第17話 vs女子クラスメート(その3) ー覚醒、そして第2の化学変化ー
(前話からの続き)
私は里子の腕をとった。優子は孝の腕をとった。
私は、課室に残る女子クラスメート全員に「ついてきて」と言った。
私は里子の腕をとって駐車場まで連れて行った。
里子は嫌がって、「どこにつれていくのよ!」と抗議の声を上げたが、私は無言で、私の車に押し込んだ。
孝も「問題があるから」とか「ヤバいからダメです」と何度も言ったが、私と優子の二人がかりで、私の車のトランクに孝を押し込んだ。
そして、私は二人を車に乗せ、大学の検問を突破した。
他の女子クラスメートも分乗して、私の車についてきた。
私は里子をある場所に連れて行った。その場所に着くと、里子は驚いた。
「ここ、聡(=里子の元恋人)の墓じゃない。。。」
そう、私は里子をはじめ、クラスメート全員を聡君の墓に連れてきた(第6話)。
孝は、聡君の墓の前でしゃがみ、手を合わせて語る。
「聡君。僕は里子さんを怒らせてしまった。。。
ねえ、僕は君にどう謝ったら良い?」
戸惑う里子は私に問う。
「どうして、愛唯が聡の墓を知っているの?」
私は答えた。
「私と孝君はね。一緒に聡君の墓参りをしたの。
場所は聡君の妹さんが案内してくれたわ。
そして、孝君はね。
聡君の家で、聡君の遺影に向かって、自分の命を使って、
ウイルスと戦うって誓ったの!(第3話)」
私はスマホを取り出し、聡君への弔いの様子を撮影した動画を里子に見せ、里子に叫んだ。
「これが証拠よ!」
里子は私のスマホを手に取り、スマホにある動画を見て、顔面蒼白だ。
そして里子は「ウソ。。。」とつぶやいた。
孝は動画を保存していたことに驚いた。
「愛唯さん。
この動画は消すって撫山先生に約束したんじゃ?(第8話)
どうして、消さなかったんですか?」
確かに第8話で述べたように、撫山教授に男子クラスメートへの弔いの動画や静止画は削除することを約束していた。
だが、いざ削除するとなると、できなかったのだ。。。
私は思わず涙を流し、孝に反論した。
「動画を消せるわけがないでしょう!
確かに、撫山先生との約束違反よ!
何度も消そうと思った。
でも、できなかった! 消せなかった!
あなたは、あの凶悪ウイルスのような強大な敵であっても、
勇気をもって立ち向かう大切さを教えてくれた!
そして、あなたはその勇気を蛮勇にせず、
知恵を絞ることの大切さも教えてくれた!
(第5話)
最後に、あなたは、その知恵の実行することの大切さも教えてくれた!
それらを教えてくれたこの動画は、
この動画だけは、消すことなんかできないわ!」
優子が口を開いた。
「孝。私も、あなたが恋人の翔の墓前で涙を流して、
ウイルスと戦うって動画を持っているの。。。」
そう言って、彼女はスマホを取り出し、動画を流した。第7話の孝が翔の墓でのシーンが映しだされていた。
「ごめん、孝、愛唯、、、こっそり録画していた。。。」
優子は涙を流しながら続けた。
「孝、、、
見ず知らずの翔のために涙を流してくれたこと、
そしてウイルスと戦うと言ってくれたこと、感謝している。
あのときは、『あなたに、そんな義理はない!』なんて
言っちゃたけど、うれしかった。。。
こっそり録画したものだから、
いつか消さなくちゃいけないって思っていた。。。
でも、この動画だけは、消せない。。。
だから、愛唯の気持ちは、よくわかる。。。」
優子は涙を流しながら、里子をはじめ女子クラスメートに向かって叫んだ。
「孝はねー!
クラスメートの聡だけでなく、見ず知らずの翔にまで、
ウイルスと戦うって誓ってくれたんだ!」
私も涙を流しながら、里子をはじめ女子クラスメートに向かって叫んだ。
「聡君だけじゃないの!
孝君は、男子クラスメート全員の実家を訪れ、ウイルスと戦うって誓ったの!
里子!
あなたが持っている私のスマホの保存されている写真を見て!
それが証拠よ!」
里子は顔面蒼白のまま、黙って私のスマホを操作し、写真を見た。
そして、じっと孝を見たまま、私のスマホを他の女子クラスメートに手渡した。
女子クラスメートも、一人一人、私のスマホを操作しながら、「ウソでしょ。」「でも、〇〇君の遺影よ。」「△△君の遺影もある。」「間違いないわ。」とつぶやきながら、信じられない様子で、孝が男子クラスメート全員の実家を訪れたことを確認した。
次第に、彼女達は無口になり、ただ一人、孝に目を向けた。
彼女たちの視線は、課室での冷たい視線ではなく、驚きの視線に変わっていた。
私は孝が今、勉強している理由を説明した。
「ウイルスに戦うには、結局のところ、学生のうちは、努力するしかないの!
勉強するしかないの!
孝君は、そのために勉強しているの!
だから、春休み中、ずっと勉強していたの!
私と優子もウイルスと戦いたいから、孝君と一緒に勉強していたの!」
私は里子をはじめ、女子クラスメート全員に言い放った。
「里子をはじめ、みんなに問うわ。
孝君のように、勇気を振り絞って、
あのウイルスに立ち向かおうとした人がどれだけいるの?
孝君のように、その勇気を蛮勇にせず、知恵を絞った人がどれだけいるの?
孝君のように、その知恵を実行に移した人がどれだけいるの?」
私はさらに追い打ちかけた。
「孝君と同様の行動をとっていない人が、
『孝君を批判する資格があると思うの?』」
孝は女子クラスメートの弁護を試みた。
「愛唯さんそれは言い過ぎです。
ウイルスに勝ちたいのは、あくまで僕個人の思いです。」
孝は女子クラスメートに向かって語る。
「皆さん気にしないでください。
皆さんの分も、僕一人で戦いますから。。。」
私は怒気をもって応えた。
「黙れバカ(=孝)! お人よしも良い加減にしなさい!!」
「はい。。。」
私は女子クラスメートに迫った。
「このバカ(=孝)はみんなの分まで戦うと言う。でも、それで良いの?
私もウイルスに勝ちたい。
勝って、恋人の健司や弟の武に勝ったと報告したい。
でも、それをこのバカ(=孝)だけに押し付けてよいの?
私はもう、『か弱い女の子だから』って理由で逃げない。
さっき、このバカのカッターナイフを叩き落してわかった。
私はずっと、『か弱い女の子だから』って逃げてた。
でも、それは間違いだった。
パンデミック前は『か弱い女の子だから』って逃げても、
代わりに戦ってくれる男の子がいた。
でも、この世界には代わりに戦ってくれる男の子はいないわ。
だから、私はもう、『か弱い女の子だから』って理由で逃げない。
このバカ(=孝)とウイルスと戦うわ! みんなはどうするの?」
優子が私に応え、女子クラスメートに迫った。
「私も戦う。
私はおバカな女子大生よ。
でも、ウイルスに勝つには、
学生のうちは勉強しないといけないと孝は教えてくれた。
恋人の翔の仇を打つには、勉強しないといけないの。
だから、今は勉強して、社会で活躍して、ウイルスに勝つ!
そして、翔に勝ったって報告するわよ!
みんなはどうするの?」
私と優子の呼びかけに最初に応じたのは、普段はおとなしい瀬名だった。
「私も戦うわ。」
正直、瀬名が応じたのは意外だった。
後に、私は徐々に瀬名に対する信頼を高めていくのであるが、これが最初の一歩となったと思う。
瀬名は目から一筋の涙を流しながら、孝に近づき、口を開いた。
「どうしてあなたが、春休みにあんなに一生懸命なのか、わからなかった。。。
もともとまじめな人だったけど、もっと一生懸命になっていて、
ずっと、ずっと、不思議だった。。。
病み上がりなのだから、もう少し、休んでいてもよいのに。。。
いま、やっとわかった。。。
みんなのために、いえ、私を含むみんなのために、戦っていたなんて。。。
ありがとう。。。」
そういうと、瀬名は孝の前で膝をつき、顔を両手で覆って、嗚咽した。。。
数十秒後、突然、瀬名は泣き顔のまま、クラスメートに振り返り、大声で叫んだ。
「私は孝さん一人に押し付けて、逃げるのはいけないと思う!
一緒に戦おうよ! 皆!!」
瀬名の呼びかけが効いたのか、里子も応じた。
「私も戦う。」
里子は両目に大粒の涙を流しながら、孝に近づいた。
「孝一人が聡のために戦っていて、、、
聡の恋人の私が逃げるのは許されないわ。
ウイルスに勝って、孝と一緒に、聡に報告するわ。
孝、さっきはごめん。」
孝は苦笑いを浮かべ、顔を横に振り、答えた。
「いいんですよ。僕の決意は独りよがりなものかもしれませんし。。。」
里子は涙を拭おうともせず、顔を左右に振り、孝に更に近づいた。
「独りよがりなもんか。私が孝より前に戦っていなきゃいけなかった。
私が逃げていただけだ。本当にごめんな。孝。」
そういうと、里子は孝の胸に飛び込み、大泣きを始めた。
女性クラスメートの中で、影響力の大きな里子の参加意思は大きく、ほかの女子クラスメートも口々に「私も戦う。」と言い始めた。
私はこの好機を見逃さなかった。
私は大声で叫んだ。
「私たちはあのウイルスに、兄弟や恋人を奪われたわ!
でも、このままでよいの?
奪われたものは奪い返すの!
そして、パンデミックはなかったことにするの!
それには何十年もかかる。
でも、頑張ろう! 皆!!」
里子をはじめ、他の女子クラスメートは首を縦を振った。
これが、『私たちに起きた第2の化学変化』となった。
そのとき、なぜか、いきなり孝と優子が笑い出した。
優子は墓地に膝をつき、私を見ながら、両手で口を隠して笑っている。
「あんた、そのキャラ。。。
ここ(=聡の墓)に来てからの、あんたのキャラって。。。
まるで。。。
ふふふ! そういうこと?
ふふふ!」
孝は墓地に腰を落とし、両方の手のひらを空に向け、顔を上に向けて、高らかに笑っている。
「ははは!
ウイルスに勝つために必要で、かつ僕に決定的に欠けているものが、
まさか、こんな近くにいたなんて、、、
ははは!
それが愛唯さんだなんて、、、
ははは!
しかも、僕の思いを最初に聞いたのが、その愛唯さんだなんて、、、
ははは!
こんなこと、確率的にあり得ない! ははは!!」
笑っている孝と優子はお互い見つめた。
孝は笑いを止め、優子に話しかけた。
「神様って不思議ですね。」
優子も笑いを止め、うなずいた。
「ええ。」
そして再び、二人とも笑い出した。
「ははは!」
「ふふふ!」
おい、お前ら(=優子と孝)、なに笑っているんだ?
私はムカついたので、二人に話しかけた。
「そこ! 優子と孝君! なに気持ちの悪い笑いしてる?」
すると、優子は笑いをやめ、私に向かって、正座し、頭を下げた。
「『姉貴』! お久しぶりです!」
そしてまた、孝と共に笑い出した。
「ははは!」
「ふふふ!」
誰が『姉貴』だ! 誰が!!
あれ? そういえば、昔、言われていたような。。。
(次話に続く)