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第18話 vs女子クラスメート(その4) ー説明、そして溢れる思いー

(前話からの続き)


聡君の墓から、私たちは分乗してI大学に帰った。




孝は、どうやって大学を出たかを説明しないといけないので、座席に乗せて大学に入るわけにいかず。。。ははは。。。


やっぱり、私の車のトランクに押し込まれて、検問を突破し、大学に入った。

 

大学の駐車場に着き、トランクから孝を引っ張り出すと、孝は「撫山先生に会ってきます!」と言って、走っていった。






孝を除き、CCコースの3年生は、課室に戻った。


課室に戻ると、私はホワイトボードの前に立ち、説明を始めた。


クラスメートは私に向かって、立って話を聞いていた。


「さて、ウイルスの戦い方と、どうして孝が寮にいたくないのか、

 説明するわね。。。


 特に、寮にいたくない理由は、男性が女性に説明するのは

 難しいだろうから。。。」




まずはウイルスとの戦い方をかいつまんで説明した。

・両親に祖父母としてではなく、

 第2の両親として子育てを手伝ってもらう必要がある。

 また、長く働いてもらう必要がある。

・社会の変革や経済の発展が必要なため、学生のうちは勉強する必要がある。



 

クラスメートの反応は様々だったが、瀬名がつぶやいた。


「頭の良い人だとは思ったけど、ここまで。。。」




一方、里子は困っていた。


「私はCCコースに入学したけど、成績がなー。」




私は笑顔で返した。


「要は社会に出て活躍すればよいのよ。。。

 別の道を探ってもよいわ。。。

     

 私と優子が春休みに孝と一緒に勉強していたのは、

 一つには学びなおしが目的だったの。。。


 一度学びなおしてみて、それでだめなら、別の道を探ったら?」




瀬名も笑顔で里子に話しかけた。


「なんなら、私が面倒見ましょうか?」




里子は苦笑いを浮かべ、顔を左右に振った。


「いや。そもそも私は頭を使うのは向いていないし。。。

 別の道を探るよ。。。」

 



ということで、クラスメートは学びなおし派と、別の道を探る派に分かれ、

『学びなおし派』は孝と瀬名に面倒を見てもらうことにし、

『別の道を探る派』は里子を中心に、それぞれの進路を情報共有しながら進むことになった。

  





次に私はスマホを使って、100分の1の意味を教えた。100分の1になるとは、全ての友人を亡くすことであると教えた。

 

女子クラスメートもスマホをいじりながら、語る。


瀬名はこうつぶやいた。


「本当だ。

 私、あまり友人がいないから、100分の1になったら、

 友人はゼロになる。。。」




里子は苦笑いを浮かべてつぶやいた。


「私は数人残るけど、

 これは高校の頃からの部活の先輩・後輩を含めてだから、、、

 

 それでも、先輩・後輩を含めて数人しか残らないってのは、

 相当キツイわね。。。」




他の女子クラスメートも同様だった。。。。






それから、私は孝が、多くの人から、『なぜおまえが生き残っている』と罵倒され、心に傷を負っていることを話した。


孝は、『生き残ってしまった罪』という『罪なき罪』を背負ってしまっていることを話した。


里子は涙を流してつぶやいた。


「じゃあ、さっき私が言った言葉は、孝の心の傷を、更に抉ってしまったわけ?

 私、本当に酷いこと、言っちゃった。。。」




私は里子を慰めた。


「里子、もう気にしないで。。。

 だって、『あなたは2ヶ月前の私』なんだから。。。


 新しい入校許可証が配布された日、

 私は

  『どうして恋人の健司と弟の武が死んで、孝が生き残ったんだ?』

 と思ったもん。。。


 皆もそうでしょ?」


 


女子クラスメートは、瀬名を除き、頷いた。


私は続けた。


「私はたまたま、撫山先生に命じられ、

 孝と男子クラスメートの弔いに行ったから、知っただけなの。。。

 里子、あなたを責められない。。。」






それから、私は、100分の1の男性は、拉致・誘拐を防ぐため、40歳まで軟禁されることを話した。


女子クラスメートは、優子を除き、全員驚いた。


特に瀬名は涙を流し叫んだ。


「そんな! 間違っている!!」

 



里子も動揺しながら問う。


「ニュースでは、

 『100分の1の男性は学校や職場で生活する』としか、言ってないわよ?」




私は答えた。


「私の父は県庁の幹部なので、父が特別に教えてくれたの。。。

 戒厳令の効力が残っており、報道管制が敷かれているから、

 当分の間、100分の1の男性に外出の自由がないことは、報道されないわ。。。」




瀬名は涙を流しながら、新しい入校許可証を掲げながら問うた。


「じゃあ、これ(=新しい入校許可証)ってそういうこと?」




私は頷き答えた。


「ええ、瀬名の言うとおりよ。。。


 新しい入校許可証が配布された時、

 大学の塀が高くなっていたり、セキュリティゲートが設けられていて、

 みんな驚いたと思うけど。。。。


 あれは、100分の1の男性を保護するためと、

 100分の1の男性が簡単に外出できなくするためなの。。。


 100分の1の男性はいわば『罪なき囚人』なの。。。」




それを聞いた女子クラスメートは「ひどい」とか「なんてことを」と口々につぶやいた。中には涙を流す子もいた。


私は続けた。


「想像してみて、

 孝は男子クラスメートを始め、男性の友人全てを亡くしているわ。

 そして、私達、女子クラスメートから浮いていた。

 そのうえ、大学で軟禁となり、家族からも引き離された。

     

 つまり、『孝は完全に孤独になった』の。。。」



  

課室は沈黙に包まれた。




私はさらに続けた。


「100分の1の男性が大学から外に出る場合、

 たとえ実家に帰る場合でも、許可がいるの。。。


 もう1ヶ月以上、孝は大学から一歩も外に出ていないわ。。。」




優子が苦笑いを浮かべ、両掌を天井に向け、両腕を伸ばして、クラスメートに話しかけた。


「ま、さっき、愛唯(メイ)の車のトランクに押し込んで、

 聡君の墓に行った以外だけどね。。」


  


女子クラスメートに笑みがこぼれた。






私は苦笑いを浮かべ、話を続けた。


「知っての通り、この大学には、ほとんど娯楽はないわ。


 だから、100分の1の男性の一部に、孤独を癒したいけど、

 娯楽がないから、女の子に手を出す、不届きな人もいるみたい。。。」

 



里子は片手で頭を抱えて、つぶやいた。


「聡のチームメートで、生き残った奴で、そういうことやっているけど、、、

 そういうことかよ。。。」




里子のつぶやきを無視して、私は話を続けた。

 

「で、、、

 ここからが、孝が寮にあまりいたくない理由なんだけど、

 寮には不届きな人がいるから、『あのときの喘ぎ声』が聞こえるらしいの。。。


 こんなこと、男性から、女性に説明しずらいでしょ?」



里子はあきれた表情で返す。


「あきれた。そりゃ説明しずらいし、あまり寮にいたくないわね。。。」

  





私は話題を変えた。


「まあ、孝は寮にいたくなくって、図書館にいたわけだけど。。。

 誹謗中傷がひどくって。。。」




里子は恐る恐る私に問うた。


「どんな?」




私が答えようとしたが、一瞬早く、優子が答えた。


「100分の1の男性は厚遇されすぎだとか、

 さっきの不届きな人は、100分の1の男性全員がそうだとか、

 孝が生き残ったのはおかしいとか。。。」




瀬名が続いた。


「それは事実よ。私も近くの席にいたから、知っている。。。」




私は視線を下げ、下を向いて、語った。


「そんな誹謗中傷が1ヶ月続いたわ。。。」

 



課室は再び沈黙に包まれた。。。




私は視線を戻し、女子クラスメート全員を見つめ、話を続けた。


「1か月にわたる孤独と誹謗中傷で、

 孝の精神的ストレスは尋常じゃなかった。。。

 それがさっきの自殺未遂につながったと思う。。。


 だから、皆も孝を守ってほしいの。。。

 もう、私と優子だけじゃ、ダメなの。。。


 たとえば、声をかけてやるだけでも、

 孝の孤独を少しは癒してあげられるわ。。。


 皆、お願い。


 一番良いのは、大学から外出させてあげることだけど、

 それは私がなんとかするわ。。。


 あと、あの身なりも、私が何とかする。。。


 だから、孝の孤独を癒してほしいの。。。」




そう言うと、私は女子クラスメートに向けて、頭を下げた。






課室はしばらく、誰も口を開かなかった。


数分程度の沈黙ののち、瀬名がようやく口を開いた。


「皆。。。

 私達に、『とんでもない奇跡が起きた』と思うの。。。


 そりゃ、恋人や兄弟を失った悲劇が起きたけど、

 私達にとんでもない奇跡が起きたと思うの。。。


 考えてみて、40歳未満の男性で生き残ったのは、たった1%よ。


 私達の学年で男子クラスメートは20名しかいなかったんだよ。

 私達の学年の男子クラスメートは全員亡くなっても、不思議じゃなかった。

 それなのに1名生き残った。。。


 おまけに、孝さんが生き残った。。。

 孝さん以外で、ウイルスの戦い方を考えることができたかしら?


 例えば、里子さんには失礼だけど、聡さんじゃ無理じゃない?」

  



里子は苦笑いを浮かべ、うなずき、答えた。


「ええ、、、あいつはバカだから無理ね。。。」




瀬名は天井を見上げ、話を続けた。


「CCコースの、私達の学年の男子クラスメートが、

 1人生き残っただけでも奇跡なのに、、、


 しかも、唯一、ウイルスの戦い方を考えることができた、

 孝さんが生き残ったって、、、

 『とんでもない奇跡』だと思う。。。


 私達は、『この奇跡を、大切しなければならない』と思う。


 皆。孝さんを守ろうよ。。。」




瀬名の指摘は、第5話で私が思ったことと同じだった。


瀬名のこの指摘は、私の瀬名への信頼を決定的なものとする。




だが、ここでは、瀬名の言う『奇跡』について、補足した。


「実は、、、その『奇跡』で私は救われたんだ。。。


 私は恋人と弟を失って、新しい入校許可証が配布された日の朝まで、

 無気力で、3年生への進級が困難な状況だったんだ(第1話)。


 孝と一緒に男子クラスメートの弔いを行って、

 孝の夢を聞いて、私にも夢ができて、救われたんだ(第5話)。」




優子も続いた。


「私も、その『奇跡』で救われたの。。。


 パンデミックの頃、恋人の看病から、私、逃げ出しちゃって、

 ずっと後悔していたの。。。


 孝に恋人へ手紙を書くことを勧められ救われたの(第7話)。。。」




私は、春休み中、孝と一緒に勉強した、本当の理由を教えた。


「私と優子は、孝には感謝しているの。。。


 春休み中、一緒に勉強したんだけど、『学びなおし』は建前で、

 本当は、孝の孤独を、少しでも癒してあげたかったからなの

 (第10話)。。。」




里子は納得した表情で答えた。


「そういうこと。。。

 愛唯、優子、さっきは『乗り換える』とか『サイテー』とか言って、

 ごめん(第16話)。。。」




優子は苦笑いを浮かべて返した。


「良いのよ。そんなこと。。。」

 



里子は他の女子クラスメートに向けて言った。


「皆。瀬名の言うとおりだ。。。

 孝が生き残った奇跡を大切にしよう。。。

 孝に声をかけてやろう。」

 


    

他の女子クラスメートは黙って頷いた。





 

私は皆に礼を言った。


「皆、ありがとう。残りの誹謗中傷をどうしようか?」




誹謗中傷については、里子が請け負ってくれた。


里子は笑顔で自分の胸をこぶしで叩き、語った。


「それについては任せといて。。。


 部のメンバーに頼んで、100分の1の男性の真実を、噂として広げるから。。。


 他の運動部にもツテがあるから、そこからも広げてもらう。。。」




里子だけでなく、瀬名や他の女子クラスメートも協力を約束した。


理数系については瀬名が請け負ってくれた。


「私も理数系に知己がいるから、そちらにも頼んでみる。」




人文系についても、他の女子クラスメートが請け負ってくれた。


「私も協力する!」



 

あとは、技術・芸術系だが、、、こればっかりはどうしようもなかった。。。

 

里子は笑顔で私に語った。

 

「まあ、誹謗中傷がゼロにはならないかもしれないけど、

 これでだいぶ減ると思うよ。」



  

孝の孤独と、誹謗中傷はなんとかなるだろう。。。

あとは、孝を外出させることができれば、問題は解決できる。



 

その孝を外出させることについては、クラスメートには「何とかする」と大見得を切ったのだが、実は、ほら、私バカだから、どうしたら良いのか分からなかった。。。


『これが後に、騒動を何度も引き起こすことになる。。。』


ははは。。。






孝が走って課室に戻ってきた。


孝は息を切らしながら、撫山教授との話の内容を話した。


「愛唯さん、実は、僕を学外に連れ出したことを話しました。

 でも、今回は不問に付すと言質をとりましたから、大丈夫です。」

 


    

正直に話す必要はないと思ったが、いつばれるとも限らないので、言質をとったことはありがたく受け取っておいた。


今思えば、この時、『言質を取るべき理由を問い詰めれば良かった』のだが。。。


この時は、次の瞬間に起きたことに気を取られてしまったのである。。。




女子クラスメートは約束通り、孝に集まり、笑顔で「孝」と呼びかけ始めた。


孝は最初は戸惑いながらも、笑顔で返し始めた。。。


孝と女子クラスメートが和解した瞬間だった。。。




私は孝と女子クラスメートが和解したことを見て、うれしかった。


でも同時に、女子クラスメートが「孝」と気安く呼ぶ姿に、『焦り』も感じた。




なぜ、『焦る』のだろう? いや、もう理由はわかっている。。。


第16話で述べたように、私の中には、『感謝以外に、孝へ別の感情がある』ためだ。。。



 

私は、この感情について、『決着を付けなくてならない』。。。


私は決断した。。。




(次話に続く)

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