第12話 私達に必要なもの
翌日、私と優子はノートパソコンを持って、図書館に行った。
孝のいる机の近くの席には、やっぱり、瀬名が座り、彼女は一人で自習していた。
私と優子が孝に「おはよう。今日もよろしく」と言って、孝の向かい側の席に座ると、孝は口を開いた。
「まずは、お二人が、
なぜプログラミングが苦手なのか教えてほしいのですが。。。」
私が答えた。
「プログラムの課題提出すると、やれ構造を作り直せだの、
違う関数を使えだの、変数名や関数名のルールを統一しろだの、
コメントをちゃんとつけろだの、、、
細かくって、何度もやり直しを求められるので、
すっかり嫌になっちゃった。。。」
優子もうなずいた。
「私も。。。」
孝は私達の話を聞いて、しばらく腕を組んで考え、口を開いた。
「うーん、
先生が求めるプログラムは『あるべき姿』として正しいのですが、
ハードルが高すぎるのが、苦手意識を持つ原因かもしれませんね。。。
なので、ハードルを下げてみましょう。。。
教科書に載っている課題で、授業の課題提出で用いていない、
これと、これについて、『ともかく動くプログラム』を、
数多く作ってみてください。」
私は戸惑い問うた。
「教科書に載っている課題を全部やらなくちゃいけないの?」
孝は苦笑いを浮かべ、顔を左右に振り、答えた。
「いえ、できる範囲で良いです。
無理強いして、苦手意識が増してしまったら、本末転倒ですし。。。
あくまで、お二人が無理のないペースで、
できるだけ多くのプログラミングをしてみてください。
どんなコードでも良いですし、二人で相談しながらでもよいし、
私に質問しても構いません。」
私と優子は、二人で相談しながら、片っ端からプログラムを書き始めた。
正午、私と優子と孝は、昼食のために学食へ向かった。
その途中で、10人以上の集団が私達の前を通った。
大学は春休み中なので、そのような集団がいるのは珍しい。
何事かと見てみると、1人の男子学生に、10人以上の女子学生が取り囲んで、歓談しながら、学食に向かっているところだった。
私は唖然として、優子に話しかけた。
「優子、あれって。。。」
優子も唖然としてつぶやいた。
「まだ、春休み中なのに。。。」
私は優子に顔を向け問うた。
「4月になって、新学期になったら、どうなっちゃうんだろ。。。」
優子はそれに答えず、孝に顔を向け、問うた。
「孝、100分の1の男性は、皆あんな感じ?」
孝は慌てて顔を左右に振り、答えた。
「いえ、ごく一部ですね。
彼は結構イケメンなので、そういう人は人気が集中しているって感じで。。。
僕みたいにモテない男は、100分の1になっても、やっぱりモテません。
また、パンデミック前に恋人がいた人の中には、
女の子が群がってきても、はねのけているケースもあります。
つまり、まちまちですね。。。」
私は孝の言葉が気になった。
「孝君、今、
『パンデミック前に恋人がいた人の中には、
女の子が群がってきても、はねのけているケースもある』
って言ったよね。。。
じゃあ、はねのけていないケースもあるってこと?」
孝は『しまった』という表情で答えた。
「ええ。そういうケースもあります。。。」
私は優子に問うた。
「優子、仮に健司(愛唯の元恋人)や翔(優子の元恋人)が
生き残った場合でも、2人は、群がる女の子をはねのけて、
私達を恋人として扱ってくれたんだろうか?
考えてみれば、健司と翔は私達と大学が異なる。
生き残っていたとしても、100分の1の男性は各大学で軟禁されるから、
簡単には会えなくなる。
そんな状態で、
恋人としてつなぎとめることは、難しかったんじゃないだろうか?」
だが、優子は顔を横に傾け、問いには答えなかった。
「さあ?
でも、そんな仮定の話を考えても仕方がないよ。。。
きっと。。。」
優子の言うとおりだ。もう二人とも亡くなってしまった。そんな仮定の話を考えても仕方がない。
それよりも、私と優子は学びなおしをしながら、孝の孤独を癒してあげないといけない。
私達は、彼らの後をついて、学食へ向かい、昼食を食べた。
昼食後、図書館に戻った後、優子は孝に話しかけた。
「ねえ、ウイルスに勝つためには、
孝一人で戦うんじゃなくて、いろんな人の協力がいると思うけど、、、
まずは、CCコースの女の子の協力と理解を
取り付けることから始めるべきじゃないかしら?」
孝は苦笑いを浮かべて、答えた。
「そうなんですが、
そこに、最大の問題が横たわっているんですよ。。。」
優子は戸惑い問うた。
「何?」
孝は苦笑いを浮かべたまま答えた。
「ほら、僕って、女の子から浮いているから。。。」
私と優子は思わず、同時につぶやいた。
「「あ!」」
孝は苦笑いを浮かべたまま、視線を下におろして、話を続けた。
「女の子に浮いている僕が何を言っても、
女の子は聞く耳を持たないと思うんですよね。。。」
そう、孝は、くそ真面目なだけが取り柄のような男で、女子クラスメートからあまり良い印象はない。
実際のところ、私だって、男子クラスメートの弔いに付き合ったから、孝を見直したのであって、それまで、孝の評価は最低だった。
そんな孝に女の子が改めて耳を傾けるとは思えない。
じゃあ、私や優子が、
『女子クラスメートに説明できるか?』
って言うと。。。
私は優子に語り掛けた。
「私も優子もバカだから、
ほかのクラスメートにうまく説明できる自信はないしね。。。」
優子はムカついたように反論した。
「なに、私もバカにしているのよ!」
私はあきれて答えた。
「私と同じ『おバカ』でしょ!」
優子はバツが悪そうに答えた。
「そうでした。。。」
孝は続ける。
「女の子に影響力があり、現状を突破できる子に、
最初に説明するのが良いと思うのですが、クラスの中で誰が良いですかね?
そこが、僕が一番欠けている部分で、
そこを埋めてくれる女の子がいると助かります。」
私は女子クラスメートで誰が最適かを考え、天井に顔を向けて答えた。
「うーん、影響力と言えば里子だけど、
現状を突破していく能力になると、わからないわ。」
優子も同意見だ。
優子は顔を横に振って、答えた。
「私も、影響力となると、里子が一番だと思う。
だけど、それほど親しいわけではないから、
愛唯の言うとおり、
『現状を突破する能力があるか?』
って言われるとわからない。。。」
というより、私と優子だけ、他の女子クラスメートから離れて遊んでいた。だから、里子をはじめ、他の女子クラスメートとは、あまり親しくない。表面的なところしか知らない。
しかも、孝が里子に話しかけるのは、よろしくない。
私は孝から視線を逸らして、語り掛けた。
「でも、今、里子にはあなたから話しかけるのは良くないわ。
里子は新入校許可証の配布した日、
あなたをかなり冷たい目で見ていたし。。。」
孝は少し寂しげな表情でうなずいた。
「ええ、里子さんは聡君の恋人だったし、
『どうして聡君が亡くなって、なぜ僕が生き残ったんだ』
って憤ってることが、里子さんの目から、わかりました。。。」
と言って、私と優子が里子に話すのも難しい。。。
優子が口を開いた。
「そうね。私や愛唯が里子に説明するにしても、
オリジナルはあなたの考えだと悟られない方が良いと思う。
あなたの考えだと分かれば、反発するかもしれないわ。」
私も同意見だ。
「さっき言ったように、里子とはそんなに親しくないし、
しかも、私と優子は『おバカ』だから、
里子に悟られないように説明するのは難しいと思う。」
優子は里子以外の女の子について考えた。
「愛唯の言うとおり、現状、里子に頼むのは難しいわね。
里子以外の女の子に頼むとなると。。。
でも、そもそも、女の子に影響力があり、
現状を突破できる力のある女の子なんて、そうはいないわよ。。。」
突然、優子は変な声をあげた。
「ん?」
優子はちらりと私へ横目を向ける。
おい、優子! 何が言いたい?
私もウイルスに勝って、天寿を全うした時、天国にいる健司(恋人)に『ウイルスに勝った』って報告したい。
そのためには、『孝の考えを、女性に広め、孝と共に突破しくれる、パートナー』が孝には『必要』だ。
男性が100分の1になった今、そのパートナーは男性より、女性の方が良いだろう。
そう、そんなパートナーが私達に必要だ。
CCコースで一番ふさわしいのは里子だが、里子は受け入れないだろう。。。
他の女性を探すにしても、適格な女性はそうはいない。。。
私? 無理だ。 私はただの『おバカで、か弱い、女子大生』だ。
そんなこと、できるわけがない。。。