第147話 新たな進路(その1) ー 緊急ヨメンズ会議 ー
新章「第6章 新たな進路、すなわち共に」を開始します。
RRFM社をやむなく退職した主人公の愛唯は、新たな進路に進むことになります。
皆様、お付き合いくださると幸いです。
時は7月下旬、RRFM社の人事担当・穂菜美課長に社員証を返却して、共同住宅に帰った日に戻る(第143話)。
あの日は朝一番に緑主任と面談し(第136話~第138話)、その後、早川部長と門奈課長とやりあった(第139話、第140話)。
その後、緑主任と再度面談した(第141話~第143話)。
面談の結果、バカ(=孝)の拍子法行為(第74話)の相手が、緑主任だと確信した私は、バカ(=孝)を守るため、退職を決意し、人事担当・穂菜美課長に社員証を返却し、共同住宅に帰った。
共同住宅に帰ったのは、午前12時をちょっとすぎたあたりだった。あ、昼食は帰り道途中のコンビニで済ませた。
当然、共同住宅には誰もおらず、私はスーツを脱ぎ、ラフな格好に着替えた。
やることもなく、ただ漫然と、テレビを見ていた。
午前12時半を過ぎたあたりだったと思う。バカ(=孝)が共同住宅に帰ってきた。
バカ(=孝)は共同住宅で私を見かけると、驚き、声をかけた。
「あれ? 愛唯さん、どうして、今、ここにいるんですか?」
私は苦笑いを浮かべて答えた。
「ちょっと、部長と課長とやりあっちゃって。。。
しばらく出社しないことにした。。。」
この時点では退職の旨を人事に伝えたことは言わなかった。
だって、、、
バカ(=孝)の拍子法行為の相手が、私の直接の上司だったなんて(第138話)、、、
とても言えなかった。。。
私は続ける。
「ところでさー、孝ー。
どうして、この時間に共同住宅に帰っているの?」
孝は戸惑いながら、答える。
「ああ、、、
愛唯さん、優子さん、瀬名さんが出勤した後、掃除をするんですが、
最後にロボット掃除機を起動させて、研究室に行っているんですよ。。。
でも、ロボット掃除機には掃除できないところがあるので、
昼食の後、そんなところを掃除しているんです。。。」
私は笑顔で答える。
「そうか。。。
じゃあ、手伝うわ。。。
しばらく出社しないから、孝の家事は一緒にやりましょう。。。」
こうして、私は掃除を手伝った。
掃除が終わると、バカ(=孝)は研究室へ戻っていった。
研究室に戻る際、私はバカ(=孝)に声をかけた。
「孝ー。撫山先生に相談したくってさー。撫山先生に頼んでくれない?」
撫山教授には、バカ(=孝)の拍子法行為の相手が私の直接の上司であり、かつ彼の教え子だったと伝えるべきだと思ったから。。。
バカ(=孝)は戸惑いながらも、「わかりました」と言って、研究室へ向かった。
午後3時過ぎだったと思う。
バカ(孝)から連絡があったらしく、優子と瀬名が慌てて帰宅した。
彼女達は午後休暇を取ってくれたという。
前日も休暇を取ってくれたというのに(第134話)、本当にありがたかった。
そして、そのまま、緊急ヨメンズ会議となった。。。
優子は戸惑いながら口を開いた。
「愛唯。部長と課長とやりあったんだって?」
瀬名が戸惑いながら続く。
「しばらく、出勤しないんですか?」
私は正直に答えた。
「ああ、部長と課長とやりあった。。。
(第139話、第140話)
でも、その過程で私の直属の上司が、
バカ(=孝)の拍子法行為の相手だって分かったんだ。。。
しかも、その上司はEC大時代の撫山先生の教え子だったんだ。。。
彼女もそれについて、勘づいた。
(第143話)
とっさに嘘をついてごまかしたが、EC大出の才媛だから、
いずれ嘘は見破ると思う。。。
(第129話)
だから、バカ(=孝)を守るため、人事に退職の意思を伝えた。。。」
(第143話)
優子と瀬名は、バカ(=孝)の拍子法行為が、私の直属の上司(=緑主任)であったことに驚いた。
二人とも絶句していた。
しばらくして、瀬名は戸惑いながら、優子に向かって問う。
「あのウイルスで夫と子供を全て亡くした女性が約1千万人で、、、
100分の1の男性は数十万人でしょ?
撫山先生の研究室に所属していた人なんて、
EC大時代とI大時代を含めても、数十人、
どんなに多くても、せいぜい数百人ってレベルでしょ?
旦那様の拍子法行為の相手が、同じ撫山先生の教え子なんて、
ありえるの?」
優子は戸惑いながら答える。
「ありえないわよ。。。そんなもん。。。」
優子は戸惑いながら、なおも続ける。
「しかも、RRFM社って従業員が日本で数万人でしょ?
その数万人のうち、孝の拍子法行為の相手が、
愛唯の直属の上司になること自体、あり得ないわ。。。
RRFM社って私の会社の親会社だけど、部署だけでも数百あるのよ!
しかも、一つの部署には数百人の従業員がいるのよ!
あり得ないわ!
あり得ないことが重なりすぎている!
これは、もう、『何者かの導き』としか考えられない!!」
私は戸惑い問うた。
「『何者かの導き』って?」
優子は戸惑いながら答えた。
「孝を守るために、出自を辿らせないために、
愛唯はRRFM社を退職せざる得ない。。。
愛唯がRRFM社を退職するのは『正解』よ。
でも、新卒で入社して、数か月で辞めたんじゃ、
再就職先で退職の理由を話さざるを得ない。。。
となると、
愛唯は100分の1の男性の妻であることを明かさなくてはならないから、
100分の1の男性の妻に対する偏見を再び受ける可能性が高い。。。
つまり、『今すぐの再就職はよろしくない』。。。
再就職するにしても、少なくとも、『一旦大学院へ行って』、それからね。。。
大学院に行ってから、再就職するなら、就職活動や就職後も事情を聞かれた時、
『大学院に行きたくなったから』
って言い訳ができるから。。。」
私は問うた。
「つまり、『何者か』は私に『大学院に行け』って?」
優子はうなずき、私を見つめ、答えた。
「そういうことだと思う。。。
それに、あんた(=愛唯)、『大学院に行きたかったんだろ?』
少なくとも、4月に就職してから、ずっと悩んでいたんじゃない?」
私は驚いた。
「わかる?」
優子はあきれて返した。
「何年、あんた(=愛唯)と友人として、
付き合ってきたって思っているのよ。。。」
そう、ずっと、、、悩んでいたんだ。。。
私はヨメンズの中で『最初にバカ(=孝)の子供を産みたかったから就職した』(第99話)。
でも、それは『間違い』ではなかったのか?と。。。
バカ(=孝)が大学に軟禁されてしまった2年生の3月(第11話~第14話)、私は『見栄やプライドに拘る』あまり、バカ(=孝)への思いを否定し続けた。
その結果、孤独と誹謗中傷に追い込まれてゆくバカ(=孝)を傍観し、バカ(=孝)は自殺を図った(第15話)。
私がヨメンズの中で最初のバカ(=孝)の子供を産みたいのは、私の『プライド』からだ。。。
もしかして、私はまた、
『つまらぬプライドに拘って、同じ過ちを繰り返しているのではないか?』
って、ずっと悩んでいたんだ。。。
ヨメンズ内の孝への貢献も、大学を卒業してしまうと、『私は優子や瀬名と比べて劣る』んだ。
優子や瀬名は、時々、差し入れをするんだ。
優子は先日、昼食を差し入れした。
「昼食作っておいたから、冷蔵庫にしまってあるから、昼ご飯に食べて。」
瀬名も先日、お菓子を差し入れた。
「お菓子作っておきました。研究室で休憩するときに食べてください。」
こんな感じに。でも、私ったら、料理下手だから、こんな内助の功はできないんだ。
もちろん、バカ(=孝)はそんなことは気にしちゃいない。
「何言っているんですか?
愛唯さんも家計を支えてくれているじゃないですか?
僕が大学院に進学できるのも、愛唯さん、優子さん、瀬名さんが
働いてくれているおかげなんですから。。。」
だが、家計を支えているのは私だけでなく、優子も瀬名も同じだ。
今は、3年生の時に恋人として付き合った貯金があるから、ヨメンズの中で私が一番かもしれない。
でも、このままでは『いずれ負けてしまう』。。。
それに、100分の1の男性には、給付型奨学金、授業料免除、食費や光熱費を含む寮費免除があり、贅沢をしなければやっていけるのだ。
話を戻すと、私がヨメンズの中で一番であり続けるには、バカ(=孝)のそばにいて、『ずっと支え続けることじゃないかって悩んでいた』んだ。。。
つまり、『私も大学院に進学して、バカ(=孝)と共に歩むべきだった』んじゃないかって悩んでいたんだ。。。
そう、本当は卒業研究が終わった4年生の2月から(第112話)、ずっと、そのことで悩んでいたんだ。。。
そして、就職して、職場に配属されて、よくわかったことがある。
それは、私はやっぱり『行動力だけのバカ』であることを。。。
近くにバカ(=孝)がいないと、私は全く役に立たないんだ(第130話)。。。
近くにバカ(=孝)がいないと、私はダメなんだ。。。
そう、就職して、職場に配属されてから、私はバカ(=孝)と共に大学院進学すべきだったんじゃないかと、『悩みを強くしていた』んだ。。。
ヨメンズ会議の途中にバカ(=孝)から、私のスマホに電話があった。
バカ(=孝)は撫山先生とのアポを取ったとのことだった。
私は次の日の朝10時に、撫山教授の個室を訪ねることにした。
(次話に続く)




