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第13話 追い込まれる孝(その1) ー孤独ー

私と優子が図書館にて、学びなおしを始めて2週間が経過した。


孝は、図書館の席の向かい側に座った私と優子に語る。


「お二人とも、別の道を探らなければならないほど、不向きとは思えません。」




孝は続ける。


「プログラムが動くと嬉しそうでしたし、

 プログラミング自体が嫌いではないと思います。

     

 それなりに動くプログラムは作れてましたし、

 座学の様子を見ても、IT技術自体には興味があるように見えます。


 まったく、不向きとは言えないんじゃないでしょうか?」

 



確かにこの2週間、多くのプログラムを書いたが、プログラムが意図したとおりに動くと、達成感がある。プログラミング自体が嫌いではない。改めて座学を学びなおしてみると、IT技術自体に興味がないわけじゃない。まあ、これは孝の教え方が上手いからで、私達の知的興味を刺激してくるからでもあるんだが。。。


ともかく、私と優子は、しばらくI大学のCCコースで勉強を続けることにした。


私は孝の問うた。


「孝君の予想通り、私達の苦手意識は、先生のハードルが高すぎるってこと?」




孝は困った表情で答えた。


「うーん、でも、

 プログラミングを含むIT技術の履修状況は、就職に直結します。

  『I大学のCCコースの学生は、他大学と比べて、IT技術が履修できてない』

 って評判が立つと、IT企業への就職に響きますよね?」




優子はうなずき、つぶやいた。


「そりゃそうね。。。」




孝は天井を見上げ、私と優子に語り掛けた。


「だから、ハードルの高さは、ある程度、

 仕方がないんじゃないでしょうか?

     

 僕ら、学生の方で、ハードルを低くする工夫をしないと

 いけないんじゃないでしょうか?」




私は戸惑い問うた。

    

「工夫って?」




孝は視線を私と優子に戻すと答えた。


「例えば、いきなり課題を行うと、

 新しく習ったところを使ってプログラミングして、

 プラス様々な作法に従ってコーディングすることになり、

 ハードルが高くなります。


 なので、課題実施の前に、新しく習ったところで、

 プログラムを試作して自習した後で、課題に取り組むとか。。。」




優子はうなずき、私に顔を向けて語った。


「そうか、私達いきなり課題をやっているから、

 苦手意識が生じているのかも。。。」




孝は私と優子に提案した。


「今日から2週間、先生が望むと思うレベルでのプログラムを

 いくつか作成してみませんか?


 教科書のこの課題を、お2人で相談しながら、

 どれだけ時間がかかってもよいことにして。


 引き続き、わからないところは僕に質問もらってよいので。。。」

 



私と優子は、二人で相談しながら、プログラムを書き始めた。

 





私は、学びなおしをはじめた2週間前と、現在の孝を比較して、口数が減り、考え込んでいたり、表情が乏しくなったことに気付いていた。


そこで、プログラムを書きながら、私は質問した。


「孝君。私たちが帰る夕方以降、どう過ごしているの?」




孝は答えた。


「うーん、、、

 ほら、I大学は国立大学なので、娯楽設備はほとんどないじゃないですか。


 なので、18時まで図書館にいるんですが、

 夕食をとって、お風呂から出ると、20時から22時まで図書館に来て、

 勉強するしかないですね。。。」




優子が驚いた表情で返す。


「え? 

 春休みのような休業期間中は平日でも図書館は17時までだったけど。。。」




孝が苦笑いをして答えた。


「ああ、3月から休業期間中も

 図書館は平日なら22時まで開けることになったそうです。


 たぶん、、、100分の1の男性のための、特別措置ですね。。。」

 



いや、学生寮には娯楽設備として卓球台があるはずだ。


「孝君、学生寮には卓球台があるんじゃなかったけ?」



孝はうなずき、すこし残念な表情で答えた。


「ああ、ありますが。。。

 寮には付属学校の男子生徒がいますので、そちらに譲ってますね。


 寮にあった自習室も付属学校の男子生徒に譲ってます。」




優子は再度驚いた表情で問うた。


「え? 付属学校の男子生徒もいるの?」




孝はハッとした表情で答えた。


「ああ!

 現在寮は『学生寮』ではなく、『男子寮』となっていて、

 I大学の40歳未満の男性教職員と男子学生だけでなく、

 付属学校の男性教職員と男子学生もいます。


 ちなみに、女子寮は閉鎖中で、再開はいつになるのかわかりません。

 どうも4棟あった女子寮の一部を改装するらしいので。。。

     

 なので、娯楽と言って良いのかわかりませんが、、、

 図書館以外、時間を潰す場が無いんですよね。。。」




私も驚き問うた。


「ちょっと、待って! 学生寮にいた女子はどうするの?」




孝は作り笑いを浮かべ、私達から視線を逸らして答えた。


「あのウイルスで下宿していた男子学生がほとんど亡くなり、

 大学近くの下宿には、いっぱい空きがあるそうです。


 そういった下宿を紹介して、移り住んでもらっているそうです。


 いずれは女子寮も再開するのですが、撫山先生曰く、

  『旧女子寮の一部改装が終わらないと再開は難しい』

 とのことです。」




私は気を取り直し、質問を続けた。


「話を元に戻すわね。土日祝日はどうしているの?

 私も優子も土日祝日は来ていないけど。。。」




孝は視線を私達に戻すと、苦笑いを浮かべたまま答えた。


「3月から、春休みのような休業期間中でも、

 図書館は土日祝日は11:00~17:00は開いています。


 でも、『午前11時までどう過ごすのか?』と、

 『午後17時からどう過ごすのか?』で困ってますね。。。


 まあ、土日祝日の午前中は、部屋の掃除等をするとしても、

 土日祝日の午後17時以降は本当に困ってます。。。」




私は恐る恐る問うた。


 「じゃあ、どうしているの?」




孝は苦笑いを浮かべ、両掌を天井に向けて、両手を伸ばし、答えた。


「学内を散歩するぐらいしかないんですね~。

 まあ、I大学は丘の上にあって、緑が多いし、

 3月も半ばになって温かくなってきているから、散歩にはいいんですが。。。」




でも、それじゃ飽きるだろう。だから、私は問うた。


「でも、毎週土日じゃ、飽きるんじゃない?」




孝は苦笑いを浮かべ、うなずき答えた。


「そうですね、1週目で飽きました。

  

 そこで、自然観察園を見に行くとか、

 CCコースには関連なかった学内設備を見に行きました。


 おかげて、学内がどうなっているのか、

 細かいところまで分かったのはよかったのですが。。。


 それもネタが尽きました。。。」

     



優子が質問する。


「気晴らしに、飲みに行ったり、映画とか、ゲーセンへ、外出できないの?」




孝は少し悲しげな表情を浮かべ、顔を左右に振ると、答えた。


「外出するには申請書を届ける必要があって、

 理由と、付き添いの人数を記載しなくちゃいけなくって、

 遊びに行くってのは理由としては書きにくいですね。。。」




私はうなずきつぶやいた。


「そりゃそうだ。」




孝は少し悲しげな表情のまま、話を続けた。


「それに、100分の1の男性の誘拐や拉致の現場って、

 ゲーセンとか、飲みに行った時に、襲われるケースが多くって、

 遊びに行く場合、相当数の付き添いがいないと認められないですね。」




優子は恐る恐る問うた。


「相当数ってどれくらい?」




孝は作り笑いを浮かべて答えた。


「大学によって、まちまちなようですが、

 I大学については、繁華街に行く場合、

 100分の1の男性一人に対し、5人の付き添いがいります。」




再度私は恐る恐る問うた。


「5人の付き添いを探すのって難しいの?」




孝は作り笑いを浮かべたまま、顔左右に振ると、答えた。


「僕の家族は、母と妹で2人なので難しいです。」




孝はさらに続けた。


「大学の先生方に頼めば可能でしょうが、

 ゲーセンや飲みに行くのに先生方5人に付き添いをお願いするのは、

 気が引けます。


 土日で休養をとっておられる訳ですし。。。


 となると、女の子5人を誘う必要がありますが、、、


 ほら、僕ってモテないから。。。」




優子は私に顔向けて、困った表情で語った。


「私と愛唯(メイ)が付き添うとしても、あと3人足りないか。。。」




私は黙って頷くしかなかった。






私は質問を続けた。


「じゃあ、この2週間、大学から一歩も外に出ていないってこと?」



 

孝は黙って頷いた。




2週間も、この大学から一歩も外に出られなかったのなら、ストレスは相当なものだろう。

どうしたらよいか、プログラミングをしながら、私は考えていた。。。

 

不意に優子が口を開いた。


「孝。私、もうちょっとプログラミングがしたくてさ。

 土日祝日も、午後13時から16時まで、図書館に来ても良い?」




孝は戸惑いながら答えた。


「え? 良いですけど。。。」




優子は笑顔を浮かべ、私に問うた。


愛唯(メイ)も来るでしょ?」




私も戸惑いながら返した。


「え? 是非。。。」

 


 

孝は笑顔となり、頭を下げた。


「気を遣わせてすみません。

 でも、来ていただけると、うれしいです。。。」





 

その日の夕方、駐車場までの道で、私は口を開いた。


「優子、孝の表情が乏しくなっていることに、気付いた?」




優子はうなずき、答えた。


「ええ。かなり精神的ダメージを受けている感じね。。。


 だから、土日祝日も来ることにした。

 土日祝日が潰れるから迷惑だった?」




私は顔を左右に振って、答えた。


「いいえ、良い判断だったと思う。

 これぐらいしか、私達ができることはないと思う。」

 



そう、『おバカで、か弱い、女子大生』の私にできることはあまりない。






実は、孝に精神的ダメージを与えているのは、軟禁だけではなかった。


その話は次話で述べる。

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