S-18(瀬名ルート・第18話) 【独自ルート】瀬名、孝と共に弔う(後半)
(前話からの続き)
【空想】
さて、空想に戻ろう。
誠司さんの実家はLFH市にあった。
ああ、LFH市は私(=瀬名)と里子さんと孝さんが住んでいるNOH市の近郊にある。
当日の朝10時、里子さんにとって『知り合いの知り合い』の珠子さんとは、LFH市の駅で待ち合わせた。
当然、私(=瀬名)と里子さんはスーツ姿、孝さんは背広姿である。
里子さんによると、「すでに珠子さんが誠司君のご両親には連絡をとっている。」とのことだった。
里子さんは、LFH市の駅の待ち合わせ場所に、一人の女の子を見かけると、彼女に声をかけた。
「すみません、『珠子』さんですか?」
珠子さんは、微笑み答えた。
「ええ、、、里子さんね?」
里子さんも微笑み、珠子さんに頭を下げた。
「珠子さん、今日はご無理を言って、すみません。」
私(=瀬名)も、孝さんも頭を下げた。
珠子さんは困ったように片手をあげ、制した。
「ヤメテ! 大したことじゃないし。」
そして、珠子さんは微笑むと、私達(=瀬名、里子、孝)に告げた。
「じゃあ、誠司君の家に案内するわね。」
そう言うと、珠子さんは歩き始めた。私達は(=瀬名、里子、孝)珠子さんについて行った。
珠子さんと里子さんは歩きながら語った。
誠司さんとは小学校が同じで、近所に住んでいたとのこと。
小学校や中学校で同じクラスだったこともあるが、それほど親しい仲ではなかったとのこと。
誠司さんと同じ高校の女の子がラクロス部にいて、ラクロス部メンバが誠司君の出身中学を調べたとのこと。
その結果、里子さんの高校の部活メンバの中に、誠司君と同じ中学の女の子がいたとのこと。
その女の子が誠司君の出身小学校を調べ、その女の子の友人で出身小学校の女の子の中で、誠司君の家を知っているかを調べたとのこと。
そして辿り着いたのが珠子さんって訳。
まあ、要するに、珠子さんは『里子さんの知り合いの知り合いの知り合い』ってことだ。
つくづく、よく辿ってくれたと思う。
前もって、珠子さんが誠司さんの実家を訪ね、I大のCCコースの男子クラスメートが一人だけ生き残り、生き残った孝さんが誠司さんを弔いたいとの意向を、ご両親に伝えたところ、大変驚いたのことだった。
私達(=瀬名、里子、孝)は誠司君の実家に着くと、誠司君のご両親が出迎えてくれ、誠司君の遺影まで孝さんを連れて行った。
里子さんの予想通り、今回は孝は背広姿で、髪型を整え、無精ひげを剃っておいたので、聡さん(=里子の亡き恋人)の実家を訪ねた時のように、冷たい視線を孝さんに向けることはなかった。
孝さんは誠司君の遺影の目の座布団に正座で座り、手を合わせ、真剣な表情で語りかけた。
「誠司君、久しぶり。1年と4か月ぶりだね。
もう、聡君(=里子の亡き恋人)から聞いていると思うけど、
僕のこの命は、皆がいた世界を取り戻すために使おうと思う。
皆がいた世界を取り戻せるよう、頑張るよ。。。
でも、取り戻すには、僕が天寿を全うするくらいの時間がかかる。
だから、僕がそちらに行った時、結果を報告するね。
もし、皆がいた世界を取り戻せたら、皆と祝杯を挙げよう。
聡君に音頭を取るよう頼んである。
パンデミックの前のように、皆でバカ騒ぎしよう。」
そう言うと、孝さんの両目から涙が流れた。
孝さんは慌てて、涙を拭うと、誠司さんの遺影に語り掛けた。
「念のため、僕のこの思いを、智樹君をはじめ、
君が特に親しかったクラスメートに伝えてくれないか?
だって、天国では、たぶん、君は智樹君達とつるんでいるだろうから。。。
頼む。。。
もう、『時間切れ』なんだ。。。
僕の思いを話せるの、聡君(=里子の亡き恋人)と君だけになるんだ。。。」
また、孝さんの両目から涙が流れた。
孝さんは涙を拭おうとせず、さらに誠司さんの遺影に語り掛けた。
「天国で、、、君は、、、パンデミック前のように、、、
智樹君達と楽しく遊んでいるんだろうか?
あの、君が智樹君達と遊んでいる姿を、
叶うのなら、、、もう一度見たい。。。」
そう言うと、孝さんは両目を固く閉じた。
そして両目から涙が流れた。
孝さんは口を堅く閉じた。
でも、その固く閉じた口から「く” く” く”」と音が漏れた。
孝さんは肩を震わせていた。
数分後、孝さんはやっと落ち着き、涙を拭い、誠司さんのご両親に頭を下げ、「ありがとうございました」と述べた。
誠司さんのご両親も涙を流し、「ありがとうございます。」と言って、孝さんに頭を下げた。
折角なので、私(=瀬名)も里子さんも、誠司さんの遺影の前に正座で座り、手を合わせて、誠司君を弔った。
誠司さんのご両親は私達(=瀬名、里子、孝)に語った。
誠司さんのお父さんは微笑み、私達に語り掛けた。
「今日は、はるばる、息子(=誠司)を弔うため、
我が家に来ていただきありがとうございました。」
誠司さんのお母さんも微笑み、私達に語り掛けた。
「息子(=誠司)が亡くなってから、弔ってくれる男の子はおらず、
息子(=誠司)の友達も全滅したものと思っておりました。
でも、息子(=誠司)を弔ってくれる男の子が1人でもいたことが、
驚きであり、喜びです。」
そして、誠司さんのご両親は「ありがとう」と言って、私達(=瀬名、里子、孝)に頭を下げた。
誠司さんの家を辞すると、里子さんは私(=瀬名)と孝さんに告げた。
「ここで(=誠司の家の前)で別れよう。」
そして、里子さんは孝さんに話した。
「孝。いまだ、瀬名とデートしてないだろ?
帰りに瀬名をどこかに連れて行ってやれ。
折角、孝は背広着て、瀬名はスーツ着ているんだから。。。」
そう言うと、里子さんはLFH市の駅まで歩いて行った。
孝さんは戸惑いながら、私(=瀬名)に語り掛けた。
「ちょっと距離がありますが、
近くに豆腐レストランを知ってますから、そこでランチとしませんか?」
私(=瀬名)も戸惑いながら答えた。
「ええ。。。」
LFH市は私の実家のNOH市NE区のすぐ隣なので、その店は知っていた。
有名な豆腐レストランだ。
ちょっと距離があるので、孝さんはスマホを操作して、タクシーを拾い、その店に行った。
店に着くと、11時半で、ちょうどランチにはぴったりの時間となっていた。
私(=瀬名)と孝さんは店に入ると、ちょっと待たされたが、個室に通されて、ランチを楽しんだ。
私(=瀬名)はランチを食べながら、孝さんに問うた。
「孝さん。。。
誠司君を弔った際に、『時間切れ』って言ったけど、、、
どういう意味?」
孝さんは苦笑いを浮かべながら、答えた。
「昨夕、大学から連絡がありました。。。」
私(=瀬名)は戸惑いながら問うた。
「それって、、、まさか。。。」
孝さんは苦笑いを浮かべたまま、頷いた。
「ええ、、、
『3月1日から大学で生活するように』
と、連絡がありました。
2月末には入寮しなくちゃいけません。。。」
私は驚く。
「じゃあ、あと2週間もないじゃない。。。」
そう、孝さんの軟禁開始が3月1日に始まることが決まってしまった。
孝さんは寂しそうに答えた。
「ええ、、、入寮までに、色々準備もあるから、、、
もう、弔いに行くことは無理だと思います。。。」
私(=瀬名)はため息をつき、うなずいた。
「そうね。。。」
これが、私(=瀬名)と孝さんの最初のデートとなった。
【現在の愛唯と瀬名と里子の会話】
リアル瀬名:「前話(S-17)とこの話は、
里子さんにツテを辿った場合、
どうなるのか実際に調べてもらったの。。。」
リアル里子:「そうすると、聡(=里子の亡き恋人)を除く、
18名の亡くなった男子クラスメートのうち、
やっと1人だけ、、、
誠司君のご両親の連絡先と、
住所がわかるってことが分かった。」
リアル瀬名:「その調査結果をもとに、この話を空想したって訳。。。」
リアル愛唯:「(戸惑いながら)里子でも、誠司君1人が精一杯って訳?」
リアル里子:「(うなずく)ああ。。。」
リアル瀬名:「前話(S-17)とこの話を空想してみて、
1つ気付いたことがあるの。。。」
リアル愛唯:「(戸惑いながら)何?」
リアル里子:「リアルストーリーの第2話で、
孝が亡くなった19名の男子クラスメートを弔いたいから、
両親の連絡先と住所を教えてほしいと、
撫山教授に頼んだ時。。。
本当は撫山教授は、
『孝の心情を叶えてあげたかった』のだと。。。」
リアル愛唯:「(戸惑いながら)何故?」
リアル里子:「そりゃ、
『孝の心情を叶えてあげたい』
って気持ちがなければ、
撫山教授の個室に愛唯が入室したとき、
S-10のように、即座に孝との話を打ち切っていたはずさ。
そもそも、個人情報の保護の観点から、
ダメなことなんだし。」
リアル瀬名:「そう、
『旦那様(=孝)の心情を叶えてあげたい』
って気持ちがなければ、
リアルストーリのように、
撫山教授はすでに30分待っていた愛唯さんに、
『あと10分でいいから、待ってくれないか?』
なんて、言うかしら?
私(=瀬名)と里子さんは、
なんとか、旦那様(=孝)を宥めたいから、
あと10分欲しいと言ってる気がするの。。。
でも、宥めたいと言うことは、、、
『旦那様(=孝)の心情もわかる』ってことよね?」
リアル愛唯:「そうね。。。」
リアル瀬名:「しかも、、、撫山教授は、
旦那様(=孝)が間もなく軟禁されることを知っていた。
(第9話)
そして、撫山教授は、官僚を通じて、
旦那様(=孝)が、
将来、厳しい環境に置かれることも知っていた。
(第70話、第71話)
それだけじゃない、、、
もしかしたら、、、
撫山教授は、旦那様(=孝)の孤独と罪悪感も
気付いていたかもしれないわ。。。」
リアル里子:「撫山教授は、
軟禁が始まってしまう前に、
19名の亡くなった男子クラスメートを弔いたいという気持ちを、
『尊重したかった』んだと思うんだ。。。
孝の孤独と罪悪感を少しでも癒しておかないと、
軟禁後の更なる孤独と、
厳しい環境に、
『孝は耐えられないかもしれない』と、
思ったんじゃないかな?
そして、19名の亡くなった男子クラスメートの
ご両親の連絡先や、
住所を教えることを拒否すれば、、、
前話(S-17)とこの話のように、例外を除いて、
男子クラスメートを全員弔うことはできないことは、
『容易に想像できた』はずなんだ。。。」
リアル愛唯:「そりゃあ、まあ、そうね。。。」
リアル瀬名:「でも、建前上、立場上、、、
撫山教授は、
旦那様(=孝)の願いを『聞き届けることはできない』から、、、
大変悩んだと思うの。。。」
リアル愛唯:「それも、そうね。。。」
リアル里子:「もしかしたら、悩んでいるときに、、、
愛唯が撫山教授の個室に入ってきたとき、、、
咄嗟的に愛唯と孝を組ませることを、
思いついたのかもしれない。。。(第2話)」
リアル愛唯:「そうか!」
リアル瀬名:「ま、これを撫山教授に尋ねても、
立場上、答えてはくれないと思うけどね。。。」
次話は2025年2月5日の午前0時に更新予定です。