第45話 里子の話(その1) ー里子のボランティア活動ー
里子だ。今回の担当を任された。
どこから話そうかな。。。
ああ、聡(=元恋人)とは、高校から付き合っていた。
聡(=元恋人)はサッカー部、私は高校では女子ハンドボール部に所属していた。
2人ともレギュラーだったんだけど、スポーツで大学に入学できるほどの選手ではなかった。
サッカーもハンドボールも、強豪高校って訳じゃなく、まあ普通の高校レベルだったし。
ちなみに、竜二(聡のサッカー部元チームメート、第36話~第40話)は、サッカーだけで大学に入学してきたらしい。聡曰く「サッカーエリート」さ。
で、どうしてI大学のCCコースに入学したかっていうと、、、
聡(=元恋人)と同じ大学で同じ学科で通いたい一心だったんだ。
聡(=元恋人)は高校3年の早い時期から、IT技術者を志して、I大学のCCコースを志望していた。
私は、さっき言ったとおり、聡と同じ大学で同じ学科で通いたい一心だったから、
模試の偏差値から見ても、十分狙える学力だったから、受験して合格したってわけ。。。
大学を受験するとき、聡(=元恋人)は言ったんだ。
「お前(=里子)、もうちょっと考えろよ。
そりゃ、同じ大学で同じ学科で一緒に学べるのはうれしい。
でも、本当にお前はIT向きか?」
そう言われたんだけど、あの時は、聡(=元恋人)と同じ大学で同じ学科で通いたい一心だったから。。。
無事合格した時、そして一緒に入学式を迎えた時は、うれしかったなー。
でも、入学して半年後だったかな、、、ITには全く向いていないって認識してね。
安易な志望校選びを後悔した。
まあ、偏差値だけで志望校を選んで、入学後に後悔する学生は少なくないんだけど。。。
ああ、大学ではハンドボール部には入部しなかった。
高校の時に女子ハンドボール部のキャプテンをやらされてね。
本当は、私、キャプテン向きじゃないんだ。。。
皆には隠しているんだけど、、、
『皆に見せている私は、実は本当の私じゃない』。。。
キャプテンに疲れてね。。。もうハンドボールはいいんだ。。。
だから、大学ではラクロスを始めた。。。
実は私には、2歳年下の弟がいた。
『脳筋』の私と違ってね。弟は優秀だった。ちょっと生意気だったけど、かわいい弟がいた。
そして、あのウイルスで、恋人の聡と、弟を亡くした。
そう、愛唯と境遇は似ている。
でも、似たような境遇の女の子は、たくさんいる。。。
愛唯と異なることは、
パンデミックの頃、高校時代の部活メンバや、女子ラクロス部メンバや、CCコース女子クラスメートからの相談に応じたり、彼女達を励ましたりが多くってね。。。
特に、CCコース女子クラスメートの数人が退学に追い込まれてね。。。
相談されたんだけど、、、どうしようもなくって、、、辛かったな。。。
私自身も、恋人と弟の喪失があったけど、自分のことをそっちのけで対応せざるを得なかった。。。
ま、高校や大学の先輩が、私を癒してくれたんだけど。。。
その時は、部活をやっていてよかったと思ったよ。。。
部活は、顧問に無理を言ってね。。。遠隔事業のみ再開した2度目の2年生の10月に、練習を再開したよ。。。
本当は、新しい入校許可証を発行した、次の年の2月からじゃないと、ダメだったんだけど。。。
ま、大学を取り囲む壁の建設や、現男子寮の改装の工事があったし、、、
顧問もいろいろ会議で忙しくって、、、
毎日練習はできなかったけど。。。
それでもね、大学閉鎖中に荒れてしまったグランドを整備している間や、練習をしている間は、嫌なことは忘れることができた。
恋人と弟を亡くした悲しみを、ほんの一時でも、忘れることができたから、、、
CCコースのクラスメートの中では、比較的早く立ち直ることができたと思う。
だけど、ときどき、恋人と弟を亡くした悲しみが、どうしようもなくなる時がある。。。
さっき、『皆に見せている私は、実は本当の私じゃない。』って言ったけど、本当の私を知っているのは家族と恋人だけだったんだ。
特に本当の私を知っている恋人を亡くしたやるせなさは、自分で言うのもおかしいんだけど、大きいと思っている。
だから、4月のガイダンスの日、、、
孝を見たら、恋人と弟を亡くした悲しみが、どうしようもなくなって、、、
孝にひどいことを言ってしまった(第15話)。
今では反省している。。。
で、卒業後の話なんだけど、私は別の道を探ることした。(第18話)
と言って、具体的にどこへ目指すべきなのか、皆目、見当がつかない。
就職担当の先生曰く、
「まあ、就職活動してみて、自分の道を探るケースも多々あるし、、、
そもそも、空前の売り手市場だから、就職には困らないと思うよ。
焦らず、じっくり探したら?」
とは言ってくれているんだけど。。。
一度、大学から離れて見て、自分を見つめなおそうと思ったんだ。。。
具体的にはボランティア参加なんだけど。。。
女子ラクロス部の顧問には無理を言って、部活を休んで、ボランティアに行った。
時期は8月初旬に隣の県のTW県に災害ボランティアに行った。7月中旬の梅雨も終わりの頃、洪水被害があったんでね。ボランティアとして、床下浸水の家屋で土砂を運び出した。
うまくできたかって?
うーん、、、初めての参加だったから、わからない。。。
学生ボランティアは女子学生だけだった。
そりゃ、男子学生は大学から外出禁止なわけだし。。。
というか、地元の男子学生でさえ、たとえ付き添いがいても、実質参加不可なんだ。
だって、、、
男子学生が外出するには、付き添いなどの男子学生の誘拐・拉致に対する安全対策が必須だ。
となると、ボランティアを受け入れる自治体も、NPOも、余計な作業が発生するので、男子学生の災害ボランティアの参加は遠慮いただいているらしい。
ただでさえ、被災地は大変な状況なのに、さらに『余計な負担は負いたくない』、というのが地方自治体の本音らしい。
すなわち、男子学生の災害ボランティアって、現地に行かなくてもできるものに限られる。
つまり、支援金・義援金・支援物資の送付になるんだけど、男子学生は学外に出ることができないから、バイトができないので、私達女子学生と比べると、支援金・義援金・支援物質の提供にも限界があるんだよね。。。
だから、せめてということで、、、支援金や支援物資を集める役割を積極的に行っている男子学生は少なくない。。。
先日も、孝が「支援金を集めている寮の仲間から頼まれました」ってんで、支援金を課室で集めていたよ。。。
また、孝から、「女子ラクロス部に支援金を集めくれ」って頼まれたし。。。
でも、それぐらいしか、、、男子学生が災害ボランティアでできることがないんだ。。。
実は、災害ボランティアだけじゃなくって、その他のボランティアも男子学生は制限がかかる。。。
I大学は学生ボランティアとして、パンデミック前は、訪問科学実験として、小学校と中学校に訪問して科学実験をしていた。
でも、今は、訪問予定者に男子学生が含まれていると、受け入れる小学校や中学校が、『安全対策を嫌がって、露骨に難色を示す』ようになってきた。。。
孝はこう言っている。
「安全対策のコストがかかるので、
僕ら、『100分の1の男性は、社会の厄介者』です。」
そう、大変なんだ、100分の1の男性は。。。
話をTW県に災害ボランティアに戻すと、学生ボランティアの他には、40歳以上の男女のボランティアも参加していた。
ボランティアの休憩時間、私が大きくて平べったい岩に腰かけていたら、ある一人の、見た目50歳くらいの男性のボランティアが私に話しかけてきたんだ。
「君、女の子の割に、体力ありそうだね?
よかったら、消防士を目指さないか?」
と言って、私の横に座ったんだ。
これでも運動部所属なんでね、参加した女子学生のボランティアの中では、体力には自信があった。
話しかけてきた男性ボランティアは、大都市BS市の現役消防士だった。
実は、I大学の女子運動部には、警察・消防・自衛隊や警備会社のリクルートが盛んだ。
これは40歳未満の男性が100分の1になり、多くの欠員が生じ、埋め合わせとして女子運動部の部員を狙っているんだ。
もちろん、採用試験を受ける必要があるよ。
でも、よく、学内で説明会が開かれるし、私も説明会に参加したことはある。
ただし、就職担当教員や部活顧問からは、安易な憧れで就職しないようにと、クギを刺されている。
そりゃ、訓練は部活とは比べ物にならないくらい厳しいし、、、危険な仕事だし、、、人の死にも直面するしね。
しかも、パンデミックの頃、警察・消防・自衛隊に働かされた教職員も少なくない(プロローグ)。
その人達から、「安易な憧れで就職するな」という言葉は、私達、学生にとっては重い。
私は、その現役消防士に、大学内で安易に消防に就職しないように言われていることを、正直に話した。そしたら、その男性ボランティアはこう言った。
「そうだね。
僕ら(=現役消防士)も、安易な憧れで就職されても困るよ。
それに、パンデミックの頃、学校の先生とか、多くの不慣れな人を、
ちゃんと訓練もせず、消防の職についてもらった。
だから、当時、消防に多くのけが人がでた。
そして、殉職した人も少なくないんだ。
たぶん、その経験もあって、大学の先生方は、そう言っていると思う。」
その男性ボランティアは、パンデミック後の消防の状況を話した。
「でもね、パンデミックの頃から、今も、消防士が不足していて、
火事・災害・救急の手が十分回らなくって、
パンデミックの前だったら、
『救えた命が、今、救えない』現状があるんだ。
さっき、地元の消防団の人と話したんだけど、
ここの洪水で残念ながら死者が何人か出たんだけど、
パンデミック前の40歳未満の男性が100分の1になる前なら、
『ここまでの死者は出なかった』って言っていたよ。」
その男性ボランティアは、ボランティアに参加している理由を話した。
「僕が消防士を務めているBS市も同じでね。。。
パンデミックの前なら
『救えたはずの命を、救えなかった』経験は少なくないんだ。
僕は、非番の時、家族に了解を取って、
可能な限り、ボランティアに参加している。
その理由は、、、救えなかった方、その家族に、、、
自分なりのお詫びがしたくってね。。。
まあ、自己満足なんだろうけど。。。
そして、もう一つの理由は、君の様に見込みのありそうな女の子を、
消防士に誘って、『救える命を、1人でも多く救いたい』からなんだ。」
その男性ボランティアは締めくくった。
「先ほど言ったように、そして大学の先生方が仰るように、
安易な気持ちで就職されても困るけど、
まあ、真剣に考えてみてよ。」
というと、彼は立ち上がり、去っていった。
実際のところ、警察・消防・自衛隊の職に興味がなかったわけじゃない。
というのも、私は、いや女子生徒多くがが、パンデミックの頃、多くの死に直面した。
そんな私達(=女子生徒)が、命を守る職に興味がないはずはない。
実際、警察・消防・自衛隊の説明会に参加する者は少なくない。
だから、就職担当教員や部活顧問は、「安易な憧れで就職するな」とクギを刺している。
とりわけ、私は、恋人と同じ大学・学科で学びたいという、安易な気持ちで入学し、後悔している。
でも、あくまで選択肢の1つとして、消防士を考慮に入れることにした。
あくまで、選択肢の1つとして。
今話は前話に引き続き、40歳未満の男性が100分の1になったとき、社会がどうなるかを想像して描いてみました。たぶん、多方面にわたって大変なことになると思います。
次話は一旦、主人公の愛唯の話に戻ります。




