第185話 護の拍子法行為(その2) ー愛唯、車中で史恵と会話するー
(前話からの続き)
私は史恵が少し落ち着いたのを見ると、史恵を抱きしめながら、史恵に叫んだ!
「まだ間に合う!」
そして、続けてこう叫んだ。
「もし、結婚を受け入れる気があるのなら、今から大学に戻って、
帰ってきた護君に『プロポーズにイエス』と答えるのよ!」
史恵は泣き止み、ちらっと史恵の母を見つめた。史恵の母は黙ってうなずいた。
すると、史恵も黙ってうなずいた。
私は史恵をI大学に連れて帰るため、私は史恵を車に乗せた。
I大学に戻る車中、私と史恵は会話をした。
史恵は静かに問うた。
「先輩(=愛唯)、大学1年の頃、先輩は
『一夫一妻を不可能にする社会の仕組みがある』
って仰いました。
(第178話)
(史恵の)母の話によれば、
『拍子法行為の後、兄は、
当時付き合っていた瞳さんから説得され、一夫多妻を受け入れた』
って言いました。
つまり、
『一夫一妻を不可能にする社会の仕組みって、拍子法行為』
のことですよね?」
私は車を運転しながら、うなずき、答えた。
「ええ、100分の1の男性には、授業料免除や給付型奨学金や
寮費や食費や光熱費を全額免除される代わりに、
拍子法行為を含む精子提供義務があるの。。。」
私は続けた。
「でも精子提供義務は妻子1人当たり2年の猶予期間があるの。。。
つまり、一夫多妻を受け入れて、子供を多く産めば、
拍子法行為から長い期間逃れることができるの。。。
ま、妻が2人以上なら、
妻も授業料免除や寮費や食費や光熱費の免除や、
給付型奨学金も受けられるけどね。。。」
史恵は静かに問うた。
「先輩、どうして大学1年の時、それを話さなかったの?」
私は運転しながら答えた。
「まず、精子提供義務は100分の1の男性に守秘義務が課せられているの。。。
本当は妻にも両親にも話しちゃいけないの。。。
何故だと思う?」
史恵は黙って顔を横に振った。
私は横目でそれをみて、話した。
「うっかり口にすれば、100分の1の男性に対する、
『更なる偏見が生じかねない』からよ。。。」
史恵は「そっか」とつぶやいた。
私は運転しながら、逆に史恵に問うた。
「大学1年の時、まだ護君と付き合い始めた頃、
もし仮に精子提供義務が100分の1の男性に課せられていると知ったら、
護君との仲を維持し、発展させていくことは、簡単だったと思う?」
史恵はため息をつき、静かに答えた。
「付き合い始めた頃だと、難しかったかもしれないですね。。。」
史恵は続けて言った。
「そうか、だから、あの時、先輩は、
『(100分の1の男性の秘密を)話すことは、
(100分の1の男性にとって、)とっても勇気がいること。
私と護の関係が進展すれば、必ず、護は勇気をもって話してくれる。
私があの時(=大学1年の時)、やるべきことは、
【護を問い詰めることではなく、護との関係をもっと強くすること】』
だと、言ったのですね?」
(第178話)
私は運転しながら、黙ってうなずいた。
史恵は静かに語った。
「先輩、私が大学1年の時、
『先輩も孝先生も、最初、一夫一妻を貫こうとしたけど(第78話)、
結局、一夫多妻を受け入れざるを得なかった(第79話)』
って仰いましたよね。。。」
史恵は問うた。
「やっぱり、拍子法行為が原因だったんですか?」
私は運転しながら答えた。
「そう。。。
今は精子提供の猶予期間が妻子1人あたり2年になっているけど、、、
(第164話)
私と孝先生が結婚した当時は、たった1年しか認められていなかった。。。」
(第78話)
史恵は驚く。
「え? たった1年?」
私は続けた。
「そう、猶予期間がたった1年しかないから、
一夫一妻を貫いた場合、拍子法行為を含む精子提供義務の免除と、
私と孝先生のキャリア形成と、結婚後の生活の安定を、
全部満足できる形で成立しなかったの。。。」
(第78話)
私は更に続けた。
「孝先生のもう一人の妻、優子は中学からの私の親友なんだけど、
優子と話し合った結果、一夫多妻を受け入れなければ、
金銭的にも、精神的にも、ジリ貧に陥るという結論に達したの。。。
だから、一夫多妻を受け入れざるを得なかった。。。」
(第79話)
史恵は戸惑いながら語る。
「いま、私がそれを聞けば、
一夫多妻を受け入れたのはやむを得なかったと思います。。。
でも、一夫多妻を受け入れた孝先生を、
『悪く言う女子学生が多い』んです。。。
『やむを得ない判断をした孝先生がかわいそう』です。
孝先生を悪く言う女子学生に真実を伝えるべきでは?」
私は運転しながら、苦笑いを浮かべて答えた。
「それは、確かに、孝先生がかわいそうね。。。
だって、一夫多妻を受け入れることを、
孝先生は最後まで抵抗したんだから。。。
(第79話)
孝先生は
『僕が拍子法行為を我慢すれば済むことだから』
って、一夫多妻をなかなか受け入れなかったの。。。」
史恵はさらに驚く。
「え?」
私は苦笑いを浮かべたまま続ける。
「私と、もう一人の孝先生の妻、優子と二人がかりで、
無理やり説得したの。。。」
(第79話)
史恵は戸惑いの表情を浮かべながら返す。
「そうだったんですか。。。」
ちょうど、交差点の信号が赤になり、信号待ちとなった。
そのとき、助手席に座る史恵に、作り笑顔を向けて語った。
「でも、このこと(=孝が一夫多妻の受け入れに抵抗したこと)を
話しちゃだめよ。。。
だって、100分の1の男性の秘密を話さなくちゃいけなくなるわ。。。
すると、孝先生だけじゃなく、護君を含め、
他の100分の1の男性が更なる偏見を受ける可能性が高くなるわ。。。」
私は話を続けた。
「護君を守りたいなら、護君の拍子法行為は、決して口外してはならないわ。
だから、それに関連することも、口外してはダメ。
今は、護君を守ることを第一に考え、行動しなさい。
孝先生の名誉のことは忘れなさい。」
史恵は黙ってうなずいた。
信号が青になったので、私は前を向き運転を再開した。そして運転しながら、史恵に語り掛けた。
「まあ、それに、女子学生に人気がなく、陰口をたたかれるのは、
パンデミック前と変わらないから、孝先生本人は気にしないと思うわ。。。」
史恵は驚く。
「え? 孝先生って、学生時代は女子学生に人気がなかったんですか?」
私は再び苦笑いを浮かべ、運転しながら、史恵に語り掛けた。
「パンデミック前の孝先生はね。。。
無精ひげに、髪はぼさぼさ、服はチグハグって感じでね。。。
見た目は最悪で不快な男性だったの。。。
(第2話)
しかも、たまに口を開くと、理解できないことを言う不気味な奴で、
変わり者で、関わりたくない男性だったの。。。
(第2話)
一方、成績は私達の学年でブッチギリのトップだったわ。。。
だけどねー。嫌味なほど『くそまじめ』だったの。。。
(第2話)
あの当時、私は留年寸前の低空飛行を続ける学習意欲のない学生だったから、
孝先生の『くそまじめ』さは、本当、嫌味だったわ。。。」
(第2話)
私は続けた。
「そんな感じで、パンデミック前の孝先生は、
女子クラスメートから浮いていた。。。
(第2話)
ま、もう一人の孝先生の妻、瀬名は孝先生のこと、
好きだったみたいだけど。。。
(第11話)
でも、私は嫌っていた。。。
もう一人の孝先生の妻、優子も嫌っていた。。。
(第2話)
パンデミックから1年ちょっと後、新しい入校許可証が配布された時、
唯一生き残った男子クラスメートが孝先生だと分かって、
心底、がっかりしたわ。。。」
(第2話)
私は苦笑いを浮かべて、運転しながら、横目で史恵を見て、語り掛けた。
「そんな孝先生と恋人となり、結婚するなんて、
そのとき(=新しい入校許可証が配布された時、第2話)は、
思いもしなかったわ。。。」
史恵は戸惑う。
「先輩と孝先生は、I大では『伝説のカップル』ですよ。。。
なのに、そこまで嫌っていて、、、
どのように、恋人となり、結婚したんですか?」
史恵の戸惑いは続く。
「それに、学習意欲がなく、留年寸前の低空飛行していた先輩が、、、
どうして、今、博士課程に通っているんですか?」
私は運転しながら、笑い、煙に巻いた。
「がはは!
その疑問は当然ね。。。
たまに、振り返った時、私自身もこの変化に驚くもん。。。
でも、とても長い話になるの。。。
I大学に戻る車の中では話しきれないくらい。。。
またどこかの機会でね。。。」
私は運転しながら、史恵に語り掛けた。
「話を戻すと、
女子学生に人気がなく、陰口をたたかれるのは、
孝先生本人は気にしないわ。。。
それより今は、護君を守ることに専念しなさい。」
史恵は黙ってうなずいた。
大学に戻ると、I大の学食は夕食を提供していないため、バカ(=孝)は、瀬名と、史恵の親しい友人、桃花に対応を頼んでいた。
瀬名と桃花の二人は特別合宿の買い出しを行っていた。
また、特別合宿の授業の間にはレクリエーションを行う必要があるため、バカ(=孝)は優子と、史恵の別の親しい友人、菜穂に頼んでいた。
菜穂と優子はレクリエーションの企画を行っていた。
優子は適宜、スマホで電話を掛け、里子に相談していた。
それに並行して、バカ(=孝)は、特別合宿のスケジュールを、CCコースの先生方と調整していた。
バカ(=孝)は助教で、3年生の授業のコマは少なかったためだ。
夕方6時に護君はI大に戻る予定だった。
だから、私、史恵、バカ(=孝)の3人は、夕方5時45分頃、I大のロータリーに行き、護が乗っているマイクロバスを待った。
だが、予定していた夕方6時になっても、護が乗っているマイクロバスは来なかった。
やきもきしていると、夕方6時10分頃、私とバカ(=孝)には見覚えあるマイクロバスが、I大のロータリーに来た。
そしてマイクロバスは、護を降ろした。
史恵は、マイクロバスから降りた護に駆け寄り、涙を流しながら、護を抱きしめた。
そして、護の耳元に語った。
「護。。。お帰りなさい。。。
そして、プロポーズの返事遅れてゴメン。。。
返事はイエス。結婚しましょう。。。」
護はまさか史恵がロータリーで待っているとは思わず、驚いた様子だった。
でも、史恵が護に抱き着き、プロポーズを受け入れたことに気付くと、大粒の涙を流し、史恵を抱きしめた。
そして史恵の耳元に語った。
「ありがとう。。。
そして、ただいま。。。
それから、5月の連休はゴメン。。。
(第184話)
僕が大人げなかった。。。」
史恵は涙を拭かず、顔を横に振った。
「いーえ。。。 私も悪かった。。。ゴメン。。。。」
私とバカ(=孝)は微笑み、史恵と護の2人に黙って拍手を送った。。。
護を乗せたマイクロバスにいた、係官はあっけにとられて、史恵と護を眺めていた。。。
だが、数十秒後、係官も微笑み、黙って拍手を送った。。。
係官だけでなく、マイクロバスを運転した運転手も微笑み、拍手を送っていた。。。
(次話に続く)




