ。。。


「教員になるのは狭き門だけど、

 頑張って受かって、男性に触れる機会を増やしてあげないと。。。」

 





3つ目のトピックスについては、、、長くなるから、次話で話すわ。。。


今話は第44話と第45話の続きで、40歳未満の男性が100分の1となった社会を想像したものです。


いつもは大学での話ですが、男子生徒が100分の1になれば、小・中・高も大変でしょうね。


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