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第161話 孝の学会発表(その4) ー懇親会での対決ー

(前話からの続き)




さて、撫山教授に近づいてきた大学関係者に、悟教授と言う地方の国立大学で教鞭をとる研究者がいた。

 

彼は学会の理事の一人であり、有名な研究者であるとのことだった。

 

 

 

悟教授はすでにかなりお酒を飲んでいたのだろう。

 

顔を赤らめながら、撫山教授に近づき、話しかけた。

 

「撫山先生、お久しぶりです。」

 

 

 

撫山教授は頭を下げ、笑顔で悟教授に声をかけた。

 

「ああ、これは○○大学の悟先生、お久しぶりです。」

 

 

 

そして、私達(=ヨメンズ、孝)は無言で悟教授に頭を下げた。

 

悟教授はバカ(=孝)に目を向け、撫山教授に問うた。

 

「今日、ポスター発表されたのは、I大の男子学生の生き残りですか?」

 

 

 

撫山教授は苦笑いを浮かべ、答えた。

 

「ええ、彼(=孝)は、私の所属するI大のCCコースで、

 たった一人の男子生徒の生き残りです。」

 

 

 

悟教授は少し寂しそうに撫山教授に問うた。

 

「I大のCCコースはパンデミック前は何人の男子学生がおられたのですか?」

 

 

 

撫山教授も少し寂しそうに答えた。

 

「今日発表した孝君を始め、学部では約80名でした。」

 

 

 

悟教授はため息をつき、悲しそうに撫山教授に問うた。

 

「そうですか、撫山先生。

  

 I大の男子学生は生き残って、なぜ、私の前の大学の研究室の学生は、

 一人も生き残らなかったんでしょうね?」

 

 

 

撫山教授は答えに窮したのだろう。。。困った顔をして、答えた。

 

「さー? 巡り合わせとしか言えませんね。。。」

 

 

 



撫山教授としては、こうとしか答えられなかったのだろう。。。

 

しかし、すでにかなり酒を飲み、酔っぱらっていた悟教授には、不誠実に聞こえたのかもしれない。。。

 

突然、悟教授は怒りを爆発させた!

 

「巡り合わせ? そんな理不尽な!

 

 どうして、I大なんてバカの大学の男子学生は一人生き残って、

 俺の前の大学の研究室の学生やスタッフは全員死んだんですか!」

 

 

 

撫山教授は慌てて悟教授を制した。

 

「悟先生! 落ち着き給え!!

 言葉足らずだった部分は謝罪する!!!」

 

 

 

だが、悟教授は酔いに任せて、言動をエスカレートさせた。

悟教授はバカ(=孝)に向けて罵った!

 

「君(=孝)のポスターセッション見てたけど(第160話)、ひどいもんだったよ!

 俺の前の大学の研究室の学生の方が優秀だったよ!

 でも奴らは一人も生き残らなかったよ!

 君より優秀な研究者達だったよ!

 世の中不条理だな!」

 

 

 

バカ(=孝)は慌てて頭を下げた。

 

「本日は、僕の発表内容が悪く、気分を害してしまって申し訳ありません。

 今日の悟先生のお叱りを明日の糧にいたします。

 今日はありがとうございました!」

 

 

 

だが、バカ(=孝)の謝罪を受け入れず、酒に酔った悟教授の罵倒は続いた。

 

「フン!

  

 生き残ったからと言って、優遇されて、甘やかされている奴らなんか、

 ロクな研究者になるわけないだろ!」

 

 

 

さすがにこの発言には、ヨメンズ全員がカチンときた。

 

だが、ヨメンズ全員の顔色が変わったことを見た、悟教授の誹謗中傷は続いた。

 

悟教授はヨメンズを見渡し、罵った。

 

「そこにいるのは、全員妻か? 

 研究パートナーはそのうちの一人?

 『一夫多妻を受け入れた女なんて、バカ』に決まっている!

  

 男性が100分の1になったから、

  『どんな男なんか関係なく、言い寄ったアホな女』

 に決まっているだろ!


 そんな『バカでアホな女』が研究パートナーなんか務まるわけない!


 『甘やかされた奴(=100分の1の男性)』と、

 『バカでアホな女(=100分の1の男性の妻)』の研究なんて、

 くだらない成果しか出ないに決まっている!」

 

 

 



ガン! と音がした。

 

気がつけば、バカ(=孝)が悟教授の顔面に拳で殴っていた。

 

悟教授は膝をつき、顔面を手で押さえ、バカ(=孝)を睨みつけた。

 

「お前、目上の者に手を上げて、無事で済むと思っているのか!」

 

 

 

慌てて、ヨメンズはバカ(=孝)に近づき、バカ(=孝)を制した。




私はバカ(=孝)と悟教授の間に入り、バカ(=孝)に向けて叫んだ。


「バカ(=孝)! やめて!!」




優子はバカ(=孝)の右腕を持ち、バカ(=孝)に叫んだ。

  

「孝、やめなさい!」




瀬名はバカ(=孝)の左腕を持ち、バカ(=孝)に叫んだ。



「旦那様(=孝)! どうかこらえて!!」

 

 



 

だが、バカ(=孝)はヨメンズを振り払うと、私の前に進み、悟教授を睨みつけ、言い放った。

  

「僕がいろいろ言われるのは仕方がない。。。

  

 だって、悟先生の仰る通り、僕はまだ研究者としては未熟なのだから。。。

 (第160話)

 

 でも、妻達への侮辱は許さない!

  

 軟禁された直後、『孤独で苦しかった』。。。

  

 その時まで妻3人とはあまり親しくなかったけど、

 彼女達は僕に『手を差し伸べてくれた』。。。(第11話~第18話)

  

 彼女達が手を差し伸べてくれなかったら、

 僕は孤独に負けて、自殺したかもしれない。。。

  

 さらに僕の研究パートナーは、僕が一番つらい経験をした直後、

 僕を守るために、一夫多妻を勧めた!

  

 僕には想像つかないくらい、『辛い選択をしたはず』なんだ!

 (第79話)

    

 そして、二人の妻も『僕を守るため』に、一夫多妻を受け入れてくれた!

 (第79話、第80話)

  

 その『妻達への侮辱は絶対許さない』!

 もし、侮辱されたままなら、院生なんてやめてやりますよ!」

 

 

 

すると、NOH大の哲君が、悟教授とバカ(=孝)の間に入り、怒りの表情で悟教授に向けて言い放った。

 

「NOH大の哲って言うっス!

 僕も軟禁された直後、現在の妻には大きな支えになってもらったス!

 もし、あのとき、現在の妻の支えが無かったら、立ち直れなかったス!

  

 さっきの『悟教授の言葉は、僕の妻に対する侮辱』ス!

 撤回してください!」

 

 

 

NOH大の哲君だけではなかった。その他の大学や、企業の100分の1の男性もやってきた。

 

「EN大の○○と言います。僕もNOH大の哲さんと同意見です。

 悟先生、撤回してください!」

 

「SSPPの△△です。僕も現在の妻がいたから立ち直れました。

 撤回してください!」

 

 

 

そうして、約10人ぐらいの100分の1の男性が、怒りの表情で悟教授を取り囲んだ。

 

 

 



そこにNOH大の幸代准教授の大声が響いた。

 

「あなた達、やめなさい!」

 

 

 

すると、幸代准教授は悟教授と彼を取り囲んでいる100分の1の男性達の間に入った。

 

そして、100分の1の男性達に手を広げ、厳しい表情で「下がりなさい!」と言った。

 

ついで、膝をついている悟教授に顔を向けると、悟教授を見下ろし、厳しい表情のまま言い放った。

 

「悟先生。

 今のは100分の1の男性およびその妻に対する『立派なハラスメント』です。

 大会実行委員長としてあなたの発言を許容するわけにはまいりません。」

 

 

 

そして、幸代准教授は懇親会会場の出入口を指さすと、悟教授に叫んだ。

 

「あなたに、この懇親会会場からの退場を命じます!

 悟先生。出てってください!!」

 

 

 

悟教授は学会の他の理事達を見渡した。

他の理事達も厳しい表情で頷いた。

 

悟教授は「くっ」と言うと、立ち上がり、懇親会会場から出て行った。

 

 

 

 

 

撫山教授と幸代准教授は、悟教授が懇親会会場から退出したのを見ると、ため息をついた。

 

そして、悟教授について語り始めた。

 

「悟先生は、パンデミック前は□□工業大学にいてなー。。。」

 

 

 

私は驚く。

 

「たしか□□工業大学って?」

 

 

 

幸代准教授がうなずき、答えた。

 

「ええ、国立の工業系単科大学だったんだけど、

 男子学生が100分の1になったことに伴い、国立大学の集約のため、

 閉校になったわ。。。」

 (第40話)

 

 

 

撫山教授は少し寂しげな表情で続ける。

 

「彼(=悟教授)は、指導者としてはかなりやり手で、

 多くの学生と、多くの若手教職員と言うか、弟子を多く抱え、

 有名な研究者だった。」

 

 

 

幸代准教授も少し寂しげな表情で、相槌を打つ。

 

「ええ、その弟子達も優秀でね。

 この学会でも、多くの素晴らしい研究発表をしていた。。。

 だから、この学会の理事の一人なんだけど。。。」

 

 

 

バカ(=孝)は戸惑う。

 

「そうだったんですか。。。」

 

 

 

幸代准教授は寂しげな表情のまま、天井を見上げた。

 

「でも、あのパンデミックで、

 全ての学生と、全ての弟子達(=若手教職員)を亡くしてしまったの。。。」

 

 

 

私は驚く。

 

「え? 全ての学生と弟子が男性だったんですか?」

 

 

 

撫山教授はうなずき、答えた。

 

「ああ。。。

 まあ、もともと彼のいた□□工業大学は、

 ほとんどの学生が男性だったんだ。。。

  

 しかも、彼(=悟教授)は、

 女子学生が彼の研究室に配属されることを拒んでいたんだ。。。」

 

 

 

私は驚く。

 

「え?」

 

 

 

撫山教授は首を横に振り、苦笑いを浮かべ、続ける。

 

「別に彼(=悟教授)が、女性蔑視している訳じゃない。

 ほら、女子学生には門限があるだろ?」




私は思わず、「あ!」とつぶやいた。

 

 

 

そうか、私もパンデミック前は門限があった(第21話)。

 

あのときの門限は夜8時だった。

 

今のように帰宅が夜9時で、しかも徹夜作業もしている生活なんて、パンデミック前の母なら許さないだろう。。。

 

 

 



撫山教授は苦笑いを浮かべたまま、続ける。

 

「だから、彼(=悟教授)は、

 門限のある女子学生の彼の研究室の配属を拒んでいたのさ。。。

  『研究室の女子だけ門限で遠慮していたら、

   研究活動に支障が出るし、不公平』

 ってことで。。。


 私が君達の年齢だった頃、その頃の研究室の教授も、

 女子学生の研究室の配属は敬遠していた。。。


 時代と共に、そんな女子学生の配属を極端に嫌がる研究者は、

 少なくなってはいたんだがな。。。」

 

 

 



幸代准教授は再びため息をついて、話を続けた。

 

「で、研究室の全学生と全若手教職員を亡くした上に、

 彼(=悟教授)のいた□□工業大学は、

 隣の県の国立大学の○○大学に統合されたの。。。」

 

 

 

撫山教授も再びため息をついて、話を続けた。

 

「ところが、40歳未満の若手男性教職員は100分の1となり、

 大学を集約させたから、今度は40歳以上の教職員がダブついているんだ。。。

 

 しかも、40歳未満の男性が100分の1になったから、

 社会保険等の維持のため、定年を延ばさざるを得ない。。。」

 

 

 

幸代准教授は苦笑いを浮かべ、続けた。

 

「そう、准教授以上がダブついているのよ。。。

  

 彼(=悟教授)が異動した国立○○大学でもそれは同じでね。。。

 彼の研究分野と同じ教授職の人が、その国立○○大学に元々いたの。。。

   

 研究の業績から言えば、悟先生の方が上なんだけど、

 その元々いた教授職の人の研究室には女子学生が複数いて、

 研究室を維持しなければならなかった。。。」

 

 

 

撫山教授は再び天井を見上げて続けた。

 

「なので、彼(=悟教授)は『教養に回された』んだ。。。

  

 さっきのように、彼(=悟教授)自身に少し性格に難があってな。。。

 元々いた教授の人と共同でうまくやっていくのは懸念があった。。。

  

 かつ、彼のパンデミック前の研究室運営から見て、

 多数派となった女子学生とうまくやっていくのも大きな懸念があった。。。

  

 そうした判断が、統合先の○○大学で働いた。。。

  

 つまり、彼(=悟教授)に4年生や大学院生が配属されることはなくなった。。。

 だから、彼(=悟教授)は手腕を発揮できず、悶々と過ごしていたのさ。。。

 そんな鬱憤が、さっきの発言につながったんだと思う。。。

  

 ただなー、彼(=悟教授)のように教養に回され、研究室を持てず、

 手腕を発揮できない教員は、パンデミック後の世界では少なくないんだ。。。」

 

 

 



そう言えば、撫山教授はパンデミックの前と後で、研究室の方針を変えたらしい(第109話、第110話)。。。


パンデミックの後は夜型の生活は認めず、リモート操作から自宅から研究ができるよう環境を整えたらしい。。。


たぶん、これが原因なのだ。。。




そして、この春、I大は簡易宿泊所を設けた(第161話)。


おそらく、これが原因なのだろう。。。




幸代准教授が続ける。

 

「もし、彼(=悟教授)の研究室に、

 一人でも男子学生が生き残っていたら、一人でも女子学生がいたら、

 教養に回されず、元々いた教授職の方と共同研究室を運営するってことも

 あったかもしれない。。。

  

 でも、彼(=悟教授)の手腕は、学会の理事全員認めているの。。。

  

 だから、特任で、彼を招聘しようという動きもあったの。。。」

 

 

 

私は驚く。

 

「そうだったんですか?」

 

 

 

幸代准教授は苦笑いして顔を横に振った。

 

「でも、今の件で、当面、特任で招聘するって話は無くなったでしょうね。。。


 まあ、数年後、ほとぼりが冷めたら、

 再び特任で招聘しようって話が復活するんじゃないかしら?


 さっきも言ったように、彼の手腕を認める大学関係者は多いし。。。」

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなときだった。

 

悟教授が懇親会会場から退出するために開けたドアから、一人の小さな男の子が入ってきた。

 

その男の子は、幸代准教授を見つけると、うれしそうに彼女に駆け寄ってきた。

 

その後ろを一人の40歳前後の女性が慌てて追いかけてきた。

 

その追いかけてきた女性はライトグレーのスーツを着た、黒髪ストレートショート、グラマラスな色白美人だった。。。

 

(次話に続く)


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