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第1話 パンデミック後の絶望

2回目の大学2年生の2月、、、


え? なんで2回目の大学2年生かって?


まあ、学校の再開に1年近くを要したからだ。。。




パンデミックが発生したのが1回目の大学2年生の10月、大学が閉鎖されたのが翌月の11月、教職員は全員別の仕事をさせられた。地方公共団体を含む政府機関の事務の補助だったり、警察・消防・自衛隊で働かされた人もいる。


なんとか無政府状態に陥ることを防いだのが、3か月後の1回目の大学2年生の2月頃だ。


非常招集された大学の教職員の代わりの人員を確保する目途が立ったのが、その3か月後の2回目の大学2年生の5月頃だ。


教職員も大学に戻ることを許され、再開の準備を始めたのが、2回目の大学2年生の6月頃だ。


ようやく2回目の大学2年生の10月に一部授業を再開した。




ただし、再開できたのは、リモートによる講義のみだ。演習とか研究は次の4月以降に再開となっている。これは男子学生だけでなく、男性の若手教職員のほとんどが、あの凶悪ウイルスで亡くなっていることにある。

加えて、半年以上大学が閉鎖されていたため、一部研究施設、特に生物系や化学系の研究施設が劣化しており、すぐには復旧できないためだ。特に、生物系は、大学閉鎖の際に、実験動植物を全て殺処分しており、すぐには元には戻せない。




しかも、昨年の10月、つまり私にとって2回目の大学2年生10月、再開できたのは大学3年生までだった。

大学4年生および大学院生は、再開は次の4月の予定だ。すなわち、私達、大学3年生以下は1年間の留年であるが、大学4年生以上は2年間の留年となる。

2年間の留年は、人生設計に大きな影響を与えるため、特に大学院生で退学を余儀なくされた生徒は少なくない。

それでなくても、パンデミック後の経済危機により、職を失った保護者が多く、学部生および大学院生全般で、退学を余儀なくされた生徒も多い。




私は、、、というと、、、幸いにも父が県庁職員なため、学費の心配はないのだが、家庭環境は最悪だ。

パンデミック発生直後、県庁はパニックに陥った。県庁幹部だった父は連日泊まり込みで対応に当たる必要があった。

そこまでは仕方がないだろう。

あの時は無政府状態に陥ることだけは防ぐ必要があった。。。


だが、、、弟の武が発症し、危篤に陥っても、一度も見舞いに来なかった。。。

しかも、、、葬儀にも顔を出さなかった。。。

このことは、許せない。。。

あれから、父とは一度も会話を交わしていない。

一生、許す気はない。

一生、会話を交わすつもりもない。。。


1か月後、私も『学徒動員』として、NOH市の事務手伝いをした。

その際に職場の人にこのことを話すと、NOH市の職員がこう話した。


「あのときは、『人類滅亡の危機』として、個人より人類全体のことを考えて、行動しなくてはならなかった。お父さんのように、息子の見舞いもせず、葬儀にも参加できなかった職員は、地方公共団体を含め、政府機関の中に大勢いる。」

      

私も21歳の大人だ。それはわかる。

でも、、、やっぱり、、、肉親として許すことはできないのだ。。。


頭では許すべきとは思う。。。

でも、、、頭と心は別だ。心は許せないのだ。。。


母もあまり父と会話を交わしていない。母も父を許せないのだろう。。。




私と父の関係は最悪だが、私と母の関係もよくない。。。

弟の武が発症したとき、すでに母は臨時職員として働いていた。

その合間で母も看病に来た。


そう、武の看病はもっぱら私が担ったのだ。。。


といっても、凶悪ウイルスのため、病室には入れず、ガラス越しで見守るだけだったが。。。

同時期に健司も発症し、健司の看病にも行きたかったのだ。


だから、母が看病している間、健司の看病に行きたいと母に願ったが、母に拒否された。


「だめよ! あなた(=愛唯)に何ができるっていうの? あちら(=健司の入院先)に行っても、ここ(=武の入院先)と同様に見守ることしかできないわ! それよりも、今は体を休めなさい。」


母の言うことは正しい。

でも、一目でもよいから、健司の看病に行きたかった。。。




その後、健司が危篤状態になったとの連絡が、健司のご両親から受けた。

せめて、せめて、、、臨終となる前に、彼を見舞いたかった。。。


だから、仕事の合間に来た母に、事情を話し、もう一度願った。

それでも母は拒否した。。。


「だったら、、、あなた(=愛唯)が行く意味は、猶更ないじゃない! 今行って、何が変わるわけじゃないでしょう? それよりも、、、今は武の方が大事じゃない!」


ついに私は母を罵ってしまった。


「なによ! 母さんは、健司より、武の方が大事だってこと? 出来の悪い私より、優秀な武の方が大事だってこと?」


振り返ってみれば、母はそんなことを言ったわけではないのだと思う。

あのときは、武を看病しているストレスと、健司の看病に行けないストレスから、つい八つ当たりしてしまった。


あれ以来、母とも、あまりしゃべっていない。。。



家庭内で会話はない。。。家族はバラバラだ。。。

家庭崩壊しているのだ。。。

本当はこんな家にいたくない。。。

でも、、、健司がいないから、、、行くところがない。。。


パンデミックの前、私の興味は、『オシャレ』と『遊び』と『恋人の健司』だった。

でも、『オシャレ』も『遊び』も、『恋人の健司』あってのものだった。


パンデミック発生直後は閉店していたデパートが10月に再開した。

でも、優子と出かけてみたが、あまり楽しくなかった。

新しい服を買っても、それを見てもらって、褒めてくれる健司がいないと思うと、健司がいないさみしさを思い出すだけだった。。。

    

遊びも、遊んでくれる相手である、健司がいないんじゃ、どうしようもない。。。




ねえ、健司(=恋人)、武(=弟)、、、どうして、二人とも死んでしまったの?


武が死んでも、健司が生きていれば、『健司との未来』を夢見て生きていけただろう。。。


健司が死んでも、武が生きていれば、家庭に安らぎがあっただろう。。。


私はすべてを失ってしまった。。。


すべてを奪われてしまった。。。




私には、どこにも行くところがない。。。

私はどうしたらよいのかわからない。。。

何をやってもむなしいだけ。。。




こんな調子なので、大学の勉強なんか、する気がない。


パンデミックの前でさえ、『大学での勉強に熱が入らなくて、落第スレスレの低空飛行』だったのが、全く勉強しないので、さらに悪化し、赤点ばかりだ。。。


CCコースの先生達は、優しい先生と、厳しい先生と二つに分かれる。

いつもは厳しい先生でさえ、追試、追追試、課題提出で、なんとか単位を出そうと温情を示してくれている。

後に聞いた話であるが、パンデミック直後は私のように成績が悪化した学生が多く、パンデミック前のように単位認定していると、多くの学生が進級できない事態だったそうだ。。。

だから、、、多くの先生が、なんとか単位を出そうとしていたそうだ。。。


だが、、、私にやる気がない。。。

このままでは3年生への進級が危ういが、『もう、どうでもよい』と思っている。


どうせ、、、行きたかった大学じゃない。。。

そもそも、パンデミックの前から、大学なんてつまらなかった。。。

もう、、、大学なんて、、、辞めてしまいたい。。。




実は、進級について面談したいと撫山(なでやま)教授から、なんども連絡があったが、すっぽかしている。


撫山(なでやま)教授はCCコースの中では最も優しい先生で教授だ。微笑みを絶やさないため、『仏の撫山』と言われている。


パンデミック前は、何度も温情で単位をくれた先生だ。撫山(なでやま)教授が大学1年生の頃、温情で単位をくれなかったら、2年生にも進級できなかったかもしれない。


撫山(なでやま)教授は瘦せ身で身長180cm弱で、いつも上品に背広を着こなす、英国紳士って感じで、女子生徒の人気も高い。しかも、超難関のEC大出で、他の先生に比べて、言動一つとっても、なんか別格って感じ。。。


その撫山教授の講義のテストで赤点となり、追試や追追試も赤点だった。課題提出を命じられて、先日課題をメールに添付で提出した。でも、適当にやっただけなので、まあ、面談の内容は想像がつく。。。


先生方の温情により、ようやく3年生に進級するだけの単位は、あと少しだ。撫山(なでやま)教授から、単位をもらえば、なんとか3年生に進級できる。


しかし、単位認定するには、提出した内容ではダメで、再提出しろとか、そんなところだろう。たぶん、再提出する内容について、具体的に指示したいので、面談したいというところだろう。


撫山(なでやま)教授の温情はありがたい。

でも、、、でも、、、

もう、大学なんて行きたくないんだ! 

あんなつまらないところ、行きたくないんだ!!


だから、、、面談の約束を、何度もすっぽかしている。。。

困った撫山(なでやま)教授は、ついに母に連絡した。

驚いた母は大学に登校し、撫山(なでやま)教授と面談するよう勧めた。

だが、、、それでも、私はすっぽかした。

今度は母は強く勧めた。それに私は逆切れしてしまった。


「うっさいわね! 今まで、、、武ばっかりで、、、 私はほったらかしにしておいて、、、いきなりなによ!」

「私は理数系に行きたかった。 でも、母さんが無理やり文系を選択させた!」

「それでやる気がなくなったのに。。。 今更、勝手すぎるわ!」

    

言っても仕方のないことを言ってしまった。

だから、、、余計、家に居づらくなった。。。

口に出してしまった後で、後悔した。。。




それでも、母は毎日登校を勧めた。

でも、私は登校しなかった。




そして、、、母だけでなく、

ある日から、親友の優子まで、家に来て登校を促し始めた。


「ねえ、愛唯(メイ)。一緒に大学に行こう! 撫山(なでやま)教授との面談、一緒に受けてあげるから。。。」


とか、


「ねえ、愛唯。一緒に3年生になろう! 私(=優子)は愛唯と一緒に、3年生の授業を受けたいの。。。」


と言ってくれた。


優子は何度も私に家を訪ねてきた。優子の友情はありがたかったが、私は登校しなかった。


後に優子が教えてくれたが、母は優子の家を訪ね、涙ながらに優子にお願いしたそうだ。


「愛唯がこうなってしまったのは、すべて私(=母)のせい。

 愛唯を古い価値観で縛り、過度に干渉し、

 無理やり進路を曲げてしまった。

 そのくせ、武が優秀なことに盲目になって、

 愛唯のことは無関心だった。


 あげく、武の可愛さために、

 愛唯が健司さんに看病に行きたいという恋人として、

 当然の心情を踏みにじってしまった。


 母親として失格だった。


 でも、このままでは、愛唯はダメになってしまう。

 お願い。せめて、大学だけでも卒業できるよう、協力して。。。


 私(=母)じゃダメなの。。。」




母や優子の説得にもかかわらず私が登校しないため、ついに、撫山教授から母に以下の連絡が入った。


「新しい入校許可証を作成する日に面談に応じないなら、進級させない。」




2月下旬の新規入校許可証を作成する日の朝、CCコースの生徒でまとまって入校許可証を作成する予定であるが、私はベットから出る気はない。


母は私の部屋に入って、登校を促す。


「愛唯。今日は入校許可証を作成しないといけないから、起きて出かけなさい。」




私は何も答えず、ベットに潜り込んだままだ。


「・・・」




母はさらに登校に促す。


「愛唯。お願いだから、登校して。」




私はいつものように拒否する。


「うっさいわね!」





母はいつもように私の部屋から出て行った。





    

それから、30分くらいたったころ、誰かが布団を剥ぎ取った。

私はてっきり母と思って、抗議した。


「寒いなー! 何すんのよ!」




だが、そこには優子が涙ぐみながら、立っていた。後に聞くと、母から頼まれたらしい。優子は私を罵った。


「愛唯! いい加減にしな! 恋人や兄弟を失ったのは、あんただけじゃない! 私だって、恋人の翔を失った!」



優子は続けた。


「今日、登校しなければ、あんたは恋人や兄弟だけでなく、別のものも失い続けるかもしれない! どんどん落ちていくあんたを見たくない!」




私は言い返す。


「これ以上、何を失うっていうのよ!」

 



優子も言い返す。


「今日登校しなければ、3年生に進級できないわ。そうなれば、あんたはますますやる気を失って、登校せず、最終的には退学するでしょうね。。。」



優子は続ける。


「退学した後、あんたは何をするの? 何がしたいの? 結局、何もしたくなくって、引きこもるでしょうね。 今、あんたは瀬戸際にいるのよ! ここで踏みとどまりなさいよ!」




私は口膨らませて、不満を漏らす。。。


「そんなこと言ったって、大学なんてつまらないし、行きたくないもん!!」




優子はなだめる。


「ねえ、愛唯。先生からの情報なんだけど、

 CCコースの男子クラスメート、1年から4年まで約80名なんだけど、

 『1人だけ助かった』んだって。。。


 しかも、『私達と同じ学年』だって。。。


 今日はCCコース全員の新規入校許可証を作成するから、

 その子も登校するよ。誰か見てみない?


 まあ、翔や健司には及ばないと思うけど、

 新しい恋ができるかもしれないよ?」




私は助かった男子クラスメートがいるということを聞き、


【なぜか】登校した方がよいと思った。




私はつぶやいた。


「仕方ない。登校しますか。。。」




私は渋々登校に合意し、撫山教授と面談することにした。



















後に母は語る。


「何度も、何度も、登校促したけど、ダメだった。。。


 だから、愛唯はもうダメだと、

 愛唯はもう、どうしようもないと、

 思っていた。。。


 そもそも、愛唯がああなったのは、

 私のせいなんだし。。。


 私への罰だと、あの朝まで思っていた。。。


 でも、あの朝、【なぜか】もう一度、

 優子さんに頼もうと思ったの。。。」

    



後に優子も語る。


「実は、親友の私でも、

 何度登校促してもダメだったので匙を投げていたんだ。。。

 愛唯はもうダメだと。。。


 愛唯が、このまま、どんどん、落ちていくのを、

 ただ見ているしかないと、思っていた。。。

 あの朝まで。。。


 でも、あの朝、愛唯のお母さんに頼まれた時、

 【なぜか】もう一度、やってみようと思ったんだ。。。」




こうした、【なぜか】が重なり、

この後、私の心の中に化学変化が生じるイベントが発生する。




実はそのイベントの発生には、さらに【なぜか】が重なる。。。

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