第35話 愛唯の母の話(その1)
こんにちは、愛唯の母です。今回は私が担当します。
どこから、始めましょうか?
うーん、、、小さい頃の愛唯は、本当に、男勝りでガサツでズボラで、、、
私は時々思っていたの、「どうして男の子に生まれてこなかったんだろう?」って。
小学校の時は、当時の担任の先生の話では、もう男の子との喧嘩はしょっちゅうだったみたい。しかも、女の子の愛唯が、男の子との喧嘩で、勝っちゃうことが多かったみたい。加えて、その担任の先生の話では、愛唯は『女ガキ大将』とか『姉貴』とか呼ばれているとの話で。。。
当時は、娘(=愛唯)は『将来どうなっちゃうんだろ?』って心配だった。。。
中学校のときは、当時の担任の先生が嘆いていたわ。どうも、校則をギリギリでカワすことを快感にしているようで、一方成績は良いから、タチが悪いって。。。
まあ、中学校までは、担任の先生との面談は、肩身が狭いこと、狭いこと。。。
もちろん、面談後に家では愛唯には注意するのよ。。。
でも、その都度、勝ち誇ったように、胸を張って、「がはは」と笑って、改める様子がないの。。。
本当に頭を抱えたわ。。。
高校に入ると、家から一歩外に出ると、女の子らしくなろうと努力しているようだったけど、家に一歩入ると、『男勝りでガサツでズボラな子』に戻っていたわ。。。
愛唯は高校の2年生くらいまでは成績はよかった。でも、私が無理やり文系を選択させてから、成績は下がり始めた。まあ、女の子だからということと、武(=愛唯の弟)を溺愛するあまり、放置していた。そして、大学に入学したが、勉強に身が入らない様子だったが、女の子だからということで放置していた。
このことが後悔につながるとも知らずにね。。。(第1話)
大学から、新しい入校許可証を交付を受けるため、優子さんに協力してもらって、愛唯を登校させた数週間後ぐらいだったかしら。。。
主人(=愛唯の父)に、愛唯のクラスメートだった聡という子のお父さんから、主人の職場(=県庁)へ電話が入ったの。。。
電話の内容は、聡君の妹が、兄の聡君を亡くしてから、ふさぎがちで、勉強に身が入らない様子だったらしいの。一人の青年と愛唯が聡君の弔いに来て、見違えるように勉強するようになったとのことで、そのお礼だったの(第4話)。まず、このことに驚いた、愛唯は数週間前まで、大変無気力で、そんな状態ではなかったと思う(第1話)。
電話には続きがあってね。愛唯は理数系に進みたかったとの話があり、もし、理数系を再び目指したいということなら、許してやってほしいと、聡君の父から、主人にお願いがあったの(第5話)。
私と主人は、実は愛唯には内緒で話し合っており、せっかく愛唯が夢を語り、私達の離婚の危機を救ったことを考え(第8話)、もし愛唯が理数系に入りなおしたいと言ってきたなら、何年かかっても許そうと結論を出していたの。
3月になると、毎日のように、愛唯は大学に登校し、愛唯の変化は明らかだったわ。実は、理数系に入りなおしたいとは言ってこなかったので、安心していたわ。だって、やはり遠回りはしない方が良いからね。。。
4月になり、一人の青年を守るため、下宿したいと愛唯が言ってきたことは、正直驚いたわ(第21話)。愛唯に訊けば、その青年は、愛唯に夢を与えた青年とのことで、愛唯をここまで変えた青年はどんな人なのか、興味を持ったわ。
4月初めに武の古着を試着して、すぐ帰ってしまったしね(第20話)。。。
4月下旬になって、愛唯は、その青年をこの家に連れてきたわ。
どうも、先に青年の実家に行ったんだけど、その青年がくつろげる状態でないからって愛唯は言っていた(第34話)。そして、その青年の名前が『孝さん』と言うのだと知った。
愛唯の前の恋人、健司さんと違って、孝さんは平凡な青年と言うのが第一印象。
というのも、愛唯は、『極度のイケメン好き』だから。。。
健司さんは何度かこの家を訪ねてきたことがある。。。
愛唯は自宅とは違って、自分をかわいく演出して、健司さんと接していたように見えたわ。
愛唯は、素のままで、孝さんと接しているように見えるわ。
愛唯は「孝の天然ボケのせい」と言っているが、愛唯の素を受け入れてくれる相手なのだと分かった。。。
まあ、どちらが良い悪いということではないけどね。
それから、隔週日曜日は、愛唯は孝さんを連れて、この家に来ることが増えたわ。愛唯は「なるべく、孝を大学の外に連れ出してあげたいから。」と言っているけど、別の目的もあるわね、明らかに夕食を目的に来ているわ。。。
実は、最近、私、あまり料理をしていない。というのも、この家は、私と主人の2人だけになって、そんなに量を作る必要がないから、下手に材料買って料理するより、総菜買った方が安いのよ。。。
これを言ったら、愛唯は、
「昔のアニメの主題歌かよ!」
って言っていたけどね。。。
主人も、私が料理をするので、愛唯と孝さんの来訪を喜んでいるわ。。。
それに料理し甲斐があるのよ。孝さん、とてもおいしそうに食べてくれるから。。。
愛唯は、
「孝は、毎日、冷凍宅配弁当ばかりなので、
こういう家庭の味に飢えているのかも?」
と言っている。
愛唯に自炊して孝さんに食べさせていないのかと尋ねると、生活費を抑えるために自炊していないと答えた。
ただ、愛唯は、目が泳ぎながら答えたから、私は別の理由が思い当たったの。。。
実は愛唯は料理が下手なのよ。。。
原因は、愛唯の性格が『ズボラでガサツ』だから。。。
手の込んだ料理はもちろんなんだけど、野菜炒めでさえダメなの。。。
ほら、野菜炒めって、火の通りの遅い野菜から炒め始めて、火の通りが早い野菜は後にフライパンに投入するじゃない?
愛唯ったら、何度言っても、面倒くさがって、全ての野菜を一度にフライパンに投入してしまうの。。。
当然、食感を良くするために、野菜の大きさをなるべく揃えるなんて、やるわけないわ。。。。
まだ愛唯が中学か高校にいた時だったと思うけど、武(=愛唯の弟)が私と愛唯の野菜炒めを食べ比べたことがあるの、そしたら武(=愛唯の弟)は「食感が全然違う」って言ったの。
すると、愛唯ったら、武(=愛唯の弟)に、
「うっさいわね。料理なんて胃の中に入ってしまえば、皆同じよ!」
と言って、料理の仕方を見直そうとしなかったの。。。
実は、愛唯は、健司さんにもこの家で料理をふるまったことがあってね。その時は拙くも一生懸命やっていて、わが娘ながら、とてもかわいかったわ。。。
まあ、あの時は、『今は拙くても、少しずつ良くなっていくだろう。』って思っていたのよ。。。
で、しばらくぶりに、愛唯に料理を作らせてみたら、以前のように『ズボラでガサツに』料理しているの。。。悪化しているの。。。
見かねて、料理について教えると、その都度、
「うっさいわね。料理なんて胃の中に入ってしまえば、皆同じよ!」
と開き直ってしまうのよ。。。
それを見た、孝さんは笑っているの。。。
「ははは! やっぱり、愛唯さんは面白い!」
そしたら、孝さんを指して、愛唯は誇らしげに言うの。
「ほら! 孝もこれで良いって言っているわ!」
孝さん、愛唯を変えてくれたことは、とても感謝しているわ。。。
でも、これ以上、愛唯を甘やかすのは、やめてくれないかしら。。。
もし、あなたたちが結婚したら、どんな家庭になるのか、私、心配なの。。。
今話はちょっと寄り道してすみません。
次話から主人公の愛唯が孝と恋人となって、最初の試練が訪れます。