第41話 孝の話(その3) ーハイパーモグラたたきー
孝です。今回は僕が担当します。
今回は、愛唯さんと僕の最大の『悪事』、購買に対する『ハイパーモグラたたき』について説明したいと思います。
『モグラたたき』ってのは、第22話であるように、
『I大学の購買で欠品しているものを探して、それを口実にして、外出すること』なんですが、『ハイパーモグラたたき』ってのはそれを高度にした作戦なんです。
ま、『モグラたたき』も『ハイパーモグラたたき』も、3月、まだ愛唯さんと恋人として付き合う前、なんとか外出できないかって考案したものです(第30話)。
と言っても、『ハイパーモグラたたき』は机上の空論であって、実現性はないと思って、お蔵入りしてたんです。
ええ、第25話で、瀬名さんが、
「外出するための悪知恵を愛唯さんがねだるもんだから、
ついつい孝さんが教えてしまって、それを愛唯さんが実行したことある」
と説明した話です。
あれは、大学祭での乱闘騒ぎも落ち着き、梅雨に入った直後の6月上旬でした。
課室で僕が勉強していたら、愛唯さんが後ろから抱き着いて、こう言ったんです。
「ねー、孝~。最近さー、
購買が『モグラたたき』(=欠品を探してそれを理由に外出)に
対応してきてね。。。
孝の必要なもので、購買で欠品がなかなか見つからないの~。
だから、欠品を理由に外出できないじゃない?
何か良いアイデアってな~い~?」
第25話にあるように、僕は愛唯さんに、「できない」って言えないんですよ。。。
だって、僕が100分の1の男性であるばっかりに、愛唯さんには不自由な思いをさせているわけだし。。。
生活必需品を買うって名目で、デートに出かけるけど、たった1時間のデートですよ。。。
1時間のデートとなると、大学周辺の店しか行けないんです。。。
I大学のあるCV市は、数百万の人口を抱えるNOH市から車で30分くらいの近郊にあるんだけど、安くてお腹いっぱいになる店は多いけど、NOH市繁華街のように質の高い店はないんです。。。
やっぱりたまには、NOH市繁華街のような質の高い店へ、デートで連れて行ってあげたいんだけど、1時間じゃ無理なんです。。。
だから、少しでもデートの時間を延ばしたくって、1時間をどれくらい超過すると怒られるのか調べたわけですけどね(第22話)。
話を戻すと、たまに大学周辺の店のデートでケーキを食べるんだけど、、、やっぱりNOH市の有名洋菓子店の質はないんです。
僕も実家はNOH市にあるから、それはわかるんです。
愛唯さんの実家もNOH市だから、その不満を感じていない訳がないんです。。。
彼女は僕に気を遣って、それは言わないけどね。。。
それどころか、愛唯さん、実家の近くのバイトを続けているんだけど、バイトの帰りにケーキを買ってきて、愛唯さんの下宿で一緒に食べることがあるんです。。。そのケーキのおいしいこと、おいしいこと。。。
大学周辺の喫茶店のケーキとは別次元なんです。。。
たぶん、愛唯さんは僕の食生活を気にして、差し入れてくれるんだと思う。。。
愛唯さんは本当にありがたいんです。。。
そんな愛唯さんの頼みを「できない」って言えないんです。。。
だから、愛唯さんの頼みには、こう答えました。
「うーん、、、あくまで、『机上の空論』なんですけど、、、
ほら、うち(=I大学)の購買って小さいでしょ?
それなのに、僕達のモグラたたき
(=欠品を探してそれを理由に外出)に対応するために、
多くの品目を扱っている。。。
ということは、
『1品目当たりの在庫は少ないはず』じゃないですか?
そこがねらい目です。」
僕は続けた。
「まず、協力してくれるグループを準備するんです。
僕達が必要な品目の一つを、
そのグループで
『一度に大量に購入してもらって、その品目を欠品させる』
んです。
欠品が生じた時点で、欠品を理由に外出可能です。
欠品した品目が入荷されたら、僕達の必要な品目で別のものを、
同じグループで一度に大量に購入してもらって、
その別の品目を欠品させるんです。
そうすると、その別の品目の欠品を理由に外出が継続可能となります。
それを繰り返せば、『理屈の上では、毎日外出できます』。。。」
後ろを振り返るとね、愛唯さんが口角を上げた笑顔をしているんですよ。。。
分かりやすく言うと、例の『怖い笑顔』してるんですよ。。。
優子さん命名の『悪魔の笑顔』をしてるんですよ。。。
愛唯さん、、、怖いから、、、お願いだから、、、その笑顔ヤメテ。。。
まずい、、、愛唯さんやる気だ。。。何とか止めなくては。。。
実現困難なことを納得させて、あきらめさせないと。。。
「で、、、ここからが『机上の空論』と考えるわけなんだけど。。。
まず、当然のことながら、僕達とグループが
同じ品目を必要としていなければなりませんよね?
たとえば、僕達がノートが必要なのに、
協力してくれるグループがノートが購入不要だったらダメですよね?」
愛唯さんは表情を戻して、
「それもそうね。。。」
と言いました。
僕は続けました。
「さらに協力してくれるグループの購入する数が、
購買の在庫を上回らないといけないから、
グループの人数はそれなりに多くないといけないですよね?
しかも、もし毎日僕達が外出したいとなると、
複数の品目で協力してくれるグループが必要だから、
グループの人数はとても多く必要ですよね?」
愛唯さんは僕に質問しました。
「グループはどれくらいの人数が必要なの?」
僕は適当に答えました。
「さー? でも、最低でも200人は必要じゃないでしょうか。。。」
まず、これで難しいことは伝わったと思うから、さらに追い打ちをかけないと。。。
「その規模となると、役割分担などの組織化しないといけません。
でも、その組織化に手間取ると、大学当局が察知して潰してくると思います。
グループの必要人数の確保に時間がかかってても同じです。」
愛唯さんは再度僕に質問しました。
「グループの人集めと、組織化はいつまでに行う必要があるの?」
ここでも適当に答えました。
ま、実現不可能と思ってほしくて。。。
「最長でも1週間ってところだと思います。。。」
よし、あとは最後の一押しして、愛唯さんに諦めてもらおう。。。
「最後に、これだけの規模で行うとなると、
大学当局から見て、『極めて悪質な行為』に映るでしょうから、
関係者への処分は免れません。
以上、あまりに難度が高いうえ、リスクが高すぎるので、
これは『机上の空論』です。」
愛唯さんはしばらく考えると、
「優子」
って優子さんを呼んだんです。まだ、愛唯さんはあきらめていない様子でした。
でも、愛唯さんの一番の相談相手である、優子さんなら止めてくれるって、その時は思ってました。。。
優子さんは愛唯さんからの説明を聞くと、腕を組みながら、にやりと笑って答えたんです。
「面白そう!
まあ、CCコースは1年から4年で約60名、
里子の女子ラクロス部が約20名、
寮の100分の1の男性が約20名で、
これで合計100名は固いから、それを中核にツテを辿れば、
200名を1週間以内に集めるのは、『不可能ではない』と思う。」
えー! 優子さん、止めてくれないの?
ただ、優子さんは難しい顔をして、こう言ったんです。
「ただ、、、やっぱり、、、これは『悪質』だと思う。。。
なんらかの『処分を受ける可能性が高い』と思う。。。
それにビビる人もいるだろうから、200名集まらないかもしれないし。。。
200名集まらず実行に移さなくても、
大学当局に察知されて、それで処分を受ける恐れもある。。。
『相当の覚悟がいる』よ。。。」
だよね。だよね。 ねー、愛唯さん、諦めて。 お願いだから。。。
愛唯さんはまたしばらく考えると、
「瀬名」
って瀬名さんを呼んだんです。まだ、愛唯さんは、これでもまだ、あきらめていない様子でした。
まあ、CCコースの一番の良識派である、瀬名さんなら反対してくれるだろうから、これであきらめてくれると思っていたんですけどね。。。
瀬名さんは、愛唯さんの説明を聞いて、難しい顔して、こう答えたんです。。。
「うーん、、、確かに悪質ね。。。
本来なら実行すべきではないわ。。。」
でしょ。でしょ。だから、愛唯さん諦めて。。。
でも、瀬名さんはこう続けたんです。
「でも、100分の1の男性が3月に軟禁が開始されて、今、6月でしょ?
だから、3ヶ月以上たっているから、
100分の1の男性に外出の自由がないってことを、
多くの学生が知っていて、心痛めている女の子は少なくないの。。。
私を含めてね。。。
だから、
『たとえ処分を受けようとも、学生の意思を示すのはアリ』
だと思う。。。」
そうして、瀬名さんも、にやりと笑って言ったんだ。
「それに、面白そうだし♪」
えー! 瀬名さん止めてくれないの?
瀬名さん、撫山教授に怒られて、「もう2度と、怒られたくない。」と言ってたよね?(第39話)
瀬名さんの意見を聞いて、あの『悪魔の笑顔』を浮かべて、愛唯さんは実行を決断したんです。
「よーし、やるわよ!」
そしてね、愛唯さんだけでなく、優子さんも瀬名さんも『悪魔の笑顔』を浮かべていたんです。。。
もう、、、怖くって、怖くって。。。。
愛唯さんは次に、里子さんを呼んでね、里子さんに説明したんです。
そしたら、里子さんも『悪魔の笑顔』を浮かべてね。こう言ったんです。
「面白そうじゃない!
女子ラクロス部以外の運動部にもツテがあるから、
さらに100人くらい集めてやるよ。」
最後に、愛唯さんは、他のクラスメートも呼んでね、他のクラスメートも「面白そう」って協力を快諾しちゃったんです。
CCコース3年の女子クラスメート15人が、皆『悪魔の笑顔』を浮かべているから、
もう課室は『ホラー映画みたいな怖さ』でしたよ。。。。
愛唯さんはね、女子クラスメートの前で、こう、号令をかけたんです。
「よっし! まずは協力してくれる人を2,3日で集めるわよ!
私達を4つのグループに分ける。
私(=愛唯)は1人で、100分の1の男性の恋人達に声を掛ける。
可能ならその恋人のツテから、さらに協力者を募るわ。
優子は1つのグループを率いて、
手分けして、CCコースの下級生と上級生に声をかけて!
そして人文系のツテにも声を掛けてくれる?
瀬名はもう一つのグループを率いて、
手分けして、理数系のツテに声をかけてくれる?
里子は1人でラクロス部メンバに声をかけて!
あとはラクロス部メンバと手分けして、
他の運動部のツテに声をかけてくれる?」
そう言うと、愛唯さんは右こぶしを突き上げました。
「それじゃ、行くわよ!」
それにつられて、女子クラスメート全員、右こぶしを突き上げました。
「「「「「おー!」」」」」
、、、というわけで、CCコース3年の女子クラスメートは課室から、全員飛び出していきました。。。
僕は、1人、課室に取り残されて、呆然としていました。。。はい。。。
それで3日後には200名どころか、400名を超える協力者を確保してね。。。
5日後には役割分担も含めて、準備完了させちゃいました。。。
ははは。。。(やけ笑い)
愛唯さんは、準備が完了すると、例の勝ち誇ったように胸を張って、高笑いしてました。。。
「ガハハ。準備完了よ!」
僕は、、、って言うと、、、後日聞くところによると、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていたそうです。。。はい。。。
愛唯さんの担当は以下の通りでした。
・100分の1の男性の恋人の有志と、毎日、購買を調査して、
どの品目がどれくらい店頭にあるのか、
かつ毎日どれくらい消費されるのか調査する。
・僕だけでなく、100分の1の男性が、
直近1か月以内に購入しなければならないものを
整理および集計する。
優子さんの担当は以下の通りでした。
・CCコースの女子クラスメートとともに、グループからお金を集める。
・同時に、グループが、直近1か月以内に購入しなければならないものを
整理および集計する。
・グループから集めたお金の管理する。
瀬名さんは、愛唯さんと優子さんのニーズ調査結果と、愛唯さんの店頭調査を見て、実際に何を購入するかを決める。
まあ、品目によって在庫量が違うから、店頭にある数と、毎日の消費量から、実際の在庫量を予測した上で、購入しないといけないから。。。
愛唯さんと優子さんと相談して決めていたよ。。。
あ、、、たまに、僕もアドバイスしました。。。
里子さんは女子ラクロス部のメンバとともに、実際に購入して、グループ内の購入希望者に配る役でした。
まあ、作戦を開始して、たまに予測より在庫量が多くて失敗したこともあったけど、概ね欠品を生じさせてね。僕達、100分の1の男性は、その欠品を理由に、ほぼ毎日外出しましたよ。
そしたら、大学は2週間で音を上げてね。
具体的に品目を記載しなくても、付き添いがいて、外出先を記載すれば、外出許可するように規則を変更したよ。
つまり、事実上、付き添いさえいれば、大学のあるCV市に限って、外出自由となりました。
外出時間は付き添いの人数×1時間です。つまり、付き添いの人が多ければ多いほど、外出時間は長くなります。
まあ、それでも、ゲーセンとか飲酒とかの危険な場所に行くのはダメですけど、それ以外は自由となりました。
ということで、作戦は成功したんだけど、、、やっぱり悪質ってことで処分は下りました。
ま、誰が裏で糸を引いているかなんて、バレバレだったし。。。
それに、協力しているグループ以外の学生は、購買でものが買えないケースもあったわけで。。。
その人達には、大変ご迷惑をおかけして、すみませんでした!!
関係者には、簡単な聴取があって、『僕以外はカミナリは落ちなかった』みたい。。。
また、処分も思っていたより、軽いものでした。。。
教職員達も、僕達、100分の1の男性に外出の自由がないことには、心を痛めていたみたいでした。。。
まず、愛唯さんと僕は、主導的役割を行ったとして、授業参加禁止3日、プラスCCコース独自の処分として、課室使用禁止3日が下りました。
次に、優子さんと瀬名さんと里子さんは、準主導的役割を行ったとして、授業参加禁止2日の処分が下り、プラスCCコース独自の処分として、課室使用禁止2日が下りました。
さらに、その他CCコース3年の女子クラスメートは、補助的役割を行ったとして、授業参加禁止1日の処分が下り、プラスCCコース独自の処分として、課室使用禁止1日が下りました。
同じく、里子さん以外の女子ラクロス部メンバと、100分の1の男性の恋人の有志は、補助的役割を行ったとして、授業参加禁止1日の処分が下りました。
で、、、僕だけは撫山教授に呼び出されて、ものすごいカミナリが落ちました!
「愛唯君に知恵を授けるじゃない! このバカタレが!!
愛唯君に知恵を授けるなって、何度言ったと思っている!
君(=孝)が知恵を授けて、愛唯君が実行した今回の騒動で、
俺達(CCコースの教員)が、
どれだけ学内で肩身の狭い思いをしたと思っているんだ!
どうして、愛唯君には『できないものはできない』って言わないんだ!」
お叱りはごもっともだけど、、、まさか、普通、こんな机上の空論を、実現させるとは思わないでしょ?
そう言われてもな~。。。
それにしても、、、愛唯さんは、本当、面白い!
机上の空論を実現しちゃうんだもん!
机上の空論を実現する様子を、、、いや、愛唯さんの作る喜劇を、、、もっと見たいんです。
え?
いいよ。もう。。。
叱られるくらい。。。
その喜劇を特等席で見られるんだったら、叱られることなんて、安いもんです。
はい。。。
念のためですが、我々の世界では、こんなことはしないように。。。
「業務妨害」として、処分はまぬがれないし、警察沙汰もあり得ます。