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40歳未満の男性が100分の1となった世界。絶望の社会を明るく生きる女の子、愛唯(メイ)  作者: U.X.
番外編(その1) もし、優子が孝と恋人になるルートがあったとしたら
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Y-2(優子ルート・第2話) 優子、空想を語る前に、その後の愛唯と孝を語る。(その2)

(次話からの続き)


さて、、、研究室の4年生の一人から、「片思いですらしたことがない」と聞かされた、次の週のティータイムだった。

 

幸代准教授は自らのことを話し始めたんだ。

 

 

 

研究室のメンバと幸代准教授は長机を囲んで、瀬名の手作り菓子と紅茶を楽しんだ。

 

そして、幸代准教授はティーカップを机に置き、静かに語り始めた。

 

「パンデミックの数年前、私はNOH大に講師として赴任し、

 生活が安定したこともあって、結婚したいと思ってね。。。

         

 いくつかお見合いをしたの。。。」

 

 

 

研究室のメンバは全員驚きの表情を浮かべた。

 

それを見た幸代准教授はむっとした表情で、研究室のメンバに語った。

 

「失礼ね!

 『鬼の幸代』でも、結婚したいと思ったの!

 それに、パンデミックの直前、婚約までこぎつけた男性だっていたの!」

 

 

 

愛唯は苦笑いを浮かべながら、フォローする。

 

「まあ、幸代先生は美人ですから。。。」

 

 

 

幸代准教授も苦笑いを浮かべながら、話を続けた。

 

「そうね。。。

 学生時代は結構モテたと自負しているわ。。。」

 

 

 

突然、幸代准教授は暗い表情で語った。

 

「でも、その婚約者は、、、

 皆がもう想像していると思うけど、、、

 パンデミックが発生した10月に亡くなってしまったわ。。。」

 

 

 

幸代准教授は暗い表情のまま、話を続けた。

 

「でも、実際のところ、、、

 その婚約者を亡くした悲しみに浸る余裕はなかったわ。。。

         

 だって、パンデミックが発生した10月は、、、

 数多くの男子学生や男性教職員が亡くなったって連絡が、

 毎日のように入ってね。。。

         

 NOH大は混乱の極みにあったわ。。。

 大学は全く機能していなかった。。。

 私は、その対処に追われる毎日が続いていたわ。。。」

 

 



 

幸代准教授は少し表情を戻すと、話を続けた。

 

「パンデミックが発生した10月の翌月、つまり11月にNOH大は閉鎖となり、

 教職員は役所・警察・消防の欠員補充として動員されたわ。。。

 (プロローグ)


 私は警察の仕事だったんだけど。。。」

 

 

 

私は驚いた。

 

「え? 

 私、学徒動員で警察の事務処理手伝いをしていたんですけど。。。」

 

 

 

すると、幸代准教授は笑い出した。

 

「ははは!

 もしかしたら、当時、私は優子君と会っていたかもね。。。」

 

 

 

幸代准教授は笑顔のままで、私に語り掛けた。

  

「でも、優子君は学徒動員で、

 『手伝い』ということで、まだ楽な方だったの。。。

  

 私の場合、きつい仕事もあったわ。。。

 パンデミック直後は治安が悪化してね。。。

 機動隊の一員として、暴徒鎮圧に駆り出されたこともあったわ。。。

         

 ほら?

         

 私、それほど、体格に恵まれていないから、、、

 もう、きつくって。。。」

 

 

 

そう、幸代准教授は、身長150cm前後の痩せ身だ。(第159話)

しかも女性の身ではきつかっただろう。。。

 

しかし、40歳以下の男性警察官がほとんど亡くなった状況では仕方がなかったのかもしれない。。。

 

 

 

 

 

幸代准教授は天井を見上げると、話を続けた。

  

「私は地元を離れて、NOH大に赴任したわ。

 だからね。。。この地方に友人はほとんどいないの。。。

 偶然、この地方に就職している友人が一人だけいるの。。。

         

 でも、その友人は夫と子供2人全員を亡くしてしまった。

 だって、その子供2人は全員男の子だったから。。。

         

 その友人は夫と子供全員を亡くしたショックから、

 自殺しかねない雰囲気があったわ。。。

         

 実際、夫と子供全員を亡くした妻は、当時多くってね。。。

         

 夫と子供全員を亡くしただけでなく、

 パンデミック直後の経済危機で失業した妻も少なくなく、

 絶望の末、自ら死を選んでしまった妻は少なくないの。。。」

 

 

 

私も愛唯も孝も、幸代准教授の言う『友人』が、緑課長のことを指していると察した。

 

 

 



幸代准教授は天井に向けた視線を、研究室メンバに戻すと、暗い表情で話を続けた。

 

「当時は、

  『もう大学には戻れないかも』

 って思ったわ。。。

  

 そして自殺しかねない友人も心配で、、、

         

 当時住んでいたNOH市の賃貸マンションを解約し、

 友人宅に転がり込んだの。。。

         

 そして、二人で励まし合ったわ。。。」

 

 

 



幸代准教授はすこし明るい表情で話を続けた。

 

「次の年の6月、ようやく警察の仕事から解放されてね。。。

 大学への復帰を認められたわ。。。

         

 当時の警察署長からは、

  『我が国を立て直すため、若い人を育ててください』

 とのねぎらいの言葉をもらってね。。。」

 

 

 



しかし、幸代准教授は再び表情が暗くなった。

 

そして顔を左右に振って、話を続けた。


「でも、、、半年余りの閉鎖で、NOH大は荒れ果てていたわ。。。

  

 実験用の生物は閉鎖の際に殺処分していたし、

 薬品は変質してしまったものもあるし、

 精密機器は狂ってしまったものもあったし。。。

 (第1話)

         

 また、そう言った大学の設備だけでなく、

 男子学生と40歳未満の男性教職員がほとんど亡くなり、

 人的資源もなくなってしまって、、、

         

 もう、どこから手を付けて良いのか、途方に暮れたわ。。。」

 

 

 

幸代准教授は机を見つめ、話を続けた。

 

「加えて、、、

  『生き残った男子学生と男性教職員を保護するための住居と、

   壁やセキュリティゲートの建設を2月末までに作れ』

   (第2話)

 と、8月に命じられ大変だったわ。。。

         

 パンデミック前は、NOH大の周辺には、

 あんな高い壁やセキュリティゲートなんてなかったの。。。」

 

 

 

幸代准教授は視線を研究室メンバに戻すと、話を進めた。

 

「だから、仕事があふれてしまって、、、

 友人宅への帰りが遅くなる時が多かったわ。。。」

 

 

 



幸代准教授は再び机を見つめると、話を続けた。

 

「ある夜、その夜も仕事の帰りが遅くなっちゃって、、、

 でも、友人宅に帰ってみると、家に灯りがついていないの。。。

         

 あわてて、友人宅に入ると、友人が玄関の中でうずくまり泣いていたの。。。

         

 そして、友人は大粒の涙を流しながら、こう言ったの。。。

  『家に帰っても誰もいない。。。夫と息子二人に会いたい。。。』

 って。。。


 それどころか、

  『夫と息子のところへ逝きたい!』

 って、泣いて叫んだこともあった。。。」

 

 

 

幸代准教授は視線を研究室メンバに戻し、ため息をついて、話を進めた。

 

「このとき、私は悟ったの。。。

 友人には、『新しい夫、または子供が必要だ』と。。。」

 

 

 



幸代准教授は、再びため息をついて、苦笑いを浮かべた。

 

「でもねー。。。

  

 40歳未満の男性が100分の1になっちゃったから、、、

 お見合い相手を探すのが難しいの。。。

         

 パンデミック前なら、ツテとか、結婚相談所みたいな業者がいたけど、

 彼らは辞めてしてしまって。。。」

 

 

 

幸代准教授は顔を横に傾けて、苦笑いを浮かべながら、話を続けた。

 

「ま、友人のご両親が、

 友人と10歳以上年上の男性を探してきて、お見合いさせたんだけど、、、

 うまくいかなかったみたいね。。。」

 

 

 



幸代准教授は傾けた顔を元に戻すと、話を続けた。

 

「仕方がないからね。。。

  

 休暇を取って、友人を役所に連れて行って、

 私と友人は精子提供を申請したの。。。

        

 実際に精子提供を受ける前に、周期を調べ、薬も服用して、

 準備を整えて、精子提供に臨んだわ。。。」

 

 

 

幸代准教授は苦笑いを浮かべ、話を続けた。

 

「でも、、、皮肉なことにね。。。

 友人は精子提供を受け、最終的には子供授かったの。。。

 でも、私は子供を授からなかった。。。」

 

 

 

一瞬、緊張したが、幸代准教授は、緑課長の拍子法行為については伏せた。

ま、幸代准教授は、私、愛唯、孝を、目で制してはいたが。。。

 

 

 

そして、初めて知った。幸代准教授は、緑課長とほぼ同時期に精子提供を受けたのだ。

 

だが、二人とも精子提供で子供を授かることはなかったのだ。

 

でも、諦めきれなかった緑課長は、拍子法行為を希望し、子供を授かったのだ。

 

 

 



幸代准教授は、苦笑いから、笑顔に変わり、話を続けた。

 

「さっき言ったように、私は友人の家に居候しているから、

 その友人の子供は生まれた時から、一緒に暮らしているの。。。」

 

 

 

幸代准教授は、笑顔のまま、話を続けた。

 

「仕事柄、友人の家に帰るのは遅くなることが、多いのだけど、、、

  

 それでも、友人の家に早く帰った時は、その子供が笑顔で

  『サッチー!』

 って駆け寄ってくるの。。。

         

 その駆け寄ってくる子供の笑顔がまた見たくて、

 これでも早く帰っているの。。。

         

 パンデミック前より、ずっと早く帰っているわ。。。

         

 あ、『サッチー』というのは、私の学生時代のあだ名。」

 

 

 

幸代准教授は、笑顔のまま、さらに話を続ける。

 

「その友人の子供は、私とは血のつながりはないわ。

 でも、私にとっては、私の子供のようなものよ。。。

         

 その子供は来年小学校へ入学するんだけど、

 友人は一緒に入学式へ行こうって誘ってくれているの。。。

         

 今、休日は、その子供の勉強机やランドセルを、

 友人と一緒に選んでいるの。。。

         

 で、気が早いかもしれないけど、、、

 友人と、来年、入学式に着てゆく自分達のスーツを一緒に選んでいるの。。。」

 

 

 



幸代准教授は、天井を見上げ、笑顔で語る。

 

「パンデミック直後、友人の家に無理やり転がり込んで良かった。」

 

 

 

幸代准教授は笑顔のまま、研究室のメンバに顔を向けて、語った。

 

「皆(=研究室メンバ)、、、

  

 40歳以下の男性が100分の1となった今、恋人になれる人は圧倒的少数よ。

         

 そして、たとえ一夫多妻を受けいれたとしても、結婚できる人も少ないわ。

         

 また、精子提供を受けても、たった1回の機会しかないから、

 子供を授かる人は全員ではないかもしれないわ。

         

 でもね。

 私のように子供を持つことはできるのよ。」

 

 

 



研究室メンバは顔を見合わせた。

 

そしてある研究室メンバが、隣に座っているメンバに言った。

 

「もし、私とあなたが二人とも結婚できなくて、、、

 かつ、どちらかが精子提供で子供を授かったのなら、、、

 その子供を一緒に育てよう!」

 

 

 

隣に座っているメンバは、笑顔で頷き答えた。

 

「うん!」

 

 

 

実際のところ、パンデミック後の世界では、一人の女性の子供を、複数の友人と共に育てるケースは少なくないらしいんだけど。。。

 

 

 

おそらく、緑課長が、私が送付したメール、4年生の1人が片思いですらしたことない聞かされたメールについて、幸代准教授に話したのだろう。

 

 

 



それにしても、、、


第194話で愛唯も言っていたけど、幸代准教授って本当に不思議な人だ。


研究では本当に厳しい。


でも、研究を離れれば、研究室のメンバにこんな話をしてくれる。




そして、幸代准教授の親友、私の上司の緑課長も不思議な人だ。


仕事では暴走ばかりで困った人だ。


でも、妊婦の私に気を遣ってくれる。


良い上司だと思っている。




194話で愛唯の言うとおり、幸代准教授と緑課長との出会いは、私と瀬名の人生を大きく変えた。


一方、その出会いをもたらしたのは、孝であり、愛唯なのだ。




私も瀬名も口にしたことはないが、愛唯と孝には感謝している。

次話は2024年11月5日の午前0時に公開予定です。

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