第190話 旅立ち(その3) ー撫山教授の個室にてー
【本文】
(前話からの続き)
課室で泣いてしまったが、なんとか落ち着くと、私達(=ヨメンズ、孝)は撫山教授の個室を訪ねた。
そう、『旅立ち』の挨拶をするために。。。
この撫山教授の個室も、私にとって、思い出の場所だ。
孝とCCコース男子クラスメートの弔いの同行を命じられた(第2話)。
孝をトランクに押し込んで守衛を突破してさんざん叱られた(第20話)。
拍子法行為のとき100分の1の男性の真実を知らされた(第70話、第71話)。
RRFM社を退職し大学院進学をお願いした(第148話、第150話)。
今となっては懐かしい。。。
机を挟み、私達(=ヨメンズ、孝)は、撫山教授と向き合い、座った。
撫山教授は研究から一旦離れると、いつも『仏の撫山』に戻る。
撫山教授は微笑みながら、口を開いた。
「孝君、ちょうど5年前、君は、
『もしかしたら何者かが、
愛唯さん、優子さん、瀬名さん、里子さん、僕を
CCコースに5年前に入学するように導いて、
パンデミックを起こしたのかもしれません。』
(第125話)
って言ったな?」
孝は戸惑いながら、うなずいた。
「はい。」
撫山教授は続けた。
「わたしはこう答えた。
『ありうる』
と。。。
そして、私はこう続けた。
『すべての大学ではないが、幾つかの大学で、
愛唯君と孝君のように、危なっかしいが、
大学を立て直したコンビが出現した』
(第126話)
と。。。」
撫山教授はさらに続けた。
「そして、君達(=ヨメンズ、孝)は、
葵君、哲君のNOH大の最凶最悪コンビと出会った。
優子君はRRFM社で他の最凶最悪コンビと出会っている。。。」
私達(=ヨメンズ、孝)は黙ってうなずいた。
撫山教授は続けた。
「だが、今日、私が言いたいのは、そこじゃなく、
『全ての大学で、最凶最悪コンビが出現したわけではない』
ってことなんだ。」
私達(=ヨメンズ、孝)は戸惑い、一斉に、
「「「「は?」」」」
とつぶやいた。
撫山教授は片手をあげ、私達を制した。
そして話を続けた。
「加えて、最凶最悪コンビが出現した大学でも、
極めて短期間でコンビが解消してしまったり、
君達(=ヨメンズ、孝)や、葵君や哲君のような、
『大活躍をしていないコンビもいる』んだ。。。」
私はますます混乱した。
「それってつまり?」
撫山教授は微笑み語った。
「ほら、
『神は乗り越えられない試練は与えない。』
って言うだろ?
I大の場合、
『ちょうど10年前の4月、
愛唯君、優子君、瀬名君、里子君、孝君をCCコースに入学させ、
I大に【試練を乗り越える素地を与えた】上で、パンデミックを起こした。』
って考えることができるのさ。。。
ちょうど、5年前の今日、孝君が指摘したように。。。」
(第125話)
撫山教授は続けた。
「パンデミックを起こした後、何者かは愛唯君と孝君をくっつけたのだろう。」
私は戸惑いながら問う。
「それってつまり?」
撫山教授は微笑み答える。
「そう。。。
7年と2か月前、新しい入校許可証を配布した日、
意欲の萎えた愛唯君を登校させた。
(第1話)
そして、愛唯君と孝君に、
当時のCCコース2年生の男子学生の弔いに行かせた。」
(第2話)
不意に撫山教授は天井を見上げ、目を閉じ、顔を横に振ると、再び目を開けて、私達を見つめ話した。
「だが、同時に、君達(=ヨメンズ、孝)に、
『最初の試練を与えた』んじゃないか?
つまり、、、
『愛唯君を立ち直らせるという試練』と、
(第1話~第5話)
『孝君の孤独という試練』と『孝君に対する誹謗中傷という試練』を、、、
(第13話~第15話)
あわせて3つの試練は、君達(=ヨメンズ、孝)への『最初の試練』となった。
(第1章)
それらを解決できるのか、君達(=ヨメンズ、孝)を試したんじゃないか?」
撫山教授は苦笑いを浮かべて続けた。
「なんとか、その最初の試練はクリアした。
まあ、孝君をトランクに押し込んで守衛を突破するという、
愛唯君の最初の暴走があったが。。。」
(第17話)
撫山教授は続けた。
「だが、もしかしたら、、、
『最凶最悪コンビが出現しなかった大学は、素地はあったものの、
最初の試練をクリアできなかったからじゃないか?』
って最近思うんだ。。。」
私は戸惑いながら問うた。
「それはなぜ?」
撫山教授は答えた。
「君達(=ヨメンズ、孝)には、次々と試練が訪れたじゃないか。。。
最大のものは拍子法行為があったし。。。
(第68話~第75話)
大学祭の乱闘騒ぎも、
竜二君達、取り残された者に対する試練も背景にある。。。
(第38話)
一夫多妻を受け入れたことの試練もあった。。。
(第92話~第97話、第130話~第131話、第139話~第140話、第161話)
それらを何とか乗り切った。。。」
撫山教授は苦笑いを浮かべた。
「ま、それらにはここにはいない里子君の協力もあったし、
私を含め、先生方の協力もあったけどね。。。」
撫山教授は続ける。
「今思えば、、、
『【大活躍をしていないコンビ】は、最初の試練は乗り越えたが、
次の試練は乗り越えられなかったんじゃないか?』
って思うんだ。。。」
瀬名が戸惑いながら問う。
「それってつまり?」
撫山教授は顔を横に振り答えた。
「生き残った『最凶最悪コンビ』、
まあ、君達(=ヨメンズ、孝)は『最凶最悪カルテット』だが、、、
『生き残った者には、これからも試練が与えられるだろう。』
ってことだ。。。」
優子も戸惑いながら問う。
「それはなぜ?」
再び撫山教授は顔を横に振り答えた。
「それはわからん。。。
生き残った者に、何かをさせようとしているのかもしれんな。。。
それが何かはわからんが。。。」
撫山教授は私達を見つめて、続ける。
「だが、私が君達(=ヨメンズ、孝)に言いたいのは、そう言うことじゃない!」
私達(=ヨメンズ、孝)は戸惑い、「「「「え?」」」」とつぶやいた。
撫山教授は笑顔で語る。
「これからも訪れるであろう、『多くの試練に打ち勝ち、生き残ってほしい』!
これは、私も、幸代君も、緑君も同じ思いだ!
3人(撫山教授、幸代准教授、緑課長)は、
これからも君達(=ヨメンズ、孝)をサポートし続ける!」
私達(=ヨメンズ、孝)は一斉に、答えた。
「「「「はい!」」」」
撫山教授は笑顔で続ける。
「愛唯君、孝君、3年後、『I大に戻って来い』!
そして、このI大で、学生達に『本来の夫婦の姿を見せてほしい』!
(第152話)
それは、もう、愛唯君と孝君だけの夢じゃなく、『私の夢でもある』んだ!」
私と孝は一斉に答えた。
「「はい!」」
撫山教授は少し表情を厳しくして、私と孝に語った。
「講師は公募となるので、他の応募者との競争で勝たなくてはならない。
それまでは愛唯君と孝君をもっと鍛えるからな。」
私は思わず、「え?」とつぶやいた。
もう勘弁してください。。。
このオヤジ(=撫山教授)、本当、厳しかったもん。。。
だが、撫山教授は苦笑いを浮かべた。
「ま、当面は、幸代君に主役を譲るがね。。。」
そうだった。。。
明日からは、撫山教授でなく、『鬼の幸代』の異名がある幸代准教授の指導を仰ぐんだった。。。
はー、、、勘弁してよ。。。
撫山教授は苦笑いを浮かべたまま、話を続けた。
「それにしても、、、
パンデミック前は65歳定年で、私は今、定年間際の筈なんだがな。。。
だが、あのウイルスで40歳未満の男性が100分の1に激減したため、
定年は75歳になった。。。
だから、あと10年以上は働かなくちゃいけなくなった。。。」
そう言うと、撫山教授はため息をついた。
孝が笑顔で撫山教授に話しかけた。
「何をおっしゃいますか。。。
僕と愛唯さんには、まだまだ撫山先生のご指導は必要です。。。」
私もうなずいた。
「ええ。。。」
実は孝がI大の助教をしていたから、教えてもらっていたんだけど、、、
撫山教授には次期学長に推す教職員が多いんだって。。。
でも、3年後、私と孝がI大に戻るまでは、学長になるのは固辞しているんだって。。。
そして、私達は撫山教授に別れの挨拶を済ませると、個室を出た。
(次話に続く)




