第32話 さすがにネタ切れ(その1) ー男子学生が荷物を受け取るときー
愛唯です。
第22話で述べたように、I大の購買で欠品もしくは、そもそも扱っていない商品を探して、それを購入することを言い訳にして、バカ(=孝)を外出させている。
これは、I大に軟禁されているバカ(=孝)を気分転換を図るためだ。
ま、本音は、私がなるべく多くデートしたいためだ。
しかしだ。。。最近、さすがにネタ切れになってきた。。。
先日は思い余って、バカ(=孝)の部屋の包丁を、私がトンカチで打って、ワザと折ったことがある。
そして『包丁を買う』と言って、スーパーに買いに行ったってわけ。
しかし、そう何度も包丁を折る訳にもいかない。
私は「電化製品を壊そうか?」と言ったが、それは即、バカ(=孝)から叱られた。
「やめてください!
バイト先が限られているから、電化製品を買ったり、修理したりしたら、
そもそも、デートの資金が無くなりますよ!」
がはは。。。その通り。。。本末転倒でした。。。
先日はバカ(=孝)に着せている、武(=亡き弟)の古着のボタンが外れたので、ボタンを縫うために、糸と針を買いにショッピングモールに行った。
そのときは購買には糸と針がなかったが、先日、購買に行くと、糸と針も売られていた。
そう、この言い訳はもう使えない。
こんな感じで、購買も扱っていない物品を減らしており、なかなか扱っていない物品を探すのが難しくなった。
あ、私もバカ(=孝)も裁縫は苦手でね。。。実は糸と針を優子に渡して、優子に直してもらったんだけど。。。
裁縫や洋裁は優子は得意なんだ。。。
先日、とうとう思い余って、課室で、頬を膨らませて、向かいに座っていたバカ(=孝)に問うた。
「孝~、日用品以外に外出して購入するものはないの~?」
バカ(=孝)は困った顔で答える。
「日用品以外は緊急性がないんですよね~。
緊急性がないと、購買が入荷するまで待てと言われてしまうんです。。。」
バカ(=孝)は続ける。
「緊急性がないと、、、
後日スーパーやショッピングモールでまとめて購入するか、、、
インターネットで購入すればよいので、外出の口実にはなりません。。。」
そう言って、顔を横に振った。
私は消沈してつぶやいた。
「そうか。。。」
日用品以外は、購買で欠品しているとか、そもそも扱っていないからと言って、外出許可を得るのは難しい。
私はふと、バカ(=孝)に問うた。
「ところでさ、インターネットで購入したものを、どう支払うの?」
バカ(=孝)は当初しまったという表情をし、渋々答えた。
「あー、大学のそばのコンビニで代金を支払いますね。。。
大学の購買ではインターネット購入品の支払いの代行はしていないので。。。」
私は興奮して問うた。
「じゃ、インターネットで購入すれば、代金支払いで外出ができるってわけ?」
バカ(=孝)は渋々、黙って頷いた。
私は興奮してさらに問うた。
「孝、インターネットで購入したいものはないの?」
バカ(=孝)は益々困った表情で答えた。
「今のところ、、、
購買の書籍コーナーでは売っていない書籍、
とりわけ専門書ぐらいしかないですね。。。」
私は戸惑い問うた。
「なぜ、専門書なんか必要なの?」
バカ(=孝)は困った表情のまま答えた。
「教科書にもないことを勉強しなくちゃならなくって、
図書館から本を借りたり、ネットで調べているんですが、
一部は自分の本として購入したいものがあるんですね。。。」
このバカ(=孝)は授業で習わないことを勉強している(第2話)。
しかも、、、そのために専門書まで買いたいと言うバカ(=孝)に、私はあきれてしまった。。。
まあ、バカ(=孝)は授業で習わないことを、CCコースの先生方から課題として課せられていたことを後に知るんだけど。。。
これは先の話。
話を元に戻そう。
私は気を取り直すと、バカ(=孝)に言った。
「じゃあ、専門書をインターネットで購入しなさいよ。」
バカ(=孝)は困った表情のまま、顔を横に振り、答えた。
「教科書を買ったばかりで、金銭的に余裕がありません。。。」
今は4月、今月のはじめにCCコースの先生方が指定した教科書を買ったばかりだ。
バカ(=孝)をはじめとして、100分の1の男性は外出が厳しく制限されている。
よって、100分の1の男性はバイトができない。
そう、100分の1の男性にとって、勉強のためとは言っても、専門書を買う余裕はあまりない。
もちろん、バカ(=孝)は隠れてバイトしている(第30話)。
でも、隠れてバイトしているので、そんなにバイト先は増やせないし、時給だって高くはない。
そう、隠れてバイトしているバカ(=孝)にとって、授業で習わないことを調べるための専門書なんて、、、おいそれとは買えない。。。
しかしだ。。。
私はそれでも、、、バカ(=孝)とい~っぱいデートがしたい。。。
だから、私はバカ(=孝)を頬を膨らませて不平を述べた。
「孝~。デートに行きたくないって言うわけ?」
バカ(=孝)はあきらめたように、「わかりました」と呟くと、ノートパソコンからインターネットに繋げ、購入したい分野の専門書を検索し、購入を申し込んだ。
バカ(=孝)は振込用紙を印刷すると、それと外出申請書を持って、撫山教授の個室に向かった。
バカ(=孝)は課室に戻ると、笑顔で「撫山先生の許可を得ました」と答え、私達(=愛唯、孝)は学外のコンビニへと向かった。
当然、コンビニに行った後は、そのコンビニの食事コーナーでジュースとお菓子を食べて、デートとしゃれこんだけどね。。。
がはは。。。
コンビニから課室に戻ると、私はふと、バカ(=孝)に問うた。
「ところでさ、孝。。。
注文した書籍はどのように届けられるの?」
バカ(=孝)は戸惑いながら答えた。
「えーと、、、
宅配便として大学の事務棟に届けられて、
職員さんから僕のスマホに連絡が入って、
事務棟まで取りに行くルールになってますね。。。」
私は驚く。
「え? 寮まで届けてはくれないの?」
バカ(=孝)は苦笑いを浮かべて答える。
「まー、家具とか家電とか、大型の荷物は寮まで届けてくれますけど、
それ以外の小物は事務棟止まりですね。。。
どうやら、大学と業者との取り決めで、
業者と僕ら100分の1の男性との接触は可能な限り、
避けるルールになっているそうで。。。
家具とか家電とかの大型の荷物を寮に届けるときは、
事前に大学に連絡が行って、職員の人が付き添いますし。。。」
私はため息をついてつぶやいた。
「そうか。。。」
パンデミック後、この大学は高い壁に囲まれ、出入口はセキュリティゲートが設置された(第2話)。
そして大学の出入りは、大学関係者や一部業者に制限されている。
これは大学で軟禁されている、100分の1の男性を保護するためであり、そして簡単には外出させないためだ。
配送業者や郵便配達員は学内への立ち入りが許可されている業者ではある。
しかし、立ち入りが許可されている業者とは言っても、100分の1の男性への接触は可能な限り、避ける必要があるのだ。
バカ(=孝)は苦笑いを浮かべたまま、話を続けた。
「たまに冷凍宅配便が寮の仲間に、
両親から届けられることがあるそうです。
そのときは職員さん達は扱いに困るそうです。。。」
I大学の100分の1の男性のほとんどは自炊しておらず、朝食は購買のコンビニ、昼食は学食、夕食は冷凍宅配弁当で済ましている。(第22話、第31話)
そして、外出の自由はない。つまり、外食も容易ではない。
また、バカ(=孝)は軟禁されてから一度も実家に帰っていない(第14話)。
でも、実を言うと、それはバカ(=孝)だけでなく、他の100分の1の男性も同じなんだ。その理由をバカ(=孝)は話したがらないけどね。
話を戻すと、I大学の100分の1の男性の食生活は恵まれたものとは言えない。
だから、たまにはおいしい食事をさせてあげたいとの親心から、100分の1の男性の両親が冷凍宅配便を送る気持ちは、なんとなく想像できる。
だが、それは100分の1の男性には直接届かない。
一旦、事務棟の職員が受け取るとなると、、、
そりゃ、受け取った職員は困るだろう。。。
私は戸惑いながら、バカ(=孝)に問うた。
「どうなるの?」
バカ(=孝)は苦笑いを浮かべながら、顔を横に振り、答えた。
「仕方がないから、
スマホで本人に連絡して、荷物を引き取りに来させますね。。。
そして、荷物に引き取りに来たときに注意するんですよ。
『冷凍宅配弁当以外は、冷凍宅配便は使わないように』
って。。。」
私はますます戸惑いながら、バカ(=孝)に問うた。
「そういえばさ。。。
冷凍宅配弁当はどうやって配布されるの。。。」
バカ(=孝)は頷きながら、答えた。
「あー、、、
冷凍宅配弁当が届く曜日と時間は決まっているんですよ。。。
その曜日と時間に、寮の仲間全員の冷凍宅配弁当が届きます。。。
その時間に合わせて、僕ら(=I大学の100分の1男性)は、
事務棟に引き取りに行くんですよ。。。」
わたしは「なるほど。。。」とつぶやいた。
バカ(=孝)は突然笑い出し、話を続けた。
「ははは。。。
そしたら、寮の仲間のご両親が、その曜日と時間に合わせて、
有名レストランのお取り寄せを冷凍宅配便で送付したんですけどね。。。
その有名レストランはある業者に配達を任せていたんですが、、、
その業者が
『I大学の出入りが許可されていなかった』
んですよ。。。」
私は驚く。
「え!? 配送業者の全てがI大学に入れるわけじゃないの?」
バカ(=孝)は笑いながら、頷く。
「ええ、郵便と数社の配送業者だけですね。。。
そりゃ、配送業者全社に立ち入り許可出していたら、
僕ら100分の1の男性の安全を確保できないじゃないですか?」
私は納得した。
「それも、そうか。。。」
私は戸惑いながら問うた。
「じゃあ、、、どうしたの?」
バカ(=孝)は笑いながら答えた。
「ははは!
もう、守衛さん困っちゃって、
守衛さんが本人に連絡して、彼はあわてて、
指導教員にロータリーまでの外出許可と付き添いをお願いして、
荷物を引き取ったそうです。
後で、指導教員に『こっびどく叱られた』そうです。。。
彼、ぼやいてました。。。
『どうして、親が勝手に送ってきた荷物について、
俺が怒られなきゃいけないんだー!』
って。。。
ははは!」
私も怒られたバカ(=孝)の仲間には悪いが、思わず大声で笑ってしまった。
「がはは!」
(次話に続く)