第171話 孝の学会発表(その14) ー初めての観光旅行(その1)ー
(前話からの続き)
話はホテルにチェックインする際の、ホテル受付のソファーでの会話にさかのぼる。
私は、優子と瀬名に、二人が緑課長と懇親会会場が出た後、控室に移り、撫山教授とNOH大幸代准教授の話をした(第163話~第169話)。
・来年4月、バカ(=孝)はI大の助教となる。
・その3年後、NOH大の助教になり、次の年、私もNOH大の助教になる。
・その2年後、つまり今から6年後の4月、私とバカ(=孝)はI大に講師として戻る。
・だが、あくまで実績次第で、確約されたわけではない。
・また、NOH大の助教になった後、幸代准教授の配下となり、
その指導を仰ぐ(第168話)。
・幸代准教授は厳しいことで有名(第169話)。
そのとき、瀬名はつぶやいた。
「やっぱり、『鬼の幸代』?」
私は問うた。
「瀬名、そういえば、
懇親会でも『鬼の幸代』ってつぶやいたよね。。。
(第160話)
『鬼の幸代』って何?」
瀬名は戸惑いながら答えた。
「幸代先生って厳しいことで有名でね。。。
NOH大内で『鬼の幸代』と呼ばれているらしいの。。。
ほら、亡き兄がNOH大に通っていたから(第49話)、
兄から
『幸代という厳しい女性教員がいる』
って聞かされていたの。。。」
私はつぶやいた。
「げ!」
もう厳しいのは、撫山教授だけで十分です。。。はい。。。
私のつぶやきが聞こえたのか、瀬名は困惑しながら話す。
「パンデミックの時、亡き兄は4年生だったわ。。。
その亡き兄の卒業研究の配属先が幸代先生の研究室だったの。。。」
優子が驚く。
「え?」
瀬名は苦笑いを浮かべながら、話を続けた。
「先ほど言ったように、幸代先生は厳しいことで有名で、
亡き兄も本当は配属されたくなかったんけど、、、
『くじで負けた!』
って言ってたわ。。。
まあ、私の実家はNOH大から地下鉄を乗り継げば通学できるんだけど、
配属されたその日から、終電で帰ってこれれば良い方だった。。。
ほとんどは始発で帰ってきて、風呂に入って、着替えて、
また出かける毎日だったわ。。。
夕方に帰ってこれたのは、院試の直前だけだったわ。。。」
優子はあきれて返す。
「それじゃあ、孝の卒業研究の時より、厳しいじゃない!?」
(第106話)
瀬名はうなずく。
「ええ。。。」
だが、瀬名は苦笑いを浮かべ、続けた。
「でも、幸代先生は将来、旦那様(=孝)の上司になるわけだし、、、
かつ、兄が生前、指導教員として、世話になっている訳だから、、、
私(=瀬名)は幸代先生に挨拶しなきゃね。。。」
次に私は、幸代准教授と撫山教授との話で、拍子法行為を含む精子提供は妻子一人につき1年が、2年に緩和されると話した(第164話)。
そして、優子と瀬名の負担が軽減されるため、私は博士課程に進みたいと話した。
優子は笑顔で「良いんじゃない」と答えてくれた。
これで私は再来年の4月、博士課程に進むことになった。
そして、優子と瀬名はお互いの顔を見た。
優子は笑顔で瀬名に問いかけた。
「予定を変えようか?」
瀬名も笑顔で、うなずいた。
「そうね。。。」
2人の様子に私は困惑し、何も言い出せなかった。
「?」
翌朝、市内観光する日、私達(=ヨメンズ、孝)が朝食をとるためホテルのレストランへ行くと、すでに幸代准教授と葵さんと哲君が一つのテーブルで朝食を食べていた。
撫山教授は隣のテーブルで一人で朝食を食べていた。
瀬名は幸代准教授に近寄り、幸代准教授に笑顔で話しかけた。
「幸代先生、孝の妻の一人で、瀬名と申します。
生前、兄、直志がお世話になりました。
兄に代わって幸代先生、お礼を申し上げます。
ありがとうございました。
そして3年後、夫、孝をお願いします。」
そう言うと瀬名は幸代准教授に頭を下げた。
それを聞いた幸代准教授は驚いた表情で語った。
「あなた、、、直志君の妹さん?」
瀬名は笑顔で答えた。
「はい。」
幸代准教授は困惑し、そして葵さんと哲君も驚き、お互いの顔を見合わせていた。
瀬名が幸代准教授が座っていたテーブルから離れると、隣のテーブルに座っていた撫山教授は幸代准教授に話しかけた。
「幸代君、なんだ?
瀬名君の兄が君の研究室に配属されていたのか?」
幸代准教授は戸惑いながら、撫山教授に答えた。
「ええ。。。
私の研究室に所属していた学生の妹が、孝君の妻になっているとは驚きました。
しかも、パンデミック直後、葵君が毎朝慰霊碑で祈っていた相手とは、、、
(第165話)
瀬名君の兄、直志君だったんです。。。
つまり、葵君の憧れの先輩とは、直志君だったんです。。。
葵君、直志君を弔うために、一刻も早くNOH大を復旧させたい一心で、
一生懸命、NOH大の復旧ボランティアやっていたんです。。。」
撫山教授が驚く。
「何?」
幸代准教授は戸惑いながら続ける。
「それだけでなく、パンデミックの前、
哲君が他大学の女子学生と二股、三股で交際し、
NOH大のキャンパスが修羅場と化したとき、
その場を何とか収めたのは直志君だったんです。。。
(第165話)
つまり、哲君にとって、直志君は頭の上がらない先輩だったんです。。。」
幸代准教授は、緑課長から、I大は『最凶最悪コンビ』でなく、『最凶最悪カルテット・プラスワン』であることを聞かされていた(第138話)。
ただその時は、つまり『最凶最悪カルテット・プラスワン』と聞かされた時は、にわかには信じられなかった。
しかし、実際、瀬名に会ってみると、幸代准教授は瀬名にも『不思議なチカラ』を感じた。
そう、『最凶最悪コンビ』のもつ、『不思議なチカラ』を瀬名にも感じたのだ。
とりわけ、瀬名と『NOH大の最凶最悪コンビ』との不思議な因縁を。。。
そして、その因縁には、幸代准教授自身も含まれるのだ。。。
幸代准教授は思う。
『I大はコンビでなく、
【カルテット・プラスワン】と言うのは、あながち間違いではない』と。。。
幸代准教授は隣のテーブルに座っていた撫山教授に問うた。
「撫山先生、瀬名君とはどんな生徒だったんですか?」
撫山教授は気のない返事を返した。
「内向的でおとなしい女の子という印象しかないな。。。
ただ、孝君に次ぐ成績を収めていて、優秀な生徒ではあったが。。。」
瀬名は一旦、私達が座ったテーブルに戻ると、優子に耳打ちをして、今度は優子と瀬名が撫山教授の座っているテーブルに近づいた。
そして瀬名は撫山教授に話しかけた。
「撫山先生、2年後の4月に、教員を休職して、
私(=瀬名)、大学院に進もうと思います。
ただし、4年生のときの研究室でなく、撫山先生の研究室に。。。
だから、来年9月の院試を受けたいのですが、よろしいでしょうか?」
続いて、優子が撫山教授に話しかけた。
「撫山先生、私は瀬名が大学院に進学したその2年後に、
つまり、4年後の4月に、会社を休職して大学院に進もうと思います。
ただし、瀬名と同じ、撫山先生の研究室に。。。
よろしいでしょうか?」
そういうと、優子と瀬名の二人は撫山教授に頭を下げた。
撫山教授は戸惑いながら、返した。
「ああ、わかった。
瀬名君は来年9月の院試を受けるんだな?
まあ、来年7月くらいに、出題範囲をCCコースの先生方に聞くと良い。。。」
優子と瀬名の二人は「ありがとうございます」と返事をすると、私達のテーブルに戻った。
撫山教授の隣のテーブルに座っていたNOH大の幸代准教授は、撫山教授に話しかけた。
「優子君と瀬名君が大学院に進学するそうですが、、、
優子君とはどんな学生だったのでしょうか?」
撫山教授はやはり気のない返事を返した。
「うーん、パンデミック前はいつも愛唯君と遊んでいたな。。。
まあ、愛唯君曰く、優子君は中学以来の親友だそうだ。。。
愛唯君にとって、一番の相談相手だったそうだ。。。
一方、パンデミック前は成績は取り立てて良い方ではなかった。。。
まあ、パンデミック後は成績が上がったが、、、
それでも真ん中よりちょっと上ってところだった。。。」
撫山教授は続ける。
「でも、
大学祭で乱闘騒ぎを起こした時(第38話)とか、
I大の購買を故意に欠品させた時(第41話)とか、
愛唯君と孝君が悪事を行った時、
『優子君と瀬名君が共犯だった』ことが少なくないな~。
愛唯君と孝君はI大で結婚パーティを行った時、
『チームと結婚する』って言っていたし(第86話)。。。
一昨年の3月末の学食で(第125話)、
愛唯君は優子君と瀬名君にこう言っていた。。。
『愛唯君と孝君が大きなことを為した時には、
いつも近くに優子君と瀬名君がいた。』
と。。。
そして、愛唯君と孝君にとって、
『足らぬものを補ってくれる大切な存在』
だとも言っていた。」
(第125話)
幸代准教授は思った。
『I大の最凶最悪カルテットが揃ったところを、実際、この目で見てみたい』と。。。
来年の4月から、NOH大とI大の共同研究が始まる。
再来年には本格化するだろう。
その再来年に瀬名が大学院に進学する。優子はその2年後の予定だ。
だが幸代准教授は思う。『優子も瀬名と同時に大学院に進学できないか?』と。。。
そうすれば、共同研究している幸代准教授も、I大の最凶最悪カルテットが揃ったところが見れるだろう。。。
どうやったら、I大の最凶最悪カルテットが揃うのか思案を始めた。。。
そう、このとき、優子と瀬名の人生が大きく変わり始めた。。。
(次話に続く)