第48話 愛唯と孝の臨時校内バイト(その3) ー後輩に託すー
(前話からの続き)
千香ちゃんは不意に笑顔になり、私に顔を向けて語った。
「どうやら、愛唯さん、
あなたの大学祭での武勇伝(第38話)がきっかけらしいです。」
私は驚いた。
「え?」
千香ちゃんは構わず続けた。
「大学祭で愛唯さんが、
『したいことができないなら、
何をすべきかを考え、それを実行しなさい』
と言った時(第38話)、
たまたま、うち(=馬術部)のキャプテンが、
近くでチョコバナナ食べてて聞いたんです。。。」
裕樹君が繋いだ。
「はっきりしないんですが、
先輩達はその後、
『今、何が【したくてもできない】ことで、何を【すべきか】』
を話し合ったらしいんです。。。」
あれは、私オリジナルでなく、オリジナルは孝のお母さんだが(第6話)、とっさに言葉に出てしまった(第40話)。
私は苦笑いを浮かべながら、頷いた。
裕樹君は続ける。
「その結果、
『以前のように毎日のように馬術の練習をしたり、
毎日のように馬の世話をすること』
は、【したくてもできないこと】だと。。。
そして、
『今はどんな形であれ、【馬術部を存続させる】こと。
そのために、騎乗の技術や、飼育の仕方といった、
ノウハウを後輩達に伝えてゆくこと』
が、【すべきこと】だと。。。」
脇坂教授はうな重を食しながら、うなずき、語った。
「馬術部の先輩達は正しいな。。。」
私は驚いた。
「え?」
脇坂教授は私に語った。
「5校でやっと馬1頭だけということは、
各大学に馬が来るのは相当先だろう。。。」
続けて脇坂教授は千香ちゃんと裕樹君に問うた。
「5校に次に馬が来るのはいつの予定だい?」
裕樹君は戸惑いながら返した。
「来年は1頭が来る予定で、ただし、今1頭の馬がいる市立大学ではなく、
LI大に来ることになっています。」
ああ、LI大とはこの地方の有名私立大学の一つだ。
瀬名は戸惑いながら問うた。
「なぜ、LI大なの?」
千香は申し訳なさそうに話す。
「LI大は県内にいくつかキャンパスがありますが、
馬術部はRB市のキャンパスにあるんです。
RB市からNOH市の市立大学には距離があって、
移動に電車を乗り継いで、3時間以上かかるそうです。
だから、LI大の馬術部は毎週RB市からNOH市まで、
片道3時間以上の移動だけでも大変だからなんですよ。」
瀬名はため息をついて返す。
「そういうこと。。。」
脇坂教授は語る。
「今年にNOH市立大学、来年LI大学となる。
仮に1年に1頭ずつ馬を団体が調整するとすれば、
I大の馬が来るのは、再来年以降となる。
つまり、I大に馬が来るのは、
早くても千香君と裕樹君が最終学年になったときだ。
現在3年生と4年生の先輩達が在学している間は、
残念ながらI大に馬が来る可能性はない。」
私は「そうか」とつぶやいた。
脇坂教授は続けた。
「まだ2年生の千香君と裕樹君は、
在学中にもしかしたら馬が来るかもしれない。
だから、先輩達は自分達のノウハウを
千香君と裕樹君に伝えようとしているんじゃないかな?
先輩達は、『馬術部の未来を千香君と裕樹君に託している』んだ。」
瀬名は戸惑いながら問うた。
「再来年、必ず、I大に馬が来るかしら?
千香さん、裕樹さん、市立大学とLI大以外の残りの3校のうち、
どの大学が有力なの?」
千香ちゃんが戸惑いながら答えた。
「うちを含め、3校ともNOH市の郊外にありますから、
どこが有力とかわかりません。。。」
脇坂教授は答える。
「I大を含め、3校が横一線と考えると、
残念ながら、千香君も裕樹君も、在学中に馬が来る確率より、
馬が来ない確率の方が高いだろう。。。」
脇坂教授は続ける。
「もし、馬が来なければ、千香君と裕樹君は、今の先輩達のように、
他校と合同チームを結成し、
限りある練習時間や馬を世話する時間を後輩達に譲り、
後輩達にノウハウを伝授し、馬術部の未来を後輩達に託さなきゃならない。」
脇坂教授は笑顔を千香ちゃんと裕樹君に向け、語った。
「だから、来年と再来年の入学式で、新入生をなるべく多く、
千香君と裕樹君は勧誘しなくちゃな。
そして、今度は君達(=千香、裕樹)が、
後輩達に練習時間や馬の世話を後輩達に譲り、君達は指導に回らなくちゃな。」
千香ちゃんと裕樹君は戸惑いながら、黙って頷いた。
脇坂教授は財布から1万円札を1枚取り出すと、千香ちゃんに渡した。
「些少ながら、馬術部への寄付追加だ。」
千香ちゃんは戸惑いながら、黙って受け取り、頭を下げた。
バカ(=孝)が裕樹君に語り掛けた。
「今回のバイト代の半分を馬術部に寄付するよ。」
私も続いた。
「わたしも」
裕樹君は戸惑い問うた。
「なぜ?
孝先輩、外出できない100分の1の男性にとって、
貴重なバイト代じゃないですか?」
私は微笑み答えた。
「だって、入学式には、講堂のそばで馬に騎乗している姿を見せなくちゃ、
気分が盛り上がらないわよ!」
そう、100分の1の男性達、そしてその恋人達が、馬術部に貴重な学内のバイトを譲るのは、入学式で講堂のそばで馬に騎乗し、馬術部に勧誘する姿を1日も早く見たいからなんだ!
思わず瀬名が頷く。
「うん、入学式の時、講堂のそばで馬に騎乗している姿を見たら、
『大学に入学したんだー』って気分が高揚したもん!」
千香ちゃんは微笑み返す。
「私はあれを見て、馬術部に入るってソッコーで決めました!」
裕樹君も微笑み続いた。
「僕も!」
脇坂教授は苦笑いを浮かべて語る。
「馬術部が毎年、入学式に講堂のそばに馬を連れてくるのは、
問題視されていたんだがな。。。」
私は思わず笑った。
「そうだったんですか? がはは!」
脇坂教授以外、瀬名も千香ちゃんもバカ(=孝)も笑った。
「「「「ははは!」」」」
もちろん、この時のバイト代は半分を馬術部に寄付して、残り半分はデートの資金に使わせてもらった。
ま、デートと言っても、、、I大近くの喫茶店やファミレスで1時間程度のデートだったが。。。
でも、学内バイトの口が減る夏休みには貴重な臨時収入だった。
しかも、、、うな重までご馳走になって、おいしいバイトだった。
本当、脇坂教授は優しかったな~。
ああ、それと、、、
I大に馬が来たのは3年後、千香ちゃんと裕樹君が卒業した後だった。
でも千香ちゃんと裕樹君は馬術部に新入生を勧誘して、後輩達にノウハウを伝え、馬術部をなんとか存続させたよ。
そして、4年後の入学式、千香と裕樹の後輩達は、講堂のそばに馬に騎乗し、馬術部の新入部員を勧誘してたよ。
え?
千香と裕樹の上級生の、私とバカ(=孝)が、千香ちゃんと裕樹君の卒業後の馬術部をなぜ知っているかって?
まあ、その理由は後々に。。。




