第188話 旅立ち(その1) ーヨメンズと孝、校外を散策するー
3月、孝は博士号を取得した。
そして今日3月31日、孝はI大の助教を離任し、明日4月1日、NOH大の助教として赴任する。
すでに引っ越しは済んでおり、空っぽになった共同住宅の部屋をヨメンズと孝は眺めている。
この部屋に引っ越してきたのは大学3年の3月末(第85話)だったから、もう6年、ここに住んでいた。
まあ、狭かったけど、思い出は多い。。。
優子が感慨深そうにつぶやいた。
「ここで、新婚当時は、いっぱい喧嘩をしたよな~。
新婚当時(第92話~第97話)は、本当、苦しかった。。。」
瀬名は優子の意見にうなずいて、つぶやいた。
「ここで、里子さん達を呼んで、ホームパーティを開いたよね。。。
(第107話、第108話)
里子さん達だけでなく、護君や史恵ちゃん(第173話、第186話)、
撫山研究室のメンバーを呼んだりもした(第183話)。」
私は心の中でつぶやいた。
『結婚して孝を独り占めして甘えられなくって、デート日のとき、
浴びるように孝と飲んだり(第94話)、
孝の胸の中で泣いたりした(第113話)っけ。。。』
孝はため息をついてつぶやいた。
「僕は2年生の3月から、この大学で軟禁されてますから(第10話)、
もう7年と1か月、この大学に住んでいたことになります。。。
今日、この大学を離れると思うと、、、いろんな思いが駆け巡ります。。。」
私と優子と瀬名はため息をついた。
私は感慨深く、孝に語り掛けた。
「7年と1か月か。。。長かったわね。。。」
優子はうなずき、「そうね。。。」とつぶやいた。
瀬名もうなずき、「ええ。。。」とつぶやいた。
名残惜しいが共同住宅の部屋を出ると、そこには史恵、桃花、菜穂、護が待っていた。
史恵は笑顔で語った。
「先輩達の後を追いかけます!」
護も笑顔で続く。
「撫山研究室で、先輩達が訪れる時を待っています!」
私は笑顔で返す。
「まだ、I大の学生だから、4月以降もたまに大学には来るから。。。
もちろん、撫山研究室にもね。。。」
そう、住居は、NOH大の100分の1の男性の共同住宅に移るが、そこから週1回、I大に通う予定だ。
だって、4月は、まだ、I大の撫山研究室所属の博士課程3年の学生だし。。。
いつもはNOH大の幸代研究室にいる。でも、それはNOH大とI大の共同研究スタッフとしてだ。。。
定期的に週1回、I大に通うが、非定期にリモート会議も行う予定だ。
すでに幸代研究室には私の席もある。孝の席の隣だ。
孝も笑顔で返した。
「非常勤講師として、4月以降、週1回、I大に通うから。」
そう、孝も共同研究スタッフ、および非常勤講師として週1回でI大の授業を担当する予定だ。
要するに、私と一緒にI大に通うって訳。
優子も笑顔で返した。
「私もごくたまにだけど、、、I大に通うわ。。。」
『優子は4月からRRFM社を休職』し、修士論文の内容を論文誌に投稿予定だ。
その投稿のため、たまにI大に通う予定だ。
え? なぜ『休職』するかって?
それはおいおい説明するよ。。。
まあ、気付いていると思うけど、今話から、孝を『バカ』と呼んでいない。
そのこととも関連するんだけど。。。
瀬名も笑顔で返した。
「私は、毎日、付属学校に通うから」
瀬名は付属学校に復職し、NOH大の共同住宅から、毎日、付属学校に通う。
付属学校はI大の敷地内にあるから、会おうと思えば、いつでも会えるんだ。
で、撫山教授から、「4月からI大に来る葵君の目付け役を頼む。彼女の毒舌を封じてくれ。」って依頼されている。
その事態を瀬名は見抜いていてね。
だから第177話で、撫山教授のことを『共犯』とか『消極的賛同者』と言ったのさ。。。
また優子同様に、修士論文の内容を、論文誌に投稿予定だ。
だから、たまに、付属学校から撫山研究室に通うことになっている。
優子は少し寂しそうに、桃花と菜穂に語り掛けた。
「『懸け橋交流会』の維持発展をお願い。
後は桃花ちゃんと菜穂ちゃんに託すわ。」
瀬名は微笑み、優子に続いて、桃花と菜穂に語り掛けた。
「わたしは付属学校にいるから、何かあったら、頼んでもらって良いから。。。」
そう、優子と瀬名が始めた懸け橋交流会(第103話~第105話)は、維持発展を続けていたが、住居をNOH大に移すにわたり、その任を桃花と菜穂に託したのだ。
桃花と菜穂は笑顔で返した。
桃花は優子と瀬名に語り掛けた。
「もちろんです!」
菜穂も続いた。
「護を守るためです。ちゃんと『懸け橋』を維持発展させます!」
史恵が話をつないだ。
「撫山先生から、教職員からの協力も得てあると聞いています。
心配ありません。」
そう、私が大学院に入学する直前に、教職員達も参加するようになり(第157話)、運営がシステム化され、維持は難しくはなくなっている。
孝は笑顔で語った。
「名残は尽きませんが、学外に出て、歩いてみませんか?
外出許可はもう、取ってあります。」
私はうなずいた。
「ええ。。。」
私達(=ヨメンズ、孝)は史恵、桃花、菜穂、護と別れ、学外に歩いて出た。
私達(=ヨメンズ、孝)は、6年前、結婚する前に住んでいた、私と優子の下宿を訪ねた。
すでに別の住人がいるが、前もって大家さんに頼んで、今日だけ、特別に中に入れてもらった。
私の下宿に入ると、孝は懐かしそうに語る。
「ここを愛唯さんが信じられないスピードで契約して、
しかも翌日に引っ越してきたときは、もう驚いちゃいました。。。」
(第30話)
私は笑って返した。
「がはは! そうね。。。」
そう、あの頃は、孝を驚かせて、喜ばせるのが快感だった(第31話)。。。
それだけじゃない、この下宿には思い出がいっぱいだ。
大学3年の頃、孝と一緒に勉強した(第21話)。
孝と一緒に夕食をとった。ま、冷凍宅配弁当だったけど(第21話)。
真夏の暑い夜は水着を着て、孝をからかった(第43話)。
孝と優子と瀬名と里子と一緒に飲んだ(第36話、第58話)。
拍子法行為のときは大泣きした(第72話、第73話)。
拍子法行為から帰った時は、孝と激しく求めあった(第74話)。
何もかもが、懐かしい。。。
瀬名が懐かしそうに、つぶやいた。
「ここで、愛唯さん、優子さん、里子さん、旦那様(=孝)と飲みました。
(第36話、第58話)
そして、拍子法行為の時は、愛唯さんの姿を見て、涙が止まらなかった。。。」
(第73話)
優子も懐かしそうにつぶやいた。
「そうね。。。
ここで、よく皆(=愛唯、瀬名、里子、孝)と飲んだ。。。
(第36話、第58話)
愛唯と一緒に水着着て、孝をからかった。。。
(第43話)
拍子法行為のときは愛唯を叱咤し、励ました。。。」
(第68話、第69話、第73話)
そして、優子はお腹に手を当てて語り掛けた。
「『ママ』はね。 ここで、パパからプロポーズされたんだよ。」
(第79話)
そう、『優子は妊娠中』だ。孝は秋にはパパになる予定だ。
去年の12月に西海岸へ旅行に行った時(第187話)、優子が『1対1に拘った』のはそれが理由なんだ。
思い出の旅行先で新しい生命を宿したかったからなんだ。。。
で、私が孝を『バカ』って呼ばないのも、これが理由なんだ。
優子の妊娠が分かった時、共同住宅で、優子は私にこう言ったんだ。
「愛唯、お腹の赤ちゃんの胎教に悪いからさ。
これからは孝を『バカ』って言うの、やめてくれない?」
だから、もう7年、心の中で、孝を『バカ』って呼んでいたけど、それはやめて、『孝』に昇格させたって訳。
子供が生まれたら、私は『愛唯ママ』、優子は『優子ママ』、瀬名は『瀬名ママ』と呼ばれる予定だ。
そして、『ヨメンズ』は『ママンズ』に改称する予定だ。
もちろん、孝は『パパ』と呼ぶ予定だ。
そして、優子の産休取得や、優子の論文投稿に関する社内稟議等の事務処理は緑課長が担う。
瀬名が幸代准教授を介して、緑課長に呑ませた条件(第177話)ってのは、一番最初の子供の出産は優子にせざるを得ないことを呑ませたんだ。
だって、瀬名はNOH市の教員だったのを、強制的にI大の付属学校の教員になった。
しかも、すぐI大の特別研究員になって、休職して大学院に進学した(第177話)。
つまり、I大の付属学校で、ほとんど働いていないのだ。
さすがに、修士卒業直後に、瀬名は妊娠出産して産休を取るわけにはいかない。
私も博士課程に進学しており、妊娠出産は避けたい。
まあ、葵さんのように休学して妊娠出産と言う手もあるが、それは葵さんと言う、抜きん出た存在だからできたことだ。
ということで、優子の修士卒業直後の産休を、緑課長に呑ませたって訳。。。
そして、I大学は周囲を高さ2~3mの壁に囲まれているが(第2話)、私達(=ヨメンズ、孝)は6年前にあった抜け穴(第21話)の跡を訪ねた。
もう、その抜け穴は塞がれているが(第127話)。。。
孝は塞がれた抜け穴を見つめ、懐かしそうに語った。
「大学3年の頃、愛唯さんの下宿を訪ねに、よくこの抜け穴を通りました。。。」
私は黙ってうなずいた。そして心の中でつぶやいた。
『私は孝と結ばれた夜、
下宿から、この抜け穴を抜けて、男子寮へ走って行ったよな。。。』
(第69話)
(次話に続く)