第16話 vs女子クラスメート(その2) ーもう、認めなくてはならない!ー
(前話からの続き)
パン!という音がした。
気が付くと、私は孝がカッターナイフを持っていた右手の甲を叩き、カッターナイフを叩き落していた。
そして、両目から涙を流して、思わず孝に叫んでいた。
「ちゃんとしなさいよ! このバカ!
あなた、パンデミックに勝って、男子に報告したいんでしょ!
こんなことで負けていてどうするの! このバカ!
『あなたを失いたくない!』
『あなたがいない世界なんて、耐えられない!』
『あなたを守りたいと思っている私はどうなるのよ!』
このバカー!!!」
この思わず口走った、次の3つの言葉に、私はパニックになった。
・『孝を失いたくない』
・『孝がいない世界なら、私は耐えられない』
・『孝を守りたい』
(お、おい、、、私は今、何を口走ったんだ?)
(ど、どうして、、、私は『孝を失いたくない』んだ?)
(し、しかも、、、『孝がいない世界なら、私は耐えられない』だと?)
(そ、それじゃ、、、まるで、孝は私の・・・。)
(い、いや、、、そんなはずはない・・・。)
(そ、それに、、、『孝を守りたい』だと?)
(わ、私は『か弱い女の子』だぞ? そんな力はない。。。)
(わ、私は何を口走ってしまったんだ。。。)
(そ、それに、、、なぜ、両目から涙が流れるんだ?)
(そ、そして、、、どうして、感情がこんなに高ぶるんだ?)
(で、でも、、、孝のために、、、
こんなに感情が高ぶるってことは?、、、もしかして?)
(い、いや、、、そんなことは、そんなことは、そんなことは、、、
絶対にあり得ない!!!)
私は、『思わず口走った言葉』と『流している涙』と『感情の高ぶり』から遠ざかりたくなった!
私は、その場から、逃げ出したくなった!!
私は、その場から逃げて、口走ってしまう前の自分に逃げ込みたくなった!!!
そして、課室から飛び出すと、そのまま私は適当な方向へ走り出してしまった!!!!
優子はすかさず、孝に叫んだ。
「孝!」
優子は走り去る私を指さし、続けた。
「追いかけなさい!
女の子にあんなこと言わせて、ボーとしているんじゃない!!」
孝は慌てて「は、はい。」と返事した。
そして、孝も課室を飛び出し、私を追いかけて行った。
優子は、孝が私を追いかけて行ったことを見ると、振り返って、里子をはじめとした他の女子クラスメートに顔を向けてつぶやいた。
「さてと、、、私はこいつら、なんとかしないとね。」
孝は私を追いかけ、叫ぶ。
「愛唯さん、待ってください!」
私は泣きながら、追いつかれないように走り、叫ぶ。
「ほっといてよ!」
だが、男性と女性の体格差だ。
加えて、孝はスニーカーとズボンで大股に走り、私はスカートとフラットヒールで小走りだったので、瞬く間に追いつかれた。
私は、孝に右手をつかまれてしまった。
「愛唯さん、お願いです。止まってください。」
私は走るのを止めた。
孝は私の右手をつかんだまま、謝罪する。
「愛唯さん、許してください! もう2度としませんから。」
私は思わず、こぶしを振り上げ、孝の胸を2度、3度、思い切り叩き、大声で叫んだ!
「バカ! バカ! バカ!」
私は力いっぱい孝の胸を叩いたが、女の力だ、孝にはそれほど痛くなかっただろう。
だが、もう、私は自分の中の衝動を抑えられなくなった!
孝の胸の中に飛び込んでしまった!!
大声で泣いた!!!
「(泣き声)あ゛~~~~~~~~~~!!!」
孝は私を抱きしめながら、おろおろとして、ただ、小さな声で、謝るだけだった。
「ごめんなさい、許してください。。。」
私は孝の胸の中で泣きながら、なぜ、『孝を失いたくない』と『孝がいない世界なら、私は耐えられない』と『孝を守りたい』と、口走ったのかを考えていた。。。
私にとって、孝は『守らなくてはならない存在』であることがわかった。。。
いや、『【絶対に】守らなくてはならない存在』なのだ。。。
そして、『なぜ』、絶対に守らなくてはならない存在であるのか、分かった。
それは、『私を何度も救ってくれた感謝』だけではない。。。
私の中には、孝に対して、『感謝とは別の感情がある』!!!
その感情について、本当は以前から、かなり前から、もしやとは思っていた。。。
気付いていた。。。
単に、認めたくなかっただけ。。。
つまらぬプライドや見栄により、認めたくなかっただけ。。。
でも、もう、、、素直に認めなくてはならない。。。
そして、なぜ、危うく孝を失うところまで、孝が追い込まれてしまったかを考えていた。。。
一つの原因として、私が『か弱い女の子』に逃げていたことに思い至った。
なぜなら、この世界では『孝を守る人はいない』のだ。
ただし、『私を除けば』。。。
つまり、『孝を守る人は、私以外いない』のだ!
男性が100分の1になった世界では、たとえ女性であっても、『守りたい存在があるなら、自分で守るしかない』のだ!!
『か弱い女の子』に逃げていたら、『守りたいものを守れない』のだ!!!
加えて、孝は大学で軟禁されており、家族からは切り離されている。
パンデミックで男子クラスメート全員を亡くしている。
そして女子クラスメートからは浮いている。
つまり、『孝は孤独』なのだ。
『私を除けば、孝を守る人がいない』のだ!
今、『孝を守るのは、私しかいない』のだ!!
そんなことは明白なのに、、、
『私が孝を守らなければならない』のに、、、
私は『か弱い女の子』に逃げてしまった。。。
他人任せとなり、傍観していた。。。
もちろん、孝の精神的なもろさも原因だろう。
周辺の人々、特に里子をはじめとする女子クラスメートの無理解も原因だろう。
しかし、私の怠慢も原因だ。
私は誓った。もう二度と、『か弱い女の子に逃げない!』と。。。
そして、『どんなことをしても、孝を守る!』と誓った。。。
私は長く孝の胸で泣いていたように思う。
だが、、、もしかしたら、せいぜい数分程度だったかもしれない。。。
やっと落ち着き、孝の胸から離れた。。。
そして、涙も拭かず、孝を見つめ、孝に語り掛けた。
「もう、しないでね。約束よ。」
孝は申し訳ない表情で返した。
「はい。約束します。もうしません。」
私は涙を拭き、孝と課室に戻った。
課室に戻ると、優子が里子をはじめ他の女子クラスメートの説得を続けていた。
優子だけでなく、瀬名も加わって、彼女らの説得をなお試みていた。
だが、里子は孝が自殺を試みたショックからか、ヒステリックになっていた。
瀬名は里子に優しく語り掛けていた。
「里子さん、あれは言い過ぎよ。もっと言い方を考えて。」
里子はヒステリックに叫んだ。
「何よ! 私が悪いって言うの?
あいつがもろいだけでしょ!」
優子は戸惑いながら、里子に語り掛けた。
「ああ、孝はもろいかもしれない。それは認める。
でも、孝が頑張っているのはちゃんと理由があるの。
まずは、落ち着いて理由を聞いて。お願い。」
だが、里子はなおもヒステリックに叫んだ。
「なによー!、瀬名も優子も愛唯も、孝の味方になって。。。
優子も愛唯も、恋人を失ったでしょ?
もう、孝に乗り換えるわけ? あんたたちサイテー!!」
その様子を見た私は、もはや説得は不可能と考え、強硬手段を用いる決断をした。
後になって、この時を振り返った時、もう『か弱い女の子』でいられないと、私は『心の中の何かのスイッチを押した』のだと思う。
そう、今振り返ると、この時、私は『自分のキャラを変えてしまった』んだと思う。
話を戻す。
私は優子より前に出て、里子と他の女子クラスメートに向かい合った。そして、後ろにいる優子に言った。
「優子、連れて行くわよ。」
優子はうなずき答えた。
「ええ。」
(次話に続く)