第135話 愛唯の有給休暇(その2) ー愛唯、久美子と竜二をうらやむー
職場でいじめられて、緑主任に勧められて今日は有給休暇を取った(第131話)。
昼間は4人(ヨメンズ、孝)で出かけ(第134話)、今は夜9時過ぎ。
たまたまは今日は水曜日で、今夜はエッチナイトだ。
今晩のエッチナイトは瀬名がバカ(=孝)と二人っきりの夜を過ごす。
実は、瀬名が気を遣い、こう言ってきた。
「愛唯さん、なんなら、今夜は譲りましょうか?」
瀬名の気遣いはうれしかった。
もちろん、バカ(=孝)との二人っきりの夜を過ごしたいのはヤマヤマだ。
でも、、、
ただでさえ、今日は私のために優子と瀬名は休暇を取ってくれた。
4人のお出かけでは、私が好きなところに連れて行ってくれた。
そして、バカ(=孝)と手をつなぎ、歩かせてもらった(第134話)。
これ以上甘えるわけにはいかないじゃないか!
で、、、その好意だけもらうことにした。
つまり、予定通り、今夜は瀬名がバカ(=孝)と二人っきりの夜を過ごしてもらうことにした。
そう、この夜は、I大学の近くのアパート(第127話)で、優子と寝泊まりだ。
実は水曜日の夜は、里子達の家族もエッチナイトで、今夜は加奈と浩司君が二人っきりの夜を過ごす。
という訳で、里子と綾子も同じアパートで寝泊まりだ。
だが、今夜に限って、久美子も寝泊まりに来た。
NOH市の共同住宅に暮らす久美子達の家族は、水曜日の夜にI大学の近くのアパートには来ない。
共同住宅から車で30分程度は掛かるからだ。
そう、私が職場でいじめられたと聞きつけて、わざわざ今夜は寝泊まりに来てくれたって訳。。。
大変ありがたかった。。。
久美子はアパートに入ってくると、私に声をかけた。
「愛唯さん、話は聞いた。 まあ、元気を出して。」
私は久美子に謝した。
「久美子さん、ありがとう。もう大丈夫。」
私は続けた。
「で、、、久美子さん、竜二と同じ学校に赴任して、どう?」
久美子は苦笑いをして、話し始めた。
「私(=久美子)と竜二が赴任したのは、男子受け入れの小学校で、
出入りにセキュリティゲートがあるの。
だから、学校にいるうちは、竜二は安全ね。
私と竜二は一緒に出勤して、同じ時刻に帰っているわ。
残業があるときは、リモートで共同住宅から繋げて、実施しているわ。。。」
久美子は続けた。
「私は小学3年生の担任、竜二は小学1年生の担任なの。。。」
久美子はちょっと顔をしかめて話した。
「まあ、あとで、校長から聞いた話なんだけど、、、
夫婦が同じ学校に赴任するって聞いた一部保護者から、
否定的な意見があったらしいわ。。。
でも、これからの世の中では、
『夫婦の姿を見せる貴重な体験ですから』
って説得したらしいわ。。。」
やはり、一部反対意見があったか。。。
久美子と竜二も大変だ。。。
久美子は表情を戻すと、話を続けた。
「あれは、4月の連休前でね。。。
家庭訪問があったの。。。
でも、竜二は100分の1の男性だから、校外を一人で歩いて、
家庭訪問するのはNGだったの。。。」
私(=愛唯)、優子、里子、綾子は無言で頷いた。
久美子は続けた。
「だから、私(=久美子)と一緒に、竜二と二人で、
私(=久美子)と竜二のクラスの生徒の家庭を訪問したの。。。
もちろん、他の先生も近くの家に訪問していたわ。。。
何かあったらすぐ駆けつけられるように。。。」
久美子は思い出したように、クスリと笑った。
そして続けた。
「で、私(=久美子)のクラスの家庭に訪問したら、、、
ある生徒の母親が、竜二と一緒に行ったもんだから、驚いちゃって、、、
『久美子先生、若い男性と一緒に来るなら、早く言ってよ!
私、すっぴんじゃない!!』
って怒られちゃった。。。」
私(=愛唯)は「がはは。。。」と笑った。
優子と綾子は「「ふふふ。。。」」と笑った。
里子は「ははは。。。」と笑った後、こうつぶやいた。
「そりゃ、竜二はイケメンだから。。。
いきなりイケメンが家庭を訪問してきて、
自分がすっぴんなら驚くし、困るわな。。。」
久美子も思い出して笑った。
だが、久美子は表情を戻して、話を続けた。
「まあ、竜二のクラスは、入学式の時に、母親と竜二は対面しているから、
今度は訪問した家は母親はちゃんと化粧していて、、、
しかも、前日に美容院に行った母親もいて、子供の数人が驚いていた。。。
どうも、あまり化粧した母親の姿を見ていないようなの。。。」
私は戸惑う。
「なぜ?」
久美子は答える。
「ほら、パンデミックで、父親が亡くなっていて、
多くの家庭は母親が、仕事と家庭を守らなくちゃならなかったから、
オシャレに気を遣う余裕は、これまでなかったみたい。。。
そもそも、パンデミック直後は経済危機で、失業された母親もいたし、
生活を立て直すだけでも大変だったみたい。。。
しかも若い男性が亡くなって、
40歳以上の男性しかいない職場だって珍しくないわ。。。
で、化粧する必要もあまりないから、
すっぴんのまま、職場に行く母親もいるみたいなの。。。」
私は納得する。
「そうか。。。」
久美子は続ける。
「で、パンデミックも、もうすぐ4年が経過するけど、
竜二のクラスは小学1年生だから、そのとき2歳か3歳なのよ。。。
物心つくころには、母は出勤するときも、家庭にいるときも、
すっぴんでいて、化粧した母を見たことがない子供もいるの。。。」
私(=愛唯)、優子、里子、綾子はため息をついて、うなずいた。
久美子は真剣な表情になり、話を続けた。
「私(=久美子)の小学3年生のクラスも、竜二の小学1年生のクラスも、
全員、父親が亡くなっていたわ。。。
だから、訪問した家庭には遺影があったから、
私(=久美子)と竜二は一緒に手を合わせて、弔ったわ。。。
竜二は、
『パンデミックは3年半前で、その頃は、まだ幼かったお子さんを残して、
亡くなられた無念はいかほどだったか、想像もつきません。
生き残ってしまった者の責任として、せめて僕が担任であるうちは、
お子さんを導くよう、頑張ります。』
って、
そして、
『本来、あなた(=亡くなった父親)とお母様が、
お子さんに見せる筈だった、本来の夫婦の形は、
お子さんが小学校にいるうちは、僕ら(=久美子と竜二)が示し、
お子さんが夫婦と言うものが理解できるよう頑張ります。』
って。。。」
久美子は少し笑顔になり、話を続けた。
「で、5月の連休後、春の運動会があってね。。。
学校のイベントがある日は、
事前申請すれば保護者も学校に出入り可能なの。
事前に臨時入校許可証を生徒に渡すんだけどね。。。」
久美子は続けた。
「で、私(=久美子)のクラスの母親達と、竜二のクラスの母親達は、
ばっちりメークで小学校にやってきたの。。。」
久美子は思い出したように、微笑み、続けた。
「他のクラス、特に竜二の担任の1年生の子供の母親以外は、
すっぴんの人が多かったの。。。
私(=久美子)のクラスの母親達と、竜二のクラスの母親達は、
ばっちりメークしていたから、それに首を傾けていたの。。。
で、竜二が小学校のグラウンドに出てくると、
私(=久美子)と竜二のクラス以外の母親達、大慌てしちゃって、、、
彼女達の子供の担任、つまり同僚に、
『若い男性の教師がいるなら、早く言ってください!
私すっぴんじゃないの!!』
って、怒っちゃった母親もいた。。。
それだけでなく、子供に、
『若い男性の先生がいるなら、早く言いなさい!』
って怒った母親もいたわ。。。
でも、子供達の中には、特に低学年の子供たちは、
どうして怒られたのか分からなくて、キョトンとしていたわ。。。」
私(=愛唯)、優子、里子、綾子は笑い転げた。
当然、私は「がはは!」と笑ったし、優子と綾子は「「ふふふ!」」と笑った。
そして、里子は、「ははは! イケメン(=竜二)、おそるべし!」と笑った。
久美子も思い出して笑いながら続けた。
「ははは!
で、運動会のアトラクションで、教職員の二人三脚があって、
私(=久美子)と竜二は夫婦で参加したわ。。。」
久美子はさらに続けた。
「私(=久美子)のクラスの母親も、もちろん竜二のクラスの母親も、
『竜二先生頑張れ!』
の大合唱だった。」
まあ、そりゃ、イケメンがいれば、応援したくなるわな。。。
里子が問う。
「で、二人三脚の結果は?」
久美子はどや顔で答える。
「そりゃ、私(=久美子)と竜二の圧勝に決まっているじゃない!
3月まで、体育系の大学生だったんだし。。。」
久美子は表情を戻して続けた。
「二人三脚の競技の後、
私(=久美子)と竜二のクラスの母親は拍手を送ってくれたわ。
そして、何人の母親からは、
『竜二先生と久美子先生が赴任してきてよかった』
って言ってくれた。
さらに、自分の子供に
『竜二先生と久美子先生の姿をよく見ておくのよ』
とも言ってくれた。。。」
私(=愛唯)、優子、里子、綾子は思わず拍手を送ってしまった。。。
そして、私(=愛唯)は思い出した。
昨夜、バカ(=孝)が『堂々と結婚を明らかにできない社会が悪い』と言ったことを(第131話)。。。
そう、久美子と竜二のように、夫婦を示し、それが受け入れられるような社会が理想なのだ。。。
私が勤めるRRFM社とは、あまりにかけ離れており、羨ましかった。。。
だが、、、『理想はわかる』。。。
理想はわかるが、、、『どうやったらいい?』
『どうやったら実現できる?』
アパートの中で、優子、里子、綾子、久美子と一緒に寝泊まりしたのだが、
布団の中でずっとそればかり考えていた。。。
(次話に続く)